第22章 天然高分子化合物

二糖類

二糖は2分子の単糖がグリコシド結合で連結した糖類です。
「還元糖か非還元糖か」という判断基準が入試の最頻出テーマ。
マルトース・スクロース・ラクトース・セロビオースを構造から理解していこう。

1グリコシド結合

二糖は2分子の単糖が脱水縮合によって結合した構造をもちます。このとき形成される C-O-C 結合をグリコシド結合といいます。

単糖 + 単糖 → 二糖 + H2O(脱水縮合)

グリコシド結合はどの炭素の -OH 同士が結合するかによって種類が異なります。例えば C1 の -OH と C4 の -OH が結合すると「1,4-グリコシド結合」と呼びます。また、単糖の立体配置(α 形か β 形か)も結合に引き継がれる(α-1,4 結合、β-1,4 結合など)。

還元糖・非還元糖の判断基準
グリコシド結合を形成した後も、ヘミアセタール構造(C1の-OH)が残っているかどうかを確認する
ヘミアセタール構造が残っていれば → 鎖状(アルデヒド型)に開環できる → 還元糖
ヘミアセタール構造が使われてしまっていれば → 開環できない → 非還元糖

二糖の分子式はいずれも C12H22O11 であり、無色の結晶で水に溶けやすく甘みをもつものが多いです。

2マルトース(麦芽糖)

マルトース(麦芽糖)C12H22O11 はデンプンが酵素アミラーゼで加水分解されるときに生じる二糖です。麦芽(発芽した大麦)に多く含まれます。

構造

マルトースはα-グルコース2分子α-1,4-グリコシド結合 で連結した構造をもちます。C1 の α-OH と別のグルコースの C4 の -OH が脱水縮合します。

  • 結合に使われた C1 側は固定されているが、もう一方のグルコースの C1 の -OH はヘミアセタール構造として残っている
  • そのため鎖状構造(アルデヒド型)に開環でき、還元性あり

加水分解

マルトース C12H22O11 + H2O → 2 グルコース C6H12O6

(触媒:希硫酸または酵素マルターゼ)

3スクロース(ショ糖)

スクロース(ショ糖・砂糖の主成分)C12H22O11 は最も身近な二糖であり、サトウキビやテンサイから得られます。

構造

スクロースはα-グルコースの C1 の -OH と β-フルクトースの C2 の -OH が脱水縮合した構造をもつ(α-1,β-2 グリコシド結合)。

この結合は両方の単糖のヘミアセタール構造(還元性を示す部位)どうしが使われて形成されます。そのため、スクロースは水溶液中で鎖状(アルデヒド型)構造に開環できず、還元性なし(非還元糖)です。

落とし穴:スクロースは非還元糖

二糖の中でスクロースだけが非還元糖です。「ヘミアセタール構造同士が結合してしまったから開環できない」という構造的な理由を必ず理解しておきましょう。入試で「スクロースは還元糖か」と問われたら即答できるようにしましょう。

転化糖

スクロースを希硫酸または酵素(スクラーゼ・インベルターゼ)で加水分解すると、グルコースとフルクトースが 1:1 で得られます。この混合物を転化糖といいます。

C12H22O11 + H2O → C6H12O6(グルコース) + C6H12O6(フルクトース)

転化糖はスクロースよりも甘みが強く(フルクトースが甘いため)、その水溶液は還元性を示す(グルコース・フルクトースともに還元糖)。

4ラクトース(乳糖)

ラクトース(乳糖)C12H22O11 は哺乳類の乳に含まれる二糖であり、乳児の主要なエネルギー源として重要です。

  • 構成単糖:β-ガラクトース + グルコース(β-1,4-グリコシド結合)
  • グルコース側のヘミアセタール構造が残っているため還元糖
  • 加水分解するとガラクトースとグルコースが生じる(触媒:希硫酸または酵素ラクターゼ)
乳糖不耐症との関連

