タンパク質は生命活動の担い手であり、酵素・抗体・ホルモン・構造材と多岐にわたる役割をもちます。
ペプチド結合による一次構造から、変性・酵素の基質特異性まで、
高校化学の中でも生命科学と最も深く接続する分野を体系的に学びましょう。
アミノ酸のカルボキシ基(-COOH)と別のアミノ酸のアミノ基(-NH2)が脱水縮合すると、アミド結合 -CO-NH- が形成されます。アミノ酸どうしの間に形成されるこのアミド結合を特にペプチド結合といいます。
H2N-CH(R1)-COOH + H2N-CH(R2)-COOH → H2N-CH(R1)-CO-NH-CH(R2)-COOH + H2O
アミノ酸がペプチド結合で連なった化合物をペプチドといいます。2分子のアミノ酸からなるものをジペプチド、3分子からなるものをトリペプチド、多数連なったものをポリペプチドといいます。タンパク質は多数の α-アミノ酸がペプチド結合で連なったポリペプチドです。
ポリペプチドの左端(アミノ基側)をN 末端、右端(カルボキシ基側)をC 末端といいます。アミノ酸の配列順序は N 末端から C 末端に向けて記述します。
グリシン(Gly)とアラニン(Ala)からなるジペプチドには、Gly-Ala(グリシルアラニン)と Ala-Gly(アラニルグリシン)の2種類の構造異性体があります。アミノ酸の配列順序(N 末端から C 末端への順)が異なれば別の化合物になります。
タンパク質の立体構造は4段階で記述されます。
| 構造 | 内容 | 安定化する結合・力 |
|---|---|---|
| 一次構造 | アミノ酸の配列順序(配列) | ペプチド結合(共有結合) |
| 二次構造 | α-ヘリックス(らせん状)や β-シート(ひだ状)などの局所的な規則構造 | ペプチド結合間の水素結合 |
| 三次構造 | ポリペプチド全体の立体的な折れ畳み | 疎水性相互作用、イオン結合、ジスルフィド結合(-S-S-)、水素結合 |
| 四次構造 | 複数のポリペプチド鎖の会合体 | 非共有結合的な相互作用 |
二次構造の主な形:
タンパク質が加熱・酸・塩基・重金属イオン・有機溶媒などの作用を受けると、ペプチド結合(一次構造)は切れないが、水素結合などが組み替わって高次構造(二次〜四次構造)が崩壊し、性質が変化します。これをタンパク質の変性といいます。
| 変性原因 | 具体例 |
|---|---|
| 加熱 | 卵の加熱凝固、肉を焼く |
| 酸・塩基 | 牛乳に酸を加えてカゼインが沈殿(チーズ) |
| 重金属イオン(Pb2+、Hg2+等) | 重金属中毒でタンパク質機能喪失 |
| 有機溶媒(アルコール等) | エタノールによる消毒(細菌タンパク質を変性) |
「変性」と「加水分解」は別物です。変性では高次構造(二次〜四次構造)が崩壊するだけで、一次構造(アミノ酸配列・ペプチド結合)は保たれる。加水分解では実際にペプチド結合が切れてアミノ酸に分解されます。入試でよく問われる区別です。
酵素はタンパク質からなる生体触媒であり、生体内の化学反応を促進します。酵素が反応させる物質を基質といいます。
酵素はその活性部位の立体構造に合った特定の基質にのみ作用する。これを基質特異性(鍵と鍵穴の関係)といいます。例:マルターゼはマルトースのみを加水分解し、スクロースには作用しません。
酵素が高温・極端な pH で活性を失う理由は、酵素がタンパク質であるためです。高温や pH の急変により高次構造が崩壊(変性)し、活性部位の立体構造が変わって基質と結合できなくなります。「タンパク質の変性」と「酵素の失活」は同じ現象の別表現です。
| 反応名 | 操作 | 呈色 | 検出対象 |
|---|---|---|---|
| ビウレット反応 | NaOH 水溶液を加えて塩基性にし、少量の CuSO4 水溶液を加える | 赤紫色 | ペプチド結合が2個以上(トリペプチド以上) |
| キサントプロテイン反応 | 濃硝酸を加えて加熱(黄色)→ さらにアンモニア水を加える(橙黄色) | 黄色→橙黄色 | 芳香族アミノ酸残基(ベンゼン環のニトロ化) |
| 硫黄反応(鉛反応) | 固体 NaOH を加えて加熱し、酢酸鉛(II)水溶液を加える | 黒色沈殿(PbS) | 硫黄含有アミノ酸(システイン・メチオニン等) |
| ニンヒドリン反応 | ニンヒドリン溶液を加えて温める | 赤紫〜青紫色 | アミノ基(-NH2)をもつアミノ酸残基 |
