物質は約118種類の「元素」を組み合わせてできています。
しかし「元素」という言葉は、文脈によって「成分」を指すときと「具体的な物質」を指すときの2通りの使い方があります。
この記事では、元素・単体・化合物・同素体という化学の基礎概念を正確に理解し、入試でも問われる「元素と単体の使い分け」を完全にマスターします。
元素(element)とは、物質を構成している基本的な成分のことです。現在知られている元素は118種類で、そのうち約90種類が天然に存在し、残りは人工的に合成されたものです。
各元素は元素記号で表されます。元素記号は、ラテン語や英語などの元素名の頭文字、またはそれに小文字を1字書き添えたもので、1文字目は必ず大文字、2文字目は必ず小文字です。
| 元素名 | 元素記号 | 語源の由来 |
|---|---|---|
| 水素 | H | Hydrogenium(水を生じるもの) |
| 炭素 | C | Carboneum(木炭) |
| 窒素 | N | Nitrogenium(硝石から生じるもの) |
| 酸素 | O | Oxygenium(酸を生じるもの) |
| ナトリウム | Na | Natrium(天然ソーダ natron) |
| 鉄 | Fe | Ferrum(硬い・強固) |
| 銅 | Cu | Cuprum(キプロス島の鉱物) |
| 金 | Au | Aurum(黄金・光るもの) |
元素記号が英語名と大きく異なるもの(Na, Fe, Cu, Au など)は、ラテン語名に由来しています。これらは特に注意が必要です。
純物質(1種類の物質だけからなるもの)は、構成する元素の種類によって単体と化合物に分けられます。
単体とは、1種類の元素だけからなる純物質です。水素 H2、酸素 O2、鉄 Fe、銅 Cu、金 Au などがこれにあたります。単体は、ある元素が他の元素と化合せずに単独で存在している状態の物質です。
化合物とは、2種類以上の元素からなる純物質です。水 H2O(水素と酸素)、二酸化炭素 CO2(炭素と酸素)、塩化ナトリウム NaCl(ナトリウムと塩素)などがこれにあたります。
化合物は成分元素の単体とは性質がまったく異なります。たとえば、水 H2O は常温で液体ですが、その成分元素の単体である水素 H2 と酸素 O2 はともに常温で気体です。
| 分類 | 定義 | 例 |
|---|---|---|
| 単体 | 1種類の元素からなる純物質 | H2, O2, N2, Fe, Cu, Au, Ar |
| 化合物 | 2種類以上の元素からなる純物質 | H2O, CO2, NaCl, NH3, HCl |
「酸素」「水素」などの言葉は、文脈によって元素(成分)を指す場合と単体(実在する物質)を指す場合があります。入試で頻出の重要ポイントです。
「酸素」という言葉は、文脈によって意味が異なります。「水に酸素が含まれる」→ 成分元素としての酸素(O)のこと。「酸素が燃焼を助ける」→ 実在する物質としての酸素 O2 のこと。同じ「酸素」でも、指しているものが違います。
| 文の例 | 下線部が指すもの | 理由 |
|---|---|---|
| 水素が燃えて水になる | 単体 H2 | 「燃える」という性質を示す物質 = 単体 |
| 水には水素が含まれる | 元素 H | 水という化合物の成分 = 元素 |
| 酸素を吸入する | 単体 O2 | 吸入できる実在の物質 = 単体 |
| 水は酸素と水素からなる | 元素 O | 化合物の構成成分 = 元素 |
| 鉄には炭素が含まれることがある | 元素 C | 鉄鋼中の成分元素 = 元素 |
| 炭素は宝石になる | 単体 C(ダイヤモンド) | 宝石という実在する物質 = 単体 |
「元素」は物質を構成する成分の種類を表す抽象的な概念です。目に見えず、手に取ることができません。「単体」は元素が具体的な物質として実在している状態で、色・状態・反応性などの具体的な性質をもちます。「〇〇が含まれる・構成する」なら元素、「〇〇が反応する・燃える・気体として発生する」なら単体と判断してください。
同素体(allotrope)とは、同じ元素からなるが、性質の異なる単体どうしのことです。同じ元素でも、原子のつながり方(結合構造)が異なると、まったく異なる性質の物質になります。
