第2章 原子の構造と周期表

原子の構造

すべての物質は原子からできています。では、原子はどのような構造をもっているのでしょうか。
この記事では、原子を構成する3種類の粒子(陽子・中性子・電子)の役割と、
原子番号・質量数という2つの数の意味を理解します。

1原子の発見

ドルトンの原子説(1803年)

イギリスの化学者ドルトンは1803年、「すべての物質は、それ以上分割できない最小の粒子からできている」という考えを提唱しました。彼はこの最小粒子を原子(atom)とよび、この考えをドルトンの原子説といいます。

ドルトンは、異なる元素の原子は種類が異なり、化合物はそれらが一定の比で結びついてできると考えました。この考えは質量保存の法則や定比例の法則を統一的に説明できるものでした。

トムソンの電子発見(1897年)

19世紀後半から20世紀にかけて、原子がさらに小さな粒子から成ることが示されました。イギリスのJ.J. トムソンは1897年、ほぼ真空状態の容器内に2つの電極を設けて放電実験を行い、陰極から直線的に進む陰極線が放出されることを確認しました。陰極線は電極板によって電源の正極側に曲がることから、負の電荷をもつ粒子(電子)の流れであることがわかりました。この発見により、原子は分割可能であることが明らかになりました。

ラザフォードの原子核発見(1911年)

イギリスのラザフォードらは1911年、薄い金箔にα線(正の電荷をもつ粒子の流れ)を当てる実験を行いました。ほとんどのα線は直進しましたが、一部のα線は大きく跳ね返されました。

この結果は、「原子の占める空間の大部分はほぼ空であり、原子の質量の大部分はごく小さな正の電荷をもつ核(原子核)に集中している」ことを示していました。こうしてラザフォードは原子核の存在を確認し、原子核の周りを電子が取り巻く有核原子模型を提唱しました。

2原子の構成粒子

現在では、原子は原子核電子から構成されていることが明らかになっています。原子核はさらに陽子中性子から構成されています。

3種類の構成粒子の性質

粒子 記号 電荷 質量 質量比(陽子を1とする)
陽子 p +1 1.673 × 10−24 g 1(基準)
中性子 n 0(なし) 1.675 × 10−24 g 約 1(陽子とほぼ等しい)
電子 e −1 9.109 × 10−28 g 約 1/1840(非常に小さい)

陽子1個の電荷の絶対値と電子1個の電荷の絶対値は等しく、1.602 × 10−19 C(クーロン)です。これは電気量の最小単位で、素電荷(電気素量)とよばれます。

原子の大きさ

原子の直径はおよそ 10−10 m(= 0.1 nm) のオーダーです。一方、原子核の直径はおよそ 10−15 m のオーダーであり、原子全体の直径の約10万分の1にすぎません。原子の内部のほとんどはほぼ空間であり、そのわずかな空間を電子が取り囲む構造になっています。

原子のスケール感

原子核の直径は原子全体の約10万分の1です。直径0.1 mmの砂粒を東京ドーム(直径約200 m)の中心に置いたときの比率に相当し、原子核がいかに小さいかがわかります。

また、電子1個の質量は陽子の約1/1840しかないため、原子の質量はほぼ原子核(陽子と中性子)の質量の和と見なせます。

3原子番号と質量数

原子番号

原子核に含まれる陽子の数を原子番号といいます。原子番号は元素ごとに固有の値であり、元素の種類を決定します。

  • 原子番号 1 → 水素 H
  • 原子番号 2 → ヘリウム He
  • 原子番号 6 → 炭素 C
  • 原子番号 8 → 酸素 O
  • 原子番号 11 → ナトリウム Na

質量数

原子核に含まれる陽子の数と中性子の数の和を質量数といいます。電子の質量は陽子・中性子に比べてきわめて小さいため、原子の質量は質量数にほぼ比例します。

質量数 = 陽子の数 + 中性子の数

中性子の数 = 質量数 − 原子番号

元素記号による表記

原子の種類を原子番号と質量数を含めて表すときは、元素記号の左上に質量数左下に原子番号を書きます。

AZX  (X:元素記号、A:質量数、Z:原子番号)