ビウレット反応はペプチド結合が2個以上ある場合に起こります。したがって、アミノ酸単体(ペプチド結合なし)やジペプチド(ペプチド結合1個)では起こりません。トリペプチド以上で陽性になります。
フェニルアラニン・チロシン・トリプトファンなど、ベンゼン環をもつアミノ酸を含むタンパク質で陽性になります。皮膚に濃硝酸が触れると黄色に変色するのも同じ反応(皮膚タンパク質のニトロ化)。
Q1. タンパク質の変性とはどのような変化か。加水分解との違いを含めて説明せよ。
Q2. ビウレット反応が陽性になる条件を述べ、アミノ酸単体では呈色しない理由を説明せよ。
Q3. 酵素の「基質特異性」とはどのような性質か。具体例を挙げて説明せよ。
Q4. キサントプロテイン反応が陽性になるタンパク質の特徴を述べよ。
タンパク質に関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。
①③⑤
②が誤り:変性ではペプチド結合は切断されない。高次構造(二次〜四次構造)が崩壊するだけ。ペプチド結合が切れるのは加水分解。④が誤り:キサントプロテイン反応は芳香族アミノ酸(ベンゼン環)の検出。硫黄含有アミノ酸の検出は硫黄反応(鉛反応)。
グリシン(分子量 75)とアラニン(分子量 89)からなるトリペプチドについて答えよ。
(1) グリシン1分子とアラニン2分子からなるトリペプチドの分子量を求めよ。
(2) このトリペプチドに対してビウレット反応を行うと呈色するか。理由とともに答えよ。
(3) このトリペプチドを完全に加水分解すると何が得られるか。
(1) トリペプチドの分子量:75 + 89 + 89 − 18 × 2 = 217
(2) 呈色する(赤紫色)。トリペプチドはペプチド結合を2個もつため、ビウレット反応の条件(ペプチド結合2個以上)を満たすから。
(3) グリシン(H2N-CH2-COOH)1分子とアラニン(H2N-CH(CH3)-COOH)2分子
(1) アミノ酸 n 分子からなるポリペプチドの分子量:各アミノ酸の分子量の和 − 18 × (n − 1)。脱水縮合で水分子が (n − 1) 個失われるため。3分子の場合は 18 × 2 = 36 を引く。75 + 89 + 89 − 36 = 217… ではなく、(75 + 89 + 89) − (18 × 2) = 253 − 36 = 217。
※計算を再確認:75 + 89 + 89 = 253。253 − 36 = 217。正解は 217。
タンパク質の構造と酵素の性質に関する次の問いに答えよ。
(1) タンパク質の一次構造から四次構造までを、それぞれを安定化する結合・力とともに説明せよ。
(2) 酵素は一般に最適温度(約37℃)を超えると急激に活性を失う。その理由を「変性」という語を用いて説明せよ。
(3) 同じ反応を促進する酵素であっても、胃で働くペプシン(最適 pH 約2)と膵臓で働くトリプシン(最適 pH 約8)では最適 pH が大きく異なります。この違いが生じる理由を述べよ。
(1) 一次構造:アミノ酸の配列順序であり、ペプチド結合(共有結合)で安定化されます。二次構造:α-ヘリックスやβ-シートなどの局所的な立体構造であり、ペプチド結合間の水素結合で安定化されます。三次構造:ポリペプチド全体の三次元的な折り畳み構造であり、疎水性相互作用・ジスルフィド結合・イオン結合・水素結合で安定化されます。四次構造:複数のポリペプチド鎖(サブユニット)が会合した構造であり、主に非共有結合的な相互作用で安定化されます。
(2) 最適温度を超えると熱エネルギーによって水素結合などの弱い結合が切れ、酵素(タンパク質)の高次構造が崩壊(変性)する。変性により活性部位の立体構造が変化して基質と結合できなくなるため、酵素活性が急激に低下します。
(3) それぞれの酵素が働く器官の pH 環境に対応した立体構造をもつように進化・適応しているため。ペプシンは胃の強酸性環境(pH 約2)で安定な三次構造を保てるよう、トリプシンは膵液の弱アルカリ性環境(pH 約8)で安定な三次構造をもちます。最適 pH からはずれると高次構造が変化して活性が低下する。
一次〜四次構造は論述問題として頻出。「構造の内容」と「安定化する結合・力」をセットで答えるのがポイント。(2)(3)はいずれも「変性」に帰着させることが解答の核心。