第12章 電池と電気分解

電気分解の原理

電池が「自発的な酸化還元反応から電気を取り出す」装置であるのに対し、電気分解は正反対です。
外部から電気エネルギーを与えることで、自然には起こらない酸化還元反応を強制的に引き起こします。
「陰極・陽極で何が起こるか」の決まり方を、イオン化傾向と電極の種類から整理しましょう。

1電気分解の原理

電解質水溶液(または融解した電解質)に電極を浸し、外部の電源(電池)に接続して直流電流を通じると、電極表面で酸化還元反応が起こります。このように電気エネルギーを利用して酸化還元反応を引き起こす操作を電気分解(電解)といいます。

電池 vs 電気分解 ── 「自発」か「強制」か

電池:自発的な酸化還元反応が起こり、そのエネルギーが電気として取り出される(化学エネルギー → 電気エネルギー)。

電気分解:外部から電気エネルギーを与えて、自発的には起こらない反応を強制的に引き起こす(電気エネルギー → 化学エネルギー)。

陰極と陽極の定義

電気分解では電源の極性によって電極の役割が決まります。

  • 陰極(cathode):電源の負極に接続した電極。電子が流れ込み、還元反応が起こる。
  • 陽極(anode):電源の正極に接続した電極。電子が流れ出し、酸化反応が起こる。
落とし穴:電池の負極と陰極は「別物」

電池では「負極で酸化、正極で還元」が起こります(自発的に電子を放出するのが負極)。電気分解では「陰極で還元、陽極で酸化」です(電子が流れ込む側で還元)。用語を混同しないよう注意してください。「陰極=還元」「陽極=酸化」と覚えてしまうのが最もシンプルです。

2陽極・陰極での反応の決まり方

陰極での反応 ── イオン化傾向の小さいものから還元される

陰極では溶液中の陽イオンや水分子が電子を受け取ります(還元)。イオン化傾向が小さい(陽イオンになりにくい=単体に戻りやすい)ものほど、先に還元されるという原則があります。

陰極での反応条件・例
金属イオン(Cu2+、Ag+ など)が金属として析出Cu2+、Ag+、Ni2+ など(イオン化傾向が中程度以下)
H+ が還元されて H2 が発生酸性水溶液 / 金属イオンがない場合
H2O が還元されて H2 と OH− が生成中性・塩基性水溶液でイオン化傾向の大きい金属(Na+、K+、Al3+ 等)しかない場合
Li+、Na+、Al3+ は水溶液の電気分解では析出しないのはなぜか
これらの金属はイオン化傾向が非常に大きい(単体がイオンに「なりたがっている」)
↓
陰極で電子を与えても、水(H2O)の方が先に還元されてしまう
↓
金属として析出するためには溶融塩電解(水を使わない電解)が必要

陽極での反応 ── 電極の種類で大きく変わる

陽極では電極の素材が反応を大きく左右します。

不活性電極(白金 Pt、炭素 C)の場合

電極自身は反応せず、溶液中の陰イオンや水分子が電子を放出します(酸化)。

溶液中の陰イオン陽極での反応優先度
Cl−、Br−、I−(ハロゲン化物イオン)2Cl− → Cl2 + 2e− など(ハロゲン単体が発生)高
OH−(塩基性水溶液)4OH− → 2H2O + O2 + 4e−(O2 が発生)中
H2O(中性・酸性水溶液)2H2O → O2 + 4H+ + 4e−(O2 が発生)低
SO42−、NO3−酸化されない(H2O や OH− が代わりに反応)—
SO42− と NO3− が酸化されない理由

硫酸イオン SO42− や硝酸イオン NO3− はすでに S や N の酸化数が高い(それぞれ +6、+5)状態にあり、これ以上酸化されにくい状態です。そのため、水溶液の電気分解では陽極でこれらのイオンは反応せず、代わりに水分子や OH− が酸化されます。

