自然界の物質はほぼすべてが混合物です。純粋な物質を得るには、混合物を構成する各成分の性質の違いを利用して分け取る操作が必要です。
この記事では、ろ過・昇華法・蒸留・分留・再結晶・抽出・クロマトグラフィーの7つの分離法を、それぞれの原理から理解します。
海水・空気・石油・しょう油——私たちの身のまわりにある物質のほとんどは複数の成分が混ざり合った混合物です。医薬品や半導体材料として使うには純粋な物質が必要であり、食塩水から食塩を得るにも、原油からガソリンを得るにも、適切な分離操作が欠かせません。
混合物から目的の物質を取り出す操作を分離といいます。分離した物質をさらに純粋にするために不純物を取り除く操作は、特に精製と呼ばれます。
分離・精製はすべて「各成分がもつ物理的・化学的性質の差」を利用しています。固体と液体の区別(ろ過)、昇華性の有無(昇華法)、沸点の差(蒸留・分留)、溶解度の温度変化(再結晶)、溶媒への溶けやすさの差(抽出)、吸着力の差(クロマトグラフィー)——どの方法も、操作の背後にある「どの性質を使って分けているか」を押さえることが理解の核心です。
ろ過は、液体とその液体に溶けない固体の混合物を、ろ紙などを用いて分離する操作です。ろ紙には微細な孔(あな)が無数に開いており、溶媒の分子やイオンは通過できますが、固体の粒子は通過できません。これが分離の原理です。
塩化ナトリウムと砂の混合物を分離するには、まず水を加えてよくかき混ぜ、塩化ナトリウムだけを水に溶かします。これをろ過すると、砂はろ紙上に残り、塩化ナトリウム水溶液はろ紙を通過します。砂は塩化ナトリウムと分離できます。
ろ紙を通過した液体をろ液、ろ紙上に残った固体を残留物(または沈殿)と呼びます。
塩化ナトリウムのように水に溶けた成分はろ紙を通過してしまい、ろ過では取り除けません。溶液中のイオンや溶質分子は、ろ紙の孔より圧倒的に小さいためです。溶けた不純物を除くには、再結晶や蒸留など別の操作が必要です。
固体が液体を経ずに直接気体になる変化を昇華といいます。この性質を利用して混合物から特定の物質を分離する方法を昇華法といいます。
たとえば、ヨウ素と砂の混合物を加熱すると、ヨウ素だけが昇華して気体になります。この気体を冷やすと再び固体に戻るため、ヨウ素を砂から分離できます。
液体に固体などが溶け込んだ混合物を加熱し、目的の液体を気体に変えてから冷却して再び液体として分離する操作を蒸留といいます。蒸留によって得られた純粋な水を蒸留水と呼びます。
蒸留が有効に機能するのは、混合物中の各成分の沸点が大きく異なる場合です。沸点の低い成分が優先的に気化し、それを冷却して液体として回収することで、沸点の高い成分から分離できます。
塩化ナトリウム水溶液を蒸留すると、沸点が低い水(100℃)が気化して冷却器に入り、液体として回収されます。塩化ナトリウムは沸点が非常に高く(約1400℃)、この温度では気化しないため、フラスコ内に残ります。こうして水だけを分離できます。
温度計の球部をフラスコの液面より下に入れると、液体の温度を測ることになり、実際に留出してくる蒸気の温度とは異なります。球部は枝の付け根(蒸気が出ていく位置)に合わせることで、留出する成分の沸点を正確に読み取れます。
液体どうしの混合物を蒸留し、沸点の違いを利用して複数の成分に分離する操作を特に分留(分別蒸留)といいます。蒸留が「液体+固体の混合物」を扱うのに対して、分留は「液体+液体の混合物」を扱う点が異なりますが、原理は同じ「沸点の差」です。
石油(原油)の分留は、工業的に最も重要な分離操作の一つです。製油所の蒸留塔に原油を送り込み、加熱して気体にします。蒸留塔は上部ほど温度が低くなっており、気体となった成分が上昇する過程で、沸点の高いものから順に塔の各段で液体として取り出されます。
