エステルはカルボン酸とアルコールの縮合で生成します(R−COO−R')。
油脂は高級脂肪酸とグリセリンのエステルで、植物油・動物脂の主成分です。
けん化価・ヨウ素価という 2 つの指標が油脂の性質を定量的に表します。
カルボン酸とアルコールを混合して酸触媒(濃硫酸)で加熱すると、エステル(R−COO−R')と水が生成します。この反応をエステル化といいます。2 分子から水(H2O)が取れて結合するので縮合反応(脱水縮合)の一種です。
R−COOH + HO−R' ⇄ R−COO−R' + H2O
(カルボン酸 + アルコール ⇄ エステル + 水)
エステル化は可逆反応です。平衡状態に達し、収率を上げるには生成した水を除くか(脱水剤の使用)、一方の原料を過剰にする方法があります。
| エステルの名称 | カルボン酸 | アルコール | 示性式 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 酢酸エチル | 酢酸 | エタノール | CH3COOC2H5 | 果実様の芳香。溶媒 |
| 酢酸イソアミル | 酢酸 | イソアミルアルコール | CH3COOC5H11 | バナナの香り |
| ギ酸エチル | ギ酸 | エタノール | HCOOC2H5 | ラム酒様の香り |
エステルは水と反応して(加水分解)、カルボン酸とアルコールに戻ります。
| 加水分解の種類 | 条件 | 可逆性 | 反応式 |
|---|---|---|---|
| 酸触媒加水分解 | 希酸 + 加熱 | 可逆(⇄) | R−COO−R' + H2O ⇄ R−COOH + HO−R' |
| けん化(塩基加水分解) | NaOH 水溶液 + 加熱 | 不可逆(→) | R−COO−R' + NaOH → R−COONa + HO−R' |
油脂(トリグリセリド)は、3 価アルコールのグリセリンと高級脂肪酸(炭素数 12 以上)がエステル結合した化合物です。1 分子のグリセリンに 3 分子の脂肪酸がエステル結合しているため、1 分子中にエステル結合が 3 個あります。
グリセリン(3 価アルコール)+ 3 × 高級脂肪酸 → 油脂(トリグリセリド)+ 3H2O
| 種類 | 代表例 | 化学式 | C=C 数 | 状態(常温) |
|---|---|---|---|---|
| 飽和脂肪酸 | パルミチン酸 | C15H31COOH | 0 | 固体 |
| 飽和脂肪酸 | ステアリン酸 | C17H35COOH | 0 | 固体 |
| 不飽和脂肪酸 | オレイン酸 | C17H33COOH | 1 | 液体 |
| 不飽和脂肪酸 | リノール酸 | C17H31COOH | 2 | 液体 |
| 不飽和脂肪酸 | リノレン酸 | C17H29COOH | 3 | 液体 |
不飽和脂肪酸の割合が大きいほど油脂の融点は低くなります。植物性油脂(大豆油・オリーブ油など)は不飽和脂肪酸が多く常温で液体(脂肪油)、動物性油脂(牛脂・豚脂など)は飽和脂肪酸が多く常温で固体(脂肪)が多い傾向があります。
飽和脂肪酸の炭化水素鎖は直線状に伸びやすく、隣接する分子と密に並んで強い分子間力(ファンデルワールス力)が働きます。不飽和脂肪酸では C=C 二重結合の部分がシス形に折れ曲がった構造をとるため、分子が密に並べず分子間力が弱まります。その結果、不飽和脂肪酸(およびそれを含む油脂)は融点が低く常温で液体になりやすいのです。
油脂に水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加えて加熱すると、3 つのエステル結合がすべてけん化されて脂肪酸のナトリウム塩(セッケン)とグリセリンが得られます。
油脂 + 3NaOH → 3 × 脂肪酸ナトリウム(セッケン)+ グリセリン
1 mol の油脂のけん化に NaOH が3 mol 必要(エステル結合 3 個)であることに注意します。
けん化価とは、油脂 1 g をけん化するのに必要な KOH の質量(mg)の数値です。
けん化価 = 56 × (3/分子量) × 103 = 168000 / 分子量
けん化価が大きいほど、油脂の平均分子量は小さい(= 脂肪酸の炭素鎖が短い)ことを意味します。
ヨウ素価とは、油脂 100 g に付加できるヨウ素(I2)の質量(g)の数値です。C=C 二重結合 1 個に I2 1 分子が付加します。