同素体が存在する元素は限られており、「スコップ」の頭文字で覚えられます。
ス(硫黄 S)・コ(炭素 C)・ッ(酸素 O)・プ(リン P)
炭素の同素体として、ダイヤモンド・黒鉛(グラファイト)・フラーレン・カーボンナノチューブがあります。ダイヤモンドと黒鉛が最も重要です。
| 物質 | 色・外観 | 硬さ | 電気伝導性 | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| ダイヤモンド | 無色透明 | 非常に硬い(天然物中最硬) | なし | 宝石・歯科用ドリル・研磨材 |
| 黒鉛 | 黒色 | やわらかい・はがれやすい | あり | 鉛筆の芯・電極 |
| フラーレン | 黒褐色 | — | なし(ドープで導体) | 超電導体の研究・材料科学 |
→ 同じ元素でも、原子のつながり方(結合構造)が違えば性質はまったく異なる。これが同素体のポイント。
ダイヤモンドと黒鉛の構造の違いは、炭素原子の混成軌道の違いで説明できます。
ダイヤモンド(sp³混成):炭素の2s軌道1つと2p軌道3つが混成して4つのsp³混成軌道を形成。4つの軌道が正四面体の頂点方向を向き、すべてσ結合に使われます。π電子(自由電子)は生じないため絶縁体です。
黒鉛(sp²混成):炭素の2s軌道1つと2p軌道2つが混成して3つのsp²混成軌道を形成。正六角形の平面構造を作ります。残る2p軌道の電子がπ共役系を形成して層全体に非局在化し、この電子が電気伝導を担います。
酸素の同素体は酸素 O2 とオゾン O3 の2種類です。
硫黄の主な同素体には斜方硫黄・単斜硫黄・ゴム状硫黄があります。
リンの主な同素体は黄リンと赤リンです。
| 元素 | 同素体の名前 | 性質の違いの主な原因 |
|---|---|---|
| 炭素 C | ダイヤモンド(硬い・絶縁体) | 正四面体構造と平面層状構造の結合構造の違い |
| 黒鉛(やわらかい・導電体) | ||
| 酸素 O | 酸素 O2(無色・無臭) | 分子の構成原子数(2原子 vs 3原子)の違い |
| オゾン O3(淡青色・特異臭・強酸化力) | ||
| 硫黄 S | 斜方硫黄(常温で安定) | S原子の配列構造(環状 vs 鎖状)と結晶構造の違い |
| 単斜硫黄(針状結晶) | ||
| ゴム状硫黄(鎖状・非晶質) | ||
| リン P | 黄リン(自然発火・有毒・水中保存) | 分子構造(P4正四面体 vs 複雑な高分子状)の違い |
| 赤リン(安定・毒性が弱い・マッチに利用) |
同素体どうしは同じ元素からなるのに、なぜこれほど性質が違うのでしょうか。その答えは原子のつながり方(結合構造)にあります。
元素(原子の種類)が同じでも、原子どうしがどのようにつながっているかが異なれば、物質の性質はまったく異なります。物質の性質を決めるのは「何の原子でできているか」だけではなく、「原子がどのような構造でつながっているか」なのです。
ダイヤモンドと黒鉛はどちらも炭素原子だけからなりますが、三次元的な共有結合の網目構造(ダイヤモンド)と、二次元的な平面層状構造(黒鉛)では、硬さ・電気伝導性・外観がまったく異なります。これは有機化学における「構造異性体」の概念とも共通する、化学の根本的な考え方です。
「元素・単体・化合物・同素体」の概念は化学全体の基礎であり、以降のあらゆる章とつながっています。
次の記事「1-4 炎色反応と元素の確認」では、物質がどのような元素からなるかを実験的に確認する方法を学びます。炎色反応・沈殿反応を通して「元素の確認」という操作を理解します。
Q1. 次の記述のうち、下線部が「元素」を指しているものをすべて選べ。
① 水素が燃えて水になる ② 水には水素が含まれる ③ 酸素は空気中に約21%存在する ④ 鉄には少量の炭素が含まれていることがある
Q2. 同素体が存在する元素を、「スコップ」の語呂合わせを使ってすべて答えよ。また、それぞれの元素の同素体を1つずつ挙げよ。
Q3. ダイヤモンドは電気を通さないが、黒鉛は電気をよく通す。この違いを、炭素原子の結合構造の違いに基づいて説明せよ。
Q4. 黄リンと赤リンの性質の違いを2点挙げ、それぞれの保存方法も述べよ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
