食塩(塩化ナトリウム NaCl)の結晶は、ナトリウムイオン Na+ と塩化物イオン Cl− が静電気力(クーロン力)で引き合うことで成り立っています。
この「反対符号のイオンが引き合う力」がイオン結合の本質です。
この記事では、イオン結合の成り立ちから組成式の書き方、イオン結晶に共通する性質まで、体系的に理解します。
原子が電子を失うと陽イオン、電子を受け取ると陰イオンになります(→ 2-5「イオンの生成とイオン半径」)。陽イオンと陰イオンが近づくと、正と負の電荷が互いに引き合う静電気力(クーロン力)が生じます。この引力によるイオン間の結びつきをイオン結合といいます。
ナトリウム原子 Na は価電子を1個もち、電子を1個失ってNa+(1価の陽イオン)になります。塩素原子 Cl は最外殻電子を1個受け取ってCl−(1価の陰イオン)になります。
Na → Na+ + e−
Cl + e− → Cl−
Na+ + Cl− → イオン結合(クーロン力で引き合う)
イオン結合は一般に、陽性の大きい金属元素のイオンと陰性の大きい非金属元素のイオンの間に生じます。NaCl では、多数の Na+ と Cl− が三次元的に広がってイオン結合を形成します。
固体の塩化ナトリウムができるときには、Na+ のまわりに Cl− が次々と引き寄せられ、逆に Cl− のまわりには Na+ が次々と引き寄せられます。その結果、Na+ と Cl− が規則正しく交互に並んだイオン結晶が形成されます。NaCl 結晶では、1個の Na+ のまわりを6個の Cl− が取り囲み(上下・左右・前後)、同様に1個の Cl− のまわりを6個の Na+ が取り囲む構造になっています。
クーロン力はイオンの電荷の絶対値が大きいほど、またイオン間距離が小さいほど強くなります。たとえば MgO(Mg2+ と O2−、2価どうし)は NaCl(1価どうし)よりもイオン結合が格段に強く、融点が約2800℃と非常に高くなります。融点の序列はクーロン力の強さから理解できます。
イオン結合からなる物質には、特定の数の分子が存在するわけではありません。多数の陽イオンと陰イオンが集合しているため、化学式として組成式(成分元素の原子数を最も簡単な整数比で示したもの)を使います。
イオン結合からなる物質は電気的に中性なので、次の関係が常に成立します。
陽イオンの価数 × 陽イオンの数 = 陰イオンの価数 × 陰イオンの数
この関係から陽イオンと陰イオンの最も簡単な整数比を求め、陽イオンを先に、陰イオンを後に書き、係数1は省略します。多原子イオンが2個以上の場合は丸括弧でくくります。
| 陽イオン | 陰イオン | 個数比 | 組成式 | 名称 |
|---|---|---|---|---|
| Na+(1価) | Cl−(1価) | 1 : 1 | NaCl | 塩化ナトリウム |
| Ca2+(2価) | Cl−(1価) | 1 : 2 | CaCl2 | 塩化カルシウム |
| Al3+(3価) | O2−(2価) | 2 : 3 | Al2O3 | 酸化アルミニウム |
| Na+(1価) | SO42−(2価) | 2 : 1 | Na2SO4 | 硫酸ナトリウム |
| Ca2+(2価) | OH−(1価) | 1 : 2 | Ca(OH)2 | 水酸化カルシウム |
NaCl や CaCl2 などのイオン結合からなる物質には、分子は存在しません。イオン結晶は多数の陽イオンと陰イオンが三次元的に結合した集合体であり、「NaCl という分子が1個ある」という状態はありません。そのため化学式も「分子式」ではなく「組成式」と呼びます。「NaCl 1分子」「NaCl の分子量」という表現は誤りで、正しくは「NaCl 1式量分」「NaCl の式量」となります。
陽イオンと陰イオンがイオン結合によって規則正しく配列した固体をイオン結晶といいます。イオン結晶には次の共通した性質があります。
