第2章 原子の構造と周期表

イオンの生成とイオン半径

原子は電子を失ったり受け取ったりして、電気を帯びた粒子「イオン」になります。
金属原子は電子を失って陽イオンに、非金属原子は電子を得て陰イオンになります。
いずれの場合も、希ガス型の安定な電子配置を達成することがイオン生成の原動力です。
この記事では、イオンの生成しくみと、原子・イオンの大きさの変化を系統的に理解します。

1イオンとは

原子は通常、陽子の数(正電荷)と電子の数(負電荷)が等しく、全体として電気的に中性です。しかし、何らかのきっかけで電子を失ったり受け取ったりすると、正負の電荷のバランスが崩れ、電気を帯びた粒子になります。このように電気を帯びた粒子をイオンといいます。

  • 陽イオン(positive ion / cation):電子を失い、正の電荷をもつイオン
  • 陰イオン(negative ion / anion):電子を得て、負の電荷をもつイオン

イオンがもつ電荷の大きさを価数といい、失った(または得た)電子の数に等しくなります。例えば Na+ は1価の陽イオン、Ca2+ は2価の陽イオンです。

本質:イオン生成の原動力は希ガス型電子配置の安定性

原子がイオンになる最大の理由は、最外殻電子が8個(K殻のみの場合は2個)の希ガス型電子配置が非常に安定だからです。金属原子は最外殻の電子を放出することで、非金属原子は電子を受け入れることで、それぞれ最も近い希ガス(Ne、Ar など)と同じ電子配置を実現しようとします。この「安定な電子配置を得たい」という傾向が、すべてのイオン化反応の根本にあります。

2陽イオンの生成

金属原子は一般に価電子の数が少なく(1〜3個)、その電子を放出することで希ガス型の安定な電子配置を達成しやすいため、陽イオンになりやすい(陽性が強い)性質をもちます。

ナトリウムイオン Na+の生成

ナトリウム原子 Na(原子番号11)の電子配置は K殻2個、L殻8個、M殻1個です。M殻の1個の価電子を放出すると、L殻が最外殻となり、ネオン Ne(原子番号10)と同じ電子配置(K殻2個、L殻8個)になります。

Na → Na+ + e (Ne型の電子配置)

Na は1個の電子を失うので1価の陽イオンになります。

マグネシウムイオン Mg2+の生成

マグネシウム原子 Mg(原子番号12)の電子配置は K殻2個、L殻8個、M殻2個です。M殻の2個の価電子を放出することで、Ne型の電子配置を達成します。

Mg → Mg2+ + 2e (Ne型の電子配置)

アルミニウムイオン Al3+の生成

アルミニウム原子 Al(原子番号13)の電子配置は K殻2個、L殻8個、M殻3個です。M殻の3個の価電子をすべて放出することで、Ne型の電子配置を達成します。

Al → Al3+ + 3e (Ne型の電子配置)

このように、第3周期の金属元素(Na、Mg、Al)はいずれも電子を放出してNe型の電子配置になります。一般に価電子の数が少ないほど陽イオンになりやすく、アルカリ金属(1族)は1価、アルカリ土類金属(2族)は2価の陽イオンになりやすい性質をもちます。

3陰イオンの生成

非金属原子は一般に価電子の数が多く(6〜7個)、あと少し電子を受け取れば希ガス型の電子配置を達成できるため、陰イオンになりやすい(陰性が強い)性質をもちます。

塩化物イオン Clの生成

塩素原子 Cl(原子番号17)の電子配置は K殻2個、L殻8個、M殻7個です。あと1個電子を受け取ることでM殻が8個になり、アルゴン Ar(原子番号18)と同じ電子配置(Ar型)を達成します。

Cl + e → Cl (Ar型の電子配置)

酸化物イオン O2−の生成

酸素原子 O(原子番号8)の電子配置は K殻2個、L殻6個です。L殻があと2個の電子を受け取ることで8個になり、ネオン Ne(原子番号10)と同じ電子配置(Ne型)を達成します。

O + 2e → O2− (Ne型の電子配置)

ハロゲン元素(17族:F、Cl、Br、I)は価電子が7個で1価の陰イオンになりやすく、酸素族(16族:O、S)は価電子が6個で2価の陰イオンになりやすい性質をもちます。

