糖類(炭水化物)は生命活動のエネルギー源であり、細胞壁や遺伝情報の担体としても機能します。
最も単純な糖である単糖を理解することが、二糖・多糖・核酸へとつながる第一歩です。
グルコースの構造と還元性を中心に、フルクトース・ガラクトースの特徴まで押さえていきましょう。
糖類(炭水化物)は一般式 Cn(H2O)m で表され、分子式を CnH2nOn と書くこともできます。糖類は加水分解のされやすさによって3つに大別されます。
| 分類 | 定義 | 例 |
|---|---|---|
| 単糖 | それ以上加水分解されない最小の糖 | グルコース、フルクトース、ガラクトース |
| 二糖 | 単糖2分子が結合した糖 | マルトース、スクロース、ラクトース |
| 多糖 | 単糖が多数連なった高分子 | デンプン、セルロース、グリコーゲン |
二糖と多糖は加水分解によって最終的に単糖になります。例えば、デンプン (C6H10O5)n を加水分解すると、グルコース C6H12O6 が得られます。
(C6H10O5)n + nH2O → nC6H12O6
デンプン → グルコース
また、炭素数に基づく分類もあります。炭素数6の単糖をヘキソース(六炭糖)、炭素数5の単糖をペントース(五炭糖)といいます。グルコース・フルクトース・ガラクトースはすべてヘキソースであり、分子式 C6H12O6 をもちます。
グルコース(ブドウ糖)C6H12O6 は、果実や血液中に含まれ、生物のエネルギー源として最も重要な単糖です。植物の光合成によって合成され、工業的にはデンプンの加水分解で得られます。
グルコースは水溶液中で3種の構造が平衡状態で共存します。
| 構造 | 形 | 存在割合(25℃) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| α-グルコース | 六員環(ピラノース) | 約37% | C1の-OHが-CH2OHと反対側(下側) |
| 鎖状構造 | 鎖状(アルデヒド型) | 微量 | C1にホルミル基(-CHO)をもつ |
| β-グルコース | 六員環(ピラノース) | 約63% | C1の-OHが-CH2OHと同じ側(上側) |
環状構造と鎖状構造の相互変換は、ヘミアセタール構造(C1の-OH と隣のC-O 結合部分)が開閉することで起こります。結晶状態では主に α-グルコースとして存在します。
グルコースの水溶液は還元性をもち、銀鏡反応(アンモニア性硝酸銀水溶液を還元して銀を析出)やフェーリング液の還元(Cu2+ を還元して酸化銅(I) Cu2O の赤色沈殿を生じる)を示します。これは水溶液中で鎖状構造(アルデヒド型)が存在するためです。
グルコースは酵母に含まれる酵素(チマーゼ)の作用でエタノールと二酸化炭素に分解されます。これをアルコール発酵といいます。
C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2
フルクトース(果糖)C6H12O6 はグルコースの構造異性体であり、糖類の中で最も甘みが強いです。果実やハチミツに多く含まれます。
グルコースが水溶液中で鎖状構造をとるとき C1 にアルデヒド基をもつ(アルドース)のに対し、フルクトースは鎖状構造で C2 にケトン基(-CO-)をもつ(ケトース)。
フルクトースは水溶液中で六員環構造・五員環構造・鎖状構造が平衡状態で共存します。結晶状態では六員環の β-フルクトースとして存在する(融点103℃)。
フルクトースの水溶液は還元性をもち、銀鏡反応やフェーリング液の還元を示します。ケトース(ケトン型)は通常還元性をもたないが、フルクトースでは鎖状構造中の CO-CH2OH 部分が酸化されやすいことが理由です。また塩基性水溶液中ではエンジオール構造を経由してアルドース(グルコース)と相互変換するため、確実に還元性を発揮します。
「ケトンは還元性をもたない」という知識から、フルクトースも還元性なしと誤解しやすいです。しかしフルクトースは還元糖です。理由は上記の通り、鎖状構造中の特殊な部位が酸化されやすいためです。スクロース(非還元糖)との区別で頻出。
ガラクトース C6H12O6 はグルコースの立体異性体(ジアステレオ異性体)であり、C4 に結合するヒドロキシ基の立体配置のみが異なります。
グルコース・フルクトース・ガラクトースはいずれも還元糖です。還元性の根拠は水溶液中に存在するヘミアセタール構造(環状構造の C1 の -OH がアルデヒドに戻れる部位)にあります。この構造がある限り、鎖状のアルデヒド型(またはそれと等価な構造)が生じて相手を還元できます。
単糖は天然高分子の出発点であり、有機化学全体とも深くつながっています。
Q1. グルコースが還元性をもつ理由を述べよ。
Q2. α-グルコースと β-グルコースの違いを述べよ。
Q3. フルクトースはケトースだが還元性をもちます。その理由を説明せよ。
Q4. グルコースとガラクトースの構造的な違いを述べよ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
グルコースに関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。
①②③⑤
④が誤り。グルコースは鎖状構造でC1にアルデヒド基をもつアルドースです。ケトースはフルクトース(C2にケトン基)の分類。他の①②③⑤はすべて正しい。
グルコースとフルクトースはともに分子式 C6H12O6 をもち、ともに還元糖です。
(1) グルコースとフルクトースの異性体の関係を答えよ。
(2) フルクトースの水溶液が還元性を示す理由を、構造の観点から説明せよ。
(1) 構造異性体
(2) フルクトースは水溶液中で鎖状構造(ケトン型)をとる際、CO-CH2OH 部分(ヘミアセタール構造)が酸化されやすく、還元作用を示します。また塩基性条件ではグルコース型のアルデヒド構造と平衡状態になるため、確実に還元性を発揮します。
(1) 分子式が同じ(C6H12O6)で構造(官能基の種類・位置)が異なるため、構造異性体の関係にあります。グルコースはアルドース(C1 にアルデヒド基)、フルクトースはケトース(C2 にケトン基)。
(2) 「ケトンは還元性をもたない」が原則だが、フルクトースの場合は鎖状構造中の特殊な部位が酸化されやすい。入試では「ヘミアセタール構造が関与する」か「塩基性でグルコース型と平衡になる」のいずれかに言及できれば正答とされることが多いです。
グルコース水溶液に関する次の問いに答えよ。
(1) グルコースが銀鏡反応を示すとき、グルコース1分子が酸化されてカルボン酸になると仮定する。このとき1 mol のグルコースが完全に反応すると、析出する銀は何 mol か。
(2) α-グルコースを水に溶かすと、時間とともに旋光度が変化して一定値に収束します。この現象の理由を述べよ。
(1) 2 mol
(2) 水溶液中でヘミアセタール構造が開閉し、α-グルコース・鎖状構造・β-グルコースの平衡(変旋光)が成立するため。各異性体の旋光度が異なるので、平衡に達するまで旋光度が変化し続ける。
(1) 銀鏡反応は RCHO + 2[Ag(NH3)2]+ + 2OH- → RCOO- + 2Ag + ... の反応。アルデヒド1 mol に対し Ag が 2 mol 析出する。グルコース 1 mol → Ag 2 mol。
(2) この現象は変旋光(mutarotation)とよばれる。α-グルコース(旋光度 +112°)と β-グルコース(旋光度 +18.7°)の平衡が水溶液中で成立し、平衡での旋光度(+52.7°)に収束します。高校範囲では「平衡状態が成立するため旋光度が一定になる」と述べればよい。