第17章 遷移元素

銀・金・白金

銀・金・白金は「貴金属」とよばれ、化学的に非常に安定な金属です。
銀は全金属中で最大の電気伝導性をもち、錯イオン形成や感光性など独自の化学反応で入試に頻出します。
金と白金は通常の酸には溶けず、「王水」にのみ溶けるという特別な性質をもちます。

1銀 Ag の性質

基本的な性質

銀(Ag)は銀白色の金属で、金属の中で電気伝導性・熱伝導性が最大です。展性・延性も大きく、加工しやすい性質をもちます。光をよく反射するため、鏡の製造にも利用されます。

性質内容
銀白色
電気伝導性全金属中で最大
展性・延性大きい(加工しやすい)
化学的安定性比較的高い(希硫酸・塩酸には溶けない)

硝酸との反応

銀は希硫酸・塩酸とは反応しない(水素よりイオン化傾向が小さいため)が、硝酸には溶ける。希硝酸では一酸化窒素 NO、濃硝酸では二酸化窒素 NO2 を発生します。

希硝酸との反応:3Ag + 4HNO3(希) → 3AgNO3 + 2H2O + NO↑

濃硝酸との反応:Ag + 2HNO3(濃) → AgNO3 + H2O + NO2

銀は塩酸に溶けないのに硝酸に溶けるのはなぜか
銀のイオン化傾向は水素より小さい → H+(塩酸・希硫酸)だけでは酸化できない
硝酸は H+ だけでなく NO3(強い酸化剤)を含む
NO3 が Ag を酸化 → Ag が溶ける

硝酸銀 AgNO3 と沈殿反応

硝酸銀 AgNO3 は無色の結晶で水によく溶ける。光によって分解するため、褐色びんに保存します。硝酸銀水溶液にハロゲン化物イオンを加えると、特徴的な色の沈殿を生じます。

Ag+ + Cl → AgCl↓(白色)

Ag+ + Br → AgBr↓(淡黄色)

Ag+ + I → AgI↓(黄色)

ハロゲン化銀NH3水への溶解Na2S2O3への溶解
AgCl白色溶ける溶ける
AgBr淡黄色少し溶ける溶ける
AgI黄色溶けない溶ける
落とし穴:AgCl・AgBr・AgI の色と溶解性をセットで覚える

沈殿の色は「白・淡黄・黄」の順(AgCl → AgBr → AgI)。NH3水への溶解しやすさも同順で減少します(AgI はほぼ溶けない)。また AgF(フッ化銀)は水に溶けるため、沈殿しません。

湿った空気中での反応

湿った空気中では、硫化水素 H2S と反応して黒色の硫化銀 Ag2S を生じます。銀製品が黒ずむのはこのためです。

4Ag + 2H2S + O2 → 2Ag2S + 2H2O

2銀の錯イオンと銀鏡反応

ジアンミン銀(I)イオン [Ag(NH3)2]+

硝酸銀水溶液に少量のNaOH水溶液を加えると、褐色の酸化銀 Ag2O が沈殿します。これにアンモニア水を過剰に加えると、Ag+ が NH3錯イオンを形成して溶解し、無色透明の水溶液になります。

2Ag+ + 2OH → Ag2O↓ + H2O

Ag2O + 4NH3 + H2O → 2[Ag(NH3)2]+ + 2OH

この錯イオンをジアンミン銀(I)イオン [Ag(NH3)2]+といいます。配位数は2で、直線形の構造をとります。

錯イオンの命名規則

配位子の数(ジ=2) + 配位子名(アンミン=NH3) + 中心金属名(銀) + 酸化数(ローマ数字) + イオン種(陽イオン)

ジアンミン銀(I)イオン

AgCl のアンモニア水への溶解

AgCl はアンモニア水に溶けます。これも錯イオン形成によるものです。

AgCl + 2NH3 → [Ag(NH3)2]+ + Cl

銀鏡反応

アンモニア性硝酸銀水溶液(ジアンミン銀(I)イオンを含む)にアルデヒドを加えて温めると、Ag+ が還元されて銀 Ag が析出し、容器の内壁に光沢ある銀の薄膜を形成します。この反応を銀鏡反応といいます。

R−CHO + 2[Ag(NH3)2]+ + 2OH → R−COO + 2Ag↓ + 4NH3 + H2O

銀鏡反応はアルデヒドの検出反応として用いられます。ケトンは銀鏡反応を示しません。鏡はこの銀鏡反応を利用して製造されます。

本質:銀鏡反応は「アルデヒドが還元剤、Ag+が酸化剤」

アルデヒド(R−CHO)はカルボン酸(R−COOH)に酸化される=還元剤としてはたらく。一方、Ag+ は Ag(金属銀)に還元される=酸化剤。この酸化還元反応の結果、銀が析出します。グルコースも分子内にアルデヒド基をもつため、銀鏡反応を示します。