乳糖不耐症はラクターゼの活性が低く、ラクトースを十分に分解できない状態。分解されなかったラクトースが腸内細菌に発酵されてガスや下痢を引き起こします。乳児期以降にラクターゼ活性が低下するのは多くの哺乳類で共通の現象であり、ヒトも例外ではありません(成人の大多数で見られる)。

5セロビオース

セロビオース C12H22O11 はセルロースを加水分解するときに生じる二糖です。

  • 構成単糖:β-グルコース 2 分子(β-1,4-グリコシド結合
  • 一方のグルコースのヘミアセタール構造が残っているため還元糖
  • マルトースとの違い:同じ「グルコース2分子の二糖」だが、マルトースが α-1,4 結合であるのに対し、セロビオースは β-1,4 結合
本質:二糖の還元性は「ヘミアセタール構造の有無」で決まる

マルトース・ラクトース・セロビオースはいずれも還元糖。スクロースだけが非還元糖。この違いは「グリコシド結合を形成した後にヘミアセタール構造(C1の-OH)が残っているかどうか」で決まります。スクロースは両方の単糖のヘミアセタール構造を使って結合するため、開環できなくなります。

二糖構成単糖結合還元性加水分解触媒(酵素)
マルトースα-Glc + Glcα-1,4ありマルターゼ
スクロースα-Glc + β-Fruα-1,β-2なしスクラーゼ・インベルターゼ
ラクトースβ-Gal + Glcβ-1,4ありラクターゼ
セロビオースβ-Glc + Glcβ-1,4ありセルラーゼ

Glc=グルコース、Fru=フルクトース、Gal=ガラクトース

6この章を俯瞰する

  • 単糖との関係 → 22-1「単糖類」:マルトース・スクロース・ラクトースはいずれも特定の単糖の組み合わせ。構成単糖と結合様式を理解することが出発点。
  • 多糖との関係 → 22-3「多糖類」:デンプン(α-1,4・α-1,6)もセルロース(β-1,4)もグリコシド結合の延長。二糖で学んだ結合様式がそのまま多糖に展開されます。
  • 酵素の基質特異性 → 22-5「タンパク質」:マルターゼはマルトースだけを、ラクターゼはラクトースだけを分解します。酵素の基質特異性の典型例です。
  • 酸化還元・フェーリング反応 → 20-2「アルデヒドとケトン」:還元糖の判定に使うフェーリング液の反応はアルデヒドの酸化反応。還元糖=ヘミアセタール構造からアルデヒドが生じる糖、という理解で一本化できます。

7まとめ

  • 二糖は単糖2分子の脱水縮合(グリコシド結合)で生じます。分子式 C12H22O11
  • マルトース:α-Glc+Glc、α-1,4 結合、還元糖、デンプン加水分解で生じる
  • スクロース:α-Glc+β-Fru、α-1,β-2 結合、非還元糖。加水分解で転化糖(Glc+Fru)
  • ラクトース:β-Gal+Glc、β-1,4 結合、還元糖、乳に含まれる
  • セロビオース:β-Glc+Glc、β-1,4 結合、還元糖、セルロース加水分解で生じる
  • 還元性の判断:グリコシド結合後にヘミアセタール構造が残っているか

8確認テスト

Q1. スクロースが非還元糖である理由を構造の観点から述べよ。

▶ クリックして解答を表示α-グルコースのC1の-OHとβ-フルクトースのC2の-OH(両方のヘミアセタール構造の部位)が使われてグリコシド結合が形成されるため、水溶液中で鎖状のアルデヒド型構造に開環できず、還元性を示さない。

Q2. マルトースとセロビオースはどちらもグルコース2分子からなる二糖だが、何が異なるか。

▶ クリックして解答を表示グリコシド結合の種類が異なります。マルトースはα-1,4-グリコシド結合、セロビオースはβ-1,4-グリコシド結合。マルトースはデンプンの、セロビオースはセルロースの加水分解で生じます。

