第2章 原子の構造と周期表

同位体と放射性同位体

同じ元素でも、中性子の数が違う原子が存在します。これを同位体(アイソトープ)といいます。
同位体は化学的性質がほぼ同じなのに、なぜ一部のものは放射線を放出して崩壊するのでしょうか。
この記事では、同位体の本質と、放射性同位体が医療・考古学・工業で活躍する仕組みを理解します。

1同位体とは

原子は、原子核の中の陽子の数(原子番号)によって元素の種類が決まります。しかし、同じ元素の原子でも中性子の数が異なるものが存在します。このような、原子番号が同じで質量数(=陽子数+中性子数)が異なる原子どうしを、互いに同位体(アイソトープ、isotope)といいます。

水素の同位体

最も身近な例が水素です。水素には3種類の同位体があります。

名称記号陽子数中性子数質量数天然存在比放射性
プロチウム(水素)1H10199.9885%なし
重水素(デューテリウム)2H(D)1120.0115%なし
三重水素(トリチウム)3H(T)123ごく微量あり

1H、2H、3Hはいずれも陽子が1個なので「水素」という同じ元素ですが、中性子の数が0・1・2と異なります。2Hは重水素3Hは三重水素(トリチウム)と呼ばれます。

炭素の同位体

炭素にも複数の同位体があり、特に14C(炭素14)は放射性同位体として年代測定に利用されます。

記号陽子数中性子数質量数天然存在比放射性
12C661298.93%なし
13C67131.07%なし
14C6814ごく微量あり

主な元素の同位体と天然存在比

元素名同位体陽子数中性子数天然存在比
酸素 O16O8899.757%
18O8100.205%
塩素 Cl35Cl171875.76%
37Cl172024.24%
ウラン U235U921430.720%
238U9214699.274%

地球上の元素の多くは、複数の同位体がほぼ一定の割合で混在しています。原子量は、これら同位体の相対質量を存在比で平均した値です。たとえば炭素の原子量 12.01 は、12C と 13C の存在比を考慮した平均値です。

2同位体の化学的性質

同位体どうしの化学的性質はほぼ同じです。化学反応は原子の外側を取り巻く電子が担い、電子の数は陽子の数(原子番号)によって決まります。同位体は陽子の数が同じなので電子の配置もほぼ同じ、つまり化学的な振る舞いはほぼ同じになります。

同位体はなぜ化学的性質がほぼ同じなのか
化学反応は原子の外側の電子が主役
電子の数は陽子の数(原子番号)で決まる
同位体は陽子数が同じ→電子の数も配置も同じ
化学的性質(結合のしかた・反応性など)はほぼ同じ

※ 「ほぼ」同じである理由:質量が異なると反応速度にわずかな差(同位体効果)が生じることがある。ただし高校化学の範囲では「同じ」として扱う。

一方、物理的性質(質量・密度・沸点など)は同位体間でわずかに異なります。たとえば重水(2H2O、D2O)の沸点は 101.4 ℃ で、普通の水(1H2O)の 100.0 ℃ より高くなります。これは分子の質量が大きいため、分子間力の影響が大きくなるからです。

まとめ:同位体の性質

化学的性質:ほぼ同じ(陽子数=電子数が同じだから)

物理的性質:わずかに異なる(質量が違うから)

この事実が、放射性同位体をトレーサーとして利用できる根拠にもなっています。化学的に同じように振る舞いながら、放射線という「目印」で追跡できるのです。

3放射性同位体(ラジオアイソトープ)

同位体の中には、原子核が不安定で、放射線を放出しながら別の原子核へ変わるものがあります。このような同位体を放射性同位体(ラジオアイソトープ、radioisotope)といいます。また、放射線を放出する性質を放射能(radioactivity)、放射能をもつ物質を放射性物質といいます。

放射性同位体が放射線を放出して別の原子核に変わる現象を放射性崩壊(壊変)といいます。

放射線の種類

種類本体原子核の変化透過力電離作用
α線(アルファ線) 4He の原子核
(陽子2+中性子2)
原子番号が2、質量数が4減少(α崩壊) 弱い(紙1枚で遮蔽) 強い
β線(ベータ線) 電子(e 中性子→陽子に変化し、原子番号が1増加(β崩壊) 中程度(薄いアルミで遮蔽) 中程度
γ線(ガンマ線) 電磁波(高エネルギー光子) 原子番号・質量数の変化なし 強い(鉛や厚いコンクリートで遮蔽) 弱い