4イオンの表し方と主要イオン一覧

イオンを表す化学式をイオン式といいます。元素記号の右上に価数と符号(+または−)をつけて表します。価数が1の場合は数字を省略します(Na+、Cl など)。

単原子イオンと多原子イオン

1個の原子が電子を失ったり得たりしてできるイオンを単原子イオンといいます。一方、2個以上の原子が結合した原子団が電気を帯びたイオンを多原子イオンといいます。

代表的な多原子イオンには以下のものがあります。

  • アンモニウムイオン NH4+:1価の陽イオン
  • 水酸化物イオン OH:1価の陰イオン
  • 硝酸イオン NO3:1価の陰イオン
  • 硫酸イオン SO42−:2価の陰イオン
  • 炭酸イオン CO32−:2価の陰イオン
  • 炭酸水素イオン HCO3:1価の陰イオン
  • リン酸イオン PO43−:3価の陰イオン

主要なイオン一覧

区分 名称 イオン式 価数 電子配置(希ガス型)
陽イオン 水素イオン H+ +1 (電子なし)
ナトリウムイオン Na+ +1 Ne型(2, 8)
マグネシウムイオン Mg2+ +2 Ne型(2, 8)
アルミニウムイオン Al3+ +3 Ne型(2, 8)
アンモニウムイオン NH4+ +1 多原子イオン
陰イオン フッ化物イオン F −1 Ne型(2, 8)
塩化物イオン Cl −1 Ar型(2, 8, 8)
酸化物イオン O2− −2 Ne型(2, 8)
硫化物イオン S2− −2 Ar型(2, 8, 8)
水酸化物イオン OH −1 多原子イオン
硫酸イオン SO42− −2 多原子イオン
炭酸イオン CO32− −2 多原子イオン

5イオン半径

原子やイオンの大きさはイオン半径(または原子半径)で表します。原子がイオンになると大きさが変化します。その方向は電子を失うか得るかによって異なります。

陽イオンは元の原子より小さい

原子が電子を失って陽イオンになると、電子の数が減るため、電子間の反発(電子間反発)が弱まります。その結果、残った電子が原子核により強く引きつけられ、電子雲が縮小します。また、最外殻の電子がまるごとなくなることも多く、半径は大幅に小さくなります。

例:Na原子(0.186 nm)→ Na+(0.116 nm) 約38%縮小

陰イオンは元の原子より大きい

原子が電子を受け取って陰イオンになると、電子の数が増えるため、電子間反発が大きくなります。同じ原子核の正電荷で、より多くの電子を引きつけることになるので、電子1個あたりに作用する有効核電荷が減り、電子雲が膨らみます。その結果、半径は大きくなります。

例:Cl原子(0.099 nm)→ Cl(0.167 nm) 約69%拡大

等電子イオンの半径比較

電子配置が同じ(等電子)イオンどうしでは、原子番号が大きいほどイオン半径は小さくなります。原子番号が大きいほど原子核の正電荷(陽子の数)が大きく、同じ数の電子をより強く引きつけるからです。

ネオン Ne と同じ電子配置(2, 8)をもつイオンの半径を比較すると次のようになります。

O2−
原子番号 8
0.126 nm(最大)
F
原子番号 9
0.119 nm
Na+
原子番号 11
0.116 nm
Mg2+
原子番号 12
0.086 nm
Al3+
原子番号 13
0.068 nm(最小)

O2−、F、Na+、Mg2+、Al3+ はいずれも電子配置が(K殻2個、L殻8個)で同じですが、原子番号が8、9、11、12、13と増えるにつれて、原子核の正電荷が強まり、電子を引きつける力が増して半径が小さくなっています。

注意:Ne型等電子イオンのN(原子番号7)とO(原子番号8)

等電子イオン列は必ずしも連続した原子番号ではありません。例えばN(原子番号7)は通常Ne型の陰イオン(N3−)を形成しますが、化学的には不安定で高校化学では扱いません。O2−、F、Na+、Mg2+、Al3+ の5つが化学で頻出の等電子イオン列です。

Na+ が Na 原子より小さいのはなぜか
Na原子の電子配置:K殻2個、L殻8個、M殻1個(計11個)
M殻の電子1個を放出 → Na+ になる
M殻がまるごとなくなり、最外殻がL殻になる(電子配置:K殻2個、L殻8個)
同じ11個の陽子(原子核)が、10個の電子をより強く引きつける
→ 1個の陽子あたりの引力が増大
電子雲が縮小 → Na+(0.116 nm)は Na(0.186 nm)より著しく小さい