Q3. スクロースを加水分解して得られる転化糖について、(a)構成成分と(b)スクロースより甘みが強い理由を述べよ。

▶ クリックして解答を表示(a) グルコースとフルクトースが1:1の混合物。(b) フルクトースはスクロースより甘みが強いため、転化糖全体の甘みもスクロースを上回る。

Q4. 次の二糖のうち還元糖をすべて答えよ:マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース

▶ クリックして解答を表示マルトース、ラクトース、セロビオース(スクロースのみ非還元糖)

9入試問題演習

A 基礎レベル

22-2-1 A 基礎 選択

二糖に関する記述として誤っているものを、次の①〜⑤から1つ選べ。

  • ① マルトースはデンプンを酵素アミラーゼで加水分解すると生じます。
  • ② スクロースを加水分解すると、グルコースとフルクトースが等モル得られます。
  • ③ ラクトースは哺乳類の乳に含まれ、ガラクトースとグルコースからなります。
  • ④ スクロースは還元糖であり、フェーリング液を還元します。
  • ⑤ セロビオースはセルロースを加水分解すると生じる二糖です。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

解説

④が誤り。スクロースは非還元糖であり、フェーリング液を還元しない。α-グルコースとフルクトースの両方のヘミアセタール構造が結合に使われているため、鎖状構造に開環できないことが理由。①②③⑤はすべて正しい。

B 標準レベル

22-2-2 B 標準 論述

マルトースとスクロースは、ともに分子式 C12H22O11 をもつ二糖です。

(1) マルトースを加水分解すると何が得られるか。化学式で答えよ。

(2) マルトースは還元糖だが、スクロースは非還元糖です。この違いが生じる構造的な理由を述べよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) グルコース 2C6H12O6

(2) マルトースでは、一方のグルコースのC1の-OH(ヘミアセタール構造)のみがグリコシド結合に使われ、もう一方のグルコースのC1の-OHは残っています。そのため鎖状(アルデヒド型)に開環でき還元性をもちます。一方スクロースでは、グルコースのC1とフルクトースのC2のヘミアセタール構造がともに使われてグリコシド結合が形成されるため、どちらの単糖も開環できず還元性をもちません。

解説

「ヘミアセタール構造が残っているか否か」を軸に述べる。この観点は多糖(デンプン・セルロース)の還元性の判断にも使えるので、しっかり定着させること。デンプン・セルロースは非常に長い鎖の末端のみにヘミアセタール構造が残るが、分子量が大きすぎて実質的に還元性は無視できます。

採点ポイント((2)配点例:4点)
  • マルトースのヘミアセタール構造が残っていることに言及(2点)
  • スクロースは両方のヘミアセタール構造が使われていることに言及(2点)

C 発展レベル

22-2-3 C 発展 計算・総合

スクロース 34.2 g を希硫酸で完全に加水分解した。

(1) 生成したグルコースとフルクトースはそれぞれ何 g か。(スクロースの分子量:342、グルコース・フルクトースの分子量:180)

(2) 得られた転化糖の水溶液にフェーリング液を加えて加熱すると、赤色沈殿が生じました。スクロース水溶液では同じ操作をしても沈殿は生じない。この理由を述べよ。

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解答

(1) スクロース 34.2 g = 0.10 mol。加水分解により Glc 0.10 mol + Fru 0.10 mol が生成。グルコース:0.10 × 180 = 18 g、フルクトース:0.10 × 180 = 18 g

(2) スクロースは非還元糖(ヘミアセタール構造をもたない)のでフェーリング液を還元できないが、加水分解で生じたグルコースとフルクトースはともに還元糖(ヘミアセタール構造をもつ)であるため、フェーリング液中の Cu2+ を還元して Cu2O(赤色沈殿)を生じます。

解説

(1) 分子量比から:スクロース 1 mol から Glc 1 mol + Fru 1 mol が得られます。質量は 180 g/mol × 0.10 mol = 18 g ずつ。元のスクロース 34.2 g より合計 36 g 分の糖が得られるのは、加水分解で H2O(1.8 g)が加わるため(質量保存の確認:34.2 + 1.8 = 36.0 g)。