| 成分 | 沸点の目安 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 石油ガス(LPG) | 35℃以下 | ガスコンロ燃料、タクシー燃料 |
| ナフサ(粗製ガソリン) | 35〜180℃ | 乗用車燃料、石油化学製品の原料 |
| 灯油 | 170〜250℃ | 石油ストーブ燃料、ジェット機燃料 |
| 軽油 | 240〜350℃ | トラック・バス燃料 |
| 残油(重油) | 350℃以上 | 船舶燃料、火力発電所燃料 |
沸点の低い成分ほど塔の上部で、高い成分ほど塔の下部で分離されます。これが「沸点の差を利用した分離」の直接的な例です。また、液体空気を分留すると、沸点−196℃の窒素と沸点−183℃の酸素に分離できます。
固体に含まれる少量の不純物を取り除き、より純粋な物質を得る精製法を再結晶といいます。物質の溶解度(一定量の水に溶けうる溶質の最大の量)が温度によって変化することを利用しています。
溶解度と温度の関係を表したグラフを溶解度曲線といいます。多くの固体物質は温度が高いほど溶解度が大きくなります。したがって、高温の飽和水溶液を冷却すると、溶解度が低下した分だけ溶質が結晶として析出してきます。
硝酸カリウム(KNO3)に少量の硫酸銅(II)五水和物(CuSO4・5H2O)が混合した試料を精製するには、次の手順で行います。
硫酸銅(II)五水和物は量が少ないため、冷却しても溶解度を下回らず、水溶液中に溶けたまま残ります。結果として、純粋な KNO3 の結晶だけを取り出すことができます。
※ 温度変化による溶解度の差が小さい物質(例:塩化ナトリウム NaCl)には、再結晶は効果的ではありません。この場合は溶媒を蒸発させて濃縮する方法が用いられます。
混合物から目的の物質を適切な溶媒に溶かし出して分離する操作を抽出といいます。物質の溶媒への溶けやすさ(溶解性)の差を利用しています。「同じような極性をもつもの同士が溶けやすい」という原則が背景にあり、水(極性溶媒)には極性の高い物質が溶けやすく、ヘキサンなどの有機溶媒(無極性溶媒)には無極性の物質が溶けやすい性質を利用します。
抽出には分液漏斗(ぶんえきろうと)が用いられます。目的の物質を含む混合物の水溶液に、その物質をよく溶かす有機溶媒を加え、栓をしてよく振り混ぜます。その後、静置すると水層と有機溶媒層の2層に分かれるため、下層(密度の大きい方)を活栓を開いて流し出します。
ヨウ素(I2)とヨウ化カリウム(KI)を含む水溶液(ヨウ素液)に、ヘキサンを加えてよく振ります。I2 は非極性分子であるため、極性の低いヘキサンに溶けやすく(水にはほとんど溶けない)、静置するとヘキサン層(上層)に移行して赤紫色になります。水層にはKIが残ります。こうしてヨウ素をヨウ化カリウムから分離できます。
身近な抽出の例として、コーヒー豆に熱湯を注いでコーヒーをいれる操作があります。味や香りの成分が湯に溶け出し(抽出)、ろ過でコーヒー豆と分離するという、2つの操作の組み合わせです。緑茶を淹れる、かつお節から出汁をとるのも同じ原理です。
ろ紙やシリカゲルなどの吸着剤に対する物質の吸着力の差を利用して、混合物の各成分を分離する操作をクロマトグラフィーといいます。1つの操作で多成分を同時に分離できることが特徴で、色素分析・アミノ酸分析・医薬品の品質管理など幅広く使われています。
ろ紙を吸着剤として使うクロマトグラフィーをペーパークロマトグラフィーといいます。黒色の水性インクをろ紙の下端近くに一点として付け、下端を水(展開溶媒)に浸します。水がろ紙を毛細管現象で上昇するとき(展開)、インク中の各色素がともに上昇しますが、ろ紙への吸着力が弱い成分ほど速く移動します。
吸着力が異なる複数の色素は異なる速さで移動するため、時間が経つと互いに分離されます。黒色インクに青・赤・黄などの色素が含まれていれば、それらが縦方向に分かれて可視化されます。
