分子が固まって液体や固体になるのはなぜでしょうか。共有結合は分子の「内側」を固める力ですが、分子の「外側」をつなぐ力も存在します。
分子間にはたらく弱い引力を分子間力といい、その中でもファンデルワールス力と水素結合の2つが特に重要です。
この記事では、分子間力が物質の沸点・融点をどのように決めるかを、具体的なデータとともに理解します。
窒素 N2 は−196℃以下で液体になり、さらに冷やすと固体になります。N2 分子どうしを結びつける力は何でしょうか。N2 どうしの間にはイオン結合も共有結合もありません。しかし、分子間には分子間力と呼ばれる弱い引力がはたらいています。
分子間力は化学結合(共有結合・イオン結合・金属結合)に比べてはるかに弱い力ですが、分子が集合して固体や液体の状態を保つためには不可欠な存在です。物質を加熱して気体にするとき、消費されるエネルギーの多くが「分子間力を断ち切るため」に使われます。したがって、分子間力が強いほど沸点・融点は高くなります。
分子間力には主に次の2種類があります。
分子間力が弱い物質は常温で気体、中程度なら液体、強ければ固体として存在します。また、同じ状態でも分子間力が強いほど沸点・融点が高くなります。「なぜこの物質は常温で液体なのか」「なぜ水の沸点は100℃と高いのか」――これらの問いへの答えはすべて分子間力にあります。
分子中の電子は常に動き続けています。ある瞬間に電子が偏ると、分子のある部分がわずかに負(δ−)、別の部分がわずかに正(δ+)に帯電します。この瞬間的な電荷の偏り(分散力)が隣の分子を引きつけ、弱い静電気的引力を生じさせます。これをファンデルワールス力といいます。
ファンデルワールス力はすべての分子の間にはたらきます(極性分子・無極性分子を問わず)。極性分子の場合はファンデルワールス力に加えて、分子の双極子どうしの静電気的な引力も加わります。
分子量が大きいほど電子の総数が多く、電荷の偏りが生じやすくなります。そのため、分子量が大きいほどファンデルワールス力は強くなり、沸点・融点は高くなります。
この傾向はハロゲン単体や希ガス(貴ガス)の単体でよく確認できます。
| 物質 | 分子量 | 沸点(℃) | 常温の状態 |
|---|---|---|---|
| He(ヘリウム) | 4 | −269 | 気体 |
| Ne(ネオン) | 20 | −246 | 気体 |
| Ar(アルゴン) | 40 | −186 | 気体 |
| Kr(クリプトン) | 84 | −153 | 気体 |
| Xe(キセノン) | 131 | −108 | 気体 |
| F2(フッ素) | 38 | −188 | 気体 |
| Cl2(塩素) | 71 | −34 | 気体 |
| Br2(臭素) | 160 | 59 | 液体 |
| I2(ヨウ素) | 254 | 184 | 固体 |
希ガスは単原子分子で無極性です。ハロゲン単体も無極性の二原子分子です。これらの分子間にはたらくのはファンデルワールス力のみですが、分子量が大きくなるにつれて沸点が規則的に上昇していることが読み取れます。
14〜17族元素の水素化合物の沸点を分子量順に並べると、14族(CH4, SiH4, GeH4…)は分子量が大きいほど沸点が高く、ファンデルワールス力だけで説明できます。しかし、15〜17族では奇妙な例外が現れます。
16族の水素化合物のうち、分子量が最も小さい水 H2O の沸点(100℃)が、より分子量が大きい H2S(−61℃)、H2Se(−41℃)よりも著しく高くなっています。同様に、15族のアンモニア NH3(−33℃)も PH3(−87℃)より高く、17族のフッ化水素 HF(20℃)も HCl(−85℃)より高い沸点を示します。
この異常な高沸点の原因が水素結合です。
電気陰性度が非常に大きいF・O・Nに結合した水素原子(H)は、電子を強く引きつけられてδ+に帯電します。この水素原子(δ+)が、隣の分子のF・O・Nの非共有電子対(δ−)を引きつけることで生じる結合が水素結合です。
水素結合は次のように表されます(点線の部分が水素結合)。
X−H ··· Y
X, Y は F・O・N のいずれか。 −は共有結合、··· は水素結合
具体例:H2O の場合は O−H···O、HF の場合は F−H···F、NH3 の場合は N−H···N