活性電極(Cu、Ag などの金属電極)の場合

電極自身が酸化されて陽イオンとして溶け出します。この場合、溶液中の陰イオンは関係なく、電極金属が優先して反応します。

Cu → Cu2+ + 2e−

Ag → Ag+ + e−

活性電極の代表例が銅の電解精錬です。粗銅板(陽極)が溶け出し、純銅板(陰極)に純粋な銅が析出します。

3代表的な電気分解

CuSO4 水溶液の電気分解

白金(Pt)電極の場合(不活性電極):

水溶液中には Cu2+、SO42−、H2O が存在します。

陰極:Cu2+ + 2e− → Cu(銅が析出)

陽極:2H2O → O2 + 4H+ + 4e−(SO42− は酸化されないため水が反応)

結果として Cu2+ が減少し、H2SO4(希硫酸)の濃度が増加します。

銅(Cu)電極の場合(活性電極):

陰極:Cu2+ + 2e− → Cu(銅が析出)

陽極:Cu → Cu2+ + 2e−(陽極の銅が溶け出す)

陽極から溶け出した Cu2+ が陰極で析出するため、溶液中の Cu2+ 濃度はほぼ変化しません。これが銅の電解精錬の原理です。

NaCl 水溶液の電気分解

工業的にも重要な反応です(塩化ナトリウムの工業的利用)。水溶液中には Na+、Cl−、H2O が存在します。

陰極:2H2O + 2e− → H2 + 2OH−(Na+ は還元されず水が反応)

陽極:2Cl− → Cl2 + 2e−(Cl− が優先して酸化される)

結果として、NaCl が消費され Na+ と OH− が増加します。すなわち、NaOH(水酸化ナトリウム)が生成します。工業的にはイオン交換膜法でこの反応を利用します(NaOH と Cl2 を混合させないため)。

H2SO4 水溶液(希硫酸)の電気分解

白金電極を使用。水溶液中には H+、SO42−、H2O が存在します。

陰極:2H+ + 2e− → H2(水素が発生)

陽極:2H2O → O2 + 4H+ + 4e−(SO42− は酸化されない)

全体:2H2O → 2H2 + O2(水の電気分解)

希硫酸・NaOH 水溶液・純水(電導性を得るため電解質を加えた場合)の電気分解はすべて実質「水の電気分解」であり、H2 と O2 が 2:1 の体積比で発生します。

溶融塩電解(融解塩電解)── NaCl 融解液

イオン化傾向の大きい金属(Na、K、Al など)は、水溶液中では金属として析出できません。そこで、塩や酸化物を加熱融解させ(水なし)、融解したイオン液体を電気分解します。これを溶融塩電解(融解塩電解)といいます。

NaCl の融解液を電気分解する場合:

陰極:Na+ + e− → Na(ナトリウム金属が析出)

陽極:2Cl− → Cl2 + 2e−(塩素が発生)

発展:アルミニウムの製法(ホール・エルー法)大学入試

Al2O3(酸化アルミニウム、融点約 2050℃)をそのまま融解することは困難です。工業的には融点を下げるためにアルミナを氷晶石(Na3AlF6)に溶解し、約 950℃ で電気分解します(ホール・エルー法)。陰極にアルミニウムが析出し、陽極の炭素電極は CO2 として消耗します。

主要な電気分解の反応一覧

電解液電極陰極陽極
CuSO4 水溶液Pt(不活性)Cu が析出O2 が発生
CuSO4 水溶液Cu(活性)Cu が析出Cu が溶け出す
NaCl 水溶液Pt(不活性)H2 が発生・OH− 生成Cl2 が発生
H2SO4 水溶液Pt(不活性)H2 が発生O2 が発生
NaCl 融解液(溶融塩)炭素(不活性)Na が析出Cl2 が発生
AgNO3 水溶液Pt(不活性)Ag が析出O2 が発生

