第20章 酸素を含む脂肪族化合物

アルデヒドとケトン

アルデヒドとケトンはどちらもカルボニル基 C=O をもつ化合物です。
決定的な違いは還元性の有無:アルデヒドは還元性あり、ケトンは還元性なし。
銀鏡反応・フェーリング反応がアルデヒドの証拠となる検出反応です。

1アルデヒド

構造と官能基

アルデヒド(R−CHO)は、ホルミル基(アルデヒド基)−CHO をもつ化合物です。カルボニル基(C=O)の炭素に水素原子が 1 個直接結合しているのがアルデヒドの特徴です。第一級アルコールを酸化すると得られます。

名称化学式沸点特徴
ホルムアルデヒドHCHO−19℃(気体)最も簡単なアルデヒド。ホルマリンの主成分
アセトアルデヒドCH3CHO20℃酢酸の原料。揮発性の有毒液体
プロピオンアルデヒドCH3CH2CHO49℃

アルデヒドの還元性

アルデヒドの C=O の炭素は酸化数が中程度であり、さらに酸化されてカルボン酸になれます。このとき相手を還元します(アルデヒド自身は酸化される)。この還元作用がアルデヒド最大の特徴です。

R−CHO → R−COOH(アルデヒド → カルボン酸)

(酸化剤を還元しながら自身は酸化される)

アルデヒドが還元性をもつのはなぜか
ホルミル基 −CHO の炭素はまだ酸化できる余地がある(カルボン酸 −COOH まで酸化可能)
アルデヒドが酸化されるとき、相手(Ag+ や Cu2+)は電子を受け取って還元される
アルデヒドは還元剤として働く = 還元作用をもつ

2ケトン

構造と官能基

ケトン(R'−CO−R'')は、カルボニル基 C=O の炭素に炭化水素基が 2 個結合した化合物です。第二級アルコールを酸化すると得られます。

名称化学式沸点特徴
アセトンCH3COCH356℃揮発性の液体。有機溶媒として大量使用
エチルメチルケトンCH3COC2H580℃

ケトンは還元性をもたない

ケトンのカルボニル基炭素には炭化水素基が 2 個結合しているため、通常の酸化条件下ではこれ以上酸化されません。そのため、ケトンは銀鏡反応もフェーリング反応も示しません。これがアルデヒドとの最大の相違点です。

アルデヒドとケトンの本質的な違い

どちらも C=O をもちますが、アルデヒドは −CHO(炭素に H が 1 個ついている)ためにさらに酸化できる(還元性あり)。ケトンは C=O の炭素に炭化水素基しかついていないためそれ以上酸化できない(還元性なし)。構造の違いが化学的性質の違いを決定しています。

3アルデヒドの検出反応

銀鏡反応

アンモニア性硝酸銀水溶液(トレンス試薬)にアルデヒドを加えて温めると、銀 Ag が析出して試験管内壁に鏡状に付着します。これを銀鏡反応といいます。

アルデヒドが Ag+(正確には錯イオン [Ag(NH3)2]+)を還元 → Ag が析出(銀鏡)

RCHO + 2[Ag(NH3)2]+ + 2OH → RCOO + 2Ag↓ + 4NH3 + H2O

ケトンはこの反応を示しません。したがって銀鏡反応の陽性・陰性によってアルデヒドとケトンを区別できます。

フェーリング反応

フェーリング液(硫酸銅 (II) に酒石酸カリウムナトリウムと水酸化ナトリウムを加えた深青色の水溶液)にアルデヒドを加えて加熱すると、酸化銅 (I) Cu2O の赤色沈殿が生じます。これをフェーリング反応(フェーリング液の還元)といいます。

アルデヒドが Cu2+ を Cu+ に還元 → Cu2O の赤色沈殿

RCHO + 2Cu2+ + 4OH → RCOO + Cu2O↓ + 2H2O + H+

検出反応試薬アルデヒドの結果ケトンの結果
銀鏡反応アンモニア性硝酸銀水溶液銀が析出(鏡状)反応なし
フェーリング反応フェーリング液Cu2O の赤色沈殿反応なし
落とし穴:ギ酸 HCOOH もこれらの反応を示す

