多糖は単糖が多数連なった天然高分子化合物であり、生物の貯蔵・構造・エネルギー供給に不可欠な役割を担う。
デンプン・セルロース・グリコーゲンはいずれもグルコースを構成単糖とするが、
グリコシド結合の種類と構造の違いにより、性質と機能がまったく異なります。
デンプン((C6H10O5)n)は植物の光合成産物であり、ジャガイモ・トウモロコシ・米などに蓄積する貯蔵多糖です。構成単糖はα-グルコースのみです。
デンプンは2種類の成分からなります。
| アミロース | アミロペクチン | |
|---|---|---|
| 構造 | 直鎖状 | 分枝(枝分かれ)構造 |
| 結合 | α-1,4-グリコシド結合のみ | α-1,4 + α-1,6-グリコシド結合(分岐点) |
| ヨウ素反応 | 濃青色 | 赤紫色 |
| 含有比率 | 約20% | 約80% |
デンプンにヨウ素液(I2-KI 水溶液)を加えると青紫色に呈色します。これをヨウ素デンプン反応といい、デンプンの検出に用いられます。
(C6H10O5)n + nH2O → nC6H12O6
デンプン ⟶(アミラーゼ)⟶ マルトース ⟶(マルターゼ)⟶ グルコース
唾液・膵液に含まれる酵素アミラーゼがデンプンをマルトースに分解し、さらにマルターゼがグルコースに分解します。
セルロース((C6H10O5)n)は植物の細胞壁の主成分であり、地球上で最も多く存在する有機化合物の一つです。構成単糖はβ-グルコースのみです。
β-グルコースがβ-1,4-グリコシド結合で直鎖状につながった構造をもちます。β-結合により隣接するグルコース単位が交互に反転し、分子全体がまっすぐな鎖状になります。この直線的な鎖が水素結合により束になることで、繊維状の強靭な構造をつくる。
ヒトの消化酵素(アミラーゼ等)は α-グリコシド結合しか加水分解できず、セルロースの β-1,4 結合は切断できません。そのためセルロースは「食物繊維」として消化されずに腸を通過します。ウシなどの草食動物は腸内細菌がセルラーゼ(β-グリコシド結合を切る酵素)を生産するため、セルロースを消化できます。
デンプンとセルロースはともに (C6H10O5)n だが、構成単糖の立体配置(α vs β)とグリコシド結合の種類が異なります。これだけでヨウ素反応・消化性・物性がまったく異なります。「同じ式でも構造が命」を体感できる代表例。
グリコーゲンは動物(肝臓・筋肉)に貯蔵される多糖であり、デンプンに相当する動物の貯蔵多糖です。構成単糖はα-グルコース。
α-1,4 結合(デンプン・グリコーゲンの主鎖)はらせん構造をとりやすく、酵素(アミラーゼ)で素早く分解されてエネルギーを供給できます。β-1,4 結合(セルロース)は直線的な剛直構造をとり、酵素分解されにくく構造材として機能します。同じグルコースの重合体でも「α か β か」という立体配置の違い一つで、貯蔵用と構造用が使い分けられています。
| デンプン | セルロース | グリコーゲン | |
|---|---|---|---|
| 構成単糖 | α-グルコース | β-グルコース | α-グルコース |
| 主な結合 | α-1,4(+α-1,6) | β-1,4 | α-1,4(+α-1,6) |
| 構造 | 直鎖+分枝 | 直鎖 | 高度分枝 |
| ヨウ素反応 | 青紫色(アミロース)/ 赤紫色(アミロペクチン) | 呈色しない | 赤紫〜褐色 |
| 消化(ヒト) | できる | できない | できる |
| 主な役割 | 植物の貯蔵多糖 | 植物の構造材 | 動物の貯蔵多糖 |
Q1. デンプンにヨウ素液を加えると青紫色になります。この反応の名称と仕組みを述べよ。
Q2. デンプンとセルロースは同じ分子式 (C₆H₁₀O₅)ₙ をもつが、ヒトはデンプンを消化できてセルロースを消化できません。その理由を述べよ。
Q3. アミロースとアミロペクチンの違いを2点述べよ。
Q4. グリコーゲンとデンプン(アミロペクチン)の構造上の共通点と相違点を述べよ。
多糖に関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。
①③⑤
②が誤り:セルロースの β-1,4 結合はヒトの消化酵素では切断できません。④が誤り:グリコーゲンは動物(肝臓・筋肉)の貯蔵多糖。植物の細胞壁の主成分はセルロース。①③⑤は正しい。
デンプン (C6H10O5)n を希硫酸で完全に加水分解した。
(1) 生成物の化学式と名称を答えよ。
(2) デンプン 8.1 g を完全に加水分解すると、グルコースは何 g 生成するか。(グルコースの分子量:180、デンプンの構成単位(グルコース残基)の分子量:162)
(1) C6H12O6(グルコース)
(2) 9.0 g
(2) デンプンの構成単位(グルコース残基)1 mol(分子量 162)から、グルコース 1 mol(分子量 180)が生成する。これは加水分解で H2O(分子量 18)が1個付加するため(162 + 18 = 180)。
デンプン 8.1 g 中のグルコース残基の物質量:8.1 / 162 = 0.050 mol。得られるグルコース:0.050 × 180 = 9.0 g。
デンプンとセルロースはともに (C6H10O5)n で表されるが、性質が大きく異なります。以下の問いに答えよ。
(1) デンプンとセルロースの構造的な違いを、グリコシド結合の種類を明示して述べよ。
(2) ヒトがセルロースを消化できない理由と、草食動物がセルロースを利用できる理由を述べよ。
(3) ヨウ素液を加えたとき、デンプン(アミロース)は青紫色になるが、セルロースは呈色しません。この違いが生じる理由を述べよ。
(1) デンプンは α-グルコースが α-1,4-グリコシド結合(および分岐点で α-1,6 結合)で連なった構造。セルロースは β-グルコースが β-1,4-グリコシド結合で連なった直鎖構造。
(2) ヒトの消化酵素(アミラーゼ等)は α-グリコシド結合を切断できるが、β-グリコシド結合は切断できないためセルロースを消化できません。草食動物は腸内細菌がセルラーゼ(β-1,4-グリコシド結合を切る酵素)を生産するため、セルロースをグルコースに分解して利用できます。
(3) アミロースは α-1,4 結合によりらせん状の構造をとり、その内部にヨウ素分子 I2 が取り込まれて青紫色を呈します。セルロースは β-1,4 結合により直鎖状の剛直構造をとり、I2 を取り込むらせん空間がないため呈色しません。
高校入試・大学入試ともに最頻出の多糖問題の構成。(1)(2)(3)はセットで問われることが多く、いずれも「α 結合 vs β 結合」の違いが根拠になります。この1点を軸に答えを構成できれば確実に得点できます。