4この節を俯瞰する

電気分解の原理は化学の多くの分野と結びついています。

  • 電池との対比 → 12-1・12-2「電池の基礎」:電池が「自発反応 → 電気」であるのに対し、電気分解は「電気 → 非自発反応」。陰極/陽極の定義を電池の正極/負極と混同しないよう。
  • イオン化傾向 → 6-3「イオン化傾向」:陰極で何が先に析出するかはイオン化傾向の大小に依存。Na、K、Al が水溶液では析出しない理由もイオン化傾向で説明できる。
  • 酸化還元反応 → 6-1〜6-2:陽極での反応優先順位(ハロゲン化物イオン → OH−/H2O)は、各物質の酸化されやすさの序列を反映している。
  • 工業的応用 → 各元素の製法:NaOH の工業的製法(イオン交換膜法)、銅の電解精錬、Al のホール・エルー法はすべてここで学ぶ原理の応用。
  • ファラデーの法則 → 12-4「ファラデーの法則と計算」:電気分解の量的関係(析出量・発生気体量の計算)は次節で詳しく扱う。

5まとめ

  • 電気分解:外部電気エネルギーで非自発的な酸化還元反応を強制的に起こす操作
  • 陰極(電源の負極側)→ 還元反応が起こる
  • 陽極(電源の正極側)→ 酸化反応が起こる
  • 陰極:イオン化傾向の小さいものから先に還元(Cu2+、Ag+ は析出 / Na+、K+ は析出しない)
  • 陽極:不活性電極は溶液中の陰イオンや H2O が酸化(Cl− → Cl2 が優先 / SO42−、NO3− は反応しない)
  • 陽極:活性電極(Cu、Ag など)は電極自身が溶け出す
  • 溶融塩電解:水なしで融解状態で電解 → Na、Al など大きなイオン化傾向の金属を得られる

6確認テスト

Q1. 電気分解における「陰極」と「陽極」をそれぞれ定義し、各電極で起こる反応の種類を答えよ。

▶ クリックして解答を表示陰極:電源の負極に接続した電極で、還元反応(電子を受け取る)が起こる。陽極:電源の正極に接続した電極で、酸化反応(電子を放出する)が起こる。

Q2. 白金電極を用いて CuSO4 水溶液を電気分解するとき、陰極・陽極の反応をそれぞれ反応式で書け。

▶ クリックして解答を表示陰極:Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu(銅が析出)。陽極:2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻(SO₄²⁻ は酸化されないので水が反応し、酸素が発生)。

Q3. NaCl 水溶液を電気分解すると、溶液中に NaOH が蓄積するのはなぜか。説明せよ。

▶ クリックして解答を表示陰極で 2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻(H₂ が発生し OH⁻ が生成)、陽極で 2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻(Cl⁻ が消費される)。Na⁺ は変化せず OH⁻ が増加するため、溶液中に NaOH が生成・蓄積する。

Q4. Na は水溶液の電気分解では析出できない。どのような方法を用いれば Na の単体を得られるか。

▶ クリックして解答を表示溶融塩電解(融解塩電解)。NaCl を加熱融解し、水を使わない状態で電気分解すると、陰極で Na⁺ + e⁻ → Na が起こり、ナトリウム金属が得られる。

7入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

12-3-1 A 基礎 選択

白金電極を用いて以下の水溶液を電気分解したとき、陽極で酸素 O2 が発生するものをすべて選べ。

  • ① 希硫酸(H2SO4 水溶液)
  • ② 塩化ナトリウム水溶液(NaCl 水溶液)
  • ③ 硫酸銅(II)水溶液(CuSO4 水溶液)
  • ④ 水酸化ナトリウム水溶液(NaOH 水溶液)
  • ⑤ 塩化銅(II)水溶液(CuCl2 水溶液)
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解答

①③④

解説

陽極(不活性電極)では、Cl−、Br−、I− が存在すると優先してハロゲン単体が発生します。

①希硫酸:SO42− は酸化されず H2O が反応 → O2 発生。②NaCl:Cl− が優先して酸化 → Cl2 発生。③CuSO4:SO42− は反応せず H2O が反応 → O2 発生。④NaOH:OH− が酸化 → O2 発生。⑤CuCl2:Cl− が優先 → Cl2 発生。