ギ酸(蟻酸)HCOOH はカルボン酸ですが、−COOH の構造の中にホルミル基的な部分をもつため、銀鏡反応とフェーリング反応を示します。「銀鏡反応 = アルデヒドのみ」と思い込むと誤りです。ギ酸も例外として必ず記憶してください。

4ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドの性質

ホルムアルデヒド HCHO

ホルムアルデヒドは最も単純なアルデヒドで、R が水素原子の場合(H−CHO)です。無色・刺激臭の有毒な気体(沸点 −19℃)で水に溶けやすい性質をもちます。

  • ホルマリン:ホルムアルデヒドの約 37% 水溶液。動物標本の保存液、合成樹脂(尿素樹脂・フェノール樹脂)の原料
  • 製法:メタノールの酸化(CH3OH → HCHO + H2O)

アセトアルデヒド CH3CHO

アセトアルデヒドは無色・刺激臭の揮発性の有毒な液体(沸点 20℃)で水に溶けやすい。

  • 製法①:エタノールの酸化(C2H5OH → CH3CHO + H2O)
  • 製法②:アセチレンへの水付加(CH≡CH + H2O 触媒(HgSO4)→ CH3CHO)
  • 製法③(工業的):エチレンの酸化(2CH2=CH2 + O2 → 2CH3CHO)
  • 用途:酢酸・酢酸ビニルなど各種有機化合物の合成原料
体内でのエタノールの代謝

飲酒でとり込まれたエタノールは、酵素のはたらきでアセトアルデヒドに酸化され、さらに酢酸に酸化されます。アセトアルデヒドは毒性が強く、二日酔いの原因物質の一つです。アセトアルデヒドを分解する酵素の活性が遺伝的に低い人は、飲酒後に顔が赤くなる(フラッシング反応)傾向があります。

5この節を俯瞰する

アルデヒドとケトンは、アルコールとカルボン酸の「中間」に位置します。酸化還元の連鎖と検出反応を軸に整理しましょう。

  • 酸化の上流 → 20-1「アルコールとエーテル」:第一級アルコールの酸化でアルデヒド、第二級アルコールの酸化でケトンが得られる。
  • 酸化の下流 → 20-3「カルボン酸」:アルデヒドをさらに酸化するとカルボン酸。ケトンは酸化されにくい。
  • 銀鏡反応と銀 → 17-3「銅・銀・金」:鏡は銀鏡反応を利用して製造される。銀イオンの錯イオン形成([Ag(NH₃)₂]⁺)も関連。
  • アセトンのヨードホルム反応:CH₃CO− 構造をもつ化合物はヨードホルム CHI₃ の黄色沈殿を生じる。アセトン・アセトアルデヒド・エタノール・2-プロパノールなどが陽性。
  • 構造決定 → 入試頻出:銀鏡反応・フェーリング反応・ヨードホルム反応を組み合わせてアルデヒド/ケトン/アルコールを特定する問題が多い。

6まとめ

  • アルデヒド R−CHO:ホルミル基 −CHO をもち、還元性がある(酸化されやすい)
  • ケトン R'−CO−R'':C=O の炭素に炭化水素基が 2 個。還元性なし
  • アルデヒドの検出:銀鏡反応(Ag 析出)・フェーリング反応(Cu2O 赤色沈殿)
  • ケトンはいずれの検出反応も示さない → 陰性でアルデヒドと区別
  • ホルムアルデヒド HCHO:気体、ホルマリンとして利用
  • アセトアルデヒド CH3CHO:エタノール酸化・アセチレン水和で合成
  • ギ酸も銀鏡反応・フェーリング反応陽性(例外として記憶)

7確認テスト

Q1. アルデヒドが還元性をもつ理由を簡潔に説明せよ。

▶ クリックして解答を表示アルデヒドの −CHO はさらに酸化されてカルボン酸 −COOH になれるため、酸化剤(Ag⁺ や Cu²⁺)を還元しながら自身が酸化される。このため還元作用をもつ。

