第15章 非金属元素

リン・炭素・ケイ素とその化合物

15族のリン P、14族の炭素 C とケイ素 Si は、同素体・化合物の多様性が特徴です。
リンの同素体(黄リン vs 赤リン)の性質の違い、CO と CO2 の製法、
SiO2 からケイ酸ナトリウム・水ガラス・シリカゲルへとつながる変換の流れを整理しましょう。

1リン P とその化合物

リンの同素体:黄リン P4 と赤リン

リン P には主に2つの同素体があります。どちらも燃焼すると十酸化四リン P4O10 を生じます。

黄リン(白リン)P4赤リン
構造正四面体形の P4 分子不規則な高分子構造
外観淡黄色のろう状固体赤褐色の粉末
毒性非常に有毒ほぼ無毒
自然発火空気中で自然発火する(約35℃)自然発火しない
保存方法水中に保存通常の保存でよい
変換空気を断って約250℃に加熱→赤リンに変化加熱で黄リンに変化
用途(軍事用煙幕など)マッチの箱の側薬、農薬の原料
落とし穴:黄リンの保存は「水中」

黄リン P4 は空気中で約35℃という低温でも自然発火するため、必ず水中に保存します。「なぜ水中か」と聞かれたら「空気(酸素)との接触を防ぐため」と答えましょう。なお、黄リンは水には溶けませんが、水と反応もしないため水中保存が有効です。

十酸化四リン P4O10

リンを空気中で燃焼させると十酸化四リン P4O10(五酸化二リン P2O5 とも表す)が得られます。白色の粉末で、強い吸湿性をもち、乾燥剤として使用されます。また、水と反応してリン酸 H3PO4 を生じます(酸性酸化物)。

P4 + 5O2 → P4O10

P4O10 + 6H2O → 4H3PO4

リン酸 H3PO4

リン酸は3価の中程度の酸(弱酸より強く、強酸ほどではない)で、肥料・食品添加物・金属の錆止めに利用されます。カルシウムとの塩(リン酸カルシウム)は骨や歯の成分です。

乾燥剤としての P4O10

P4O10 は最も強力な乾燥剤の一つです。中性の気体(H2、O2、N2、CO 等)や酸性の気体(CO2、SO2、HCl 等)の乾燥に使えます。ただし NH3(塩基性)は不可(反応する)。

2炭素 C とその化合物(CO・CO2

炭素の同素体

炭素 C の同素体にはダイヤモンド・黒鉛(グラファイト)・フラーレン(C60 等)・カーボンナノチューブなどがあります(詳細は 3-7「結晶の種類」参照)。いずれも C 元素のみからなりますが、構造が異なるため性質が全く違います。

一酸化炭素 CO

CO は無色・無臭の気体で、非常に有毒(ヘモグロビンと強く結合して酸素運搬を阻害)です。水に溶けにくく、強い還元性をもちます(製鉄の還元剤として重要)。

実験室的製法:ギ酸 HCOOH に濃硫酸(脱水剤)を加えて加熱します。

HCOOH (濃 H2SO4、加熱) → H2O + CO↑

工業的製法:赤熱したコークス(C)に高温の水蒸気を吹き込む(水性ガス反応)か、CO2 をコークスで還元します。

C + H2O (高温) → CO + H2 (水性ガス)

CO2 + C (高温) → 2CO

二酸化炭素 CO2

CO2無色・無臭の気体で、水に少し溶けて弱酸性(炭酸 H2CO3)を示します。ドライアイス(固体 CO2)は −78.5℃で昇華します。

実験室的製法:石灰石(炭酸カルシウム CaCO3)に希塩酸を加える(「弱酸の塩+強酸 → 弱酸遊離」)。

CaCO3 + 2HCl → CaCl2 + H2O + CO2

工業的製法:石灰石の熱分解(石灰の製造の副産物)。

CaCO3 (加熱) → CaO + CO2

捕集は下方置換(CO2 の分子量 44 > 空気の平均分子量 29)。乾燥剤は濃硫酸またはP4O10(ソーダ石灰は CO2 を吸収するため不可)。

CO の検出と CO2 の検出
  • CO:塩化パラジウム(II) PdCl2 溶液が黒変(Pd が析出)。CO + PdCl2 + H2O → Pd + CO2 + 2HCl
  • CO2:石灰水(Ca(OH)2 水溶液)が白濁。CO2 + Ca(OH)2 → CaCO3↓ + H2O(過剰の CO2 では再溶解)
CO(一酸化炭素)CO2(二酸化炭素)
色・臭い無色・無臭無色・無臭
毒性非常に有毒無毒(高濃度は窒息の危険)
水への溶解溶けにくい少し溶ける(弱酸性)
捕集法水上置換下方置換
C の酸化数+2+4
還元性強い還元剤なし(安定)
主な用途製鉄の還元剤、燃料炭酸飲料、ドライアイス、消火剤

