原子は電子を失ったり受け取ったりして、電気を帯びた粒子「イオン」になります。
金属原子は電子を失って陽イオンに、非金属原子は電子を得て陰イオンになります。
いずれの場合も、希ガス型の安定な電子配置を達成することがイオン生成の原動力です。
この記事では、イオンの生成しくみと、原子・イオンの大きさの変化を系統的に理解します。
原子は通常、陽子の数(正電荷)と電子の数(負電荷)が等しく、全体として電気的に中性です。しかし、何らかのきっかけで電子を失ったり受け取ったりすると、正負の電荷のバランスが崩れ、電気を帯びた粒子になります。このように電気を帯びた粒子をイオンといいます。
イオンがもつ電荷の大きさを価数といい、失った(または得た)電子の数に等しくなります。例えば Na+ は1価の陽イオン、Ca2+ は2価の陽イオンです。
原子がイオンになる最大の理由は、最外殻電子が8個(K殻のみの場合は2個)の希ガス型電子配置が非常に安定だからです。金属原子は最外殻の電子を放出することで、非金属原子は電子を受け入れることで、それぞれ最も近い希ガス(Ne、Ar など)と同じ電子配置を実現しようとします。この「安定な電子配置を得たい」という傾向が、すべてのイオン化反応の根本にあります。
金属原子は一般に価電子の数が少なく(1〜3個)、その電子を放出することで希ガス型の安定な電子配置を達成しやすいため、陽イオンになりやすい(陽性が強い)性質をもちます。
ナトリウム原子 Na(原子番号11)の電子配置は K殻2個、L殻8個、M殻1個です。M殻の1個の価電子を放出すると、L殻が最外殻となり、ネオン Ne(原子番号10)と同じ電子配置(K殻2個、L殻8個)になります。
Na → Na+ + e− (Ne型の電子配置)
Na は1個の電子を失うので1価の陽イオンになります。
マグネシウム原子 Mg(原子番号12)の電子配置は K殻2個、L殻8個、M殻2個です。M殻の2個の価電子を放出することで、Ne型の電子配置を達成します。
Mg → Mg2+ + 2e− (Ne型の電子配置)
アルミニウム原子 Al(原子番号13)の電子配置は K殻2個、L殻8個、M殻3個です。M殻の3個の価電子をすべて放出することで、Ne型の電子配置を達成します。
Al → Al3+ + 3e− (Ne型の電子配置)
このように、第3周期の金属元素(Na、Mg、Al)はいずれも電子を放出してNe型の電子配置になります。一般に価電子の数が少ないほど陽イオンになりやすく、アルカリ金属(1族)は1価、アルカリ土類金属(2族)は2価の陽イオンになりやすい性質をもちます。
非金属原子は一般に価電子の数が多く(6〜7個)、あと少し電子を受け取れば希ガス型の電子配置を達成できるため、陰イオンになりやすい(陰性が強い)性質をもちます。
塩素原子 Cl(原子番号17)の電子配置は K殻2個、L殻8個、M殻7個です。あと1個電子を受け取ることでM殻が8個になり、アルゴン Ar(原子番号18)と同じ電子配置(Ar型)を達成します。
Cl + e− → Cl− (Ar型の電子配置)
酸素原子 O(原子番号8)の電子配置は K殻2個、L殻6個です。L殻があと2個の電子を受け取ることで8個になり、ネオン Ne(原子番号10)と同じ電子配置(Ne型)を達成します。
O + 2e− → O2− (Ne型の電子配置)
ハロゲン元素(17族:F、Cl、Br、I)は価電子が7個で1価の陰イオンになりやすく、酸素族(16族:O、S)は価電子が6個で2価の陰イオンになりやすい性質をもちます。
イオンを表す化学式をイオン式といいます。元素記号の右上に価数と符号(+または−)をつけて表します。価数が1の場合は数字を省略します(Na+、Cl− など)。
1個の原子が電子を失ったり得たりしてできるイオンを単原子イオンといいます。一方、2個以上の原子が結合した原子団が電気を帯びたイオンを多原子イオンといいます。
代表的な多原子イオンには以下のものがあります。
| 区分 | 名称 | イオン式 | 価数 | 電子配置(希ガス型) |
|---|---|---|---|---|
| 陽イオン | 水素イオン | H+ | +1 | (電子なし) |
| ナトリウムイオン | Na+ | +1 | Ne型(2, 8) | |
| マグネシウムイオン | Mg2+ | +2 | Ne型(2, 8) | |
| アルミニウムイオン | Al3+ | +3 | Ne型(2, 8) | |
| アンモニウムイオン | NH4+ | +1 | 多原子イオン | |
| 陰イオン | フッ化物イオン | F− | −1 | Ne型(2, 8) |
| 塩化物イオン | Cl− | −1 | Ar型(2, 8, 8) | |
| 酸化物イオン | O2− | −2 | Ne型(2, 8) | |
| 硫化物イオン | S2− | −2 | Ar型(2, 8, 8) | |
| 水酸化物イオン | OH− | −1 | 多原子イオン | |
| 硫酸イオン | SO42− | −2 | 多原子イオン | |
| 炭酸イオン | CO32− | −2 | 多原子イオン |
原子やイオンの大きさはイオン半径(または原子半径)で表します。原子がイオンになると大きさが変化します。その方向は電子を失うか得るかによって異なります。
原子が電子を失って陽イオンになると、電子の数が減るため、電子間の反発(電子間反発)が弱まります。その結果、残った電子が原子核により強く引きつけられ、電子雲が縮小します。また、最外殻の電子がまるごとなくなることも多く、半径は大幅に小さくなります。
例:Na原子(0.186 nm)→ Na+(0.116 nm) 約38%縮小