Q2. フェーリング反応でアルデヒドを加えて加熱したときに生じる沈殿の色と物質名を答えよ。

▶ クリックして解答を表示赤色の酸化銅(I) Cu₂O の沈殿が生じる。

Q3. アセトン(CH3COCH3)と構造異性体の関係にあり、銀鏡反応を示す化合物の示性式を書け。

▶ クリックして解答を表示分子式 C₃H₆O で、銀鏡反応陽性はアルデヒド。プロピオンアルデヒド CH₃CH₂CHO(プロパナール)。

Q4. ホルムアルデヒドの水溶液の名称と用途を 1 つ答えよ。

▶ クリックして解答を表示ホルマリン(約 37% 水溶液)。動物標本の保存液、合成樹脂(尿素樹脂・フェノール樹脂)の原料として利用。

8入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでください。

A 基礎レベル

20-2-1 A 基礎 選択

アルデヒドとケトンに関する記述として誤っているものを次の①〜⑤から 1 つ選べ。

  • ① アルデヒドはアンモニア性硝酸銀水溶液を加えて温めると、銀が析出する。
  • ② アルデヒドとケトンはどちらもカルボニル基をもつ。
  • ③ アセトンはフェーリング液の赤色沈殿を生じさせる。
  • ④ ホルムアルデヒドは常温で気体であり、水に溶けやすい。
  • ⑤ 第二級アルコールを酸化するとケトンが生成する。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

解説

③が誤り。アセトンはケトンであり、還元性をもたない。フェーリング反応(フェーリング液の還元)は陰性です。フェーリング反応陽性はアルデヒドのみです(例外:ギ酸も陽性)。他の記述はすべて正しい。

B 標準レベル

20-2-2 B 標準 論述

アルデヒドが銀鏡反応を示す理由を、アルデヒドの構造的特徴と酸化還元の観点から説明せよ。また、アセトンが銀鏡反応を示さない理由もあわせて述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

アルデヒドはホルミル基 −CHO をもち、さらに酸化されてカルボン酸 −COOH になれる(自身が酸化される)。このとき相手のアンモニア性硝酸銀中の Ag+(錯イオン [Ag(NH3)2]+)を還元して Ag として析出させるため、銀鏡反応を示す。

一方、アセトンのカルボニル基炭素には炭化水素基が 2 個結合しており、通常の条件下ではこれ以上酸化できない。そのため Ag+ を還元する能力がなく、銀鏡反応を示さない。

解説

「還元性の有無」はアルデヒドとケトンを区別する最重要ポイントです。論述問題では「アルデヒドが酸化されやすい構造的理由」と「ケトンが酸化されにくい理由」の両方を明確に書く必要があります。

採点ポイント
  • −CHO がさらに酸化される(還元作用あり)を述べる(2点)
  • Ag⁺ が還元されて Ag が析出することを述べる(1点)
  • アセトンのカルボニル炭素が酸化されにくい理由を述べる(2点)

C 発展レベル

20-2-3 C 発展 構造決定

分子式 C4H8O で表される化合物 A〜C がある。次の実験結果をもとに A〜C の構造式を決定せよ。

実験 1:A、B、C はいずれも 2,4-ジニトロフェニルヒドラジンと反応した(カルボニル化合物の確認)。

実験 2:A と B は銀鏡反応を示したが、C は示さなかった。

実験 3:A を還元すると 1 種の第一級アルコールのみが得られた。B を還元すると A の還元生成物とは異なる第一級アルコールが得られた。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

C(ケトン):CH3COCH2CH3(メチルエチルケトン、ブタン-2-オン)

A と B(アルデヒド):分子式 C4H8O のアルデヒドは n-ブチルアルデヒド CH3CH2CH2CHO(直鎖)とイソブチルアルデヒド (CH3)2CHCHO(分岐鎖)の 2 種。
A(還元で 1-ブタノール):CH3CH2CH2CHO(ブタナール)
B(還元で 2-メチル-1-プロパノール):(CH3)2CHCHO(2-メチルプロパナール)

解説

実験 1 よりカルボニル化合物、実験 2 より A・B はアルデヒド、C はケトンと判明。分子式 C4H8O のケトンは CH3COCH2CH3(メチルエチルケトン)のみ。A と B は C4H8O のアルデヒド 2 種(直鎖と分岐)。実験 3 の還元で得られるアルコールの違い(A → 1-ブタノール、B → 2-メチル-1-プロパノール)により A・B を区別します。

採点ポイント
  • 実験 2 からケトンと 2 種のアルデヒドに分類する(2点)
  • C(ケトン)の構造式を正しく書く(2点)
  • A・B(アルデヒド)の構造式を過不足なく書く(2点)