第22章 天然高分子化合物

単糖類

糖類(炭水化物)は生命活動のエネルギー源であり、細胞壁や遺伝情報の担体としても機能します。
最も単純な糖である単糖を理解することが、二糖・多糖・核酸へとつながる第一歩です。
グルコースの構造と還元性を中心に、フルクトース・ガラクトースの特徴まで押さえていきましょう。

1糖類の分類

糖類(炭水化物)は一般式 Cn(H2O)m で表され、分子式を CnH2nOn と書くこともできます。糖類は加水分解のされやすさによって3つに大別されます。

分類定義
単糖それ以上加水分解されない最小の糖グルコース、フルクトース、ガラクトース
二糖単糖2分子が結合した糖マルトース、スクロース、ラクトース
多糖単糖が多数連なった高分子デンプン、セルロース、グリコーゲン

二糖と多糖は加水分解によって最終的に単糖になります。例えば、デンプン (C6H10O5)n を加水分解すると、グルコース C6H12O6 が得られます。

(C6H10O5)n + nH2O → nC6H12O6

デンプン → グルコース

また、炭素数に基づく分類もあります。炭素数6の単糖をヘキソース(六炭糖)、炭素数5の単糖をペントース(五炭糖)といいます。グルコース・フルクトース・ガラクトースはすべてヘキソースであり、分子式 C6H12O6 をもちます。

2グルコース

グルコース(ブドウ糖)C6H12O6 は、果実や血液中に含まれ、生物のエネルギー源として最も重要な単糖です。植物の光合成によって合成され、工業的にはデンプンの加水分解で得られます。

水溶液中の3種の平衡構造

グルコースは水溶液中で3種の構造が平衡状態で共存します。

構造存在割合(25℃)特徴
α-グルコース六員環(ピラノース)約37%C1の-OHが-CH2OHと反対側(下側)
鎖状構造鎖状(アルデヒド型)微量C1にホルミル基(-CHO)をもつ
β-グルコース六員環(ピラノース)約63%C1の-OHが-CH2OHと同じ側(上側)

環状構造と鎖状構造の相互変換は、ヘミアセタール構造(C1の-OH と隣のC-O 結合部分)が開閉することで起こります。結晶状態では主に α-グルコースとして存在します。

還元性

グルコースの水溶液は還元性をもち、銀鏡反応(アンモニア性硝酸銀水溶液を還元して銀を析出)やフェーリング液の還元(Cu2+ を還元して酸化銅(I) Cu2O の赤色沈殿を生じる)を示します。これは水溶液中で鎖状構造(アルデヒド型)が存在するためです。

グルコースが還元性をもつのはなぜか
水溶液中で α 形 ⇌ 鎖状 ⇌ β 形 の平衡が成立している
鎖状構造のC1にアルデヒド基(-CHO)が生じる
アルデヒド基は酸化されやすく、相手を還元する
銀鏡反応・フェーリング液還元が起こる(= 還元糖

アルコール発酵

グルコースは酵母に含まれる酵素(チマーゼ)の作用でエタノールと二酸化炭素に分解されます。これをアルコール発酵といいます。

C6H12O6 → 2C2H5OH + 2CO2

3フルクトース

フルクトース(果糖)C6H12O6 はグルコースの構造異性体であり、糖類の中で最も甘みが強いです。果実やハチミツに多く含まれます。

ケトース

グルコースが水溶液中で鎖状構造をとるとき C1 にアルデヒド基をもつ(アルドース)のに対し、フルクトースは鎖状構造で C2 にケトン基(-CO-)をもつ(ケトース)。

フルクトースは水溶液中で六員環構造・五員環構造・鎖状構造が平衡状態で共存します。結晶状態では六員環の β-フルクトースとして存在する(融点103℃)。

還元性

フルクトースの水溶液は還元性をもち、銀鏡反応やフェーリング液の還元を示します。ケトース(ケトン型)は通常還元性をもたないが、フルクトースでは鎖状構造中の CO-CH2OH 部分が酸化されやすいことが理由です。また塩基性水溶液中ではエンジオール構造を経由してアルドース(グルコース)と相互変換するため、確実に還元性を発揮します。

落とし穴:ケトースなのに還元性あり

「ケトンは還元性をもたない」という知識から、フルクトースも還元性なしと誤解しやすいです。しかしフルクトースは還元糖です。理由は上記の通り、鎖状構造中の特殊な部位が酸化されやすいためです。スクロース(非還元糖)との区別で頻出。

4ガラクトース

ガラクトース C6H12O6 はグルコースの立体異性体(ジアステレオ異性体)であり、C4 に結合するヒドロキシ基の立体配置のみが異なります。

  • 寒天に含まれる多糖(ガラクタン)を加水分解すると得られる
  • 二糖のラクトース(乳糖)を加水分解しても得られる
  • 水溶液は還元性を示す(還元糖)
  • ガラクトース単独では生物界にほとんど存在せず、多糖やラクトースの構成成分として存在する
本質:単糖の還元性はヘミアセタール構造から生じる

グルコース・フルクトース・ガラクトースはいずれも還元糖です。還元性の根拠は水溶液中に存在するヘミアセタール構造(環状構造の C1 の -OH がアルデヒドに戻れる部位)にあります。この構造がある限り、鎖状のアルデヒド型(またはそれと等価な構造)が生じて相手を還元できます。

