第2章 原子の構造と周期表

電子配置と電子殻

原子の化学的な性質は、電子がどの殻にどう配置されているかで決まります。
電子殻・電子配置・価電子という3つの概念を正確に理解することが、
イオン結合・共有結合・金属結合をすべて理解する出発点になります。

1電子殻

原子の中の電子は、原子核の周囲をランダムに飛び回っているのではなく、決まった電子殻とよばれる層(空間)に分かれて存在しています。電子殻は内側から順に K殻、L殻、M殻、N殻…と名づけられており、それぞれに収容できる電子の最大数が決まっています。

内側からヵ番目の電子殻に収容できる電子の最大数は 2n² 個です。

電子殻 記号 n(番号) 最大収容電子数(2n²)
K殻K12個
L殻L28個
M殻M318個
N殻N432個

最大数の電子が収容された電子殻を閉殻といいます。たとえばヘリウム He のK殻(2個で満杯)は閉殻です。閉殻構造は化学的に非常に安定です。

2電子の配置規則

原子内の電子は、エネルギーの低い内側の電子殻から順に収容されます。これを電子配置といいます。

内側から順に埋まる

K殻→L殻→M殻の順に電子が入ります。たとえばナトリウム Na(原子番号 11)は、K殻に2個、L殻に8個、M殻に1個の電子が配置されます。この電子配置を「K2, L8, M1」と表すこともあります。

最外殻電子は最大8個まで

最も外側の電子殻(最外殻)に収容される電子には制限があります。

  • K殻が最外殻のとき:最大2個(K殻の最大収容数と同じ)
  • L殻以降が最外殻のとき:最大8個まで

M殻の最大収容数は18個ですが、M殻が最外殻になるのは原子番号 11〜18(Na〜Ar)の場合だけで、このときも最外殻に入る電子は8個までです。M殻に18個まで電子が入るのは遷移元素(原子番号 21〜 の元素)においてM殻が内殻になった場合に限られます。

補足:KとCaでM殻が8個止まりになる理由大学

カリウム K(原子番号19)、カルシウム Ca(原子番号20)では、M殻の3d軌道よりもN殻の4s軌道の方がエネルギー的に低い状態にあります。そのため、M殻に18個電子を詰め込むよりも、M殻に8個を収容してN殻の4s軌道に電子を先に入れる方が安定です。高校化学の範囲では「K、CaはM殻が8個でN殻に入る」という事実を覚えれば十分です。

3原子番号1〜20の電子配置

原子番号1〜20(H〜Ca)の電子配置を一覧します。青字・太字は最外殻電子の数を示します。

原子番号 元素記号 元素名 K殻 L殻 M殻 N殻 最外殻電子
1H水素11
2Heヘリウム22(希ガス)
3Liリチウム211
4Beベリリウム222
5Bホウ素233
6C炭素244
7N窒素255
8O酸素266
9Fフッ素277
10Neネオン288(希ガス)
11Naナトリウム2811
12Mgマグネシウム2822
13Alアルミニウム2833
14Siケイ素2844
15Pリン2855
16S硫黄2866
17Cl塩素2877
18Arアルゴン2888(希ガス)
19Kカリウム28811
20Caカルシウム28822

K・Ca では M殻が8個でとまり、N殻に電子が入ることに注意してください。また希ガス(He, Ne, Ar)では最外殻が完全に満たされた(または安定な)状態になっています。

4価電子

原子がイオンになったり、他の原子と結びついたりするときに重要なはたらきをする電子を価電子といいます。

一般に、価電子の数は最外殻電子の数と等しいです。ただし、希ガス(He, Ne, Ar など)は電子配置が安定しており、化学反応にほとんど関与しないため、価電子の数は0と定めます。