イオン結晶はクーロン力の強い引力で結合しているため、硬いという性質をもちます。しかし、外部から力を加えてイオンの層がずれると、同符号のイオンどうし(陽イオンと陽イオン、陰イオンと陰イオン)が隣接する配置になり、今度は反発力が生じます。この反発力によって結晶は一気に割れてしまいます。このため、イオン結晶はもろく、割れやすいという性質もあわせもちます。特定の結晶面に沿って割れる性質をへき開といいます。
※ 金属結晶では自由電子があるため、層がずれても結合が切れにくく(延性・展性)、イオン結晶とは対照的な性質を示します。
イオン結合はクーロン力による比較的強い結びつきです。そのため、イオン結晶を融解するには多くのエネルギーが必要であり、融点の高いものが多いという特徴があります。イオンの価数が大きく、イオン間距離が小さいほどクーロン力が強く、融点はさらに高くなります(例:MgO の融点 ≈ 2800℃)。
イオン結晶の固体では、イオンが規則正しい位置に固定されており自由に動けないため、電気を通しません。しかし、加熱して融解した液体(融解液)や水に溶かした水溶液では、陽イオンと陰イオンが自由に動けるようになるため、電気をよく通します。
水溶液中でイオンに分かれる現象を電離といい、電離する物質を電解質、電離しない物質を非電解質といいます。NaCl などのイオン結晶は電解質の代表例です。
多くのイオン結晶は水に溶けます(水分子がイオンを取り囲んで安定化する)。ただし、炭酸カルシウム CaCO3、塩化銀 AgCl、硫酸バリウム BaSO4 などは例外的に水に溶けにくいイオン結晶です。
身近なイオン結晶の例を融点や用途とともにまとめます。
| 名称 | 組成式 | 融点(℃) | 主な性質・用途 |
|---|---|---|---|
| 塩化ナトリウム | NaCl | 801 | 食塩の主成分。調味料・食品保存料として利用。NaOH や Na2CO3 などの原料。 |
| 炭酸カルシウム | CaCO3 | 825(分解) | 石灰石・大理石・貝殻・卵殻の主成分。チョーク・セメントの原料。水に溶けにくい。 |
| 酸化アルミニウム | Al2O3 | 2054 | コランダムとも呼ばれる。研磨剤・耐火物に利用。ルビーやサファイアはAl2O3 の結晶。 |
| 酸化マグネシウム | MgO | 2852 | 2価×2価のクーロン力が非常に強く融点が極めて高い。耐火物として利用。 |
| 塩化カルシウム | CaCl2 | 772 | 潮解性(空気中の水分を吸収して溶ける)がある。融雪剤・乾燥剤として利用。 |
| 炭酸水素ナトリウム | NaHCO3 | 50(分解) | 重曹とも呼ばれる。ベーキングパウダー・胃薬に利用。水溶液は弱アルカリ性。 |
| 硫酸カルシウム | CaSO4 | 1460 | セッコウとして天然に存在。水に溶けにくい。建築材料・医療用ギプスに利用。 |
イオン結合の知識は、化学の多くの分野と深くつながっています。以下に、この節での学習が他の章・単元とどう連絡するかを整理します。
次の記事(3-2)では、非金属元素の原子どうしが電子対を共有してできる共有結合と、それによって形成される分子の構造を学びます。
Q1. イオン結合とは何か。「クーロン力」という語を使って説明してください。
Q2. Al3+ と O2− からなる物質の組成式を、組成式の決め方の手順に従って求めてください。
Q3. イオン結晶は「硬いがもろい」といわれます。それぞれの理由を説明してください。
Q4. 固体のイオン結晶は電気を通さないのに、その水溶液は電気をよく通します。理由を答えてください。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
イオン結晶に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
①③④