たとえばラジウム 226Ra がα崩壊すると、原子番号が2・質量数が4減少してラドン 222Rn になります。

22688Ra → 22286Rn + 42He

14C がβ崩壊すると、中性子が陽子に変わって原子番号が1増え、窒素 14N になります。

146C → 147N + e

半減期

放射性同位体がもとの量の半分になるまでに要する時間を半減期(half-life)といいます。半減期は同位体ごとに固有の値をもち、温度・圧力・化学的な状態に関わらず一定です。

放射性同位体半減期崩壊の種類主な利用
3H(トリチウム)12.3年β崩壊年代測定、核融合燃料
14C(炭素14)5730年β崩壊考古学的年代測定
90Sr(ストロンチウム90)28.8年β崩壊工業用線源
131I(ヨウ素131)8.0日β崩壊・γ線甲状腺がん治療
238U(ウラン238)45億年α崩壊岩石の年代測定
発展:半減期の計算化学

半減期を T(年)、経過時間を t(年)、はじめの量を N0 とすると、残量 N は次の式で表されます。

N = N0 × (1/2)t/T

例題: 14C の半減期は 5730 年である。ある遺跡の木片に含まれる 14C の割合が大気中の 25% になっていた。この木片は何年前のものか。

解答:

25% = (1/2)2 より、2回分の半減期が経過している。

5730 年 × 2 = 11460 年前

一般に「何回半減期が過ぎたか」を最初に考えると計算が速い。1/2 → 1回、1/4 → 2回、1/8 → 3回、1/16 → 4回、…。

4放射性同位体の利用

放射性同位体は、その放射線の性質と半減期の固有性を活かして、さまざまな分野で利用されています。

14C 年代測定(考古学)

大気中では、宇宙線によって生成した中性子が窒素 14N の原子核に衝突し、14C がたえず生成されています。一方、14C は β 線を放出しながら 14N にもどります。そのため、大気中の 14C と 12C の存在比は太古からほぼ一定に保たれています。

植物は光合成で CO2 を吸収し、動物は食物連鎖を通じて 14C を体内に取りこみます。生きている間は大気と同じ比率が保たれますが、死亡後は新たな 14C の取りこみが止まり、体内の 14C は半減期 5730 年でゆっくり減少していきます。

遺骨や木片に残っている 14C の割合を測定することで、その生物が死亡したおよその年代を推定できます。これを放射性炭素年代測定法といいます。

医療への利用

  • PET(陽電子放射断層撮影)18F を含むブドウ糖を体内に投与し、がん細胞などへの集積を γ 線検出器で画像化する診断法。
  • 放射線治療60Co や 131I などから放出される放射線でがん細胞を選択的に破壊する。甲状腺がんには 131I が特に有効(甲状腺がヨウ素を選択的に取りこむ性質を利用)。
  • 診断用トレーサー:微量の放射性同位体を薬として投与し、体内の臓器・組織の機能を画像で調べる。

工業への利用

  • 厚さ測定:金属・フィルムの製造ラインで、放射線の透過量を測定して厚さをリアルタイムで管理する。
  • 非破壊検査:溶接部や航空機部品の内部の欠陥を、製品を壊さずにγ線で検査する。
  • 品種改良:放射線による突然変異を利用し、農作物の新品種を開発する。

トレーサー(追跡子)

放射性同位体は化学的性質がほぼ同じまま放射線という「目印」をもつため、化学反応の経路や生体内での物質の動きを追跡するトレーサーとして利用できます。たとえば 14C を含む CO2 を植物に吸収させると、光合成で炭素がどのように有機物に変換されるかを追跡できます。

注意:放射線の人体への影響

放射線は細胞の DNA を傷つけ、過剰な被曝はがんや遺伝的障害の原因になります。放射性物質の取り扱いには遮蔽・距離・時間の管理が必須であり、法律による厳重な規制があります。一方、適切に管理された低線量では医療診断や治療に有効に活用できます。