6この章を俯瞰する

イオンの概念は化学の多くの分野の基礎となっています。ここで学んだ知識が他のどの章とつながるかを確認しておきましょう。

  • イオン結合とイオン結晶 → 3-1「イオン結合とイオン結晶」:陽イオンと陰イオンが静電気力(クーロン力)で引き合ってできる結合と結晶構造を学ぶ。NaClなどの組成式の書き方もここで扱う。
  • 電解質と電離 → 酸・塩基の章:イオン結晶が水に溶けてイオンに分かれる「電離」の概念は、酸・塩基・中和の理解に直結する。
  • 酸化還元とイオン化傾向 → 酸化還元の章:金属が陽イオンになりやすい性質(陽性)は「イオン化傾向」として定量化され、電池・電気分解の理解の基礎になる。
  • イオン半径とイオン結晶の融点 → 3-1「イオン結晶」:イオン半径が小さいほどイオン間距離が縮まり、クーロン力が強まって融点が高くなる関係を学ぶ。
  • 配位結合と錯イオン → 共有結合の章:NH4+ や錯イオンは多原子イオンの発展的な例として登場する。

7まとめ

  • 電気を帯びた粒子をイオンという。電子を失うと陽イオン、電子を得ると陰イオンになる
  • 金属原子は価電子を放出して希ガス型電子配置の陽イオンになる(例:Na→Na+、Mg→Mg2+、Al→Al3+、いずれもNe型)
  • 非金属原子は電子を受け取って希ガス型電子配置の陰イオンになる(例:Cl→ClはAr型、O→O2−はNe型)
  • イオンを表す化学式をイオン式という。2個以上の原子からなるイオンを多原子イオンという(NH4+、OH、SO42−、CO32− など)
  • 陽イオンは元の原子より小さい(電子が減り電子間反発が弱まるため)
  • 陰イオンは元の原子より大きい(電子が増え電子間反発が強まるため)
  • 等電子イオンでは、原子番号が大きいほど原子核の正電荷が大きく、イオン半径は小さい(例:O2− > F > Na+ > Mg2+ > Al3+

8確認テスト

Q1. カルシウム原子 Ca が安定なイオンになるとき、何価の陽イオンになりますか。また、そのイオンと同じ電子配置をもつ希ガスは何ですか。

▶ クリックして解答を表示Ca は2族元素で価電子が2個あるため、2個の電子を放出して2価の陽イオン Ca2+ になります。電子配置は(K殻2個、L殻8個、M殻8個)となり、アルゴン Ar と同じ電子配置です。

Q2. 陽イオンは元の原子より小さいのはなぜか。「電子間反発」という語を使って説明してください。

▶ クリックして解答を表示原子が電子を放出して陽イオンになると、電子の数が減るため電子間反発が弱まります。同じ原子核の正電荷がより少ない電子を引きつけるため、電子雲が縮小し、イオン半径は元の原子より小さくなります。

Q3. O2−、F、Na+、Mg2+ を、イオン半径の大きい順に並べてください。

▶ クリックして解答を表示O2− > F > Na+ > Mg2+ これらはいずれもNe型(電子数10個)の等電子イオンです。原子番号がO(8) < F(9) < Na(11) < Mg(12) の順に大きくなり、原子核の正電荷が増すほど電子が強く引きつけられてイオンが小さくなります。

Q4. 次の多原子イオンの名称を答えてください。(1)NH4+ (2)SO42− (3)CO32− (4)OH

▶ クリックして解答を表示(1)アンモニウムイオン (2)硫酸イオン (3)炭酸イオン (4)水酸化物イオン

9入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

2-5-1 A 基礎 選択

イオンに関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。

  • ① ナトリウム原子 Na は電子を1個放出して Na+ になり、ネオン Ne と同じ電子配置をとる。
  • ② 塩素原子 Cl は電子を1個受け取って Cl になり、アルゴン Ar と同じ電子配置をとる。
  • ③ 陽イオンは元の原子より大きく、陰イオンは元の原子より小さい。
  • ④ SO42− は多原子イオンの一種であり、2価の陰イオンである。
  • ⑤ 等電子イオンでは、原子番号が大きいほどイオン半径が大きくなる。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

