原子の化学的な性質は、電子がどの殻にどう配置されているかで決まります。
電子殻・電子配置・価電子という3つの概念を正確に理解することが、
イオン結合・共有結合・金属結合をすべて理解する出発点になります。
原子の中の電子は、原子核の周囲をランダムに飛び回っているのではなく、決まった電子殻とよばれる層(空間)に分かれて存在しています。電子殻は内側から順に K殻、L殻、M殻、N殻…と名づけられており、それぞれに収容できる電子の最大数が決まっています。
内側からヵ番目の電子殻に収容できる電子の最大数は 2n² 個です。
| 電子殻 | 記号 | n(番号) | 最大収容電子数(2n²) |
|---|---|---|---|
| K殻 | K | 1 | 2個 |
| L殻 | L | 2 | 8個 |
| M殻 | M | 3 | 18個 |
| N殻 | N | 4 | 32個 |
最大数の電子が収容された電子殻を閉殻といいます。たとえばヘリウム He のK殻(2個で満杯)は閉殻です。閉殻構造は化学的に非常に安定です。
原子内の電子は、エネルギーの低い内側の電子殻から順に収容されます。これを電子配置といいます。
K殻→L殻→M殻の順に電子が入ります。たとえばナトリウム Na(原子番号 11)は、K殻に2個、L殻に8個、M殻に1個の電子が配置されます。この電子配置を「K2, L8, M1」と表すこともあります。
最も外側の電子殻(最外殻)に収容される電子には制限があります。
M殻の最大収容数は18個ですが、M殻が最外殻になるのは原子番号 11〜18(Na〜Ar)の場合だけで、このときも最外殻に入る電子は8個までです。M殻に18個まで電子が入るのは遷移元素(原子番号 21〜 の元素)においてM殻が内殻になった場合に限られます。
カリウム K(原子番号19)、カルシウム Ca(原子番号20)では、M殻の3d軌道よりもN殻の4s軌道の方がエネルギー的に低い状態にあります。そのため、M殻に18個電子を詰め込むよりも、M殻に8個を収容してN殻の4s軌道に電子を先に入れる方が安定です。高校化学の範囲では「K、CaはM殻が8個でN殻に入る」という事実を覚えれば十分です。
原子番号1〜20(H〜Ca)の電子配置を一覧します。青字・太字は最外殻電子の数を示します。
| 原子番号 | 元素記号 | 元素名 | K殻 | L殻 | M殻 | N殻 | 最外殻電子 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | H | 水素 | 1 | — | — | — | 1 |
| 2 | He | ヘリウム | 2 | — | — | — | 2(希ガス) |
| 3 | Li | リチウム | 2 | 1 | — | — | 1 |
| 4 | Be | ベリリウム | 2 | 2 | — | — | 2 |
| 5 | B | ホウ素 | 2 | 3 | — | — | 3 |
| 6 | C | 炭素 | 2 | 4 | — | — | 4 |
| 7 | N | 窒素 | 2 | 5 | — | — | 5 |
| 8 | O | 酸素 | 2 | 6 | — | — | 6 |
| 9 | F | フッ素 | 2 | 7 | — | — | 7 |
| 10 | Ne | ネオン | 2 | 8 | — | — | 8(希ガス) |
| 11 | Na | ナトリウム | 2 | 8 | 1 | — | 1 |
| 12 | Mg | マグネシウム | 2 | 8 | 2 | — | 2 |
| 13 | Al | アルミニウム | 2 | 8 | 3 | — | 3 |
| 14 | Si | ケイ素 | 2 | 8 | 4 | — | 4 |
| 15 | P | リン | 2 | 8 | 5 | — | 5 |
| 16 | S | 硫黄 | 2 | 8 | 6 | — | 6 |
| 17 | Cl | 塩素 | 2 | 8 | 7 | — | 7 |
| 18 | Ar | アルゴン | 2 | 8 | 8 | — | 8(希ガス) |
| 19 | K | カリウム | 2 | 8 | 8 | 1 | 1 |
| 20 | Ca | カルシウム | 2 | 8 | 8 | 2 | 2 |
K・Ca では M殻が8個でとまり、N殻に電子が入ることに注意してください。また希ガス(He, Ne, Ar)では最外殻が完全に満たされた(または安定な)状態になっています。
原子がイオンになったり、他の原子と結びついたりするときに重要なはたらきをする電子を価電子といいます。
一般に、価電子の数は最外殻電子の数と等しいです。ただし、希ガス(He, Ne, Ar など)は電子配置が安定しており、化学反応にほとんど関与しないため、価電子の数は0と定めます。
| 元素(例) | 最外殻電子数 | 価電子数 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Na(ナトリウム) | 1 | 1 | 価電子を失って Na⁺ になりやすい |
| Mg(マグネシウム) | 2 | 2 | 価電子を失って Mg²⁺ になりやすい |
| Cl(塩素) | 7 | 7 | 電子を1個受け取って Cl⁻ になりやすい |
| Ne(ネオン) | 8 | 0 | 希ガス:価電子は0と定める |
| Ar(アルゴン) | 8 | 0 | 希ガス:価電子は0と定める |
| He(ヘリウム) | 2 | 0 | 希ガス:価電子は0と定める |
価電子の数が同じ原子どうしは、互いに似た化学的性質を示します。たとえば Li(価電子1個)と Na(価電子1個)はどちらも「価電子を1個失って1価の陽イオンになりやすい」という共通の性質をもちます。この事実が周期表の「族」の概念の根拠となっています。