3ケイ素 Si とその化合物

ケイ素単体

ケイ素 Si はダイヤモンド型の共有結合の結晶で、金属光沢をもちます。地殻中では酸素 O に次いで2番目に多い元素です。

最大の特徴は半導体であること。コンピュータの集積回路(IC)や太陽電池に広く用いられています。高純度のケイ素は半導体産業の根幹をなします。

二酸化ケイ素 SiO2

SiO2共有結合の結晶(1つの Si に4つの O が結合した三次元構造)で、無色透明・非常に硬く・融点が高い(約1700℃)。

  • 天然では石英・水晶として産出
  • 光ファイバーの原料(石英ガラス)
  • 塩酸・希硫酸などには溶けないが、フッ化水素酸 HF に溶ける:SiO2 + 6HF → H2SiF6 + 2H2O
  • 酸性酸化物で、NaOH や Na2CO3 と反応してケイ酸ナトリウムを生じる

SiO2 + 2NaOH → Na2SiO3 + H2O

SiO2 + Na2CO3 → Na2SiO3 + CO2↑ (高温・融解)

落とし穴:SiO2 は「酸性酸化物」なのに酸(HF)に溶ける

SiO2 は酸性酸化物なので通常の酸(HCl、H2SO4 等)には溶けません。ところがフッ化水素酸 HF にのみ溶けます。これは SiO2 と HF の特殊な反応(ヘキサフルオロケイ酸 H2SiF6 の生成)によるもので、ガラスを HF で彫刻する「エッチング」に利用されています。HF をガラス製の容器に保存できないのはこのためです。

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3 と水ガラス

ケイ酸ナトリウム Na2SiO3 に水を加えて加熱すると、水ガラス(water glass)とよばれる粘性の大きい液体が得られます。接着剤・塗料・耐火材料に利用されます。

水ガラスに塩酸などの酸を加えると、白色ゲル状のケイ酸 H2SiO3 が沈殿します。

Na2SiO3 + 2HCl → H2SiO3↓ + 2NaCl

シリカゲル

ケイ酸 H2SiO3 を加熱・乾燥させるとシリカゲルが得られます。多孔質で表面積が大きく、様々な分子を吸着できます。吸着剤・乾燥剤として食品・薬品の包装に広く使われます。

SiO2
ケイ砂・石英
Na2SiO3
ケイ酸ナトリウム
水ガラス
(水加熱)
H2SiO3
(酸で処理)
シリカゲル
(乾燥)

ガラス

天然の石英(SiO2)を約2000℃で融解・急冷すると石英ガラスが得られます。耐熱性・耐薬品性に優れ、光ファイバー・実験器具に利用されます。

SiO2 に Na2CO3(炭酸ナトリウム)と CaCO3(石灰石)を混ぜて溶融したソーダ石灰ガラス(窓ガラス・ビン)は日常的なガラスです。

Si と C の「兄弟関係」

ケイ素 Si と炭素 C は同じ14族で価電子数4、どちらも共有結合の結晶(ダイヤモンド型構造)をつくります。しかし Si は炭素と異なり有機化合物のような多様な分子をつくりにくく、代わりに SiO2(二酸化ケイ素)という三次元網目構造が非常に安定です。C は有機化合物の骨格として生命を支え、Si は半導体・ガラスとして現代文明を支えているとも言えます。