シリカゲルなどの吸着剤の粉末をガラス管(カラム)に詰め、上から溶媒を流す操作をカラムクロマトグラフィーといいます。吸着力の弱い成分ほど速くカラムの下から出てくるため、流出する順番で各成分を分取できます。ホウレンソウの葉に含まれる複数の色素(クロロフィルなど)を分離する実験に使われます。
6つの分離法は「利用する性質の差」という観点で整理すると、どの場面でどの操作を選ぶかが判断しやすくなります。
| 分離法 | 利用する性質の差 | 代表的な例 |
|---|---|---|
| ろ過 | 固体と液体の区別(粒子の大きさ) | 砂と食塩水の分離 |
| 昇華法 | 昇華性の有無 | ヨウ素と砂の分離 |
| 蒸留 | 沸点の差(固体溶質 vs 液体溶媒) | 食塩水から水を取り出す |
| 分留 | 沸点の差(液体どうし) | 石油の精製、液体空気から窒素・酸素を分離 |
| 再結晶 | 温度による溶解度の変化 | 硝酸カリウムの精製 |
| 抽出 | 溶媒への溶けやすさの差 | ヨウ素をヘキサンに抽出 |
| クロマトグラフィー | 吸着剤への吸着力の差 | インクの色素分離、ホウレンソウの色素分離 |
分離法を問う問題では、混合物の成分が「何と何を混ぜているか」を確認し、各成分の間にどの性質の差があるかを考えます。固体が溶けていない → ろ過。昇華性をもつ物質が含まれる → 昇華法。液体を含む混合物で沸点が大きく違う → 蒸留・分留。溶けやすさが溶媒によって大きく違う → 抽出。温度で溶解度が大きく変わる → 再結晶。複数成分を同時に分けたい → クロマトグラフィー。この思考フローが問題の核心です。
Q1. 砂が混ざった塩化ナトリウムから、砂と塩化ナトリウムを分けるにはどのような操作をどの順番で行えばよいですか。
Q2. 再結晶で、硝酸カリウムに混在する少量の硫酸銅(II)五水和物が析出しない理由を、溶解度の観点から説明してください。
Q3. 石油を分留するとき、蒸留塔の上部ほど沸点の低い成分が得られるのはなぜですか。
Q4. ペーパークロマトグラフィーで、ろ紙への吸着力が弱い成分ほど速く移動する理由を説明してください。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
次の(1)〜(6)の混合物を分離する操作として最も適切なものを、下の(ア)〜(カ)からそれぞれ1つ選べ。
(ア) 蒸留 (イ) 分留 (ウ) ろ過 (エ) 再結晶 (オ) 抽出 (カ) クロマトグラフィー
(1) ア (2) ウ (3) イ (4) エ (5) オ (6) カ
(1) 水(沸点100℃)と塩化ナトリウム(沸点約1400℃)の沸点の差を利用して蒸留する。(2) 砂は水に溶けないため、ろ紙を通過しないろ過で分離する。(3) 窒素(沸点−196℃)と酸素(沸点−183℃)の沸点の差を利用して分留する。液体どうしの混合物の蒸留なので「分留」が正確な用語。(4) KNO3 は温度変化による溶解度の差が大きい(低温で析出しやすい)一方、NaCl は温度変化による溶解度の差が小さいため、高温の飽和溶液を冷却すると KNO3 だけが析出する。(5) ヨウ素(I2)は無極性分子であるためヘキサンなどの有機溶媒に溶けやすく、抽出で水溶液から取り出せる。(6) 複数の色素を一度に分離するにはクロマトグラフィーが適している。
硝酸カリウム(KNO3)60g と硫酸銅(II)(無水物, CuSO4)6g が混合した試料を再結晶によって精製する。硝酸カリウムの溶解度は、10℃で22g/水100g、60℃で110g/水100g であり、硫酸銅(II)(無水物)の溶解度は、10℃で17g/水100g、60℃で40g/水100g である。
(1) 60℃で KNO3 60g を水に溶かすには、水は最低何g必要か。