B 標準レベル

12-3-2 B 標準 論述・計算

銅板を電極として CuSO4 水溶液を電気分解した(銅の電解精錬の模型実験)。

(1) 陰極・陽極それぞれの反応を半反応式で書け。

(2) 電気分解を続けると、溶液中の Cu2+ 濃度はどう変化するか。理由も含めて答えよ。

(3) 実際の工業的銅精錬では、粗銅(不純物を含む銅)を陽極に用いる。陽極に含まれる金(Au)はどこに回収されるか。

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解答

(1) 陰極:Cu2+ + 2e− → Cu  陽極:Cu → Cu2+ + 2e−

(2) ほぼ変化しない。陽極から Cu2+ が溶け出す量と、陰極で析出する量が等しいため。

(3) 陽極の下に「陽極泥」として沈殿し回収される。Au はイオン化傾向が小さいため、周囲の Cu が溶け出しても陽イオンにならず単体のまま沈殿する。

解説

(1)(2) 銅電極(活性電極)では電極自身が酸化されて溶け出します。陽極での溶け出し量と陰極での析出量が同じであるため、CuSO4 溶液の濃度は変わりません。これが電解精錬のポイントです。

(3) 銅より大きなイオン化傾向をもつ Fe、Ni などは陽極から Fe2+、Ni2+ として溶け出しますが、Cu より小さいイオン化傾向の Au、Ag、Pt などは単体のまま陽極の下に沈殿します(陽極泥)。これらの貴金属が資源として回収されます。

採点ポイント(各3点)
  • (1) 両極の半反応式が正しい(各1点)
  • (2) 「変化しない」かつ理由(2点)
  • (3) 「陽極泥」かつイオン化傾向の大小に言及(3点)

C 発展レベル

12-3-3 C 発展 総合・論述

白金電極を用いて、混合した電解質水溶液 A と B を電気分解した。水溶液 A は CuSO4 と ZnSO4 の混合水溶液(各 0.10 mol/L)、水溶液 B は NaCl と CuSO4 の混合水溶液(各 0.10 mol/L)である。

(1) 水溶液 A の電気分解で、陰極で最初に析出する金属を選び理由を述べよ。(Zn と Cu のイオン化傾向の順は Zn > Cu)

(2) 水溶液 B の電気分解で、陽極で最初に発生する気体を答え、その理由を述べよ。

(3) 水溶液 A で電気分解を長時間続け Cu2+ が枯渇した後、陰極では何が起こるか説明せよ。

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解答

(1) 銅(Cu)。Cu のイオン化傾向は Zn より小さく、Cu2+ の方が先に還元されやすいため。

(2) Cl2(塩素)。陽極では Cl− が SO42− より先に酸化されるため(Cl− は酸化されやすいハロゲン化物イオン)。

(3) 2H2O + 2e− → H2 + 2OH−(水が還元されて水素が発生する)。イオン化傾向が Zn > H2 なので、Zn2+ より先に H2O が還元される。

解説

陰極での反応順序は「イオン化傾向が小さいものが先」という原則です。Cu(イオン化傾向小)と Zn(イオン化傾向大)が共存するとき、Cu2+ が優先して還元されます。Cu2+ が尽きた後、Zn はイオン化傾向が大きく水溶液中では析出しないため、Zn2+ ではなく H2O が還元されて H2 が発生します(2H2O + 2e− → H2 + 2OH−)。

陽極では、ハロゲン化物イオン(Cl−)が最優先で酸化されます。SO42− は安定で酸化されにくいため、Cl− がある間は Cl2 が発生します。Cl− が枯渇した後は H2O が酸化されて O2 が発生します。

採点ポイント(各4点)
  • (1) Cu が先と明記し、イオン化傾向で理由を述べる
  • (2) Cl2 と理由(Cl− が優先)
  • (3) H2O の還元(H2 発生)と、Zn2+ が還元されない理由