元素(例)最外殻電子数価電子数備考
Na(ナトリウム)11価電子を失って Na⁺ になりやすい
Mg(マグネシウム)22価電子を失って Mg²⁺ になりやすい
Cl(塩素)77電子を1個受け取って Cl⁻ になりやすい
Ne(ネオン)80希ガス:価電子は0と定める
Ar(アルゴン)80希ガス:価電子は0と定める
He(ヘリウム)20希ガス:価電子は0と定める

価電子の数が同じ原子どうしは、互いに似た化学的性質を示します。たとえば Li(価電子1個)と Na(価電子1個)はどちらも「価電子を1個失って1価の陽イオンになりやすい」という共通の性質をもちます。この事実が周期表の「族」の概念の根拠となっています。

落とし穴:希ガスの最外殻電子数と価電子数の混同

「ネオンの最外殻電子数はいくつか」→ 8個(L殻に8個ある)

「ネオンの価電子数はいくつか」→ 0個(希ガスの価電子は0と定める)

「最外殻電子数=価電子数」は希ガス以外に成り立つルールです。希ガスでは最外殻電子は存在しますが、化学反応に参加しないため価電子を0と定義します。試験でこの2つを混同するミスが非常に多いので注意してください。

5希ガスの安定性

He(K殻に2個)、Ne・Ar以降の希ガス(最外殻に8個)は、最外殻が安定な状態になっており、反応性が極めて低いことが知られています。このような安定な電子配置を希ガス型電子配置といいます。

He のK殻は2個で閉殻(K殻の最大収容数に達した状態)です。NeとAr以降の希ガスでは、最外殻に8個の電子が収容された状態であり、最大数には達していなくても閉殻と同様の安定した状態にあります。

希ガスはなぜ安定なのか
希ガスは最外殻電子がHe:2個 / Ne以降:8個という特別な配置をとる
この配置では電子が対称的・均等に分布しており、エネルギー的に非常に安定な状態にある
電子を失ったり受け取ったりして他の配置に変わるには、大きなエネルギーが必要
イオンになりにくく、他の原子と反応しにくい → 反応性が極めて低い

他の原子は希ガス型電子配置を目指す

希ガス以外の原子は、希ガスと同じ電子配置(希ガス型電子配置)になろうとする傾向があります。これがイオン化・共有結合の原動力です。

  • Na(価電子1個):価電子を1個失って Na⁺ → Ne と同じ電子配置(K2, L8)になる
  • Cl(価電子7個):電子を1個受け取って Cl⁻ → Ar と同じ電子配置(K2, L8, M8)になる
  • C(価電子4個):電子を4個共有してそれぞれ8個の最外殻電子を確保 → 共有結合
本質:電子配置がすべての化学結合の基盤

「原子は希ガス型電子配置を目指す」というこの1つの原理が、化学全体の結合論の基盤です。価電子が少なければ電子を失って陽イオンに(→イオン結合へ)、価電子が多ければ電子を受け取って陰イオンに(→イオン結合へ)、価電子が中程度であれば電子を共有して(→共有結合へ)、それぞれ希ガス型電子配置を達成しようとします。電子配置を正確に把握することが、あらゆる化学反応を理解するための第一歩です。

6この章を俯瞰する

電子配置の概念は、化学のほぼすべての分野と直結しています。

他の章へのつながりマップ

  • 周期表と元素の周期性 → 2-4:価電子の数が同じ元素が同じ族に並ぶ理由。電子配置が周期表の縦・横の規則性の根拠になる。
  • イオンとイオン結合 → 3-1:原子がイオンになるのは「希ガス型電子配置を達成するため」。価電子数が少ない原子は電子を失って陽イオンに、価電子数が多い原子は電子を受け取って陰イオンになる。
  • 共有結合と分子 → 3-2〜3:非金属元素の原子どうしが価電子を共有するのも、それぞれが希ガス型電子配置を達成するためである。
  • 金属結合 → 3-4:金属元素の原子は価電子が少なく、価電子が原子から離れて自由電子となる。電子配置の理解が金属の特性(電気伝導性・展延性)の説明につながる。
  • 電気陰性度・酸化還元 → 6章・8章:どの原子が電子を奪いやすいか(電気陰性度)、どの原子が電子を失いやすいか(イオン化エネルギー)は、すべて電子配置から理解できる。