5この章を俯瞰する

同位体と放射性同位体の知識は、化学・物理・生物・地学にまたがる横断的な概念です。以下に、関連する他の章・分野とのつながりを整理します。

他の章・分野へのつながりマップ

  • 原子量の計算 → 2-3「原子量と物質量」:同位体の存在比から元素の原子量を計算する。同位体の概念が原子量の定義の根拠になっている。
  • 電子配置 → 2-3「電子配置と電子殻」:同位体は電子配置が同じ→化学的性質が同じという理解は、電子配置の学習とつながる。
  • 核反応・原子力 → 大学物理・化学:ウランの核分裂(235U)、核融合(2H + 3H)など。高校では半減期の計算を扱う。
  • 地学・年代測定 → 岩石の年代測定:238U → 206Pb の崩壊系列を用いた岩石年代測定は地球科学の基礎。
  • 医療・薬学 → PET・放射線治療:放射性同位体の医療応用は、化学・生物学・医学が交差する現代科学の最前線。

次の記事では、原子の外側の電子の配置(電子殻・電子配置)について学びます。電子配置が原子の化学的性質を決める仕組みを理解することで、周期表の縦のつながりが見えてきます。

6まとめ

  • 同位体(アイソトープ):原子番号が同じで質量数が異なる原子どうし(中性子の数が異なる)
  • 同位体の化学的性質はほぼ同じ(陽子数=電子数が同じため)、物理的性質はわずかに異なる
  • 原子量は同位体の相対質量を天然存在比で平均した値
  • 放射性同位体(ラジオアイソトープ):原子核が不安定で放射線を放出しながら崩壊する同位体
  • 放射線の種類:α線4He 核、透過力弱)、β線(電子、透過力中)、γ線(電磁波、透過力強)
  • 半減期:放射性同位体がもとの量の半分になるまでの時間。同位体ごとに固有の値
  • 14C の半減期(5730 年)を利用した放射性炭素年代測定で考古学的試料の年代がわかる
  • 医療(PET・放射線治療)、工業(非破壊検査・厚さ測定)、科学(トレーサー)などに広く利用される

7確認テスト

Q1. 同位体とは何か。「原子番号」「中性子数」「質量数」という語を使って説明してください。

▶ クリックして解答を表示同位体とは、原子番号(陽子数)は同じだが、中性子数が異なるために質量数が異なる原子どうしのことである。

Q2. 同位体の化学的性質がほぼ同じである理由を説明してください。

▶ クリックして解答を表示化学反応は原子の外側の電子が担う。電子の数は陽子の数(原子番号)によって決まるため、同位体は陽子数が同じ→電子配置が同じ→化学的性質もほぼ同じになる。

Q3. 14C の半減期は 5730 年です。ある木片に含まれる 14C が現在の大気の 1/8 の量になっていました。この木片は何年前のものですか。

▶ クリックして解答を表示1/8 = (1/2)³ より、半減期が3回分経過している。5730 年 × 3 = 17190 年前。

Q4. α崩壊とβ崩壊では、もとの原子核と比べて原子番号・質量数はどのように変化しますか。

▶ クリックして解答を表示α崩壊:原子番号が2減少、質量数が4減少。β崩壊:原子番号が1増加、質量数は変化なし(中性子が陽子に変わるため)。

8入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

2-2-1 A 基礎 選択

同位体に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。

  • ① 同位体どうしは原子番号が同じで質量数が異なる。
  • ② 同位体どうしは化学的性質が完全に同じである。
  • ③ 同位体どうしは中性子数が同じである。
  • ④ 同位体どうしは物理的性質がわずかに異なることがある。
  • ⑤ 放射性同位体は放射線を放出して安定な原子核に変わる。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

