第23章 合成高分子化合物

熱可塑性樹脂

ペットボトル・レジ袋・水道管・発泡スチロール容器──身のまわりの多くのプラスチックは熱可塑性樹脂です。
加熱で軟化し冷却で再び固まる性質は、鎖状構造から生まれます。
単量体・重合形式・用途をセットで押さえることが学習のポイントです。

1熱可塑性樹脂とは

合成樹脂(プラスチック)は、高分子化合物を素材とする成形材料の総称です。熱に対する性質によって、熱可塑性樹脂熱硬化性樹脂に大別されます。

特徴:加熱で軟化、冷却で再固化

熱可塑性樹脂は、加熱すると軟化して流動性が生じ、冷却すると再び固まる樹脂です。この性質により、繰り返し成形が可能です。リサイクルしやすいのも特徴です。

構造:鎖状(線状)高分子

熱可塑性樹脂の分子は、基本的に鎖状(線状)構造をしています。加熱すると分子鎖間の分子間力(ファンデルワールス力・水素結合)が弱まり、分子鎖が互いにずれ動いて軟化します。冷却すると分子間力が回復して再固化します。

熱可塑性樹脂はなぜ再成形できるのか
分子が鎖状構造 → 分子間の結合は「分子間力」のみ(共有結合で架橋されていない)
加熱 → 分子の熱運動が激しくなり、分子間力を上回る → 分子鎖がずれる(軟化)
冷却 → 分子の運動が静まり、分子間力が復活 → 再固化
この可逆変化が繰り返し成形を可能にする

2ポリエチレン ─ HDPE と LDPE

エチレン CH2=CH2付加重合させるとポリエチレン(PE)が得られます。

n CH2=CH2 → -(CH2-CH2)-n

合成条件によって、分子鎖の枝分かれの程度が異なり、性質が変わります。

種類 合成条件 密度(g/cm³) 特徴 用途
高密度ポリエチレン(HDPE) 低温・低圧(触媒使用) 0.94〜0.96 枝分かれが少ない・かたい・引張強度大 パイプ・容器・灯油タンク
低密度ポリエチレン(LDPE) 高温・高圧(200℃、200×10⁶ Pa) 0.91〜0.93 枝分かれが多い・やわらかい・透明性あり レジ袋・包装フィルム
枝分かれと密度の関係

枝分かれが少ないほど分子鎖が整然と並びやすく(結晶領域が多い)、分子間力が強くなり、密度・硬さが増します。HDPEは枝分かれが少ないため高密度で硬く、LDPEは枝分かれが多いため密度が低く柔軟です。

3ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリ塩化ビニル

ポリプロピレン(PP)

プロペン(プロピレン)CH2=CHCH3 の付加重合で得られます。ポリエチレンより軽く(密度約0.90 g/cm³)、耐熱性・剛性に優れます。食品容器・繊維・自動車部品などに使われます。

n CH2=CHCH3 → -(CH2-CH(CH3))-n

ポリスチレン(PS)

スチレン CH2=CHC6H5 の付加重合で得られます。透明で硬く成形しやすい。発泡剤を加えると発泡ポリスチレン(スチレンフォーム)となり、断熱性に優れ、食品容器や緩衝材として広く使われます。

n CH2=CHC6H5 → -(CH2-CH(C6H5))-n

ポリ塩化ビニル(PVC)

塩化ビニル CH2=CHCl の付加重合で得られます。分子内に塩素原子をもつため燃えにくく、耐水性・耐薬品性に優れます。水道管・床材・電線被覆材などに使われます。可塑剤を加えると柔軟になり、レインコートやホースにも利用されます。

n CH2=CHCl → -(CH2-CHCl)-n

落とし穴:PVC の燃焼と塩化水素

ポリ塩化ビニルを燃やすと塩化水素 HCl(有毒)が発生します。廃棄・焼却処分の際には注意が必要で、ダイオキシン生成も問題となることがあります。入試では「塩素原子を含む樹脂」として問われることがあります。

4ポリエチレンテレフタラート(PET樹脂)