①②④

解説

① 正しい。Na(2, 8, 1)は電子1個を失って Na+(2, 8)となり Ne と同じ電子配置になります。② 正しい。Cl(2, 8, 7)は電子1個を得て Cl(2, 8, 8)となり Ar と同じ電子配置になります。③ 誤り。陽イオンは元の原子より小さく、陰イオンは元の原子より大きくなります。④ 正しい。硫酸イオン SO42− は複数の原子からなる多原子イオンで2価の陰イオンです。⑤ 誤り。等電子イオンでは原子番号が大きいほど原子核の正電荷が増し、電子をより強く引きつけるため、イオン半径は小さくなります。

B 標準レベル

2-5-2 B 標準 論述・計算

原子とイオンの大きさに関する以下の問いに答えよ。

(1) Mg 原子が Mg2+ になると、半径はどのように変化するか。理由とともに説明せよ。

(2) O2−、F、Na+、Mg2+ はすべて同じ電子配置をもつ。これら4種のイオンを半径の大きい順に並べ、その理由を説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 小さくなる。Mg(2, 8, 2)が電子を2個失って Mg2+(2, 8)になると、最外殻(M殻)がなくなる。また電子間反発が弱まり、同じ核電荷(陽子12個)でより少ない電子(10個)を引きつけるため、電子雲が縮小する。

(2) O2− > F > Na+ > Mg2+。これらは電子数10個の等電子イオンだが、原子番号はO(8) < F(9) < Na(11) < Mg(12) の順に大きくなる。原子番号が大きいほど原子核の正電荷が大きく、同じ10個の電子をより強く引きつけるため、イオン半径は小さくなる。

解説

(1) Mg は第3周期で電子配置が(2, 8, 2)、M殻に2個の価電子をもちます。この2個を放出すると電子配置は(2, 8)となり、L殻が最外殻になります。一方、陽子は12個のままですから、11個ではなく12個の陽子で10個の電子を引きつけることになり、有効核電荷が増して電子雲がよりコンパクトになります。

(2) 等電子イオンの比較では「同じ電子数で何個の陽子が引っ張っているか」が決め手です。O2− では陽子8個で電子10個を引くのに対し、Mg2+ では陽子12個で同じ10個の電子を引きます。引っ張る力が強いほど電子雲は縮小するため、陽子数が多い Mg2+ が最も小さくなります。

採点ポイント(配点例:各4点)
  • (1) 「小さくなる」と明示(1点)、最外殻(M殻)がなくなることに言及(1点)、電子間反発または有効核電荷の変化に言及(2点)
  • (2) 正しい順序(2点)、原子番号(核電荷)と引力の関係で理由を説明(2点)

C 発展レベル

2-5-3 C 発展 総合

銅 Cu は銅(I)イオン Cu+ と銅(II)イオン Cu2+ の2種類のイオンをとる。Cu2+ の電子の数は27個である。以下の問いに答えよ。

(1) Cu の原子番号を求め、考え方とともに答えよ。

(2) Cu+ の電子の数を答えよ。

(3) Cu+ と Cu2+ のイオン半径を比較すると、どちらが大きいか。理由とともに答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 原子番号29。Cu2+ は電子を2個失ったイオンなので、電子数27個に2を加えた29が陽子数(原子番号)になる。

(2) 28個。Cu の電子数は29個で、Cu+ は電子を1個失ったイオンなので29 − 1 = 28個。

(3) Cu+ の方が大きい。Cu+ と Cu2+ はいずれも陽子29個をもつが、Cu+ は電子28個、Cu2+ は電子27個をもつ。電子数が少ない Cu2+ の方が電子間反発が弱まり、原子核に強く引きつけられるため、半径は小さくなる。

解説

イオン化と電子数・陽子数の関係は基本中の基本です。原子がイオンになっても陽子の数は変わりません。失った電子の数がイオンの価数に等しいので、電子数 = 陽子数(原子番号) − 価数 という関係が成り立ちます。(3)では、同じ原子から生じた2種類のイオンを比較しているため、陽子数は等しく電子数だけが異なります。電子が少ない方が電子間反発が弱く、核電荷によってより強く引きつけられるため、半径は小さくなります。この考え方はイオン半径の大小比較全般に応用できます。

採点ポイント(配点例:各4点)
  • (1) 原子番号29(2点)、電子数+価数=原子番号の理由説明(2点)
  • (2) 28個(4点)
  • (3) Cu+ が大きいと正答(1点)、電子数の差と電子間反発・有効核電荷の変化で説明(3点)