チオ硫酸ナトリウム Na2S2O3 との反応

ハロゲン化銀(AgCl、AgBr、AgI)は、チオ硫酸ナトリウム水溶液に溶けます。写真フィルムの現像で「定着液」として用いられるのはこのためです。

AgBr + 2Na2S2O3 → Na3[Ag(S2O3)2] + NaBr

3金 Au の性質

基本的な性質

金(Au)は黄金色の金属で、金属の中で展性・延性が最大です。1 g の金を伸ばすと約 3000 m の細線になるといわれます。化学的に非常に安定で、通常の酸や塩基には溶けません。

試薬金 Au の反応
希硫酸・希塩酸溶けない
硝酸(希・濃)溶けない
熱濃硫酸溶けない
王水(濃塩酸3:濃硝酸1)溶ける

王水との反応

王水とは、濃塩酸と濃硝酸を体積比 3:1 で混合した液体です。王水は非常に強い酸化力をもつため、金や白金のような化学的に安定な貴金属も溶かします。

王水が金を溶かせるのはなぜか
硝酸が発生する新生塩素 Cl により強力な酸化作用が生まれる
Au3+ が塩化物イオン Cl と錯イオン [AuCl4] を形成
錯イオン形成により Au3+ の濃度が下がり、溶解平衡が右に進む → 金が溶け続ける

金の利用

  • 装飾品・貨幣(化学的安定性・美しさ)
  • 電子回路の接点(電気伝導性・耐腐食性)
  • 歯科材料

純金は柔らかいため、実用品には銀・銅などを混合した合金として使われます(カラット K で純度を表示)。

4白金 Pt の性質

基本的な性質

白金(Pt)は銀白色の金属で、比較的やわらかく加工しやすい性質をもちます。化学的安定性は非常に高く、通常の酸では溶けません。金と同様に王水には溶けます

試薬白金 Pt の反応
希酸(塩酸・希硫酸)溶けない
硝酸溶けない
王水溶ける

触媒としての利用

白金は触媒として非常に重要な金属です。反応前後で白金自身は変化せず、表面で気体分子の反応を促進します(不均一触媒)。

  • オストワルト法:アンモニアを酸化して硝酸を製造する工程で触媒として使用
    4NH3 + 5O2 → 4NO + 6H2O (Pt 触媒)
  • 燃料電池:リン酸形燃料電池では両極に多孔質白金電極を使用
  • 自動車排気ガス浄化触媒:CO・NOx・未燃炭化水素を無害化
  • 電気分解の電極:化学的に安定なため不活性電極として使用
本質:貴金属(Au・Pt)の共通性は「王水にのみ溶ける」

金・白金は通常の酸(硝酸・希塩酸・希硫酸・熱濃硫酸)にはすべて溶けません。溶かせるのは王水だけです。「王水 = 濃塩酸:濃硝酸 = 3:1(体積比)」をセットで記憶してください。銀は王水ではなく硝酸(希・濃どちらも)に溶ける点が異なります。

5俯瞰:貴金属を比較してとらえる

銀・金・白金を「酸への溶解性」と「特徴的な反応」で整理すると、入試で確実に得点できます。

金属特徴的な物性溶ける酸主な用途・反応
銀 Ag銀白色電気伝導性・熱伝導性が全金属中で最大硝酸(希・濃)鏡、写真、錯イオン、銀鏡反応
金 Au黄金色展性・延性が全金属中で最大王水のみ装飾品、電子部品
白金 Pt銀白色触媒活性が高い王水のみ触媒(オストワルト法等)、電極
  • 銀と王水:銀は王水に溶けるが、通常は希硝酸・濃硝酸で十分溶ける。王水が「必要」なのは金と白金のみ。
  • 電気伝導性 vs 展性・延性:「電気伝導性最大 → 銀」「展性・延性最大 → 金」。混同しやすいので注意。
  • 銀鏡反応の本質:アンモニア性硝酸銀水溶液中では Ag+ は [Ag(NH3)2]+ として存在。アルデヒドが還元剤となり Ag が析出する。

6まとめ

銀 Ag
  • 銀白色・電気伝導性・熱伝導性が全金属中で最大
  • 硝酸(希・濃)に溶ける、希塩酸・希硫酸には溶けない
  • AgNO3 + Cl → AgCl↓(白)、+ Br → AgBr↓(淡黄)、+ I → AgI↓(黄)
  • アンモニア水 → [Ag(NH3)2]+(ジアンミン銀(I)イオン、無色水溶液)
  • 銀鏡反応:アルデヒドが Ag+ を還元 → Ag 析出
  • H2S と反応 → Ag2S(黒色、銀の黒ずみの原因)
金 Au
  • 黄金色・展性・延性が全金属中で最大
  • 硝酸・熱濃硫酸には溶けない
  • 王水(濃塩酸:濃硝酸=3:1)にのみ溶ける
  • 装飾品・電子部品に使用
白金 Pt
  • 銀白色・比較的やわらかい
  • 通常の酸には溶けない。王水には溶ける
  • 触媒として重要(オストワルト法、燃料電池、排気ガス浄化)
  • 電気分解の不活性電極に使用

