マンガン乾電池・鉛蓄電池・リチウムイオン電池・燃料電池——私たちの生活を支える4種の電池を学びます。
共通の問いは「どの電極で何が酸化・還元されるか」です。
各電池の電極反応式を確実に書けるようにしましょう。
マンガン乾電池は最も身近な一次電池です。外装の缶が亜鉛 Zn(負極)、中心に炭素棒(正極集電体)と二酸化マンガン MnO2(正極活物質)の混合物、電解質として塩化アンモニウム NH4Clのペースト(糊状)が使われます。液体を使わず「乾いた」設計が名称の由来です。
| 役割 | 材料 | |
|---|---|---|
| 負極 | 酸化(電子を放出) | 亜鉛缶 Zn |
| 正極 | 還元(電子を受け取る) | MnO2 + 炭素 C の混合物 |
| 電解質 | イオン伝導 | NH4Cl(塩化アンモニウム)ペースト |
負極: Zn → Zn2+ + 2e−(酸化)
正極: 2MnO2 + 2H+ + 2e− → Mn2O3 + H2O(還元)
起電力は約 1.5 V です。MnO2 は正極活物質として電子を受け取り、Mn の酸化数が +4 から +3 へ低下します(還元)。炭素棒 C は電子を集める集電体であり、自身は反応しません。
電解質を NH4Cl(酸性)から KOH(アルカリ性)に変えたものがアルカリマンガン乾電池です。電解質の導電性が高く、大電流を取り出せるため、モーターを使うおもちゃや大型リモコンに適します。活物質は同じ Zn と MnO2 で、起電力も約 1.5 V です。
鉛蓄電池は1859年にプランテ(フランス)が発明した最初の二次電池で、自動車のバッテリーとして今日も広く使われています。
| 材料 | |
|---|---|
| 負極 | 鉛 Pb(スポンジ状) |
| 正極 | 酸化鉛(IV)PbO2(褐色) |
| 電解質 | 希硫酸 H2SO4(密度約 1.2 g/cm3) |
| 起電力 | 約 2.0 V(セルあたり) |
負極(放電): Pb + SO42− → PbSO4 + 2e−(酸化)
正極(放電): PbO2 + 4H+ + SO42− + 2e− → PbSO4 + 2H2O(還元)
全体(放電): Pb + PbO2 + 2H2SO4 → 2PbSO4 + 2H2O
外部電源から逆向きの電流を流すと、放電とは逆の反応が起こります。
負極(充電): PbSO4 + 2e− → Pb + SO42−(還元)
正極(充電): PbSO4 + 2H2O → PbO2 + 4H+ + SO42− + 2e−(酸化)
全体(充電): 2PbSO4 + 2H2O → Pb + PbO2 + 2H2SO4
放電・充電の全体反応をまとめると:
放電が進むと H2SO4 が消費され、H2O が生成するため、希硫酸の密度が低下します。充電すると逆にH2SO4 が再生されて密度が上昇します。そのため「電解液の密度を測定することで充電状態(残量)を確認できる」という特徴があります。入試で頻出です。
一次電池では放電で生じた生成物が溶液中に拡散して回収できません。鉛蓄電池は生成物 PbSO4 が固体で電極に付着したまま残るため、充電によって元の状態に戻せます。これが二次電池として機能する根本的な理由です。
リチウムイオン電池は、スマートフォン・ノートパソコン・電気自動車など現代社会の必需品です。吉野彰博士らによって日本で世界に先駆けて実用化され、その功績で2019年にノーベル化学賞が授与されました。
| 材料 | |
|---|---|
| 負極 | 黒鉛 C(炭素の層間に Li+ を収容) |
| 正極 | コバルト酸リチウム LiCoO2(Li+ を内包した層状構造) |
| 電解質 | 有機電解液(Li 塩を有機溶媒に溶かしたもの) |
| 起電力 | 約 3.7 V(鉛蓄電池の約2倍) |
放電・充電を通じて、Li+ が正極と負極の層間を移動するだけです。電極材料自体は反応せず構造を保つため、劣化が進みにくい設計になっています。
放電(全体): LiC6 + Li1−xCoO2 → C6 + LiCoO2
(負極の黒鉛 LiC6 から Li+ が放出され、正極 LiCoO2 に収納される)