5この章を俯瞰する

単糖は天然高分子の出発点であり、有機化学全体とも深くつながっています。

  • アルデヒドの反応 → 20-2「アルデヒドとケトン」:銀鏡反応・フェーリング液還元はアルデヒド固有の反応。グルコースが還元糖である理由をここで再確認します。
  • 立体異性体 → 19-1「異性体」:α-グルコースと β-グルコース、グルコースとガラクトースはジアステレオ異性体の典型例です。
  • 二糖・多糖 → 22-2・22-3:グルコースのC1-OHとC4-OHがグリコシド結合を形成することで、マルトース・デンプン・セルロースが構築されます。
  • 核酸の糖 → 22-6「核酸」:DNAのデオキシリボース・RNAのリボースはペントース(五炭糖)であり、単糖の一種。
  • アルコール発酵 → 化学と生活:グルコースから酵母によってエタノールが生産される過程は、バイオエタノールの基礎でもあります。

6まとめ

  • 糖類は単糖・二糖・多糖に分類され、一般式 Cn(H2O)m をもつ(炭水化物)
  • グルコース C6H12O6:水溶液中で α 形・鎖状・β 形が平衡。還元糖(銀鏡反応・フェーリング液還元)。アルドース
  • フルクトース C6H12O6(グルコースの構造異性体):ケトースだが還元糖。最も甘みが強い糖
  • ガラクトース C6H12O6(グルコースの立体異性体):C4の-OH の向きが異なります。還元糖。ラクトース・寒天の構成成分
  • グルコース・フルクトース・ガラクトースはすべてヘキソース(C6H12O6

7確認テスト

Q1. グルコースが還元性をもつ理由を述べよ。

▶ クリックして解答を表示水溶液中で環状構造(ヘミアセタール構造)が開いて鎖状のアルデヒド型構造をとり、アルデヒド基が相手を還元するため。

Q2. α-グルコースと β-グルコースの違いを述べよ。

▶ クリックして解答を表示六員環構造の C1 に結合する -OH の向きが異なる立体異性体(ジアステレオ異性体)。-CH2OH と反対側にあれば α 形、同じ側にあれば β 形。

Q3. フルクトースはケトースだが還元性をもちます。その理由を説明せよ。

▶ クリックして解答を表示鎖状構造中の CO-CH2OH 部分(ヘミアセタール構造)が酸化されやすいため。また塩基性条件ではエンジオール構造を経由してアルデヒド型構造と平衡になるため。

Q4. グルコースとガラクトースの構造的な違いを述べよ。

▶ クリックして解答を表示分子式は同じ C6H12O6 だが、C4 に結合する -OH の立体配置(向き)が異なる立体異性体(ジアステレオ異性体)。

8入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

22-1-1 A 基礎 選択

グルコースに関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。

  • ① 分子式は C6H12O6 であり、ヘキソース(六炭糖)に分類されます。
  • ② 水溶液中では α-グルコース・鎖状構造・β-グルコースが平衡状態で共存します。
  • ③ フェーリング液を還元して赤色沈殿を生じます。
  • ④ グルコースはケトースに分類されます。
  • ⑤ デンプンを加水分解するとグルコースが得られます。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

①②③⑤

解説

④が誤り。グルコースは鎖状構造でC1にアルデヒド基をもつアルドースです。ケトースはフルクトース(C2にケトン基)の分類。他の①②③⑤はすべて正しい。

B 標準レベル

22-1-2 B 標準 論述

グルコースとフルクトースはともに分子式 C6H12O6 をもち、ともに還元糖です。

(1) グルコースとフルクトースの異性体の関係を答えよ。

(2) フルクトースの水溶液が還元性を示す理由を、構造の観点から説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 構造異性体

(2) フルクトースは水溶液中で鎖状構造(ケトン型)をとる際、CO-CH2OH 部分(ヘミアセタール構造)が酸化されやすく、還元作用を示します。また塩基性条件ではグルコース型のアルデヒド構造と平衡状態になるため、確実に還元性を発揮します。

解説

(1) 分子式が同じ(C6H12O6)で構造(官能基の種類・位置)が異なるため、構造異性体の関係にあります。グルコースはアルドース(C1 にアルデヒド基)、フルクトースはケトース(C2 にケトン基)。

(2) 「ケトンは還元性をもたない」が原則だが、フルクトースの場合は鎖状構造中の特殊な部位が酸化されやすい。入試では「ヘミアセタール構造が関与する」か「塩基性でグルコース型と平衡になる」のいずれかに言及できれば正答とされることが多いです。

採点ポイント((2)配点例:3点)
  • 水溶液中で鎖状構造が生じることに言及(1点)
  • その構造が酸化されやすいことを述べている(2点)

C 発展レベル

22-1-3 C 発展 総合

グルコース水溶液に関する次の問いに答えよ。

(1) グルコースが銀鏡反応を示すとき、グルコース1分子が酸化されてカルボン酸になると仮定する。このとき1 mol のグルコースが完全に反応すると、析出する銀は何 mol か。

(2) α-グルコースを水に溶かすと、時間とともに旋光度が変化して一定値に収束します。この現象の理由を述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 2 mol

(2) 水溶液中でヘミアセタール構造が開閉し、α-グルコース・鎖状構造・β-グルコースの平衡(変旋光)が成立するため。各異性体の旋光度が異なるので、平衡に達するまで旋光度が変化し続ける。

解説

(1) 銀鏡反応は RCHO + 2[Ag(NH3)2]+ + 2OH- → RCOO- + 2Ag + ... の反応。アルデヒド1 mol に対し Ag が 2 mol 析出する。グルコース 1 mol → Ag 2 mol。

(2) この現象は変旋光(mutarotation)とよばれる。α-グルコース(旋光度 +112°)と β-グルコース(旋光度 +18.7°)の平衡が水溶液中で成立し、平衡での旋光度(+52.7°)に収束します。高校範囲では「平衡状態が成立するため旋光度が一定になる」と述べればよい。