物質に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
①と④
① 正しい。ダイヤモンドと黒鉛はどちらも炭素 C だけからなる単体で、性質が異なるため同素体です。② 誤り。一酸化炭素 CO と二酸化炭素 CO2 はどちらも炭素と酸素を含む化合物ですが、同素体は「同じ元素からなる単体」どうしの関係です。化合物どうしには同素体の概念は使いません。③ 誤り。黄リンが自然発火しやすく水中保存、赤リンは安定で空気中に保存できます。④ 正しい。O2 と O3 はともに酸素元素 O だけからなる単体で、性質が異なるため同素体です。⑤ 誤り。水は1種類の純物質(化合物)であり、混合物ではありません。
次の各記述の下線部が、元素を指しているか単体を指しているかをそれぞれ答えよ。また、判断の根拠を簡潔に述べよ。
(1) 鉄は磁石に引きつけられる。
(2) 血液中には鉄が含まれ、酸素の運搬に関わっている。
(3) 塩素は黄緑色の気体で、刺激臭をもつ。
(4) 食塩(塩化ナトリウム)には塩素が含まれている。
(1) 単体(金属の鉄 Fe)。「磁石に引きつけられる」という具体的な性質を示す物質として使われている。
(2) 元素(鉄 Fe という成分)。「血液中に含まれる」という成分・構成の文脈で使われている。
(3) 単体(気体の塩素 Cl2)。「黄緑色・刺激臭」という具体的な性質を示す物質として使われている。
(4) 元素(塩素 Cl という成分)。「食塩に含まれる」という成分元素の文脈で使われている。
元素と単体の判別は、「その言葉が物質の成分・構成を指しているか」または「物質の具体的な性質・反応を指しているか」で判断します。(2) の鉄はヘモグロビン中の鉄イオンとして存在する成分元素 Fe を、(4) の塩素は NaCl の成分元素 Cl を指しています。一方、(1) と (3) はそれぞれ Fe という金属単体、Cl2 という気体単体が直接示す性質を述べています。
炭素の同素体であるダイヤモンドと黒鉛について、以下の問いに答えよ。
(1) ダイヤモンドと黒鉛がともに炭素の単体であるにもかかわらず、硬さと電気伝導性が大きく異なる理由を、炭素原子の価電子の使われ方に着目して説明せよ。
(2) 黒鉛の密度(2.3 g/cm³)はダイヤモンドの密度(3.5 g/cm³)より小さい。黒鉛の密度が小さい理由を、構造の観点から説明せよ。
(3) 黒鉛を電極に用いて塩化銅(II)水溶液を電気分解したとき、陰極と陽極でそれぞれ何が生じるか答えよ。また、黒鉛が電極に使えるのはなぜか、1文で述べよ。
(1) ダイヤモンドでは炭素原子が4個の価電子すべてを共有結合に使って三次元的な正四面体構造を形成するため、自由電子が存在せず電気を通さず、結合が全方向に強固であるため非常に硬い。黒鉛では炭素原子が3個の価電子で平面六角網目構造を形成し、残り1個の価電子が層内を自由に移動できるため電気をよく通す。また、層どうしが弱い分子間力で結合しているためやわらかい。
(2) 黒鉛は平面的な層状構造をとっており、層と層のあいだは分子間力(弱い)で結合しているため間隔が広い。ダイヤモンドの三次元的な共有結合に比べて、原子どうしが密に詰まった構造をとれないため、密度が小さくなる。
(3) 陰極:銅 Cu が析出する。陽極:塩素 Cl2 が発生する。黒鉛が電極に使える理由:黒鉛は電気をよく導き、かつ化学的に安定で多くの物質と反応しないため。
(1) 価電子の使われ方という視点が重要です。4個の価電子をすべて結合に使う(ダイヤモンド)か、3個だけ使って1個を非局在化させる(黒鉛)かの差が、すべての性質の違いを生んでいます。
(2) 「層状構造ゆえに層間の間隔が広い」ことが密度の低さの原因です。ダイヤモンドは三次元方向すべてで強く結合しているため、空隙が少なく密度が高くなります。
(3) CuCl2 の電気分解では、陰極で Cu2+ が還元されて Cu が析出(Cu2+ + 2e− → Cu)、陽極で Cl− が酸化されて Cl2 が発生(2Cl− → Cl2 + 2e−)します。黒鉛が電極として適しているのは、電気を通す(電気伝導性)こととともに、化学的安定性が高いことが理由です。