第12章 電池と電気分解
ファラデーの法則と計算
「電気分解でどれだけの物質が生成するか」を定量的に計算する方法を学びます。
鍵となるのはファラデー定数 F = 96500 C/molという1つの数字と、
「電気量 → 電子のmol → 物質のmol → 質量・体積」という4ステップの手順です。
1ファラデーの法則
1833年、イギリスの科学者ファラデーは、電気分解における量的関係を実験的に確立しました。これをファラデーの電気分解の法則といいます。
ファラデーの電気分解の法則
電極で反応する(析出または発生する)物質の量は、流れた電気量に比例する。
また、同じ電気量が流れたとき、各電極で反応する物質の量(モル数)は、関与する電子数の比によって決まる。
電気量 Q とその計算
電気量 Q(単位:クーロン C)は、電流の強さと通電時間の積で求められます。
Q = I × t
Q:電気量(C) I:電流(A) t:時間(s)
※ 時間は必ず秒(s)に換算してから代入する
落とし穴:時間の単位を秒に直し忘れる
「20分」「1時間30分」などと問題文に書かれていることがあります。必ず秒に換算してから Q = It に代入してください。「30分 = 1800秒」「1時間 = 3600秒」のような変換ミスが最も多い失点パターンです。
ファラデー定数 F
電子 1 mol が運ぶ電気量の絶対値をファラデー定数といい、F で表します。
F = 9.65 × 104 C/mol ≒ 96500 C/mol
電子 1 mol 分の電気量(絶対値)
ファラデー定数はなぜ 96500 C/mol なのか
電子 1 個の電荷(素電荷)の絶対値:e = 1.602 × 10−19 C
↓
アボガドロ定数:NA = 6.02 × 1023 /mol
↓
電子 1 mol の電荷の絶対値 = e × NA = 1.602 × 10−19 × 6.02 × 1023 ≒ 9.65 × 104 C/mol
↓
これがファラデー定数 F。「電子 1 mol を流すのに必要な電気量」の目安として使う
ファラデー定数を使うと、流れた電子の物質量を次のように求められます。
電子の物質量(mol)= Q(C) ÷ F(C/mol)
= Q ÷ 96500
2ファラデーの法則を使った計算
計算の4ステップ
電気分解の計算は、次の4ステップを機械的に踏めば必ず解けます。
1
電気量 Q を求める Q = I × t(単位:C)
↓
2
電子の物質量 n(e−) を求める n(e−) = Q ÷ F = Q ÷ 96500(mol)
↓
3
反応式から物質の物質量を求める 半反応式の電子係数を使って比を立てる
↓
4
質量または体積に換算する 質量 = mol × モル質量 / 気体体積(0℃, 1atm)= mol × 22.4 L/mol
例題1:銅の析出量
例題1 銅の析出(基本)
白金電極を用いて CuSO4 水溶液に 0.500 A の電流を 386 秒間流した。陰極に析出する銅の質量を求めよ。(Cu = 63.5, F = 9.65 × 104 C/mol)
Step 1 電気量:Q = 0.500 A × 386 s = 193 C
Step 2 電子の物質量:n(e−) = 193 ÷ 96500 = 2.00 × 10−3 mol
Step 3 半反応式:Cu2+ + 2e− → Cu 電子 2 mol で Cu が 1 mol 析出
n(Cu) = 2.00 × 10−3 ÷ 2 = 1.00 × 10−3 mol
Step 4 質量:63.5 g/mol × 1.00 × 10−3 mol = 0.0635 g
答え:0.0635 g
例題2:気体の発生量
例題2 酸素の発生(0℃, 1.013 × 105 Pa)
白金電極を用いて AgNO3 水溶液に 0.500 A の電流を 386 秒間流した。陽極で発生する酸素の体積(0℃, 1.013 × 105 Pa)を求めよ。(F = 9.65 × 104 C/mol)
Step 1 電気量:Q = 0.500 × 386 = 193 C
Step 2 電子の物質量:n(e−) = 193 ÷ 96500 = 2.00 × 10−3 mol
