第20章 酸素を含む脂肪族化合物

アルコールとエーテル

アルコールはヒドロキシ基 −OH をもつ化合物です。水と混ざる・沸点が高い・ナトリウムと反応するといった特性はすべてこの −OH から生じます。
エーテルはアルコールの脱水縮合で生成し、R−O−R' の構造をもちます。
構造→性質→反応の流れを一本の筋として理解しましょう。

1アルコールの分類

基本構造と命名

アルコール(R−OH)は、炭化水素の水素原子をヒドロキシ基 −OH で置換した化合物です。アルコールの名称はアルカンの語尾 -e を -ol(オール)に変えてつけます(例:メタン→メタノール、エタン→エタノール)。

価数による分類:1価・多価アルコール

分子中の −OH の数に応じて分類します。−OH を 2 個以上もつものを多価アルコールといいます。

分類名称化学式特徴
1価メタノールCH3OH有毒、燃料・溶媒
1価エタノールC2H5OH酒類の成分、消毒薬
2価エチレングリコールHOCH2CH2OH不凍液・合成繊維原料
3価グリセリンHOCH2CH(OH)CH2OH油脂の構成成分、保湿剤

第一級・第二級・第三級アルコール

−OH が結合している炭素に、他の炭化水素基が何個結合しているかで分類します。

分類構造上の特徴酸化されると
第一級−OH の炭素に炭化水素基が 1 個(または 0 個)アルデヒド → カルボン酸1-プロパノール
第二級−OH の炭素に炭化水素基が 2 個ケトン2-プロパノール
第三級−OH の炭素に炭化水素基が 3 個酸化されにくい2-メチル-2-プロパノール
落とし穴:メタノールは「第一級」

メタノール CH3OH の −OH の炭素には炭化水素基が 0 個しか結合していません。定義上は「−OH の炭素に結合している炭化水素基が 1 個以下」なので第一級アルコールに分類されます。入試では「第一級アルコールはアルデヒドに酸化される」という記述に対して、メタノール(→ホルムアルデヒド)も含まれることを意識してください。

2アルコールの性質 ─ メタノール・エタノール

共通性質:なぜ沸点が高く、水に溶けるのか

アルコールのヒドロキシ基 −OH は、水分子と同様に水素結合を形成します。このため、分子量が同程度の炭化水素に比べて沸点が著しく高く、低分子量のアルコールは水に任意の割合で混和します。

炭素数が増えると水に溶けにくくなるのはなぜか
アルコールには親水基(−OH)疎水基(炭化水素基)が共存する
炭素数が増えると疎水基の割合が大きくなる
水分子との水素結合の効果が相対的に小さくなる
水への溶解性が低下(高級アルコールは水に溶けにくい)

メタノール CH3OH

メタノール(メチルアルコール)は無色で特有の臭いをもつ有毒な液体(沸点 65℃)です。水と任意の割合で混ざります。少量でも視神経を侵し、失明や死亡に至ることがあります。

  • 工業的製法:CO + 2H2 触媒(ZnO+CuO)→ CH3OH(合成ガスから)
  • 用途:燃料、溶媒、酢酸・ホルムアルデヒドなどの原料

エタノール C2H5OH

エタノール(エチルアルコール)は無色で芳香をもつ液体(沸点 78℃)です。水と任意の割合で混和します。飲料(酒類)・消毒薬(70% 水溶液)・溶媒・燃料として広く利用されます。

  • 工業的製法:CH2=CH2 + H2O 触媒(H3PO4)→ C2H5OH(エチレンへの水付加)
  • 生物的製法(発酵):C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2(グルコースのアルコール発酵)

ナトリウムとの反応(アルコールの弱酸性)

アルコールにナトリウム Na を加えると、−OH の H が Na に置換されて水素が発生します。

2C2H5OH + 2Na → 2C2H5ONa + H2

生成物はナトリウムアルコキシド(例:ナトリウムエトキシド C2H5ONa)といいます。この反応はアルコールの水溶液が中性を示すこと(電離はしない)と矛盾しません。Na との反応は電離ではなく酸化還元反応です。

3アルコールの反応

酸化反応:第一級・第二級・第三級の違い

アルコールを適切な酸化剤(二クロム酸カリウム硫酸酸性水溶液など)で酸化すると、級数に応じて異なる生成物を与えます。

第一級アルコール → アルデヒド(−2H)→ カルボン酸(+O)

CH3CH2OH → CH3CHO → CH3COOH

第二級アルコール → ケトン(−2H)

CH3CH(OH)CH3 → CH3COCH3

第三級アルコール → 酸化されにくい

第三級アルコールが酸化されにくいのはなぜか
酸化(脱水素)には −OH が結合している炭素から水素原子を奪う必要がある
第三級アルコールでは、その炭素に水素原子が結合していない
通常の酸化剤では酸化できない