7まとめ

  • 電子は電子殻(K, L, M, N…)に分かれて存在し、内側からヵ番目の殻の最大収容数は 2n²
  • 電子は内側の電子殻から順に収容される(K→L→M→N)
  • 最外殻電子はK殻を除き最大8個まで(M殻が最外殻のときも8個どまり)
  • K, Caは M殻が8個でとまり、N殻に電子が入る
  • 最大数の電子が収容された電子殻を閉殻という
  • 価電子=化学結合に関与する最外殻電子。希ガスの価電子は0と定める
  • 希ガスは最外殻が安定な状態にあり反応性が極めて低い(He:閉殻、Ne以降:最外殻8個)
  • 他の原子は希ガス型電子配置を目指してイオン化・共有結合を行う

8確認テスト

Q1. K殻・L殻・M殻・N殻の最大収容電子数をそれぞれ答えてください。

▶ クリックして解答を表示K殻:2個、L殻:8個、M殻:18個、N殻:32個(公式:内側からヵ番目の殻の最大収容数は 2n²)

Q2. 原子番号17の塩素 Cl の電子配置を「K○, L○, M○」の形で答え、価電子の数も述べてください。

▶ クリックして解答を表示K2, L8, M7。最外殻(M殻)に7個あるので価電子は7個。あと1個で希ガス型の電子配置(M殻8個)になれるため、電子を1個受け取って Cl⁻ になりやすい。

Q3. ネオン Ne の最外殻電子数と価電子数はそれぞれいくつですか。異なる値になる理由も説明してください。

▶ クリックして解答を表示最外殻電子数:8個、価電子数:0個。希ガスはすでに安定な電子配置にあり化学反応に関与しないため、価電子の数は0と定められる。最外殻に電子は存在するが、「化学結合に働く電子」として数えない。

Q4. カリウム K(原子番号19)の電子配置が「K2, L8, M8, N1」になり、M殻に18個まで詰め込まれないのはなぜですか。

▶ クリックして解答を表示M殻の3d軌道よりも N殻の4s軌道の方がエネルギー的に低い状態にあるため、電子は M殻3d軌道に入る前に N殻4s軌道に入る方が安定になるから。(高校範囲では「KとCaはM殻が8個でとまり、N殻に電子が入る」という事実を押さえておけばよい。)

9入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

2-3-1 A 基礎 選択

電子配置に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。

  • ① K殻・L殻・M殻の最大収容電子数はそれぞれ2, 8, 18個である。
  • ② ネオン Ne の価電子は8個である。
  • ③ 価電子の数が同じ原子どうしは、互いに似た化学的性質を示す。
  • ④ カリウム K(原子番号19)の電子配置は K2, L8, M9 である。
  • ⑤ 原子がイオンになるのは、希ガス型電子配置を達成するためである。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

①③⑤

解説

① 正しい。K殻:2個、L殻:8個、M殻:18個(2n²の公式)。② 誤り。Neは希ガスなので価電子は0個と定める(最外殻電子数8個と混同しないこと)。③ 正しい。価電子の数が同族元素の化学的性質の類似の根拠。④ 誤り。K(原子番号19)の電子配置は K2, L8, M8, N1 である(M殻は8個どまり)。⑤ 正しい。希ガス型電子配置の達成がイオン化・共有結合の原動力。