水素結合は共有結合やイオン結合とは異なり、電子の共有でも電子の移動でもありません。δ+に帯電した水素原子と、隣の分子のδ−の原子(F・O・N)との静電気的な引力です。結合エネルギーは共有結合の1/10〜1/20程度ですが、ファンデルワールス力よりは数倍強い力です。
HF・H2O・NH3 の分子には F−H・O−H・N−H 結合があり、これらの分子間では水素結合が形成されます。水素結合はファンデルワールス力より強いため、分子を引き離すのにより多くのエネルギーが必要となり、沸点が分子量から予想される値よりもはるかに高くなります。
水の水素結合はとりわけ重要です。酸素原子(O)は2本のO−H結合と2組の非共有電子対をもつため、1つの水分子は最大4つの水素結合を形成できます。これが水のさまざまな特異な性質の源です。
分子間にはたらく力の強さを整理すると、次のような順序になります。
共有結合(分子内) ≫ 水素結合 > ファンデルワールス力
例として、水の蒸発(沸騰)を考えてみましょう。水が100℃で沸騰するとき、断ち切られるのは分子間の水素結合であり、O−H の共有結合ではありません。水蒸気になっても水分子(H2O)は壊れず、O−H 結合は保たれています。これは共有結合が水素結合よりはるかに強いからです。
| 力の種類 | はたらく場所 | 相対的な強さ | 例 |
|---|---|---|---|
| 共有結合 | 分子内(原子間) | 非常に強い | O−H、N−H、C−C など |
| 水素結合 | 分子間(F・O・N をもつ分子) | 中程度 | H2O、HF、NH3 の分子間 |
| ファンデルワールス力 | すべての分子間 | 弱い(分子量で変化) | すべての分子間に普遍的にはたらく |
同族の水素化合物を分子量の小さい順に並べたとき、沸点が単調に低くなるはずの化合物が逆に高い値を示していたら、それは水素結合の証拠です。HF・H2O・NH3 の3つは「分子量が最小なのに沸点が最高」という共通の特徴をもちます。これらの分子がすべて F・O・N に結合した H を含んでいることに気づければ、水素結合という概念は自然に導かれます。
また、水素結合は生体分子においても極めて重要です。DNA の二重らせん構造は塩基間の水素結合によって安定化されており、タンパク質の立体構造(α ヘリックスや β シート)も水素結合によって維持されています。
分子間力の概念は、化学の広範な分野と結びついています。
次の記事(3-6)では、金属原子間にはたらく金属結合と、それによって生じる金属の特性(展性・延性・電気伝導性・熱伝導性)を学びます。
Q1. ファンデルワールス力はどのような分子間にはたらきますか。また、分子量との関係を説明してください。
Q2. 水素結合が形成される条件を説明してください。また、水素結合を形成する分子を3つ答えてください。
Q3. 16族元素の水素化合物(H2O, H2S, H2Se, H2Te)を沸点の低い順に並べると、予想と異なる結果になります。それはなぜですか。
Q4. 氷が水に浮く理由を、水素結合と密度の観点から説明してください。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
分子間力に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
②⑤
① 誤り。ファンデルワールス力は極性・無極性を問わずすべての分子間にはたらきます。
② 正しい。分子量が大きいほど電子数が多く、瞬間的な電荷の偏りが生じやすいため、ファンデルワールス力が強くなります。
③ 誤り。水素結合が形成されるのは、F・O・Nに結合したHをもつ分子間です。CH4 の C−H 結合では電気陰性度の差が小さく水素結合は形成されません。
④ 誤り。水素結合は共有結合より弱く、ファンデルワールス力より強い力です。
⑤ 正しい。HF・H2O・NH3 は F−H···F、O−H···O、N−H···N の水素結合を形成するため、分子量から予想される沸点より著しく高い沸点を示します。
ハロゲン単体(F2, Cl2, Br2, I2)の沸点は、F2(−188℃)、Cl2(−34℃)、Br2(59℃)、I2(184℃)と、原子番号が大きいほど高くなっている。
(1) ハロゲン単体はすべて無極性分子である。これらの分子間にはたらく力の名称を答えよ。