7確認テスト

Q1. 全金属の中で電気伝導性が最大の金属は何か。

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銀(Ag)。なお展性・延性が最大なのは金(Au)であり、混同しないこと。

Q2. 銀に硝酸銀水溶液を加えた後、アンモニア水を過剰に加えると何が生成するか。名称と化学式を答えよ。

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ジアンミン銀(I)イオン [Ag(NH3)2]+。AgNO3 水溶液に NaOH → Ag2O 沈殿 → 過剰 NH3 水 → [Ag(NH3)2]+ の無色水溶液。

Q3. 金と白金が溶ける液体は何か。その組成を答えよ。

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王水。濃塩酸と濃硝酸を体積比 3:1 で混合した液体。

Q4. 銀鏡反応において、何が還元剤としてはたらくか。

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アルデヒド(R−CHO)。アルデヒドがカルボン酸に酸化される一方、Ag+ が Ag に還元される。ケトンは銀鏡反応を示さない。

8入試問題演習

問A A 基本 銀の性質

銀に関する記述として誤っているものを1つ選べ。

  • ① 銀は全金属の中で電気伝導性が最も大きい。
  • ② 銀は希塩酸には溶けない。
  • ③ 硝酸銀水溶液に塩化物イオンを加えると白色沈殿を生じる。
  • ④ 銀は王水にのみ溶ける貴金属である。
  • ⑤ ハロゲン化銀はいずれも感光性を示す。
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解答

解説

④が誤り。銀は王水にのみ溶けるのではなく、希硝酸・濃硝酸に溶けます。王水にのみ溶けるのは金(Au)と白金(Pt)です。銀は硝酸系の酸で溶けるため、わざわざ王水を使う必要はありません。

①は正しい(銀=最大の電気伝導性)。②は正しい(銀は H よりイオン化傾向小 → 塩酸不溶)。③は正しい(AgCl 白色沈殿)。⑤は正しい(AgCl・AgBr・AgI はすべて感光性あり)。

問B B 標準 錯イオン・沈殿

次の操作を順に行ったとき、各段階で観察される現象を述べよ。

操作1:硝酸銀水溶液に希塩酸を少量加える。

操作2:操作1で得られた混合物に、アンモニア水を過剰に加える。

操作3:操作2で得られた水溶液にヨウ化カリウム水溶液を加える。

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解答

操作1:白色沈殿(AgCl)が生じる。

操作2:白色沈殿が溶け、無色透明の水溶液になる([Ag(NH3)2]+ 形成)。

操作3:黄色沈殿(AgI)が生じる。

解説

操作1:Ag+ + Cl → AgCl↓(白色)

操作2:AgCl + 2NH3 → [Ag(NH3)2]+ + Cl AgI は NH3水に溶けないが、AgCl は溶ける。

操作3:溶液中の [Ag(NH3)2]+ から放出される Ag+ が I と反応 → AgI↓(黄色)。AgI の溶解度積は AgCl より格段に小さいため、たとえ錯イオンの形であっても AgI の沈殿が生成する。

問C C 発展 銀鏡反応・論述

銀鏡反応について、以下の問に答えよ。

(1)アンモニア性硝酸銀水溶液(トレンス試薬)中で、銀はどのようなイオンの形で存在しているか、名称と化学式を答えよ。

(2)アルデヒドが銀鏡反応を示す理由を、酸化還元の観点から40字程度で説明せよ。

(3)ケトンは銀鏡反応を示さない。その理由を述べよ。

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解答

(1)ジアンミン銀(I)イオン [Ag(NH3)2]+

(2)アルデヒドは酸化されてカルボン酸になりやすい還元剤であり、Ag+(酸化剤)を Ag に還元するため銀が析出する。

(3)ケトンは酸化されにくく(R−CO−R' → 酸化にC−C結合の切断が必要)、還元剤としてはたらかないため、Ag+ を還元できない。

解説

(1)NaOH → Ag2O → 過剰 NH3 → [Ag(NH3)2]+(直線形、配位数2)。

(2)アルデヒドのホルミル基(−CHO)は容易に酸化されてカルボキシ基(−COOH)になる。この過程でアルデヒドが電子を失い(酸化)、Ag+ が電子を受け取って Ag に還元される。

(3)ケトンの構造 R−CO−R' では、カルボニル炭素の両側に炭素が結合しており、これ以上酸化するにはC−C結合の切断が必要。そのため温和な条件では酸化されにくく、還元剤としてはたらけない。

採点ポイント(2)
  • 「アルデヒドが還元剤」または「アルデヒドが酸化される」
  • 「Ag+ が還元される」または「Ag が析出する」