Step 3 半反応式:2H2O → O2 + 4H+ + 4e− 電子 4 mol で O2 が 1 mol 発生
n(O2) = 2.00 × 10−3 ÷ 4 = 5.00 × 10−4 mol
Step 4 体積:22.4 L/mol × 5.00 × 10−4 mol = 1.12 × 10−2 L = 11.2 mL
答え:1.12 × 10−2 L(11.2 mL)
例題3:銅電極での析出と溶解
例題3 銅電極(活性電極)を使った CuSO4 水溶液の電気分解
純銅板を電極として CuSO4 水溶液を 2.00 A の電流で 48 分 15 秒間電気分解した。陰極と陽極の質量はそれぞれ何 g 変化するか。(Cu = 63.5, F = 9.65 × 104 C/mol)
Step 1 時間の換算:48 分 15 秒 = 48 × 60 + 15 = 2895 s
Q = 2.00 × 2895 = 5790 C
Step 2 n(e−) = 5790 ÷ 96500 = 6.00 × 10−2 mol
Step 3 陰極:Cu2+ + 2e− → Cu n(Cu析出) = 6.00 × 10−2 ÷ 2 = 3.00 × 10−2 mol
陽極:Cu → Cu2+ + 2e− n(Cu溶解) = 6.00 × 10−2 ÷ 2 = 3.00 × 10−2 mol
Step 4 陰極の質量増加:63.5 × 3.00 × 10−2 = 1.905 ≒ 1.91 g 増加
陽極の質量減少:63.5 × 3.00 × 10−2 = 1.905 ≒ 1.91 g 減少
答え:陰極 1.91 g 増加 / 陽極 1.91 g 減少
落とし穴:電子のmolと物質のmolを混同しない
Cu の析出には電子 2 mol(2e−)が必要です(Cu2+ の価数が 2 のため)。Ag の析出なら電子 1 mol で Ag が 1 mol(Ag+ の価数が 1)。Al の析出なら電子 3 mol で Al が 1 mol(Al3+)。半反応式の電子の係数を常に確認することが鉄則です。
3直列回路の電気分解
複数の電解槽を電源に接続して電気分解する場合、接続の仕方によって各電解槽を流れる電気量が変わります。
| 接続方法 | 各電解槽の電気量 | 特徴 |
| 直列回路 |
全電解槽で同じ電気量 Q が流れる QA = QB = Q全体 |
電流が1本道を流れるため、分岐しない |
| 並列回路 |
全体の電気量が各電解槽に分配される Q全体 = QA + QB |
各槽の電気量は抵抗に依存して分配される |
入試で最重要:直列接続では全槽に同じ電気量が流れる
入試でほぼ必ず出題されるのが直列接続です。直列回路では電流が分岐しないため、電解槽 A でも B でも同じ電気量 Q が流れます。したがって、「直列の場合、各槽で反応する電子の物質量は等しい」が基本原則です。
並列接続は高校入試では稀で、各槽の抵抗(オームの法則)が必要になるため、化学の範囲では通常扱いません。
直列接続の例題
例題4 直列回路での電気分解
図のように、CuSO4 水溶液(白金電極)と NaCl 水溶液(白金電極)の2つの電解槽を直列に接続し、2.00 A の電流を 16 分 5 秒間流した。各電解槽での生成物の量を求めよ。(Cu = 63.5, F = 9.65 × 104 C/mol)
Step 1 時間:16 × 60 + 5 = 965 s
Q = 2.00 × 965 = 1930 C
Step 2 n(e−) = 1930 ÷ 96500 = 2.00 × 10−2 mol
直列なので両槽に同じ 2.00 × 10−2 mol の電子が流れる
CuSO4 槽(陰極):Cu2+ + 2e− → Cu
n(Cu) = 2.00 × 10−2 ÷ 2 = 1.00 × 10−2 mol → 63.5 × 1.00 × 10−2 = 0.635 g の Cu 析出
CuSO4 槽(陽極):2H2O → O2 + 4H+ + 4e−
n(O2) = 2.00 × 10−2 ÷ 4 = 5.00 × 10−3 mol → 22.4 × 5.00 × 10−3 = 0.112 L の O2 発生