脱水反応:温度で生成物が変わる

エタノールを濃硫酸とともに加熱すると、温度によって異なる脱水反応が起きます。

温度反応の種類主生成物反応式
130〜140℃分子間脱水(縮合)ジエチルエーテル2C2H5OH → C2H5OC2H5 + H2O
160〜170℃分子内脱水(脱離)エチレンC2H5OH → CH2=CH2 + H2O
落とし穴:温度を逆に覚えない

「低温(130〜140℃)でエーテル、高温(160〜170℃)でアルケン」と覚えます。温度が低いうちはアルコール 2 分子が接近できてエーテルが生じ、高温になると分子内反応が優先してアルケンが生じると理解しておくと忘れにくいです。

エステル化

アルコールにカルボン酸を混合して酸触媒(濃硫酸)を加えて加熱すると、エステルと水が生成します(可逆反応)。

CH3COOH + C2H5OH ⇄ CH3COOC2H5 + H2O

(酢酸 + エタノール ⇄ 酢酸エチル + 水)

エステル化の詳細は 20-4「エステルと油脂」で扱います。

4エーテル

構造と命名

エーテルは R−O−R' の構造をもち、エーテル結合(−O−)を官能基とする化合物です。2つの炭化水素基が同じ場合は「ジ〜エーテル」(例:ジエチルエーテル)、異なる場合は両者の名前を並べます。

ジエチルエーテル C2H5OC2H5

ジエチルエーテルは無色で特有の臭いをもつ揮発性の液体(沸点 35℃)です。引火しやすく、麻酔作用があります。

  • 水には溶けにくく(エーテル結合は水素結合ができない)、有機溶媒として広く用いられる
  • ファンデルワールス力のみで分子間が引き合うため、同程度の分子量のアルコール(エタノール: 沸点 78℃)より沸点が著しく低い
エーテルの本質:−O− はあるが、水素結合のドナーがない

エーテルの酸素原子は孤立電子対をもつため、水素結合のアクセプター(受け手)にはなれます。しかし、エーテル自身には水素結合のドナー(H−O や H−N のような活性水素)がありません。そのため、エーテル分子どうしは水素結合を形成できず、アルコールより沸点が大幅に低くなります。水(H2O)とはわずかに水素結合できますが、疎水性の炭化水素基が大きいため水への溶解性は低いです。

アルコールとエーテルは構造異性体

同じ分子式 C2H6O に対してエタノール(CH3CH2OH)とジメチルエーテル(CH3OCH3)の 2 種の構造異性体が存在します。ナトリウムと反応して水素を発生するか否か(−OH の有無)でアルコールとエーテルを区別できます。

5この節を俯瞰する

アルコールとエーテルは脂肪族有機化合物の入口です。ここでの知識が後続の単元すべての基礎になります。

  • 酸化の連鎖 → 20-2「アルデヒドとケトン」:第一級アルコールはアルデヒドへ、第二級アルコールはケトンへと酸化される。アルデヒドはさらにカルボン酸まで酸化される。
  • エステル化 → 20-4「エステルと油脂」:アルコール + カルボン酸 → エステル。油脂はグリセリンと脂肪酸のエステルである。
  • 脱水でアルケン → 19-2「アルケン」:アルコールの分子内脱水はアルケンの実験室的製法そのもの。
  • 水素結合と溶解性 → 3-5「分子間力」:アルコールの沸点・水溶性はすべて水素結合で説明できる。
  • エステル化の平衡 → 14-2「平衡定数」:酢酸とエタノールのエステル化は平衡反応。平衡定数の計算問題が頻出。

6まとめ

  • アルコール R−OH の性質(高沸点・水溶性・Na との反応)はすべて水素結合を形成する −OH から生じる
  • 第一級・第二級・第三級アルコールの違いは「−OH の炭素に結合する炭化水素基の数」
  • 酸化:第一級 → アルデヒド → カルボン酸第二級 → ケトン、第三級は酸化されにくい
  • 脱水:低温(130〜140℃)→ 分子間脱水 → エーテル、高温(160〜170℃)→ 分子内脱水 → アルケン
  • エーテル R−O−R':沸点が低く有機溶媒として有用、水素結合ドナーがないためアルコールより沸点が大幅に低い
  • エタノールとジメチルエーテルは構造異性体(分子式 C2H6O)

7確認テスト

Q1. 次の構造をもつアルコールを第一級・第二級・第三級に分類せよ。
(a) CH3CH2CH2OH (b) CH3CH(OH)CH3 (c) (CH3)3COH

▶ クリックして解答を表示(a) 第一級(−OH の炭素に炭化水素基 1 個)、(b) 第二級(−OH の炭素に炭化水素基 2 個)、(c) 第三級(−OH の炭素に炭化水素基 3 個)