4この章を俯瞰する

15族(P)・14族(C、Si)の非金属元素は、同素体の多様性と化合物の用途が入試頻出です。

  • 黄リン vs 赤リン → 1-3「同素体」:「同じ元素でも構造が違えば性質が全く違う」の典型。炭素の同素体(ダイヤモンド・黒鉛)、硫黄の同素体と並べて理解する。
  • CO の還元性 → 6-1「酸化還元」:製鉄では CO が Fe2O3 を還元して Fe を得る。C の酸化数が +2→+4 に変化(酸化)することで、Fe が +3→0 に変化(還元)される。
  • SiO2 の性質 → 3-7「結晶」・5-1「酸と塩基」:SiO2 は共有結合の結晶(融点高・硬い)であり、かつ酸性酸化物(NaOH と反応)。両方の視点から理解する。
  • SiO2 + HF → 5-1「酸と塩基」:「酸性酸化物なのに酸に溶ける」例外的反応。フッ化水素の特殊性(Si-F 結合の安定性)に起因する。
  • シリカゲル → 乾燥剤 → 10章「コロイド」:シリカゲルはキセロゲル(ゲルを乾燥させたもの)の一例。多孔質構造と大きな表面積が乾燥剤・吸着剤の機能を生む。

5まとめ

  • 黄リン P4:有毒・空気中で自然発火→水中保存。赤リン:ほぼ無毒・安定。どちらも燃焼で P4O10
  • P4O10:強い吸湿性の乾燥剤。水と反応して H3PO4(リン酸)。
  • CO:無色無臭・有毒・還元性強。実験室:HCOOH + 濃 H2SO4。水上置換で捕集。
  • CO2:無色無臭・水に少し溶け弱酸性。実験室:CaCO3 + HCl。下方置換で捕集。石灰水が白濁。
  • Si:ダイヤモンド型共有結合の結晶、半導体。
  • SiO2:共有結合の結晶、酸性酸化物(NaOH・Na2CO3 と反応)。HF に溶ける(例外)。
  • 変換フロー:SiO2 → Na2SiO3(+ NaOH)→ 水ガラス(+ H2O 加熱)→ H2SiO3(+ 酸)→ シリカゲル(乾燥)。

6確認テスト

Q1. 黄リンの保存方法とその理由を答えよ。

▶ クリックして解答を表示水中に保存する。理由:黄リン P₄ は空気中で約35℃という低温でも自然発火するため、水に浸して空気(酸素)との接触を防ぐ必要がある。黄リンは水と反応しないため水中保存が有効。

Q2. 実験室で CO2 を発生させる方法を、化学反応式と捕集法を含めて説明せよ。

▶ クリックして解答を表示石灰石(CaCO₃)に希塩酸を加える。CaCO₃ + 2HCl → CaCl₂ + H₂O + CO₂↑。CO₂ は空気より重い(分子量44)ため下方置換で捕集する。乾燥剤には濃硫酸を用いる(ソーダ石灰は CO₂ を吸収するため不可)。

Q3. SiO2 と NaOH の反応を化学反応式で示し、生成物の名称を答えよ。

▶ クリックして解答を表示SiO₂ + 2NaOH → Na₂SiO₃ + H₂O。生成物はケイ酸ナトリウム Na₂SiO₃。SiO₂ は酸性酸化物なので塩基と反応する。

Q4. 水ガラスからシリカゲルを得る手順を、関係する化学反応式とともに説明せよ。

▶ クリックして解答を表示①水ガラス(Na₂SiO₃ 水溶液)に塩酸などの酸を加えると白色ゲル状のケイ酸 H₂SiO₃ が沈殿する:Na₂SiO₃ + 2HCl → H₂SiO₃↓ + 2NaCl。②このケイ酸を加熱・乾燥させるとシリカゲルが得られる。シリカゲルは多孔質で表面積が大きく、乾燥剤・吸着剤として利用される。

7入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

15-7-1 A 基礎 選択

炭素・ケイ素・リンとその化合物に関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。

  • ① 黄リン P4 は赤リンより安定で毒性が低い。
  • ② 二酸化ケイ素 SiO2 はフッ化水素酸 HF に溶けるが、希塩酸や希硫酸には溶けない。
  • ③ 一酸化炭素 CO は強い還元性をもち、製鉄における還元剤として利用される。
  • ④ ケイ酸ナトリウム Na2SiO3 に水を加えて加熱すると水ガラスが得られる。
  • ⑤ 十酸化四リン P4O10 は塩基性の気体 NH3 の乾燥剤として使用できる。
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解答