具体例

表記 元素 原子番号(陽子数) 質量数 中性子数 電子数
11H 水素 1 1 0 1
126C 炭素 6 12 6 6
168O 酸素 8 16 8 8
2311Na ナトリウム 11 23 12 11
2713Al アルミニウム 13 27 14 13

なお、原子番号が元素によって決まっているため、12C や 23Na のように原子番号を省略して書く場合もあります。

4原子は電気的に中性

通常の原子は、陽子の数(正の電荷)と電子の数(負の電荷)が等しいため、全体として電気的に中性です。

陽子の数 = 電子の数 = 原子番号

例えば、炭素原子 126C は陽子6個・電子6個をもち、+6と−6の電荷が打ち消し合うため中性です。ナトリウム原子 2311Na は陽子11個・電子11個で中性です。

原子が電気的に中性なのはなぜか
原子核には正の電荷をもつ陽子が含まれる(中性子は電荷なし)
原子核の正電荷は、陽子の数に応じて+ Z(Z = 原子番号)
原子核の周囲を負の電荷をもつ電子 Z 個が取り囲む
(+Z)+(−Z)= 0 → 電気的に中性

原子が電子を受け取ったり放出したりすると、陽子数と電子数がずれて「イオン」になります(次節)。

本質:原子番号1つで構造がすべて決まる

原子番号(= 陽子の数)がわかれば、その原子の「元素の種類」と「電子の数」が同時に決まります。中性子の数だけは同じ元素でも異なることがあります(同位体)。この「陽子数 = 原子番号 = 電子数(中性原子)」という関係を軸にすれば、構成粒子の数の問題はすべて解けます。

5この章を俯瞰する

原子の構造は、化学全体の出発点です。以下に、ここでの知識が他の章とどうつながるかを整理します。

他の章へのつながりマップ

  • 同位体 → 2-2「同位体と放射性同位体」:同じ元素でも中性子数が異なる原子(同位体)があること、放射性崩壊への応用を学ぶ。
  • 電子数と電子配置 → 2-3「電子配置と周期表」:電子が電子殻にどう配置されるかが元素の化学的性質を決める。
  • 陽子数 = 電子数(中性) → 3-1「イオン」:電子の過不足が生じるとイオンになる。イオンの電荷はその過不足の数。
  • 質量数と原子量 → 4-1「原子量・分子量・式量」:同位体の存在比を考慮した「原子量」の概念はここでの質量数の理解が基礎になる。
  • 原子核 → 発展「核反応・放射線」:原子核を構成する陽子・中性子の変化が放射性崩壊や核分裂につながる。

次の記事では、同じ元素でも中性子の数が異なる同位体と、不安定な核が放射線を出して別の元素に変わる放射性同位体を扱います。

6まとめ

  • ドルトン(1803年)が原子説を提唱。トムソン(1897年)が電子を発見。ラザフォード(1911年)が原子核の存在を確認
  • 原子は中心の原子核(陽子+中性子)と、周囲を囲む電子から構成される
  • 陽子:電荷 +1、中性子:電荷 0、電子:電荷 −1。陽子・中性子の質量はほぼ等しく、電子の質量は約1/1840
  • 原子の直径 ≈ 10−10 m、原子核の直径 ≈ 10−15 m(原子の10万分の1)
  • 原子番号 = 陽子の数(元素の種類を決める)
  • 質量数 = 陽子の数 + 中性子の数
  • 中性原子では陽子の数 = 電子の数 = 原子番号で、電気的に中性

7確認テスト

Q1. 次の原子について、陽子の数・中性子の数・電子の数をそれぞれ答えてください。① 168O ② 2311Na ③ 2713Al

▶ クリックして解答を表示① 168O:陽子8・中性子8(=16−8)・電子8 ② 2311Na:陽子11・中性子12(=23−11)・電子11 ③ 2713Al:陽子13・中性子14(=27−13)・電子13

Q2. 原子が電気的に中性である理由を、「陽子」「電子」という語を使って説明してください。

▶ クリックして解答を表示原子では陽子の数と電子の数が等しいため、陽子がもつ正の電荷と電子がもつ負の電荷の大きさが等しくなり、互いに打ち消し合うから。

Q3. 質量数35、原子番号17の原子について、陽子・中性子・電子の数をそれぞれ答えてください。また、この原子の元素名を答えてください。

▶ クリックして解答を表示陽子17個・中性子18個(=35−17)・電子17個。元素名:塩素(Cl)