Q2. エタノールを濃硫酸と混合して 160〜170℃に加熱すると何が生じるか。また 130〜140℃ではどうか。

▶ クリックして解答を表示160〜170℃:分子内脱水によりエチレン CH₂=CH₂ が生成。130〜140℃:分子間脱水(縮合)によりジエチルエーテル C₂H₅OC₂H₅ が生成。

Q3. エタノール(沸点 78℃)とジエチルエーテル(沸点 35℃)の沸点の違いを分子間力の観点から説明せよ。

▶ クリックして解答を表示エタノールは −OH をもち分子間で水素結合を形成するため、分子間引力が強く沸点が高い。ジエチルエーテルには水素結合のドナーとなる活性水素がなく、分子間力はファンデルワールス力のみのため沸点が低い。

Q4. 第二級アルコールである 2-プロパノール(CH3CH(OH)CH3)を酸化すると何が生じるか。構造式で答えよ。

▶ クリックして解答を表示アセトン CH₃COCH₃(ケトン)が生成する。第二級アルコールはケトンまでしか酸化されない。

8入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでください。

A 基礎レベル

20-1-1 A 基礎 選択

アルコールとエーテルに関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。

  • ① エタノールは水と任意の割合で混ざり合う。
  • ② ジエチルエーテルはエタノールと分子式が同じ構造異性体の関係にある。
  • ③ 第三級アルコールを酸化するとケトンが生成する。
  • ④ エタノールにナトリウムを加えると水素が発生し、ナトリウムエトキシドが生じる。
  • ⑤ アルコールの水溶液は強い塩基性を示す。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

①④

解説

② ジエチルエーテル(C4H10O)はエタノール(C2H6O)と分子式が異なるため異性体ではない。エタノールと構造異性体の関係にあるのはジメチルエーテル(CH3OCH3)。③ 第三級アルコールは酸化されにくい(ケトンは第二級アルコールの酸化で得られる)。⑤ アルコールの水溶液は中性を示す(電離しない)。①と④は正しい記述。

B 標準レベル

20-1-2 B 標準 論述・計算

エタノール 23.0g を濃硫酸と混合して加熱した。

(1) 130〜140℃に加熱したとき生成する有機化合物の名称と示性式を書け。また、その化学反応式を示せ。

(2) エタノールがすべて (1) の反応に使われたとすると、生成する有機化合物は何 g か。(エタノールの分子量: 46)

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) ジエチルエーテル、C2H5OC2H5
2C2H5OH → C2H5OC2H5 + H2O

(2) エタノール 23.0g = 23.0/46 = 0.500 mol。反応式より、エタノール 2 mol からジエチルエーテル 1 mol が生成するので、生成するジエチルエーテルは 0.250 mol。ジエチルエーテルの分子量は 74 なので、0.250 × 74 = 18.5 g

解説

分子間脱水では 2 分子のアルコールから 1 分子のエーテルが生成します。モル比が 2:1 であることに注意してください。ジエチルエーテルの分子式は C4H10O(分子量 74)です。

C 発展レベル

20-1-3 C 発展 構造決定

分子式 C4H10O で表される化合物について、次の実験を行った。

実験 A:ナトリウムを加えると水素が発生した。

実験 B:酸化すると、銀鏡反応を示す化合物が得られた。

(1) 実験 A から、この化合物はアルコールとエーテルのどちらか判断できる。その根拠を述べよ。

(2) 実験 B の結果から、この化合物は第何級アルコールか。また、考えられる構造式をすべて示せ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) アルコール。エーテルは Na と反応して水素を発生しないが、アルコールの −OH の H は Na により置換されて H2 を発生するから。

(2) 第一級アルコール。銀鏡反応を示すのはアルデヒドであり、酸化でアルデヒドが得られるのは第一級アルコールである。
構造式:CH3CH2CH2CH2OH(1-ブタノール)、(CH3)2CHCH2OH(2-メチル-1-プロパノール)

解説

(2) 分子式 C4H10O のアルコールには 4 種類の構造異性体があります:1-ブタノール(第一級)、2-ブタノール(第二級)、2-メチル-1-プロパノール(第一級)、2-メチル-2-プロパノール(第三級)。このうち第一級アルコールは 2 種。実験 B で酸化生成物が銀鏡反応を示す(アルデヒドが得られた)ことから、第一級アルコールに絞られます。

採点ポイント
  • (1) Na との反応が −OH をもつアルコールに固有であることを明記(2点)
  • (2) 第一級と断定する根拠(アルデヒド生成 → 銀鏡反応)を示す(2点)
  • (2) 2 種の構造式を過不足なく書く(2点)