水は約 1.23 V で電気分解が始まります(2H2O → 2H2 + O2)。リチウムイオン電池の起電力は約 3.7 V に達するため、水溶液では電解質が分解されてしまい使用できません。そのため Li 塩(LiPF6 など)を有機溶媒(エチレンカーボネートなど)に溶かした有機電解液を用います。
燃料電池は、水素(燃料)と酸素を電極に供給し続け、その酸化還元反応から継続的に電気を取り出す装置です。電極自体は反応に消費されず、水素と酸素を供給し続ける限り発電できます。
| 役割 | 材料・供給物 | |
|---|---|---|
| 負極 | 水素の酸化(H2 → H+) | 白金触媒付き多孔質電極 / H2 供給 |
| 正極 | 酸素の還元(O2 → H2O) | 白金触媒付き多孔質電極 / O2 供給 |
| 電解質 | H+ 伝導 | 固体高分子膜(イオン交換膜)または KOH 水溶液 |
負極: H2 → 2H+ + 2e−(酸化)
正極: O2 + 4H+ + 4e− → 2H2O(還元)
全体: 2H2 + O2 → 2H2O
全体反応は「水素の燃焼」と全く同じ反応式です。ただし燃料電池では燃焼ではなく電気化学反応で進むため、熱として無駄になるエネルギーが少なく、理論効率が高い(80〜90% 超)のが特長です。
燃料を燃やすと化学エネルギーが熱になり、そこから電気を得る効率は最大 40% 程度(カルノー効率の限界)。燃料電池は燃焼を経ずに直接電気に変換するため、理論効率が格段に高い。排出物は水のみで環境負荷が低いことも大きなメリットです。
燃料電池では負極に水素、正極に酸素を供給します。「H2 は燃料なのに負極?」と戸惑いがちですが、電池の原理は変わりません——電子を放出する(酸化される)側が負極。H2 は電子を放出して H+ になるので負極です。O2 は電子を受け取って(還元されて)H2O になるので正極です。
| 電池名 | 種類 | 負極 | 正極 | 電解質 | 起電力 | 特徴・用途 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| マンガン乾電池 | 一次 | Zn | MnO2(+C) | NH4Cl ペースト | 約 1.5 V | 安価・軽量。リモコン・懐中電灯 |
| 鉛蓄電池 | 二次 | Pb | PbO2 | 希 H2SO4 | 約 2.0 V | 大電流・低コスト。自動車バッテリー |
| リチウムイオン電池 | 二次 | C(黒鉛) | LiCoO2 | 有機電解液 | 約 3.7 V | 高電圧・軽量。スマートフォン・EV |
| 燃料電池(水素-酸素) | ─ | H2 | O2 | 固体高分子膜(または KOH) | 約 1.2 V | 高効率・排出物は水のみ。燃料電池車・発電 |
各電池の原理はすべて「12-1 で学んだ電池の原理(自発的酸化還元反応の空間分離)」の応用です。
Q1. 鉛蓄電池の放電時、負極と正極でそれぞれ起こる反応をイオン反応式で答えよ。
Q2. 鉛蓄電池を放電させると電解液の密度はどうなるか。その理由とともに答えよ。
Q3. 燃料電池(水素-酸素型)の負極・正極でそれぞれ起こる反応を答えよ。
Q4. リチウムイオン電池の電解質に水溶液でなく有機電解液を使う理由を述べよ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
次の電池に関する記述として正しいものを①〜⑤からすべて選べ。
①④⑤
① 正しい。MnO2 は正極活物質で、Mn の酸化数が +4 → +3 に低下する(還元)。
② 誤り。放電では H2SO4 が消費されて H2O が生成するため、密度は低下する。
③ 誤り。鉛蓄電池は二次電池(充電可能)。1859年に発明された最初の二次電池。
④ 正しい。燃料電池では H2 が負極で酸化(H2 → 2H+ + 2e−)、O2 が正極で還元される。
⑤ 正しい。水が電気分解されない高電圧(約 3.7 V)が実現できるのは有機電解液のおかげ。
鉛蓄電池を 5.0 A の電流で放電させたところ、負極板の質量が 9.6 g 増加した。次の問いに答えよ。ただし、ファラデー定数を 9.65 × 104 C/mol、原子量は Pb = 207、S = 32、O = 16 とする。
