C≡C 三重結合をもつアルキンは、脂肪族炭化水素の中で最も不飽和度が高い系列です。
代表はアセチレン(CH≡CH)。3000℃ を超える酸素アセチレン炎で金属を溶接する工業材料であると同時に、
塩化ビニル・酢酸ビニルなどビニル系化合物の原料として有機合成の幹線を担います。
アルキン(アセチレン系炭化水素)とは、炭素原子間に三重結合(C≡C)を 1 個もつ鎖式不飽和炭化水素です。一般式は CnH2n−2(同じ炭素数のアルカンより H が 4 個少ない)。
アルキンの名称は、同じ炭素数のアルカンの語尾 -ane を -yne(イン)に変えます。アセチレンはエチンとも呼ばれます。
| 名称 | 英名 | 分子式 | 沸点 (℃) |
|---|---|---|---|
| アセチレン(エチン) | acetylene / ethyne | C2H2 | −74 |
| プロピン | propyne | C3H4 | −23 |
| 1-ブチン | 1-butyne | C4H6 | 8 |
| 2-ブチン | 2-butyne | C4H6 | 27 |
不飽和結合が 1 つ増えるごとに H が 2 個減ります。シクロアルケン(環状 + 二重結合 1 つ)も CnH2n−2 となり、炭素数 3 以上でアルキンの構造異性体です。
アセチレン分子(C2H2)では、すべての原子(C 2個、H 2個)が一直線上に並ぶ直線形構造をとります。
| 結合の種類 | 結合距離 (nm) | 結合エネルギー (kJ/mol) |
|---|---|---|
| C−C(単結合) | 0.154 | 347 |
| C=C(二重結合) | 0.134 | 612 |
| C≡C(三重結合) | 0.120 | 820 |
炭化カルシウム(カルバイド、CaC2)に水を加えるとアセチレンが発生します。
CaC2 + 2H2O → CH≡CH + Ca(OH)2
(炭化カルシウム) (アセチレン) (水酸化カルシウム)
この方法で生成するアセチレンは不純物(硫化水素など)を含み、不快臭がします。アセチレンは水に溶けにくいため、水上置換で捕集します。
現在の工業的製法は主に石油(ナフサ)の熱分解によります。かつて用いられたカルバイド法(電気炉でコークスと生石灰を加熱して CaC2 を製造)は現在ではほとんど使われていません。
CaC2 + 2H2O → C2H2 + Ca(OH)2 の係数「2」を忘れやすい。Ca(OH)2(水酸化カルシウム=消石灰)が生成することも確認しておきましょう。
アルキンは三重結合の中の 2 本の π 結合が反応の起点となるため、アルケン同様に付加反応を起こしやすい性質があります。
臭素の付加:
CH≡CH + Br2 → CHBr=CHBr(1,2-ジブロモエチレン)
CHBr=CHBr + Br2 → CHBr2−CHBr2(1,1,2,2-テトラブロモエタン)
臭素が 1 mol 付加してアルケン(1,2-ジブロモエチレン)が生成し、さらに 1 mol 付加してアルカン(テトラブロモエタン)が生成します。臭素水の赤褐色が脱色されます。
水素の付加:
CH≡CH + H2 (Pt または Ni)→ CH2=CH2(エチレン)
CH2=CH2 + H2 (Pt または Ni)→ CH3−CH3(エタン)
アセチレンを純酸素中で完全燃焼させると、3000℃ 以上の高温の炎(酸素アセチレン炎)が得られます。
2CH≡CH + 5O2 → 4CO2 + 2H2O
この超高温炎は金属の溶接や切断に利用されます。空気中では不完全燃焼を起こしてすす(炭素粒子)を伴う炎になります。
アセチレンを赤熱した鉄に接触させると、3 分子のアセチレンが重合してベンゼン(C6H6)を生成します。
3 CH≡CH (Fe、加熱)→ C6H6(ベンゼン)
これはアセチレンから芳香族化合物が生成する反応として重要です。
アセチレンは各種試薬と付加反応することで、重要な工業原料を生産できます。これらはビニル系化合物(CH2=CH− を共通構造にもつ化合物)の前駆体として、付加重合によってさまざまなプラスチックになります。
CH≡CH + HCl (HgCl2 触媒)→ CH2=CHCl(塩化ビニル)
CH≡CH + CH3COOH (触媒)→ CH2=CHOCOCH3(酢酸ビニル)
CH≡CH + H2O (触媒)→ [CH2=CHOH] → CH3CHO(アセトアルデヒド)
水が付加すると、まず不安定なビニルアルコール(CH2=CHOH)が生じますが、これはただちに安定なアセトアルデヒド(CH3CHO)に変化します(互変異性)。
| 反応 | 付加試薬 | 生成物 | 用途 |
|---|---|---|---|
| 水素付加 | H2 | エチレン → エタン | — |
| 臭素付加 | Br2 | ジブロモエチレン → テトラブロモエタン | 不飽和結合の検出 |