23-1(合成繊維)で学んだ PET は、繊維としてだけでなく合成樹脂としても広く使われます。

  • 単量体:エチレングリコール + テレフタル酸
  • 重合形式:縮合重合
  • 結合:エステル結合 -COO-
  • 特徴:透明性が高い・軽量・強度が高い・ガスバリア性あり
  • 用途:ペットボトル(飲料容器)・食品トレイ・フィルム
PET は「合成繊維」でも「合成樹脂」でもある

PET は同じ化合物でありながら、紡糸すれば「ポリエステル繊維」、成形すれば「PET 樹脂(ペットボトル)」になります。回収した PET ボトルは再生ポリエステル繊維に加工できます。このようにひとつの高分子が繊維と樹脂の両方に使われる例として、入試頻出の素材です。

5代表的な熱可塑性樹脂 一覧表

樹脂名(略号) 単量体 重合形式 主な特徴 主な用途
ポリエチレン(PE) エチレン CH2=CH2 付加重合 軽量・耐薬品性(HDPE:硬い、LDPE:軟らかい) 容器・レジ袋・パイプ
ポリプロピレン(PP) プロペン CH2=CHCH3 付加重合 最も軽い汎用樹脂・耐熱性 食品容器・繊維
ポリスチレン(PS) スチレン CH2=CHC6H5 付加重合 透明・硬い・発泡可能 発泡容器・緩衝材
ポリ塩化ビニル(PVC) 塩化ビニル CH2=CHCl 付加重合 難燃性・耐薬品性・耐水性 水道管・電線被覆
ポリエチレンテレフタラート(PET) エチレングリコール+テレフタル酸 縮合重合 透明・ガスバリア・強度高 ペットボトル・繊維
ポリメタクリル酸メチル(PMMA) メタクリル酸メチル CH2=C(CH3)COOCH3 付加重合 高い透明性・硬い(アクリルガラス) 水槽・看板・レンズ
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE) テトラフルオロエチレン CF2=CF2 付加重合 最高の耐熱性・耐薬品性・摩擦係数が最小 フライパン表面加工・軸受
縮合重合から得られる熱可塑性樹脂

熱可塑性樹脂のほとんどは付加重合で得られますが、PET(ポリエステル)やナイロン(ポリアミド)は縮合重合で得られます。「縮合重合 = 熱硬化性」と誤解しないよう注意が必要です。熱可塑か熱硬化かを決めるのは、重合形式ではなく鎖状構造か架橋構造かです。

6この章を俯瞰する

熱可塑性樹脂は、付加重合と縮合重合の両方から生まれます。構造(鎖状)と性質(加熱軟化・再成形可能)を関連付けて理解しましょう。

  • 付加重合の理解 → 19-2「アルケン」:エチレン・プロペン・スチレンはすべてアルケン(二重結合をもつ)であり、付加重合の理解には二重結合の反応性の理解が前提。
  • 熱硬化性樹脂との対比 → 23-3「熱硬化性樹脂」:鎖状構造(熱可塑性)vs. 架橋(網目)構造(熱硬化性)という対比が最重要。
  • PET の二面性 → 23-1「合成繊維」:同一化合物が繊維にも樹脂にもなる代表例。
  • 廃棄・リサイクル → 23-6「化学が拓く未来」:熱可塑性樹脂は加熱して再成形できるため、マテリアルリサイクルに適している。グリーンケミストリーの観点からも重要。

7まとめ

  • 熱可塑性樹脂:加熱で軟化→再成形可能、鎖状構造をもつ
  • HDPE(枝分かれ少・硬い)vs. LDPE(枝分かれ多・柔らかい)
  • PP・PS・PVC・PET・PMMA・PTFE がおもな熱可塑性樹脂
  • PVC は難燃性(Cl 含有);PTFE は最高の耐熱・耐薬品性
  • PET は縮合重合で得られる熱可塑性樹脂(繊維にも樹脂にも利用)
  • 熱可塑か熱硬化かは、鎖状 vs. 架橋(網目)構造で決まる(重合形式ではない)

8確認テスト

Q1. 熱可塑性樹脂が加熱で軟化し、冷却で再び固まる理由を、分子構造の観点から説明せよ。

▶ クリックして解答を表示熱可塑性樹脂は鎖状(線状)構造をしており、分子間の結合は分子間力のみ。加熱すると熱運動が激しくなり分子間力を克服して分子鎖がずれ動いて軟化する。冷却すると再び分子間力が回復して固化するため、この変化は可逆的で繰り返し成形が可能。

