第19章 脂肪族炭化水素

アルキンの構造と反応

C≡C 三重結合をもつアルキンは、脂肪族炭化水素の中で最も不飽和度が高い系列です。
代表はアセチレン(CH≡CH)。3000℃ を超える酸素アセチレン炎で金属を溶接する工業材料であると同時に、
塩化ビニル・酢酸ビニルなどビニル系化合物の原料として有機合成の幹線を担います。

1アルキン ─ CnH2n−2 の系列

アルキン(アセチレン系炭化水素)とは、炭素原子間に三重結合(C≡C)を 1 個もつ鎖式不飽和炭化水素です。一般式は CnH2n−2(同じ炭素数のアルカンより H が 4 個少ない)。

アルキンの名称は、同じ炭素数のアルカンの語尾 -ane-yne(イン)に変えます。アセチレンはエチンとも呼ばれます。

名称英名分子式沸点 (℃)
アセチレン(エチン)acetylene / ethyneC2H2−74
プロピンpropyneC3H4−23
1-ブチン1-butyneC4H68
2-ブチン2-butyneC4H627
一般式の系統的比較
  • アルカン(飽和鎖式):CnH2n+2
  • アルケン(二重結合 1 つ):CnH2n ← H が 2 個少ない
  • アルキン(三重結合 1 つ):CnH2n−2 ← さらに H が 2 個少ない

不飽和結合が 1 つ増えるごとに H が 2 個減ります。シクロアルケン(環状 + 二重結合 1 つ)も CnH2n−2 となり、炭素数 3 以上でアルキンの構造異性体です。

2アセチレンの構造と製法

構造 ─ 直線形分子

アセチレン分子(C2H2)では、すべての原子(C 2個、H 2個)が一直線上に並ぶ直線形構造をとります。

  • C≡C の結合距離:0.120 nm(二重結合 0.134 nm より短く、単結合 0.154 nm より大幅に短い)
  • H−C≡C の結合角:180°
  • 三重結合 = σ 結合 1 本 + π 結合 2 本
結合の種類結合距離 (nm)結合エネルギー (kJ/mol)
C−C(単結合)0.154347
C=C(二重結合)0.134612
C≡C(三重結合)0.120820

実験室的製法 ─ カルバイドと水の反応

炭化カルシウム(カルバイド、CaC2)に水を加えるとアセチレンが発生します。

CaC2 + 2H2O → CH≡CH + Ca(OH)2

(炭化カルシウム)   (アセチレン) (水酸化カルシウム)

この方法で生成するアセチレンは不純物(硫化水素など)を含み、不快臭がします。アセチレンは水に溶けにくいため、水上置換で捕集します。

工業的製法

現在の工業的製法は主に石油(ナフサ)の熱分解によります。かつて用いられたカルバイド法(電気炉でコークスと生石灰を加熱して CaC2 を製造)は現在ではほとんど使われていません。

落とし穴:CaC2 の反応式の係数

CaC2 + 2H2O → C2H2 + Ca(OH)2 の係数「2」を忘れやすい。Ca(OH)2(水酸化カルシウム=消石灰)が生成することも確認しておきましょう。

3アセチレンの反応

付加反応

アルキンは三重結合の中の 2 本の π 結合が反応の起点となるため、アルケン同様に付加反応を起こしやすい性質があります。

臭素の付加:

CH≡CH + Br2 → CHBr=CHBr(1,2-ジブロモエチレン)

CHBr=CHBr + Br2 → CHBr2−CHBr2(1,1,2,2-テトラブロモエタン)

臭素が 1 mol 付加してアルケン(1,2-ジブロモエチレン)が生成し、さらに 1 mol 付加してアルカン(テトラブロモエタン)が生成します。臭素水の赤褐色が脱色されます。

水素の付加:

CH≡CH + H2 (Pt または Ni)→ CH2=CH2(エチレン)

CH2=CH2 + H2 (Pt または Ni)→ CH3−CH3(エタン)

燃焼反応 ─ 酸素アセチレン炎と溶接

アセチレンを純酸素中で完全燃焼させると、3000℃ 以上の高温の炎(酸素アセチレン炎)が得られます。

2CH≡CH + 5O2 → 4CO2 + 2H2O

この超高温炎は金属の溶接や切断に利用されます。空気中では不完全燃焼を起こしてすす(炭素粒子)を伴う炎になります。

アセチレンは空気中でなぜすすを出して燃えるのか
C2H2 は炭素含有率が高い(炭素:水素 = 2:2 のモル比)
完全燃焼には大量の O2 が必要
空気中では O2 が不足しがちで不完全燃焼が起きる
炭素が単体(すす)として析出する