(1) 放電時間は何分何秒か。
(2) 正極板の質量変化を求めよ(増加か減少かも答えよ)。
(1) 負極の反応:Pb + SO42− → PbSO4 + 2e−
PbSO4 の式量 = 207 + 32 + 64 = 303、Pb の原子量 = 207
増加質量 = PbSO4 − Pb = 303 − 207 = 96(SO42− 1 mol 分が付加)
増加 9.6 g → 9.6/96 = 0.10 mol の PbSO4 が生成
流れた電子 = 0.10 × 2 = 0.20 mol
電気量 Q = 0.20 × 9.65 × 104 = 1.93 × 104 C
時間 = Q / I = 1.93 × 104 / 5.0 = 3860 s = 64分20秒
(2) 正極の反応:PbO2 + 4H+ + SO42− + 2e− → PbSO4 + 2H2O
PbO2 0.10 mol が PbSO4 0.10 mol に変化。
増加質量 = 303 × 0.10 − 239 × 0.10 = 64 × 0.10 = 6.4 g 増加
鉛蓄電池の計算では「電極質量の変化 = 付加または消失した部分の質量」で考えます。負極では Pb に SO42− が付加して PbSO4 になるので、SO42−(式量96)分だけ増加します。正極では PbO2 に SO42− が付加して PbSO4 になるので、PbSO4 − PbO2 = 303 − 239 = 64 の分だけ増加します。負極の増加量(96 g/mol)と正極の増加量(64 g/mol)が異なる点に注意しましょう。
水素-酸素燃料電池について、電解質として KOH 水溶液(アルカリ性)を使用した場合の電極反応は次のように表される。
負極:H2 + 2OH− → 2H2O + 2e−
正極:O2 + 2H2O + 4e− → 4OH−
(1) 全体の化学反応式を書け。
(2) この燃料電池を 10.0 A の電流で 1930 秒間連続運転した場合、生成する水は何 g か。(ファラデー定数 9.65 × 104 C/mol)
(3) 燃料電池が通常の火力発電より発電効率が高い理由を、熱エネルギーという言葉を使って60字以内で説明せよ。
(1) 負極 × 2 + 正極 × 1 の和(e− と OH−・H2O を整理):
2H2 + O2 → 2H2O
(2) Q = 10.0 × 1930 = 1.93 × 104 C
電子の物質量 = 1.93 × 104 / 9.65 × 104 = 0.200 mol
負極:H2 + 2OH− → 2H2O + 2e− より、2 mol e− で 2 mol H2O 生成
正極:O2 + 2H2O + 4e− → 4OH− より、4 mol e− で H2O 2 mol が消費
全体で 2H2 + O2 → 2H2O より、4 mol e− で 2 mol H2O 生成
H2O の物質量 = 0.200 × (2/4) = 0.100 mol
質量 = 0.100 × 18 = 1.80 g
(3) 燃料電池は燃焼による熱エネルギーを経由せず化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するため、熱損失が少なく発電効率が高い。(57字)
(1) アルカリ形でも酸性形でも、全体反応は必ず 2H2 + O2 → 2H2O になります。電解質の違いは電極反応式の書き方(H+ を使うか OH− を使うか)に影響するだけで、全体反応は不変です。
(2) 全体反応 2H2 + O2 → 2H2O に着目すると、4 mol の e− が流れるごとに 2 mol の H2O が生成します(負極で消費されたH2Oと正極で生成した OH−を含む全体のバランスを取ると、正味2mol生成)。e−:H2O = 4:2 = 2:1 の関係を使います。
(3) 火力発電は「燃料→熱→蒸気→タービン→電気」と何段階も経るうえ、カルノー効率の壁(理論的な熱→仕事の変換効率の上限)があります。燃料電池は熱を介さず直接電気に変換するため、この制限を受けません。