①④⑤

解説

① 正しい。同位体の定義:原子番号(陽子数)が同じで、中性子数(したがって質量数)が異なる原子どうし。

② 誤り。「ほぼ同じ」が正確な表現。同位体効果と呼ばれる微小な差異が存在する。

③ 誤り。同位体どうしは中性子数が異なる。これが同位体の定義の核心である。

④ 正しい。質量が異なるため、密度・沸点などの物理的性質はわずかに異なる(例:重水の沸点は 101.4 ℃)。

⑤ 正しい。不安定な原子核(放射性同位体)は、放射線(α線・β線・γ線)を放出して別の(より安定な)原子核へ変わる。

B 標準レベル

2-2-2 B 標準 計算・論述

14C を用いた年代測定に関する以下の問いに答えよ。ただし、14C の半減期を 5730 年とする。

(1) 生物が死亡した直後と比べて、14C の量が 12.5% になっているとき、死亡からおよそ何年経過したか。

(2) 大気中の 14C と 12C の比率が太古から一定に保たれている理由を、14C の生成と崩壊の観点から説明せよ。

(3) この年代測定が「植物が枯れた時点」の年代を推定できる理由を述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 12.5% = 1/8 = (1/2)³ より、半減期が3回分経過。5730 × 3 = 17190 年

(2) 宇宙線による窒素からの 14C の生成速度と、14C が β 崩壊して 14N にもどる速度がつり合い、大気中の 14C / 12C 比はほぼ一定に保たれている。

(3) 植物は生きている間は光合成で CO214C を含む)を吸収し続けるため、体内の 14C / 12C 比は大気と同じに保たれる。枯れると 14C の吸収が止まり、以後は半減期にしたがって 14C だけが減少するため、現在の比率から枯れた(死亡した)年代を逆算できる。

解説

(1) 「何回半減期が過ぎたか」を分数で求めるのが基本。1/2 → 1回, 1/4 → 2回, 1/8 → 3回, 1/16 → 4回。12.5% = 1/8 なので 3 回。

(2) 定常状態の概念。生成速度と崩壊速度が等しいとき、濃度は一定に保たれる。これを「ダイナミックな平衡」と理解するとよい。

(3) 生物が生きている間は「外部から 14C を補給しながら同時に崩壊も進む」ため比率一定。死亡後は補給が止まり崩壊のみ。この「リセット時刻が死亡時」であることが年代測定の前提。

採点ポイント(各4点、計12点)
  • (1) (1/2)³ または 3回分の半減期に言及(2点)、計算結果 17190 年(2点)
  • (2) 生成と崩壊が「つり合っている」ことに言及(4点)
  • (3) 生存中は比率一定・死亡後に 14C のみ減少することの両方に言及(各2点)

C 発展レベル

2-2-3 C 発展 計算・総合

塩素には 35Cl と 37Cl の2種類の安定同位体があり、相対質量はそれぞれ 35.0 と 37.0 である。以下の問いに答えよ。

(1) 35Cl の天然存在比が 75.8%、37Cl の天然存在比が 24.2% のとき、塩素の原子量を小数第1位まで求めよ。

(2) 塩素分子 Cl2 には、35Cl と 37Cl の組み合わせにより何種類の分子が存在するか答えよ。また、それぞれの質量数を答えよ。

(3) 35Cl と 37Cl は化学的性質がほぼ同じである。この事実を原子の構造の観点から説明せよ(50字以内)。

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解答

(1) 35.0 × 75.8/100 + 37.0 × 24.2/100 = 26.53 + 8.954 = 35.484 ≒ 35.5

(2) 3種類35Cl–35Cl(質量数 70)、35Cl–37Cl(質量数 72)、37Cl–37Cl(質量数 74)

(3) 35Cl も 37Cl も陽子数は 17 で同じなので電子の数と配置が同じとなり、化学的性質がほぼ同じになる。(47字)

解説

(1) 原子量 = 各同位体の相対質量 × 存在比(小数)の総和。存在比はパーセントを 100 で割って小数に直すことを忘れない。

(2) 組み合わせは (35Cl, 35Cl)、(35Cl, 37Cl)、(37Cl, 37Cl) の3通り。35Cl–37Cl と 37Cl–35Cl は同一分子なので2種類ではなく3種類と数えることに注意。質量数は原子2個分の和:70・72・74。

(3) 化学的性質の決め手は「電子の配置」。電子の数は陽子数で決まるため、同位体は陽子数が同じ→電子配置が同じ→化学的性質もほぼ同じ。

採点ポイント(計12点)
  • (1) 計算式(2点)、正しい答え 35.5(2点)
  • (2) 3種類(2点)、3つの質量数すべて正解(2点)
  • (3) 陽子数が同じ→電子数・電子配置が同じに言及(4点)