固体の物質には、イオン結晶・分子結晶・共有結合の結晶・金属結晶の4種類があります。
この章の締めくくりとして、4種類を横断的に整理します。
「なぜ融点が違うのか」「なぜ硬さが違うのか」はすべて粒子間の結合力で説明できます。
粒子が規則正しく配列した固体を結晶といいます。結晶は、その構成粒子の種類と粒子間の結合の種類によって、次の4つに分類されます。
| 結晶の種類 | 構成粒子 | 粒子間の結合 | 融点 | 硬さ | 電気伝導性 (固体) |
電気伝導性 (水溶液・融解液) |
水への溶解性 | 代表例 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| イオン結晶 | 陽イオン・陰イオン | イオン結合 (静電気力) |
高い | 硬いがもろい | なし | あり | 溶けやすいものが多い | NaCl、KNO3、MgO |
| 分子結晶 | 分子 | 分子間力 (弱い引力) |
低い | やわらかい | なし | なし | 極性分子は溶けやすい 無極性分子は溶けにくい |
CO2(ドライアイス)、I2、ナフタレン、H2O(氷) |
| 共有結合の結晶 | 原子 | 共有結合 (非常に強い) |
非常に高い | 非常に硬い (黒鉛は例外) |
なし (黒鉛・Siは例外) |
なし | 溶けない | ダイヤモンド C、ケイ素 Si、二酸化ケイ素 SiO2、黒鉛 C |
| 金属結晶 | 金属原子 | 金属結合 (自由電子) |
高いものが多い (例外もあり) |
硬いものが多い (例外もあり) |
あり | あり(一般に水と反応) | 水と反応するものが多い | Fe、Cu、Al、Na |
4種類の結晶の性質の違いは、すべて粒子間の結合力の強さから説明できます。
結合力が強いほど → 融点が高い・硬い・電気を通しにくい(例:共有結合の結晶)
結合力が弱いほど → 融点が低い・やわらかい(例:分子結晶)
個々の性質を丸暗記するのではなく、「どの粒子が、どの力で結びついているか」から性質を導く習慣をつけましょう。
イオン結晶は、陽イオンと陰イオンが静電気力(クーロン力)によって規則正しく配列した固体です。イオン結合は比較的強い結合のため、融点は高い傾向があります。
イオン間の静電気力は、イオンの電荷の積が大きいほど、またイオン間距離が小さいほど強くなります。したがって次の傾向があります。
イオン結晶については「3-1 イオン結合とイオン結晶」で詳しく扱いました。この節ではその位置づけを確認します。
気体の二酸化炭素 CO2 を冷却するとドライアイスになります。このように、多数の分子が分子間力によって規則正しく配列してできた固体を分子結晶といいます。
分子間力は、イオン結合・共有結合・金属結合などの化学結合と比べて非常に弱い力です。主な種類として、すべての分子間に働くファンデルワールス力と、F・O・N に結合した H を介する特に強い水素結合があります。
二酸化炭素の固体。常圧では昇華(固体 → 気体)し、液体にならない。二酸化炭素分子は分子内では共有結合(C=O の二重結合)で結びついているが、分子どうしを結びつけているのは弱いファンデルワールス力のみ。そのため、融点は −78.5℃(昇華点)と非常に低い。
常温では黒紫色の固体で、昇華性をもつ。加熱すると液体にならず直接紫色の気体になる。無極性の二原子分子からなる分子結晶であり、分子量が比較的大きい(254)ためファンデルワールス力はドライアイスより強く、融点は 114℃。
常温では白色固体で、特有の芳香をもつ。昇華性があり、防虫剤として利用されてきた。分子間力はファンデルワールス力のみで、融点は 80℃。
水分子どうしが水素結合で結びついた分子結晶。水素結合はファンデルワールス力より格段に強い分子間力であるため、同程度の分子量の物質と比べて融点(0℃)・沸点(100℃)が著しく高い。また、水素結合によりすき間の多い構造をとるため、氷の密度は液体の水より小さく、氷は水に浮く。
多数の非金属元素の原子が共有結合で次々と結びつき、規則正しく配列してできた固体を共有結合の結晶といいます。結晶全体が1つの巨大な共有結合の網目構造を形成しているため、組成式(分子式ではない)で表します。
炭素原子 C がもつ4個の価電子をすべて使って正四面体形の立体構造をつくり、それが三次元的に連なって結晶を形成する。天然に存在する物質の中で最も硬く(モース硬度10)、融点は約4000℃(高圧下)。電気を導かない。宝飾品や切削工具として利用される。
炭素原子 C が4個の価電子のうち3個を使って正六角形の平面網目状構造をつくり、その層が弱い分子間力で積み重なった構造をとる。同じ炭素原子からなる共有結合の結晶だが、構造がまったく異なる(炭素の同素体)。残り1個の価電子が層内を自由に動けるため、電気をよく導く(例外的な性質)。やわらかく、なめらか(鉛筆の芯や電極に利用)。
