第22章 天然高分子化合物

多糖類

多糖は単糖が多数連なった天然高分子化合物であり、生物の貯蔵・構造・エネルギー供給に不可欠な役割を担う。
デンプン・セルロース・グリコーゲンはいずれもグルコースを構成単糖とするが、
グリコシド結合の種類と構造の違いにより、性質と機能がまったく異なります。

1デンプン

デンプン((C6H10O5)n)は植物の光合成産物であり、ジャガイモ・トウモロコシ・米などに蓄積する貯蔵多糖です。構成単糖はα-グルコースのみです。

アミロースとアミロペクチン

デンプンは2種類の成分からなります。

アミロースアミロペクチン
構造直鎖状分枝(枝分かれ)構造
結合α-1,4-グリコシド結合のみα-1,4 + α-1,6-グリコシド結合(分岐点)
ヨウ素反応濃青色赤紫色
含有比率約20%約80%

ヨウ素デンプン反応

デンプンにヨウ素液(I2-KI 水溶液)を加えると青紫色に呈色します。これをヨウ素デンプン反応といい、デンプンの検出に用いられます。

ヨウ素デンプン反応で青紫色になるのはなぜか
アミロースは α-1,4 結合によりらせん状の立体構造をとる
らせんの内側にヨウ素分子 I2 が取り込まれる(包接化合物)
I2 の電子状態が変化して特定の波長の光を吸収 → 青紫色に呈色
加熱するとらせんが解けて I2 が放出 → 脱色(冷やすと再び青紫色)

デンプンの加水分解

(C6H10O5)n + nH2O → nC6H12O6

デンプン ⟶(アミラーゼ)⟶ マルトース ⟶(マルターゼ)⟶ グルコース

唾液・膵液に含まれる酵素アミラーゼがデンプンをマルトースに分解し、さらにマルターゼがグルコースに分解します。

2セルロース

セルロース((C6H10O5)n)は植物の細胞壁の主成分であり、地球上で最も多く存在する有機化合物の一つです。構成単糖はβ-グルコースのみです。

構造

β-グルコースがβ-1,4-グリコシド結合で直鎖状につながった構造をもちます。β-結合により隣接するグルコース単位が交互に反転し、分子全体がまっすぐな鎖状になります。この直線的な鎖が水素結合により束になることで、繊維状の強靭な構造をつくる。

ヒトは消化できない

ヒトの消化酵素(アミラーゼ等)は α-グリコシド結合しか加水分解できず、セルロースの β-1,4 結合は切断できません。そのためセルロースは「食物繊維」として消化されずに腸を通過します。ウシなどの草食動物は腸内細菌がセルラーゼ(β-グリコシド結合を切る酵素)を生産するため、セルロースを消化できます。

落とし穴:デンプンとセルロースは「同じ分子式なのに全く異なる」

デンプンとセルロースはともに (C6H10O5)n だが、構成単糖の立体配置(α vs β)とグリコシド結合の種類が異なります。これだけでヨウ素反応・消化性・物性がまったく異なります。「同じ式でも構造が命」を体感できる代表例。

セルロースの用途

  • 紙・綿・麻の主成分
  • ニトロセルロース(硝酸エステル):火薬・セルロイドの原料
  • 酢酸セルロース(酢酸エステル):写真フィルム・繊維(トリアセテート)
  • ビスコースレーヨン:セルロースを一度溶解して再生した再生繊維

3グリコーゲン

グリコーゲンは動物(肝臓・筋肉)に貯蔵される多糖であり、デンプンに相当する動物の貯蔵多糖です。構成単糖はα-グルコース

  • 構造:α-1,4-グリコシド結合(主鎖)+ α-1,6-グリコシド結合(分岐点)
  • アミロペクチンと同じ結合形式だが、分岐がより多く、分子量も非常に大きい
  • ヨウ素液を加えると赤紫色〜褐色を呈する(アミロースのような規則的ならせん構造をもたないため、デンプンより薄い色)
  • 血糖値が下がると分解されてグルコースを血液に供給する
本質:グリコシド結合の種類が機能を決める