「ネオンの最外殻電子数はいくつか」→ 8個(L殻に8個ある)
「ネオンの価電子数はいくつか」→ 0個(希ガスの価電子は0と定める)
「最外殻電子数=価電子数」は希ガス以外に成り立つルールです。希ガスでは最外殻電子は存在しますが、化学反応に参加しないため価電子を0と定義します。試験でこの2つを混同するミスが非常に多いので注意してください。
He(K殻に2個)、Ne・Ar以降の希ガス(最外殻に8個)は、最外殻が安定な状態になっており、反応性が極めて低いことが知られています。このような安定な電子配置を希ガス型電子配置といいます。
He のK殻は2個で閉殻(K殻の最大収容数に達した状態)です。NeとAr以降の希ガスでは、最外殻に8個の電子が収容された状態であり、最大数には達していなくても閉殻と同様の安定した状態にあります。
希ガス以外の原子は、希ガスと同じ電子配置(希ガス型電子配置)になろうとする傾向があります。これがイオン化・共有結合の原動力です。
「原子は希ガス型電子配置を目指す」というこの1つの原理が、化学全体の結合論の基盤です。価電子が少なければ電子を失って陽イオンに(→イオン結合へ)、価電子が多ければ電子を受け取って陰イオンに(→イオン結合へ)、価電子が中程度であれば電子を共有して(→共有結合へ)、それぞれ希ガス型電子配置を達成しようとします。電子配置を正確に把握することが、あらゆる化学反応を理解するための第一歩です。
電子配置の概念は、化学のほぼすべての分野と直結しています。
Q1. K殻・L殻・M殻・N殻の最大収容電子数をそれぞれ答えてください。
Q2. 原子番号17の塩素 Cl の電子配置を「K○, L○, M○」の形で答え、価電子の数も述べてください。
Q3. ネオン Ne の最外殻電子数と価電子数はそれぞれいくつですか。異なる値になる理由も説明してください。
Q4. カリウム K(原子番号19)の電子配置が「K2, L8, M8, N1」になり、M殻に18個まで詰め込まれないのはなぜですか。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
電子配置に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
①③⑤
① 正しい。K殻:2個、L殻:8個、M殻:18個(2n²の公式)。② 誤り。Neは希ガスなので価電子は0個と定める(最外殻電子数8個と混同しないこと)。③ 正しい。価電子の数が同族元素の化学的性質の類似の根拠。④ 誤り。K(原子番号19)の電子配置は K2, L8, M8, N1 である(M殻は8個どまり)。⑤ 正しい。希ガス型電子配置の達成がイオン化・共有結合の原動力。
原子番号 11 のナトリウム Na と原子番号 17 の塩素 Cl について、以下の問いに答えよ。
(1) Na と Cl それぞれの電子配置(K○, L○, M○ の形)と価電子の数を答えよ。
(2) Na が安定なイオンになるとき、何電子を失って何価の陽イオンになるか。また、そのイオンと電子配置が同じ希ガスを答えよ。
(3) Cl が安定なイオンになるとき、何電子を受け取って何価の陰イオンになるか。また、そのイオンと電子配置が同じ希ガスを答えよ。
(1) Na:K2, L8, M1、価電子1個。Cl:K2, L8, M7、価電子7個。
(2) 1個の電子を失って1価の陽イオン Na⁺ になる。Na⁺ の電子配置(K2, L8)はネオン Ne と同じ。
(3) 1個の電子を受け取って1価の陰イオン Cl⁻ になる。Cl⁻ の電子配置(K2, L8, M8)はアルゴン Ar と同じ。
Na は最外殻(M殻)に1個しか電子がなく、この価電子を失って M殻が空になると、最外殻がL殻(8個)の安定な希ガス型電子配置( Ne 型)になります。Cl は最外殻(M殻)に7個の電子があり、あと1個受け取ると M殻が8個になって安定な希ガス型電子配置(Ar 型)になります。イオンの電子配置が、原子番号が最も近い希ガスと一致することを確認してください。
次の(ア)〜(オ)の電子配置をもつ原子について、各問いに答えよ。
(1) (ア)〜(オ)の原子の名称と価電子の数をそれぞれ答えよ。
(2) 価電子を失いやすい(陽イオンになりやすい)原子を(ア)〜(オ)からすべて選べ。
(3) 電子配置が安定で化合物をつくりにくい原子を(ア)〜(オ)から選び、その理由を電子配置に基づいて述べよ。
(1) (ア)リチウム Li・価電子1個、(イ)マグネシウム Mg・価電子2個、(ウ)塩素 Cl・価電子7個、(エ)カリウム K・価電子1個、(オ)ネオン Ne・価電子0個
(2) (ア)(イ)(エ)(価電子数が少なく電子を失って希ガス型電子配置になりやすい)
(3) (オ)ネオン Ne。L殻に8個の電子が収容されており、希ガス型の安定な電子配置になっている。電子を失ったり受け取ったりしてこの配置を変えるには大きなエネルギーが必要なため、イオンになりにくく、他の原子とも反応しにくい。
(1) 電子配置から原子番号(電子総数)を数えます。(ア)2+1=3→Li、(イ)2+8+2=12→Mg、(ウ)2+8+7=17→Cl、(エ)2+8+8+1=19→K、(オ)2+8=10→Ne。価電子は最外殻電子数に等しい(希ガスのみ0)。
(2) 価電子が少ない(1〜3個)原子は、価電子を失うだけで希ガス型電子配置に近づきやすいため陽イオンになりやすい。(ア)Li は価電子1個を失って He 型に、(イ)Mg は価電子2個を失って Ne 型に、(エ)K は価電子1個を失って Ar 型になります。
(3) (オ)Ne は L殻に8個の電子が収容された希ガス型の安定な電子配置です。He の「K殻閉殻(2個)」とともに、Ne(最外殻8個)もエネルギー的に極めて安定な状態にあり、これ以上電子を加えても取り除いても不安定になるため、化合物をほとんどつくりません。