ヨウ素価 = 254 × (100/分子量) × n (n = 1 mol の油脂中の C=C 数)
ヨウ素価が大きいほど、油脂中の C=C 二重結合が多い(不飽和度が高い)ことを意味します。
| 油脂 | けん化価 | ヨウ素価 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| オリーブ油 | 184〜196 | 75〜94 | 不飽和中程度 |
| 大豆油 | 189〜195 | 124〜139 | 不飽和度高め |
| アマニ油 | 189〜195 | 170〜204 | 不飽和度非常に高い(乾性油) |
| 牛脂 | 190〜200 | 35〜48 | 飽和脂肪酸多い |
「けん化価大 → 分子量小」「ヨウ素価大 → C=C 多い(不飽和度高い)」という 2 つの関係を確実に区別してください。けん化価は分子量の逆数に比例し、ヨウ素価は C=C 二重結合数に比例します。
エステルと油脂は、有機化学と日常生活(食品・石鹸・化粧品)を結ぶ重要なトピックです。
Q1. エステル化とけん化を比較し、可逆・不可逆の違いを生じる理由を述べよ。
Q2. 油脂のヨウ素価が大きいほど何を意味するか。
Q3. 植物性油脂(例:大豆油)が常温で液体であり、動物性油脂(例:牛脂)が常温で固体になりやすい理由を述べよ。
Q4. 油脂(分子量 884)1 mol をけん化するのに必要な NaOH は何 mol か。また、得られるグリセリンは何 mol か。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでください。
エステルと油脂に関する記述として誤っているものを次の①〜⑤から 1 つ選べ。
③
③が誤り。ヨウ素価が大きい(C=C 二重結合が多い)油脂は融点が低い。C=C の折れ曲がり構造が分子間力を弱め、融点を下げます。他の記述はすべて正しい。
ステアリン酸(C17H35COOH、式量 284)3 mol とグリセリン 1 mol から生成する油脂について答えよ。
(1) この油脂の分子量を求めよ。
(2) この油脂のけん化価を求めよ。(KOH の式量 = 56)
(3) この油脂はヨウ素価が 0 である。その理由を述べよ。
(1) グリセリン(式量 92)+ ステアリン酸 × 3(284 × 3 = 852)− 水 × 3(18 × 3 = 54)= 92 + 852 − 54 = 890
(2) けん化価 = 56 × 3/890 × 103 = 168000/890 ≒ 189
(3) ステアリン酸は飽和脂肪酸(C=C 二重結合をもたない)であるため、油脂中に C=C がなく、ヨウ素が付加できないから。
(1) エステル化で水が 3 分子取れることを忘れずに計算します。(2) けん化価 = 168000/分子量 の公式を使います。(3) ヨウ素価は C=C 二重結合の数に対応するため、飽和脂肪酸のみからなる油脂はヨウ素価 = 0 です。
リノール酸(C17H31COOH、式量 280)3 mol とグリセリン 1 mol からなる油脂がある。
(1) この油脂の分子量を求めよ。
(2) この油脂のヨウ素価を求めよ。(I2 の分子量 = 254)
(3) リノール酸の分子式を答えよ。また、リノール酸 1 分子中に C=C 二重結合は何個あるか。
(1) グリセリン 92 + リノール酸 280 × 3 − 水 18 × 3 = 92 + 840 − 54 = 878
(2) リノール酸の分子式 C17H31COOH = C18H32O2。ステアリン酸(C18H36O2)と比較すると H が 4 個少ない → C=C が 2 個。
油脂 1 mol 中の C=C 数 = 2 × 3 = 6 個。
ヨウ素価 = 254 × (100/878) × 6 = 173
(3) 分子式 C18H32O2、C=C 二重結合は2 個
C=C の数を求めるには、同じ炭素数の飽和脂肪酸(ステアリン酸 C18H36O2)と比べて H が何個少ないかを計算します。C=C 1 個増えるごとに H が 2 個減るので、ΔH = 4 → C=C = 2 個と求まります。ヨウ素価の計算では「油脂 100 g」に注意し、分子量で換算することが必要です。