Q4. 原子の直径と原子核の直径のオーダーをそれぞれ答えてください。

▶ クリックして解答を表示原子の直径:約10−10 m(0.1 nm)のオーダー。原子核の直径:約10−15 m のオーダー。原子核は原子全体の約10万分の1の大きさ。

8入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

2-1-1 A 基礎 選択

原子の構造に関する次の記述のうち、正しいものを1つ選べ。

  • ① 原子の質量のほとんどは電子が占めている。
  • ② 原子核に含まれる陽子の数を質量数という。
  • ③ 中性の原子では、陽子の数と電子の数が等しい。
  • ④ 中性子は負の電荷をもつ。
  • ⑤ 原子核の大きさは原子全体の大きさとほぼ等しい。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

解説

① 誤り。原子の質量のほとんどは原子核(陽子と中性子)が占める。電子の質量は陽子の約1/1840しかない。② 誤り。陽子の数は「原子番号」。「質量数」は陽子の数+中性子の数。③ 正しい。中性の原子では陽子の数(正電荷)=電子の数(負電荷)で電気的に中性になる。④ 誤り。中性子は電荷をもたない。⑤ 誤り。原子核の直径(約10−15 m)は原子全体の直径(約10−10 m)の約10万分の1。

B 標準レベル

2-1-2 B 標準 計算・記述

ある原子 X は、陽子13個、中性子14個、電子13個から構成されている。

(1) この原子の原子番号と質量数をそれぞれ求めよ。

(2) この原子の元素記号を、原子番号と質量数を付記した形式で書け。

(3) この原子が電気的に中性であることを、陽子・電子の数をもとに説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 原子番号 13、質量数 27

(2) 2713Al

(3) 陽子13個(電荷 +13)と電子13個(電荷 −13)が等しいため、合計の電荷が0となり電気的に中性である。

解説

(1) 原子番号 = 陽子の数 = 13。質量数 = 陽子の数 + 中性子の数 = 13 + 14 = 27。(2) アルミニウム Al の左上に質量数27、左下に原子番号13を書く。(3) 陽子1個の電荷は +1、電子1個の電荷は −1。陽子13個と電子13個の電荷の合計は (+13)+(−13)=0 となるため、原子全体は電気的に中性。

C 発展レベル

2-1-3 C 発展 論述

銅 Cu は銅(II)イオン Cu2+ になることが知られており、Cu2+ の電子の数は27個である。

(1) 銅原子 Cu の原子番号はいくつか。考え方とともに答えよ。

(2) 銅の最も一般的な同位体は 63Cu である。この原子の中性子の数を求めよ。

(3) 銅原子が Cu2+ になるとき、何個の電子を失ったか答えよ。また、Cu2+ が電気的に中性でない(+2の電荷をもつ)理由を説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 原子番号 29

(2) 中性子数 = 63 − 29 = 34 個

(3) 2個の電子を失った。Cu2+ では陽子29個(電荷 +29)に対して電子27個(電荷 −27)のため、合計電荷が +2 となり正電荷をもつ。

解説

(1) Cu2+ は中性の Cu 原子が電子を放出してできたイオンである。Cu2+ の電子数が27個であり、イオン化によって電子の数が変わる(陽子の数は変わらない)ことに注意する。Cu2+ の電荷が +2 であるから、陽子の数は 27 + 2 = 29。よって原子番号は29。(2) 63Cu の質量数63から原子番号29を引いて、中性子数 = 63 − 29 = 34 個。(3) 中性の Cu 原子は電子29個、Cu2+ は電子27個。29 − 27 = 2個の電子を失った。Cu2+ では陽子29個(+29)、電子27個(−27)なので合計電荷は +29 + (−27) = +2。陽子数 > 電子数となるため正電荷をもち、電気的に中性でなくなる。

採点ポイント
  • 「陽子の数はイオンになっても変わらない」ことを明示しているか
  • 原子番号の計算過程が正しいか(27 + 2 = 29)
  • イオンの電荷 = 陽子数 − 電子数 を用いて説明できているか