重合反応 ─ ベンゼンの生成

アセチレンを赤熱した鉄に接触させると、3 分子のアセチレンが重合してベンゼン(C6H6)を生成します。

3 CH≡CH (Fe、加熱)→ C6H6(ベンゼン)

これはアセチレンから芳香族化合物が生成する反応として重要です。

4アセチレンからの工業的合成 ─ ビニル系化合物

アセチレンは各種試薬と付加反応することで、重要な工業原料を生産できます。これらはビニル系化合物(CH2=CH− を共通構造にもつ化合物)の前駆体として、付加重合によってさまざまなプラスチックになります。

塩化ビニルの合成

CH≡CH + HCl (HgCl2 触媒)→ CH2=CHCl(塩化ビニル)

酢酸ビニルの合成

CH≡CH + CH3COOH (触媒)→ CH2=CHOCOCH3(酢酸ビニル)

アセトアルデヒドの合成(水の付加)

CH≡CH + H2O (触媒)→ [CH2=CHOH] → CH3CHO(アセトアルデヒド)

水が付加すると、まず不安定なビニルアルコール(CH2=CHOH)が生じますが、これはただちに安定なアセトアルデヒド(CH3CHO)に変化します(互変異性)。

反応付加試薬生成物用途
水素付加H2エチレン → エタン
臭素付加Br2ジブロモエチレン → テトラブロモエタン不飽和結合の検出
塩化水素付加HCl塩化ビニルポリ塩化ビニル(PVC)原料
酢酸付加CH3COOH酢酸ビニルポリ酢酸ビニル・PVA 原料
水付加H2Oアセトアルデヒド酢酸の原料
重合— (Fe 触媒)ベンゼン芳香族化合物の出発原料
落とし穴:現在のビニル系化合物製法はエチレン原料が主流

かつて塩化ビニルや酢酸ビニルはアセチレンを原料として製造されていましたが、現在の日本ではエチレンを原料とする製法に置き換えられています。教科書ではアセチレンからの合成ルートが記述されますが、「現在の工業的製法 = アセチレン法」と覚えないよう注意しましょう。

本質:アセチレンは「C≡C の π 結合 2 本」が反応の武器

アセチレンがアルケンより多様な反応を起こせる理由は、三重結合に π 結合が 2 本あることです。付加反応を 2 段階(アルキン → アルケン → アルカン)起こせること、様々な試薬と反応してビニル系化合物を生成できること、高温燃焼で溶接炎になることは、すべて「C≡C の持つ豊富なエネルギーと反応性」に由来します。

5俯瞰

アルカン・アルケン・アルキンの比較

3 系列は一般式・結合・反応性のすべてが「不飽和度」に対応して系統的に変化します。

アルカンアルケンアルキン
一般式CnH2n+2CnH2nCnH2n−2
不飽和結合なしC=C(1 つ)C≡C(1 つ)
代表物質メタン CH4エチレン C2H4アセチレン C2H2
臭素水脱色しない脱色する脱色する
KMnO4 水溶液脱色しない脱色する脱色する
付加反応起こさない1 段階2 段階まで
立体構造折れ線形二重結合部分が平面直線形

6まとめ

  • アルキン:一般式 CnH2n−2。C≡C 三重結合(σ+2π)。不飽和炭化水素。
  • アセチレンの構造:直線形。全原子が一直線上。結合角 180°。C≡C は 0.120 nm。
  • 製法:CaC2 + 2H2O → CH≡CH + Ca(OH)2
  • 反応:①付加反応(Br2・H2・HCl・CH3COOH・H2O)②燃焼(酸素アセチレン炎 → 溶接)③重合(→ ベンゼン)
  • 工業原料:塩化ビニル・酢酸ビニル・アセトアルデヒドの前駆体(現在はエチレン原料が主流)。

7確認テスト

Q1. アルキンの一般式を答えよ。また、炭素数 3 のアルキンの分子式と名称を答えよ。

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一般式:CnH2n−2。炭素数 3 は C3H4、名称はプロピン。