Q2. 高密度ポリエチレン(HDPE)が低密度ポリエチレン(LDPE)より硬い理由を述べよ。

▶ クリックして解答を表示HDPEは枝分かれが少ないため分子鎖が整然と並びやすく(結晶領域が多い)、分子間力が強くはたらく。LDPEは枝分かれが多いため分子鎖が乱れて密に詰まりにくく(非晶領域が多い)、やわらかくなる。

Q3. PET が合成繊維にも合成樹脂にもなれる理由を説明せよ。

▶ クリックして解答を表示PET は熱可塑性樹脂であり、加熱して融解した状態から細孔を通して引き伸ばせば繊維(ポリエステル繊維)に、金型に流し込んで成形すればボトル等の樹脂製品になる。同じ化合物でも加工方法によって用途が変わる。

Q4. ポリ塩化ビニルが難燃性を示す理由と、燃焼時の問題点を述べよ。

▶ クリックして解答を表示分子中に塩素原子を含むため燃えにくい(難燃性)。ただし燃焼すると有毒な塩化水素 HCl が発生し、条件によってはダイオキシン類も生成するため、廃棄・焼却処分に注意が必要。

9入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

23-2-1 A 基礎 選択

熱可塑性樹脂に関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。

  • ① 熱可塑性樹脂は、加熱によって硬化する。
  • ② ポリエチレンは、エチレンの付加重合によって得られる。
  • ③ ポリ塩化ビニルは、燃えにくい性質をもつ。
  • ④ ポリエチレンテレフタラートは、付加重合によって得られる熱可塑性樹脂である。
  • ⑤ 高密度ポリエチレンは、低密度ポリエチレンより分子鎖の枝分かれが少ない。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

②③⑤

解説

①:誤り。熱可塑性樹脂は加熱で軟化する。加熱で硬化するのは熱硬化性樹脂。

④:誤り。PET はエチレングリコールとテレフタル酸の縮合重合で得られる。

②③⑤はすべて正しい。

B 標準レベル

23-2-2 B 標準 論述

熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂について、次の問いに答えよ。

(1) 両者の構造上の違いを述べよ。

(2) 熱可塑性樹脂がリサイクルしやすい理由を、熱硬化性樹脂と対比しながら説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 熱可塑性樹脂は分子が鎖状(線状)構造をとる。熱硬化性樹脂は分子が共有結合で三次元的に架橋された立体網目状構造をとる。

(2) 熱可塑性樹脂は分子間の結合が分子間力のみなので、加熱すると軟化・溶融して再成形できる(マテリアルリサイクルが可能)。熱硬化性樹脂は共有結合による架橋が熱では切れないため、加熱しても溶融せず再成形できない。

解説

「熱可塑性 = 鎖状 = 分子間力」「熱硬化性 = 架橋 = 共有結合」という対応を常にセットで答えましょう。

採点ポイント(各3点)
  • (1) 鎖状 vs. 立体網目状の語句を使って対比している(3点)
  • (2) 熱可塑性は加熱で溶融・再成形可能、熱硬化性は不可を対比して述べている(3点)

C 発展レベル

23-2-3 C 発展 計算

平均重合度が 1.5 × 104 のポリエチレンについて、次の問いに答えよ。

(1) このポリエチレンの平均分子量を求めよ。

(2) 上記ポリエチレン 140 g 中に含まれる炭素原子の物質量(mol)を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 繰り返し単位 -CH2-CH2- の分子量 = 28。平均分子量 = 28 × 1.5 × 104 = 4.2 × 105

(2) ポリエチレン 140 g の物質量 = 140 / (4.2 × 105) ≒ 3.33 × 10−4 mol(高分子1分子あたり)。
別解(組成から計算):ポリエチレンの組成式は (CH2)n。炭素の質量分率 = 12/14 = 6/7。140 × (6/7) = 120 g。炭素の物質量 = 120/12 = 10 mol

解説

(2) は高分子の分子量を使う方法より、繰り返し単位の組成から炭素の質量分率を求める方法が実用的です。ポリエチレン中の C:H の質量比は 12×2:1×4 = 24:4 = 6:1。全体(CH₂)の式量は 14。C の質量 = 140 × 12/14 = 120 g → 120/12 = 10 mol。