(2) 原子番号が大きいほど沸点が高くなる理由を、分子量と分子間力の観点から60字以内で説明せよ。
(3) 常温(25℃)で液体として存在するハロゲン単体はどれか。また、その理由を答えよ。
(1) ファンデルワールス力
(2) 原子番号が大きいほど分子量が大きく電子数が多い。電荷の偏りが生じやすくなりファンデルワールス力が強くなるため、分子を引き離すのにより多くのエネルギーが必要となり沸点が高くなる。
(3) Br2(臭素)。沸点59℃が常温(25℃)より高く、融点−7℃より低いため、常温で液体として存在する。
ハロゲン単体は F2, Cl2, Br2, I2 のいずれも無極性の二原子分子です。無極性分子の間にはたらく分子間力はファンデルワールス力のみです。
分子量が F2(38) → Cl2(71) → Br2(160) → I2(254) と増大するにつれ、電子数が増えて電荷の偏りが生じやすくなり、ファンデルワールス力が強くなります。その結果、沸点も規則的に上昇します。
Br2 の沸点59℃は常温(約25℃)より高く、融点−7℃より常温が高いため、常温では液体です。Br2 は「常温で液体である唯一の非金属単体」として重要です(金属では Hg が液体)。
水(H2O)は、同じ16族元素の水素化合物である硫化水素 H2S(沸点−61℃)、セレン化水素 H2Se(沸点−41℃)、テルル化水素 H2Te(沸点−2℃)と比較して著しく高い沸点(100℃)を示す。また、固体の水(氷)は液体の水よりも密度が小さく、水に浮く。以下の問いに答えよ。
(1) H2S・H2Se・H2Te では分子量が大きいほど沸点が高くなるが、H2O の沸点だけが著しく高い。その理由を化学結合の名称を用いて説明せよ。
(2) 液体の水から水蒸気が生成するとき(沸騰)、どのような結合が切断されるか。また、水蒸気の状態でも H2O 分子が壊れない理由を、共有結合と水素結合の強さの違いに触れて説明せよ。
(3) 氷の密度が液体の水より小さい理由を、水素結合と構造の観点から説明せよ。
(1) H2O 分子の O−H 結合は極性が特に大きく、水分子間では O−H···O の形で水素結合が形成される。水素結合はファンデルワールス力より強いため、水分子を気体にするのに多くのエネルギーが必要となり、沸点が著しく高くなる。
(2) 沸騰では、水分子間の水素結合が切断される(O−H 共有結合は切断されない)。共有結合は水素結合より非常に強いため、水素結合だけが断ち切られて分子が離れても、分子内の O−H 共有結合は保たれ、H2O 分子は壊れない。
(3) 氷の結晶中では、水分子が水素結合によって正四面体形に配向し、すき間の多い規則的な構造をとる。氷が融けて液体になると、この水素結合の配列が乱れてすき間が減少するため、液体の水の密度が氷より大きくなる。したがって氷の密度は液体の水より小さく、氷が水に浮く。
(1) H2S・H2Se・H2Te の間にはたらくのはファンデルワールス力のみであり、分子量が大きいほど沸点が高くなります。しかし H2O では、O の電気陰性度が非常に大きい(3.4)ため O−H 結合の極性が特に大きく、強力な水素結合(O−H···O)が形成されます。水分子1つは最大4本の水素結合(2本のドナー・2本のアクセプター)を形成できるため、その効果は顕著です。
(2) 沸騰とは液体→気体の状態変化であり、分子を引き合わせている分子間の力(水素結合)が断ち切られる過程です。O−H 共有結合のエネルギー(460 kJ/mol 程度)は水素結合(20 kJ/mol 程度)の約20倍以上あるため、水素結合だけが切れても共有結合は切れません。これは重要な概念であり、「沸騰で断ち切られるのは分子間の力であり、分子内の共有結合ではない」という点は入試でも頻繁に問われます。
(3) 氷の結晶では各水分子が4本の水素結合を形成し、正四面体形の骨格構造をとります。この構造はすき間が多く、密度が低くなります(約0.92 g/cm3)。融解により水素結合の一部が断ち切られると、規則的な正四面体構造が崩れ、分子がすき間に入り込んで密度が増加します。液体の水の密度は4℃で最大(1.00 g/cm3)となります。ほとんどの物質では固体の密度が液体より大きいため、固体は液体に沈みますが、水は例外です。この性質は水生生物の生存(湖が底から凍らず表面から凍るため、底の水は液体のまま保たれる)など、自然界で非常に重要な意味をもちます。