α-1,4 結合(デンプン・グリコーゲンの主鎖)はらせん構造をとりやすく、酵素(アミラーゼ)で素早く分解されてエネルギーを供給できます。β-1,4 結合(セルロース)は直線的な剛直構造をとり、酵素分解されにくく構造材として機能します。同じグルコースの重合体でも「α か β か」という立体配置の違い一つで、貯蔵用と構造用が使い分けられています。

デンプンセルロースグリコーゲン
構成単糖α-グルコースβ-グルコースα-グルコース
主な結合α-1,4(+α-1,6)β-1,4α-1,4(+α-1,6)
構造直鎖+分枝直鎖高度分枝
ヨウ素反応青紫色(アミロース)/ 赤紫色(アミロペクチン)呈色しない赤紫〜褐色
消化(ヒト)できるできないできる
主な役割植物の貯蔵多糖植物の構造材動物の貯蔵多糖

4この章を俯瞰する

  • グリコシド結合の基礎 → 22-2「二糖類」:α-1,4・α-1,6・β-1,4 の違いはすでに二糖で学習済み。多糖ではそれが何千・何万回繰り返されます。
  • セルロースの誘導体 → 21章「合成高分子」:ニトロセルロース・酢酸セルロースは化学修飾による材料応用。天然高分子の化学変換の典型例です。
  • 酵素の基質特異性 → 22-5「タンパク質と酵素」:アミラーゼは α 結合のみを切り、β 結合は切れません。酵素の活性部位の立体特異性の具体例です。
  • コロイド → 10-4「コロイド」:デンプンは分子コロイドの典型例。デンプン水溶液は親水コロイドとして安定に分散する。

5まとめ

  • デンプン (C6H10O5)n:α-グルコースが α-1,4(+α-1,6)結合。アミロース(直鎖・青色)+アミロペクチン(分枝・赤紫色)。植物の貯蔵多糖
  • セルロース (C6H10O5)n:β-グルコースが β-1,4 結合。直鎖・剛直。ヨウ素反応なし。ヒトは消化不可。植物の細胞壁
  • グリコーゲン:α-グルコースが α-1,4(+α-1,6)結合。高度分枝。動物(肝臓・筋肉)の貯蔵多糖
  • ヨウ素デンプン反応:らせん内に I2 が包接されて青紫色。加熱で脱色(可逆)
  • α 結合 → 貯蔵・消化可能、β 結合 → 構造・消化不可(高校化学の重要対比)

6確認テスト

Q1. デンプンにヨウ素液を加えると青紫色になります。この反応の名称と仕組みを述べよ。

▶ クリックして解答を表示ヨウ素デンプン反応。アミロースのらせん状構造の内部にヨウ素分子 I₂ が取り込まれ(包接)、I₂ の電子状態が変化して青紫色に呈色します。加熱するとらせんが解けて脱色します。

Q2. デンプンとセルロースは同じ分子式 (C₆H₁₀O₅)ₙ をもつが、ヒトはデンプンを消化できてセルロースを消化できません。その理由を述べよ。

▶ クリックして解答を表示デンプンは α-グルコースの α-1,4-グリコシド結合(および α-1,6 結合)で構成され、ヒトの消化酵素(アミラーゼ)がこの結合を切断できます。一方、セルロースは β-グルコースの β-1,4-グリコシド結合であり、ヒトの消化酵素はこの結合を切断できないため消化できません。

Q3. アミロースとアミロペクチンの違いを2点述べよ。

▶ クリックして解答を表示①構造:アミロースは α-1,4 結合のみの直鎖状、アミロペクチンは α-1,4 結合に加えて α-1,6 結合(分岐点)をもつ分枝状。②ヨウ素反応:アミロースは濃青色、アミロペクチンは赤紫色を呈します。