NaCl 槽(陰極):2H2O + 2e− → H2 + 2OH−
n(H2) = 2.00 × 10−2 ÷ 2 = 1.00 × 10−2 mol → 22.4 × 1.00 × 10−2 = 0.224 L の H2 発生
NaCl 槽(陽極):2Cl− → Cl2 + 2e−
n(Cl2) = 2.00 × 10−2 ÷ 2 = 1.00 × 10−2 mol → 22.4 × 1.00 × 10−2 = 0.224 L の Cl2 発生
CuSO₄槽:陰極に Cu 0.635 g 析出 / 陽極に O₂ 0.112 L 発生
NaCl槽:陰極に H₂ 0.224 L 発生 / 陽極に Cl₂ 0.224 L 発生
4この節を俯瞰する
ファラデーの法則は電気化学の定量的な核心であり、多くの分野と接続しています。
- 電気分解の原理 → 12-3「電気分解の原理」:各電極の半反応式を正確に書けないと、Step 3 の電子係数が合わない。原理の理解が計算精度に直結する。
- 物質量計算 → 4-2「物質量(mol)」:ファラデーの計算は mol 計算の応用。「電子のmol → 物質のmol → 質量」という変換は、mol 計算の基本手順そのもの。
- 気体の体積 → 8-2「理想気体の状態方程式」:0℃, 1 atm 以外の条件での気体体積を求めるには PV = nRT を使う。高校の電気分解問題では標準状態(22.4 L/mol)を使う問題が多い。
- 工業的応用 → 電解精錬・電気めっき:銅の精錬量、めっき膜の厚さ計算はファラデーの法則の直接応用。製造コスト見積もりにも使われる。
- アボガドロ定数の測定 → F = e × NA という関係から、電気量・電子数・アボガドロ定数の関係を理解できる。実験でファラデー定数を測定することでアボガドロ定数を逆算できる。
5まとめ
- 電気量:Q = I × t(単位: C。時間は秒換算必須)
- ファラデー定数:F = 96500 C/mol(電子 1 mol の電荷量)
- 電子の物質量:n(e−) = Q ÷ F
- 計算手順:Q → n(e−) → n(物質) → 質量・体積(半反応式の電子係数を使う)
- 直列回路:全槽に同じ電気量が流れる → 各槽の電子 mol は等しい
- ファラデー定数の由来:F = e(素電荷) × NA(アボガドロ定数)= 1.602×10−19 × 6.02×1023 ≒ 96500 C/mol
6確認テスト
Q1. 電気量の単位はクーロン(C)である。Q = It を使って、2.0 A の電流を 10 分間流したときの電気量を求めよ。
▶ クリックして解答を表示10分 = 600秒。Q = 2.0 A × 600 s = 1200 C。
Q2. ファラデー定数 F = 96500 C/mol とはどのような物理量か説明せよ。また、Q1 で求めた 1200 C の電気量が流れたとき、電子は何 mol 流れたか。
▶ クリックして解答を表示ファラデー定数は、電子 1 mol が運ぶ電気量の絶対値(96500 C/mol)。電子のmol = 1200 ÷ 96500 ≒ 1.24 × 10⁻² mol。
Q3. AgNO3 水溶液を白金電極で電気分解し、電子が 0.020 mol 流れた。陰極に析出する Ag の質量を求めよ。(Ag = 108)
▶ クリックして解答を表示Ag⁺ + e⁻ → Ag より、電子 1 mol で Ag 1 mol が析出。n(Ag) = 0.020 mol。質量 = 108 × 0.020 = 2.16 g。
Q4. 直列に接続した2つの電解槽(槽A・槽B)に同じ電流を流した。槽A で 0.030 mol の電子が流れたとき、槽B を流れた電子は何 mol か。
▶ クリックして解答を表示直列回路では全槽に同じ電気量(同じ電子のmol)が流れる。したがって槽B も 0.030 mol。
7入試問題演習
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
A 基礎レベル
白金電極を用いて硫酸銅(II)水溶液 CuSO4 に 0.200 A の電流を 1.93 × 103 秒間流して電気分解した。陰極に析出する銅は何 g か。(Cu = 63.5, F = 9.65 × 104 C/mol)