| 塩化水素付加 | HCl | 塩化ビニル | ポリ塩化ビニル(PVC)原料 |
| 酢酸付加 | CH3COOH | 酢酸ビニル | ポリ酢酸ビニル・PVA 原料 |
| 水付加 | H2O | アセトアルデヒド | 酢酸の原料 |
| 重合 | — (Fe 触媒) | ベンゼン | 芳香族化合物の出発原料 |
かつて塩化ビニルや酢酸ビニルはアセチレンを原料として製造されていましたが、現在の日本ではエチレンを原料とする製法に置き換えられています。教科書ではアセチレンからの合成ルートが記述されますが、「現在の工業的製法 = アセチレン法」と覚えないよう注意しましょう。
アセチレンがアルケンより多様な反応を起こせる理由は、三重結合に π 結合が 2 本あることです。付加反応を 2 段階(アルキン → アルケン → アルカン)起こせること、様々な試薬と反応してビニル系化合物を生成できること、高温燃焼で溶接炎になることは、すべて「C≡C の持つ豊富なエネルギーと反応性」に由来します。
3 系列は一般式・結合・反応性のすべてが「不飽和度」に対応して系統的に変化します。
| アルカン | アルケン | アルキン | |
|---|---|---|---|
| 一般式 | CnH2n+2 | CnH2n | CnH2n−2 |
| 不飽和結合 | なし | C=C(1 つ) | C≡C(1 つ) |
| 代表物質 | メタン CH4 | エチレン C2H4 | アセチレン C2H2 |
| 臭素水 | 脱色しない | 脱色する | 脱色する |
| KMnO4 水溶液 | 脱色しない | 脱色する | 脱色する |
| 付加反応 | 起こさない | 1 段階 | 2 段階まで |
| 立体構造 | 折れ線形 | 二重結合部分が平面 | 直線形 |
Q1. アルキンの一般式を答えよ。また、炭素数 3 のアルキンの分子式と名称を答えよ。
Q2. 炭化カルシウムに水を加えたときの化学反応式を書け。
Q3. アセチレンに臭素 1 mol が付加したときの生成物の名称と構造式を書け。
Q4. アセチレンに水が付加すると、どのような物質が最終的に生成するか。
次の問いに答えよ。
(1)炭化カルシウム(CaC2)に水を加えるとアセチレンが発生する。この反応を化学反応式で表せ。
(2)アセチレンを完全燃焼させるときの化学反応式を書け。
(1)CaC2 + 2H2O → CH≡CH + Ca(OH)2
(2)2CH≡CH + 5O2 → 4CO2 + 2H2O
(1)CaC2 の式量は 64。H2O の係数「2」を忘れずに。生成物は Ca(OH)2(水酸化カルシウム)であることも確認する。
(2)C2H2 の燃焼:C2H2 + 5/2 O2 → 2CO2 + H2O を整数係数にするため全体を 2 倍する。
エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、アセチレン(C2H2)の 3 種類の気体を、次の試薬(ア)(イ)を用いて区別する方法を述べよ。
まず(ア)臭素水に通じる:エタンは赤褐色が変化しない。エチレン・アセチレンはともに脱色する(→ エタンを識別)。
次に(イ)アンモニア性硝酸銀水溶液に通じる:アセチレンのみ白色沈殿(銀アセチリド Ag−C≡C−Ag)を生じる(→ エチレンとアセチレンを識別)。
臭素水の脱色:不飽和結合の有無を確認する。エタン(飽和)は反応しない。
アンモニア性硝酸銀([Ag(NH3)2]+)との反応:
アセチレンの末端の C−H は弱酸性を示すため、Ag+ と反応して白色の銀アセチリド(AgC≡CAg)を沈殿する。エチレンにはこの反応がない。
分子式 C4H6 で表される炭化水素について、以下の問いに答えよ。
(1)不飽和度を計算せよ。
(2)この分子式をもつ炭化水素の構造異性体を、三重結合をもつものとそれ以外に分けてできるだけ多く書け(環状構造を含む)。
(1)不飽和度 = (2×4 + 2 − 6) ÷ 2 = 2
(2)三重結合をもつもの:
・CH≡C−CH2−CH3(1-ブチン)
・CH3−C≡C−CH3(2-ブチン)
それ以外(二重結合 2 つ、または二重結合 1 つ+環):
・CH2=C=CH−CH3(1,2-ブタジエン)
・CH2=CH−CH=CH2(1,3-ブタジエン)
・シクロブテン(四員環+二重結合 1 つ)
・メチルシクロプロペン(三員環+二重結合 1 つ)
不飽和度は一般式 CnHm の炭化水素で (2n + 2 − m) / 2 で求められます。不飽和度 1 は二重結合 1 つまたは環 1 つ、不飽和度 2 は三重結合 1 つ・二重結合 2 つ・環 2 つ・環 + 二重結合 1 つのいずれかに対応します。
C4H6 の不飽和度 = 2 なので、2 つの不飽和要素が必要です。系統的に「三重結合」「二重結合 2 つ」「環+二重結合」の 3 パターンで異性体を列挙すると見落としを防げます。