(2) (1) で求めた水の量に試料全体(KNO3 60g、CuSO4 6g)を溶かした溶液を10℃まで冷却したとき、KNO3 は何g析出するか。
(3) (2) で冷却したとき、CuSO4 は析出するか。理由とともに答えよ。
(1) 60℃での溶解度は110g/水100g。KNO3 60gを溶かすには、水の量をxgとすると、
60/x = 110/100 より x ≒ 54.5g。したがって最低55g(計算上は約54.5g)。
(2) 水54.5gに KNO3 が溶ける最大量(10℃):22 × 54.5/100 ≒ 12.0g
冷却前に溶けていたKNO3:60g
析出量:60 − 12.0 = 48.0g
(3) 析出しない。水54.5gに CuSO4 が溶ける最大量(10℃):17 × 54.5/100 ≒ 9.3g。実際に溶かした量は6gで、9.3g未満なので飽和に達せず析出しない。
(1) 溶解度 = 溶質(g)/溶媒100g の関係から、溶かしたい溶質量と溶解度の比例関係で必要な水量を求めます。60/x = 110/100 → x = 6000/110 ≒ 54.5g。
(2) 10℃における水54.5gでの KNO3 の溶解度上限は 22×54.5/100 ≒ 12.0g。冷却前に60g溶けていたため、60−12.0 = 48.0g が析出します。
(3) CuSO4 6gに対して、10℃の飽和溶解度(水54.5gあたり)は9.3g。実際の溶解量6gが飽和量9.3gを下回るため、溶液はまだ不飽和状態であり結晶は析出しません。これが再結晶による分離のポイントです。
ヨウ素(I2)とヨウ化カリウム(KI)の混合物の水溶液がある。この混合物を分離して、純粋なヨウ素を得る操作について、以下の問いに答えよ。
(1) 分液漏斗を用いてヨウ素を抽出する際、使用する溶媒として適切なものをア〜エから選び、その理由を述べよ。
ア:水 イ:ヘキサン ウ:濃硫酸 エ:塩酸
(2) 振り混ぜた後に静置すると2層に分かれる。ヨウ素が移行するのは上層・下層のどちらか。ヘキサンの密度を0.66 g/cm3、水の密度を1.00 g/cm3として答えよ。
(3) 抽出操作の際、分液漏斗の活栓(コック)を開けて内圧を逃がす操作(ガス抜き)が必要な理由を述べよ。
(1) イ(ヘキサン)。ヨウ素(I2)は無極性分子であるため、無極性溶媒であるヘキサンに溶けやすく、水には溶けにくい。一方、KI はイオン化合物であるため水に溶けやすくヘキサンには溶けにくい。これにより I2 だけを選択的にヘキサン層に移動させることができる。
(2) 上層。ヘキサンの密度(0.66 g/cm3)は水(1.00 g/cm3)より小さいため、ヘキサン層が上層になる。ヨウ素はヘキサン層に移行するので上層。
(3) 有機溶媒(ヘキサン)は揮発性が高く、振り混ぜると蒸気が発生して分液漏斗内の気圧が高まる。ガス抜きをしないと内圧が過剰になり、栓が飛んだり液が噴き出したりする危険がある。
(1) 抽出で使う溶媒の選択は「極性の似たもの同士が溶ける」原則で判断します。I2 は非極性分子なので、無極性溶媒(ヘキサン、四塩化炭素など)に溶けやすく、極性の高い水には溶けにくい。また、選択した溶媒は水と混ざらないことも必要条件です(水に混ざると2層に分離できない)。ヘキサンは水と混ざらず、かつ I2 をよく溶かす点で適切です。
(2) 2種類の液体が混ざらない場合、密度の小さい方が上層になります。ヘキサン(0.66 g/cm3)< 水(1.00 g/cm3)なので、ヘキサン層が上層、水層が下層です。I2 はヘキサン層(上層)に濃縮され、溶液が赤紫色になります。
(3) ヘキサンなどの有機溶媒は蒸気圧が高く、振り混ぜることで気化が促進されます。蒸留フラスコと異なり密閉容器である分液漏斗では内圧が急上昇するため、定期的に活栓を開けて圧力を逃がす操作が必要です。これは実験操作上の安全対策として重要です。