Q2. 炭化カルシウムに水を加えたときの化学反応式を書け。

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CaC2 + 2H2O → CH≡CH + Ca(OH)2

Q3. アセチレンに臭素 1 mol が付加したときの生成物の名称と構造式を書け。

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1,2-ジブロモエチレン(CHBr=CHBr)。アルケンに相当する構造。さらに Br2 1 mol が付加すると 1,1,2,2-テトラブロモエタン(CHBr2−CHBr2)になる。

Q4. アセチレンに水が付加すると、どのような物質が最終的に生成するか。

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アセトアルデヒド(CH3CHO)。中間体として生成したビニルアルコール(CH2=CHOH)が速やかに互変異性化して安定なアセトアルデヒドになる。

8入試問題演習

問題 A 基本 製法・反応式

次の問いに答えよ。

(1)炭化カルシウム(CaC2)に水を加えるとアセチレンが発生する。この反応を化学反応式で表せ。

(2)アセチレンを完全燃焼させるときの化学反応式を書け。

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解答

(1)CaC2 + 2H2O → CH≡CH + Ca(OH)2

(2)2CH≡CH + 5O2 → 4CO2 + 2H2O

解説

(1)CaC2 の式量は 64。H2O の係数「2」を忘れずに。生成物は Ca(OH)2(水酸化カルシウム)であることも確認する。

(2)C2H2 の燃焼:C2H2 + 5/2 O2 → 2CO2 + H2O を整数係数にするため全体を 2 倍する。

問題 B 標準 気体の識別

エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、アセチレン(C2H2)の 3 種類の気体を、次の試薬(ア)(イ)を用いて区別する方法を述べよ。

  • (ア)臭素水
  • (イ)アンモニア性硝酸銀水溶液
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解答

まず(ア)臭素水に通じる:エタンは赤褐色が変化しない。エチレン・アセチレンはともに脱色する(→ エタンを識別)。

次に(イ)アンモニア性硝酸銀水溶液に通じる:アセチレンのみ白色沈殿(銀アセチリド Ag−C≡C−Ag)を生じる(→ エチレンとアセチレンを識別)。

解説

臭素水の脱色:不飽和結合の有無を確認する。エタン(飽和)は反応しない。

アンモニア性硝酸銀([Ag(NH3)2]+)との反応:
アセチレンの末端の C−H は弱酸性を示すため、Ag+ と反応して白色の銀アセチリド(AgC≡CAg)を沈殿する。エチレンにはこの反応がない。

得点のポイント
  • 2 つの試薬を使う順序と結果(脱色/沈殿の有無)を明確に述べること
  • 銀アセチリドの色(白色)と化学式まで答えられると完全解答
問題 C 発展 不飽和度・構造推定

分子式 C4H6 で表される炭化水素について、以下の問いに答えよ。

(1)不飽和度を計算せよ。

(2)この分子式をもつ炭化水素の構造異性体を、三重結合をもつものとそれ以外に分けてできるだけ多く書け(環状構造を含む)。

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解答

(1)不飽和度 = (2×4 + 2 − 6) ÷ 2 = 2

(2)三重結合をもつもの:
・CH≡C−CH2−CH3(1-ブチン)
・CH3−C≡C−CH3(2-ブチン)

それ以外(二重結合 2 つ、または二重結合 1 つ+環):
・CH2=C=CH−CH3(1,2-ブタジエン)
・CH2=CH−CH=CH2(1,3-ブタジエン)
・シクロブテン(四員環+二重結合 1 つ)
・メチルシクロプロペン(三員環+二重結合 1 つ)

解説

不飽和度は一般式 CnHm の炭化水素で (2n + 2 − m) / 2 で求められます。不飽和度 1 は二重結合 1 つまたは環 1 つ、不飽和度 2 は三重結合 1 つ・二重結合 2 つ・環 2 つ・環 + 二重結合 1 つのいずれかに対応します。

C4H6 の不飽和度 = 2 なので、2 つの不飽和要素が必要です。系統的に「三重結合」「二重結合 2 つ」「環+二重結合」の 3 パターンで異性体を列挙すると見落としを防げます。

得点のポイント
  • 不飽和度の計算式と答えが正確
  • 1-ブチンと 2-ブチンの両方を挙げていること
  • 1,3-ブタジエンを挙げていること(ゴムの原料として重要)