Q4. グリコーゲンとデンプン(アミロペクチン)の構造上の共通点と相違点を述べよ。

▶ クリックして解答を表示共通点:ともに α-グルコースが α-1,4 結合(主鎖)と α-1,6 結合(分岐)で連なった分枝構造をもちます。相違点:グリコーゲンの方が分岐がより多く(分岐間隔が短く)、分子量も大きいです。

7入試問題演習

A 基礎レベル

22-3-1 A 基礎 選択

多糖に関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。

  • ① デンプンにヨウ素液を加えると青紫色になるが、加熱すると脱色します。
  • ② セルロースはヒトの消化酵素によって加水分解され、グルコースが得られます。
  • ③ アミロペクチンはアミロースより分枝が多い構造をもちます。
  • ④ グリコーゲンは植物の細胞壁の主成分です。
  • ⑤ デンプンとセルロースの構成単糖はいずれもグルコースです。
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解答

①③⑤

解説

②が誤り:セルロースの β-1,4 結合はヒトの消化酵素では切断できません。④が誤り:グリコーゲンは動物(肝臓・筋肉)の貯蔵多糖。植物の細胞壁の主成分はセルロース。①③⑤は正しい。

B 標準レベル

22-3-2 B 標準 論述・計算

デンプン (C6H10O5)n を希硫酸で完全に加水分解した。

(1) 生成物の化学式と名称を答えよ。

(2) デンプン 8.1 g を完全に加水分解すると、グルコースは何 g 生成するか。(グルコースの分子量:180、デンプンの構成単位(グルコース残基)の分子量:162)

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解答

(1) C6H12O6(グルコース)

(2) 9.0 g

解説

(2) デンプンの構成単位(グルコース残基)1 mol(分子量 162)から、グルコース 1 mol(分子量 180)が生成する。これは加水分解で H2O(分子量 18)が1個付加するため(162 + 18 = 180)。

デンプン 8.1 g 中のグルコース残基の物質量:8.1 / 162 = 0.050 mol。得られるグルコース:0.050 × 180 = 9.0 g

採点ポイント((2)配点例:3点)
  • グルコース残基の mol 数を正しく計算(1点)
  • mol 数から質量に正しく変換(1点)
  • 答えが正しい(1点)

C 発展レベル

22-3-3 C 発展 総合・論述

デンプンとセルロースはともに (C6H10O5)n で表されるが、性質が大きく異なります。以下の問いに答えよ。

(1) デンプンとセルロースの構造的な違いを、グリコシド結合の種類を明示して述べよ。

(2) ヒトがセルロースを消化できない理由と、草食動物がセルロースを利用できる理由を述べよ。

(3) ヨウ素液を加えたとき、デンプン(アミロース)は青紫色になるが、セルロースは呈色しません。この違いが生じる理由を述べよ。

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解答

(1) デンプンは α-グルコースが α-1,4-グリコシド結合(および分岐点で α-1,6 結合)で連なった構造。セルロースは β-グルコースが β-1,4-グリコシド結合で連なった直鎖構造。

(2) ヒトの消化酵素(アミラーゼ等)は α-グリコシド結合を切断できるが、β-グリコシド結合は切断できないためセルロースを消化できません。草食動物は腸内細菌がセルラーゼ(β-1,4-グリコシド結合を切る酵素)を生産するため、セルロースをグルコースに分解して利用できます。

(3) アミロースは α-1,4 結合によりらせん状の構造をとり、その内部にヨウ素分子 I2 が取り込まれて青紫色を呈します。セルロースは β-1,4 結合により直鎖状の剛直構造をとり、I2 を取り込むらせん空間がないため呈色しません。

解説

高校入試・大学入試ともに最頻出の多糖問題の構成。(1)(2)(3)はセットで問われることが多く、いずれも「α 結合 vs β 結合」の違いが根拠になります。この1点を軸に答えを構成できれば確実に得点できます。