②③④

解説

①が誤り。黄リン P4 は赤リンより不安定で、自然発火性をもち非常に有毒です。安定で無毒に近いのは赤リンです。

②正しい。SiO2 は酸性酸化物なので通常の酸には溶けませんが、HF との特殊な反応(SiO2 + 6HF → H2SiF6 + 2H2O)で溶けます。

③正しい。CO(C の酸化数 +2)は +4 まで酸化されやすく、強い還元剤です。Fe2O3 + 3CO → 2Fe + 3CO2(製鉄の反応)。

④正しい。これが水ガラスの製法です。

⑤が誤り。P4O10 は酸性の乾燥剤です。NH3(塩基性)は P4O10 と反応するため使用できません。

B 標準レベル

15-7-2 B 標準 反応式・論述

ケイ素とその化合物について、以下の問いに答えよ。

(1) 二酸化ケイ素 SiO2 と炭酸ナトリウム Na2CO3 を高温で反応させたときの化学反応式を書け。

(2) (1) の反応が「弱酸の塩 + 不揮発性(高温での)強酸 → 強酸の塩 + 弱酸(揮発)」という観点から説明できる理由を述べよ。

(3) SiO2 が HF にのみ溶け、他の酸(HCl、H2SO4 等)に溶けない理由を述べよ。

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解答

(1) SiO2 + Na2CO3 → Na2SiO3 + CO2↑ (高温)

(2) ケイ酸(H2SiO3)は炭酸(H2CO3)より弱い酸である。高温では SiO2(ケイ酸の酸性酸化物)が Na2CO3(炭酸の塩)から CO2(揮発性の弱酸)を追い出し、より安定な Na2SiO3(ケイ酸の塩)が生じる。

(3) SiO2 は酸性酸化物であるため、HCl・H2SO4 などの酸とは反応しない(酸性酸化物は酸とは基本的に反応しない)。一方、HF は SiO2 と特殊な反応(SiO2 + 6HF → H2SiF6 + 2H2O)を起こし、ヘキサフルオロケイ酸 H2SiF6 という可溶性の化合物が生成するため溶ける。

解説

(2) の「高温での反応」が重要です。常温では SiO2 は固体で反応しにくいですが、高温融解条件では反応が進みます。「弱酸・強酸」の序列はケイ酸 < 炭酸 < 塩酸 < 硫酸 であることを押さえましょう。

採点ポイント(各3点)
  • (1) 反応式の正確な記述(3点)
  • (2) ケイ酸<炭酸の酸の強さの言及(1点)+CO₂ 遊離の説明(2点)
  • (3) 酸性酸化物→酸と反応しない(1点)+HF との特殊反応(2点)

C 発展レベル

15-7-3 C 発展 総合・計算

ギ酸 HCOOH(式量46)10.0 g に濃硫酸(脱水剤)を加えて加熱し、生成した CO を標準状態で捕集した。また、この CO を酸素中で完全燃焼させた。原子量 H=1.0、C=12、O=16 として以下の問いに答えよ。

(1) 反応の化学反応式を2つ書け(HCOOH の分解反応と CO の燃焼反応)。

(2) 捕集された CO は標準状態で何 L か。

(3) (2) の CO を完全燃焼させると、生成する CO2 の質量は何 g か。

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解答

(1) HCOOH → H2O + CO↑ (濃 H2SO4、加熱)
2CO + O2 → 2CO2 (燃焼)

(2) HCOOH の物質量 = 10.0 ÷ 46 = 0.217 mol。HCOOH:CO = 1:1 より CO = 0.217 mol。
標準状態の体積 = 0.217 × 22.4 ≈ 4.87 L

(3) CO:CO2 = 1:1 より CO2 = 0.217 mol。CO2 の式量 = 44。
質量 = 0.217 × 44 ≈ 9.55 g

解説

HCOOH の脱水分解は「H と OH が H2O として抜けて CO が残る」と覚えましょう。HCOOH(式量46)のうち H2O(18)が抜けて CO(28)が残ります(18 + 28 = 46)。

炭素の物質量保存:HCOOH → CO → CO2 の各段階で C 原子の数が変わらないことを確認します。

採点ポイント(各4点)
  • (1) 各反応式(各2点)
  • (2) mol 計算(2点)、体積(2点)
  • (3) CO₂ の mol 数(2点)、質量(2点)