原子が電子を受け取って陰イオンになると、電子の数が増えるため、電子間反発が大きくなります。同じ原子核の正電荷で、より多くの電子を引きつけることになるので、電子1個あたりに作用する有効核電荷が減り、電子雲が膨らみます。その結果、半径は大きくなります。
例:Cl原子(0.099 nm)→ Cl−(0.167 nm) 約69%拡大
電子配置が同じ(等電子)イオンどうしでは、原子番号が大きいほどイオン半径は小さくなります。原子番号が大きいほど原子核の正電荷(陽子の数)が大きく、同じ数の電子をより強く引きつけるからです。
ネオン Ne と同じ電子配置(2, 8)をもつイオンの半径を比較すると次のようになります。
O2−、F−、Na+、Mg2+、Al3+ はいずれも電子配置が(K殻2個、L殻8個)で同じですが、原子番号が8、9、11、12、13と増えるにつれて、原子核の正電荷が強まり、電子を引きつける力が増して半径が小さくなっています。
等電子イオン列は必ずしも連続した原子番号ではありません。例えばN(原子番号7)は通常Ne型の陰イオン(N3−)を形成しますが、化学的には不安定で高校化学では扱いません。O2−、F−、Na+、Mg2+、Al3+ の5つが化学で頻出の等電子イオン列です。
イオンの概念は化学の多くの分野の基礎となっています。ここで学んだ知識が他のどの章とつながるかを確認しておきましょう。
Q1. カルシウム原子 Ca が安定なイオンになるとき、何価の陽イオンになりますか。また、そのイオンと同じ電子配置をもつ希ガスは何ですか。
Q2. 陽イオンは元の原子より小さいのはなぜか。「電子間反発」という語を使って説明してください。
Q3. O2−、F−、Na+、Mg2+ を、イオン半径の大きい順に並べてください。
Q4. 次の多原子イオンの名称を答えてください。(1)NH4+ (2)SO42− (3)CO32− (4)OH−
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
イオンに関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
①②④
① 正しい。Na(2, 8, 1)は電子1個を失って Na+(2, 8)となり Ne と同じ電子配置になります。② 正しい。Cl(2, 8, 7)は電子1個を得て Cl−(2, 8, 8)となり Ar と同じ電子配置になります。③ 誤り。陽イオンは元の原子より小さく、陰イオンは元の原子より大きくなります。④ 正しい。硫酸イオン SO42− は複数の原子からなる多原子イオンで2価の陰イオンです。⑤ 誤り。等電子イオンでは原子番号が大きいほど原子核の正電荷が増し、電子をより強く引きつけるため、イオン半径は小さくなります。
原子とイオンの大きさに関する以下の問いに答えよ。
(1) Mg 原子が Mg2+ になると、半径はどのように変化するか。理由とともに説明せよ。
(2) O2−、F−、Na+、Mg2+ はすべて同じ電子配置をもつ。これら4種のイオンを半径の大きい順に並べ、その理由を説明せよ。
(1) 小さくなる。Mg(2, 8, 2)が電子を2個失って Mg2+(2, 8)になると、最外殻(M殻)がなくなる。また電子間反発が弱まり、同じ核電荷(陽子12個)でより少ない電子(10個)を引きつけるため、電子雲が縮小する。
(2) O2− > F− > Na+ > Mg2+。これらは電子数10個の等電子イオンだが、原子番号はO(8) < F(9) < Na(11) < Mg(12) の順に大きくなる。原子番号が大きいほど原子核の正電荷が大きく、同じ10個の電子をより強く引きつけるため、イオン半径は小さくなる。
(1) Mg は第3周期で電子配置が(2, 8, 2)、M殻に2個の価電子をもちます。この2個を放出すると電子配置は(2, 8)となり、L殻が最外殻になります。一方、陽子は12個のままですから、11個ではなく12個の陽子で10個の電子を引きつけることになり、有効核電荷が増して電子雲がよりコンパクトになります。
(2) 等電子イオンの比較では「同じ電子数で何個の陽子が引っ張っているか」が決め手です。O2− では陽子8個で電子10個を引くのに対し、Mg2+ では陽子12個で同じ10個の電子を引きます。引っ張る力が強いほど電子雲は縮小するため、陽子数が多い Mg2+ が最も小さくなります。
銅 Cu は銅(I)イオン Cu+ と銅(II)イオン Cu2+ の2種類のイオンをとる。Cu2+ の電子の数は27個である。以下の問いに答えよ。
(1) Cu の原子番号を求め、考え方とともに答えよ。
(2) Cu+ の電子の数を答えよ。
(3) Cu+ と Cu2+ のイオン半径を比較すると、どちらが大きいか。理由とともに答えよ。
(1) 原子番号29。Cu2+ は電子を2個失ったイオンなので、電子数27個に2を加えた29が陽子数(原子番号)になる。
(2) 28個。Cu の電子数は29個で、Cu+ は電子を1個失ったイオンなので29 − 1 = 28個。
(3) Cu+ の方が大きい。Cu+ と Cu2+ はいずれも陽子29個をもつが、Cu+ は電子28個、Cu2+ は電子27個をもつ。電子数が少ない Cu2+ の方が電子間反発が弱まり、原子核に強く引きつけられるため、半径は小さくなる。
イオン化と電子数・陽子数の関係は基本中の基本です。原子がイオンになっても陽子の数は変わりません。失った電子の数がイオンの価数に等しいので、電子数 = 陽子数(原子番号) − 価数 という関係が成り立ちます。(3)では、同じ原子から生じた2種類のイオンを比較しているため、陽子数は等しく電子数だけが異なります。電子が少ない方が電子間反発が弱く、核電荷によってより強く引きつけられるため、半径は小さくなります。この考え方はイオン半径の大小比較全般に応用できます。