B 標準レベル

2-3-2 B 標準 記述

原子番号 11 のナトリウム Na と原子番号 17 の塩素 Cl について、以下の問いに答えよ。

(1) Na と Cl それぞれの電子配置(K○, L○, M○ の形)と価電子の数を答えよ。

(2) Na が安定なイオンになるとき、何電子を失って何価の陽イオンになるか。また、そのイオンと電子配置が同じ希ガスを答えよ。

(3) Cl が安定なイオンになるとき、何電子を受け取って何価の陰イオンになるか。また、そのイオンと電子配置が同じ希ガスを答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) Na:K2, L8, M1、価電子1個。Cl:K2, L8, M7、価電子7個。

(2) 1個の電子を失って1価の陽イオン Na⁺ になる。Na⁺ の電子配置(K2, L8)はネオン Ne と同じ。

(3) 1個の電子を受け取って1価の陰イオン Cl⁻ になる。Cl⁻ の電子配置(K2, L8, M8)はアルゴン Ar と同じ。

解説

Na は最外殻(M殻)に1個しか電子がなく、この価電子を失って M殻が空になると、最外殻がL殻(8個)の安定な希ガス型電子配置( Ne 型)になります。Cl は最外殻(M殻)に7個の電子があり、あと1個受け取ると M殻が8個になって安定な希ガス型電子配置(Ar 型)になります。イオンの電子配置が、原子番号が最も近い希ガスと一致することを確認してください。

採点ポイント(配点例:各2点×5=10点)
  • (1) Na・Cl の電子配置各1点、価電子数各1点
  • (2) 電子数・イオンの価数・希ガス名各1点
  • (3) 電子数・イオンの価数・希ガス名各1点

C 発展レベル

2-3-3 C 発展 論述

次の(ア)〜(オ)の電子配置をもつ原子について、各問いに答えよ。

  • (ア)K2, L1
  • (イ)K2, L8, M2
  • (ウ)K2, L8, M7
  • (エ)K2, L8, M8, N1
  • (オ)K2, L8

(1) (ア)〜(オ)の原子の名称と価電子の数をそれぞれ答えよ。

(2) 価電子を失いやすい(陽イオンになりやすい)原子を(ア)〜(オ)からすべて選べ。

(3) 電子配置が安定で化合物をつくりにくい原子を(ア)〜(オ)から選び、その理由を電子配置に基づいて述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) (ア)リチウム Li・価電子1個、(イ)マグネシウム Mg・価電子2個、(ウ)塩素 Cl・価電子7個、(エ)カリウム K・価電子1個、(オ)ネオン Ne・価電子0個

(2) (ア)(イ)(エ)(価電子数が少なく電子を失って希ガス型電子配置になりやすい)

(3) (オ)ネオン Ne。L殻に8個の電子が収容されており、希ガス型の安定な電子配置になっている。電子を失ったり受け取ったりしてこの配置を変えるには大きなエネルギーが必要なため、イオンになりにくく、他の原子とも反応しにくい。

解説

(1) 電子配置から原子番号(電子総数)を数えます。(ア)2+1=3→Li、(イ)2+8+2=12→Mg、(ウ)2+8+7=17→Cl、(エ)2+8+8+1=19→K、(オ)2+8=10→Ne。価電子は最外殻電子数に等しい(希ガスのみ0)。

(2) 価電子が少ない(1〜3個)原子は、価電子を失うだけで希ガス型電子配置に近づきやすいため陽イオンになりやすい。(ア)Li は価電子1個を失って He 型に、(イ)Mg は価電子2個を失って Ne 型に、(エ)K は価電子1個を失って Ar 型になります。

(3) (オ)Ne は L殻に8個の電子が収容された希ガス型の安定な電子配置です。He の「K殻閉殻(2個)」とともに、Ne(最外殻8個)もエネルギー的に極めて安定な状態にあり、これ以上電子を加えても取り除いても不安定になるため、化合物をほとんどつくりません。

採点ポイント(配点例:計12点)
  • (1) 5原子の名称・価電子各1点(計10点中5点)
  • (2) 3原子の正解(2点)
  • (3) 原子の特定(1点)、電子配置と安定性の関係を正しく記述(2点)