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解説
Step 1:Q = 0.200 × 1.93 × 103 = 386 C
Step 2:n(e−) = 386 ÷ 96500 = 4.00 × 10−3 mol
Step 3:Cu2+ + 2e− → Cu より、n(Cu) = 4.00 × 10−3 ÷ 2 = 2.00 × 10−3 mol
Step 4:63.5 × 2.00 × 10−3 = 0.127 g
B 標準レベル
白金電極を用いて AgNO3 水溶液を電気分解したところ、陰極に 2.16 g の銀が析出した。(Ag = 108, F = 9.65 × 104 C/mol)
(1) 流れた電気量 Q は何 C か。
(2) 電流を 0.500 A とすると、何秒間電気分解したか。
(3) この間、陽極で発生した気体の物質量(mol)と名称を答えよ。
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解答
(1) 1930 C
(2) 3860 s
(3) 5.00 × 10−3 mol の O2(酸素)
解説
(1) n(Ag) = 2.16 ÷ 108 = 0.0200 mol。Ag+ + e− → Ag より n(e−) = 0.0200 mol。Q = 0.0200 × 96500 = 1930 C。
(2) t = Q ÷ I = 1930 ÷ 0.500 = 3860 s(約 64 分 20 秒)
(3) 陽極では 2H2O → O2 + 4H+ + 4e−。n(O2) = n(e−) ÷ 4 = 0.0200 ÷ 4 = 5.00 × 10−3 mol の酸素(O2)。
採点ポイント(各3点)
- (1) n(Ag)→n(e−)→Q の手順が正しい
- (2) t = Q/I の正しい適用
- (3) 物質量と気体名の両方を答える
C 発展レベル
図のように、電解槽 A(CuSO4 水溶液、白金電極)と電解槽 B(NaCl 水溶液、白金電極)を直列につなぎ、ある一定の電流を t 秒間流した。電解槽 A の陰極に 3.175 g の銅が析出した。(Cu = 63.5, H = 1, O = 16, Cl = 35.5, F = 9.65 × 104 C/mol)
(1) 流れた電気量 Q を求めよ。
(2) 電解槽 B の陽極で発生した気体の質量を求めよ。
(3) 電解槽 B の陰極側溶液に NaOH が生成する理由を反応式を用いて説明せよ。また、生成した NaOH の物質量を求めよ。
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解答
(1) 9650 C
(2) 3.55 g(Cl2)
(3) 2H2O + 2e− → H2 + 2OH− により OH− が生成し、Na+ と合わせて NaOH となる。生成量は 0.100 mol。
解説
(1) n(Cu) = 3.175 ÷ 63.5 = 0.0500 mol。Cu2+ + 2e− → Cu より n(e−) = 0.100 mol。Q = 0.100 × 96500 = 9650 C。
(2) 直列なので電解槽 B でも n(e−) = 0.100 mol。陽極:2Cl− → Cl2 + 2e− より n(Cl2) = 0.100 ÷ 2 = 0.0500 mol。質量 = 71 × 0.0500 = 3.55 g。
(3) 陰極では Na+ は還元されず(イオン化傾向が大きいため)、H2O が還元されます:2H2O + 2e− → H2 + 2OH−。生成した OH− が溶液中の Na+ と対をなし、NaOH が生成します。n(OH−) = n(e−) = 0.100 mol → NaOH が 0.100 mol 生成。
採点ポイント(各4点)
- (1) Cu 析出量からの逆算手順が正しい
- (2) 直列接続の原則を適用し Cl2 の質量を正しく計算
- (3) 半反応式の記述と NaOH の物質量の両方が必要