① 正しい。② 誤り。NaCl はイオン結晶であり、分子は存在しない。多数の Na+ と Cl− が規則正しく配列した集合体である。③ 正しい。④ 正しい。固体ではイオンが固定されて動けないため不導体。水溶液では電離してイオンが自由に動けるため導体となる。⑤ 誤り。イオン結晶は外力でもろく割れる(展性・延性は金属結晶の性質)。
次の各問いに答えよ。
(1) 次のイオンの組み合わせからなる物質の組成式と名称を答えよ。
① NH4+ と SO42− ② Al3+ と OH− ③ Fe3+ と SO42−
(2) 塩化ナトリウムと酸化マグネシウムを比べると、酸化マグネシウムの方が融点が著しく高い(NaCl:801℃、MgO:2852℃)。この理由をクーロン力の観点から60字以内で説明せよ。
(1) ① (NH4)2SO4(硫酸アンモニウム) ② Al(OH)3(水酸化アルミニウム) ③ Fe2(SO4)3(硫酸鉄(III))
(2) MgO は2価のイオンどうし(Mg2+ と O2−)で構成されており、NaCl(1価どうし)よりイオンの電荷が大きくクーロン力が強いため、融点が高い。(59字)
(1) ① NH4+(1価)と SO42−(2価)→ 1×個数=2×個数 → 比は2:1 → (NH4)2SO4。多原子イオンが2個以上なので ( ) でくくる。② Al3+(3価)と OH−(1価)→ 3×1=1×3 → 比は1:3 → Al(OH)3。③ Fe3+(3価)と SO42−(2価)→ 3×2=2×3 → 比は2:3 → Fe2(SO4)3。
(2) クーロン力の強さは電荷の積に比例します。NaCl では(+1)×(−1)=1 に対し、MgO では(+2)×(−2)=4 となり、クーロン力が約4倍強くなります(イオン半径の違いも若干関係しますが、価数の違いが主因です)。クーロン力が強いほど融解するのに必要なエネルギーが大きいため、融点が高くなります。
塩化ナトリウム型の結晶構造に関する以下の問いに答えよ。
(1) NaCl 型結晶では、1個の Na+ のまわりに Cl− が何個配位しているか。また、この数を配位数という。
(2) NaCl の単位格子(1辺の長さ a)には Na+ と Cl− がそれぞれ何個ずつ含まれるか。また、そこから組成式が NaCl であることを確認せよ。(Cl− は頂点と面の中心、Na+ は辺の中点と体心に位置することを用いよ)
(3) イオン結晶のもろさを「同符号イオン」「反発力」という語を使って80字以内で説明せよ。
(1) 6個(上下・左右・前後の6方向)
(2) Cl−:頂点に8個×(1/8)+面の中心に6個×(1/2)=1+3=4個
Na+:辺の中点に12個×(1/4)+体心に1個=3+1=4個
Na+:Cl− = 4:4 = 1:1 → 組成式 NaCl が確認できる。
(3) 外力でイオンの層が1列分ずれると、同符号のイオンが隣接する面が生じ、同符号どうしの強い反発力が一度に働くため、結晶は簡単に割れてしまう。(74字)
(1) NaCl 型結晶は、Na+ と Cl− がそれぞれ面心立方格子を形成し、互いに入れ子になった構造です。各イオンは上下・左右・前後の6方向に異符号のイオンを隣接させており、配位数は6です。
(2) 単位格子内の原子の数え方:頂点の原子は8個あるが隣接する格子に共有されるため1/8個分、辺上の原子は4個分の格子に共有されるため1/4個分、面上の原子は2個分の格子に共有されるため1/2個分、体心は1個分として数えます。Cl−(頂点8か所×1/8+面の中心6か所×1/2)=1+3=4個。Na+(辺の中点12か所×1/4+体心1か所×1)=3+1=4個。Na+:Cl−=4:4=1:1 から NaCl の組成が確認できます。
(3) イオン結晶のもろさの鍵は「層がずれると同符号イオンが隣接する」点です。通常状態では異符号イオンが隣り合い引力が働きますが、力を加えて層が1列分ずれると同符号が並んで強い反発力が生じ、急激に結晶が破壊されます。金属結晶では自由電子が結合を保ち層がずれても壊れないことと対照的です。