ダイヤモンドと同じく正四面体構造をもつ共有結合の結晶。電気伝導性は金属と絶縁体の中間で、半導体とよばれる。集積回路(IC)や太陽電池の材料として現代の電子産業に不可欠。
Si 原子を中心に O 原子が正四面体の頂点の位置にある構造が三次元的に繰り返されてできる。石英・水晶・けい砂として天然に広く存在する。融点は 1650℃ 程度で非常に高い。光ファイバーの原料として利用される。
どちらも非金属元素の酸化物ですが、性質はまったく異なります。
CO2:C=O の二重結合をもつ分子が分子間力で集まった分子結晶 → 融点が低く昇華する
SiO2:Si–O 単結合が三次元的に無限に続く共有結合の結晶 → 融点が非常に高い
Si は C と同じ14族ですが、Si–Si 間より Si–O 間の結合の方が安定なため、SiO2 では酸素がすべての Si 間を橋渡しする構造になります。
| 物質 | 融点(℃) | 硬さ | 電気伝導性 |
|---|---|---|---|
| ダイヤモンド C | 約 4000(高圧下) | 最も硬い | なし |
| 二酸化ケイ素 SiO2 | 約 1650 | 硬い | なし |
| ケイ素 Si | 1410 | 硬い | あり(半導体) |
| 黒鉛 C | 約 3550(昇華) | やわらかい(層間) | あり |
金属結晶は、金属原子が金属結合によって規則正しく配列した固体です。金属結合では、価電子が特定の原子に縛られず結晶全体を自由に動き回る自由電子となり、これが金属原子どうしを結びつけています。
金属結晶の主な結晶格子には3種類あります。
面心立方格子と六方最密構造は原子の充填率が最も高く(約74%)、効率よく原子が詰まった構造です。
金属結晶については「3-6 金属結合と金属の性質」で詳しく扱いました。この節ではその位置づけを確認します。
物質名や組成式が与えられたとき、どの種類の結晶かを判断する手順を整理します。
塩化アンモニウム NH4Cl は非金属元素(N、H、Cl)だけでできていますが、NH4+ と Cl− というイオンが構成粒子であるため、イオン結晶に分類されます。「金属元素を含まないからイオン結晶ではない」とは言い切れません。フローチャートは目安であり、実際の物質をきちんと把握することが重要です。
4種類の結晶の性質の差は、すべて粒子間の結合力の強さの差です。
共有結合 ≈ イオン結合 > 金属結合 >> 分子間力
この序列を頭に入れておけば、「分子結晶の融点が低い」「共有結合の結晶は非常に硬い」「金属は電気を導く」といった性質が、すべて論理的に導けます。個々の性質を丸暗記するのではなく、根拠から考える習慣を身につけましょう。
第3章「化学結合と結晶」では、物質の構成粒子と粒子間の結合の種類によって、物質の性質がどのように決まるかを学びました。以下に、各節と他の章とのつながりを整理します。
第4章からは「物質量(mol)」を学びます。3章で学んだ4種類の結晶の区別が、式量の計算や反応量の計算でも活きてきます。
Q1. イオン結晶が「硬いがもろい」理由を説明してください。
Q2. 分子結晶の融点が一般に低い理由を、「分子間力」という語を使って説明してください。
Q3. ダイヤモンドは電気を導かないのに、同じ炭素からなる共有結合の結晶である黒鉛は電気を導きます。その理由を構造の違いから説明してください。
Q4. CO2(ドライアイス)と SiO2(石英)はどちらも非金属元素の酸化物ですが、結晶の種類が異なります。それぞれ何結晶か答え、融点に大きな差がある理由を説明してください。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
次の(ア)〜(オ)の物質を、イオン結晶・分子結晶・共有結合の結晶・金属結晶に分類せよ。
(ア)イオン結晶 (イ)分子結晶 (ウ)共有結合の結晶 (エ)金属結晶 (オ)分子結晶
(ア)NaCl は Na+ と Cl− がイオン結合でできたイオン結晶。(イ)CO2 は二酸化炭素分子が弱い分子間力で集まった分子結晶。常圧では昇華する。(ウ)ダイヤモンドは炭素原子が共有結合で三次元的につながった共有結合の結晶。(エ)銅は金属原子が金属結合(自由電子)でつながった金属結晶。(オ)I2 は二原子分子が分子間力で集まった分子結晶。昇華性をもつ。
次の(1)〜(4)の記述に最もよく当てはまる結晶の種類を、下のア〜エから選べ。また、(3)と(4)については理由も説明せよ。
(1)構成粒子は陽イオンと陰イオンで、かたいがもろく割れやすい。固体では電気を導かないが、水に溶かすと電気を導く。
(2)融点が非常に高く、非常に硬い。組成式で表され、電気を導かない。
(3)融点が低く、やわらかい。固体・水溶液ともに電気を導かない。一部の物質には昇華性がある。
(4)電気・熱をよく導き、特有の光沢をもつ。薄く延ばしたり細く引き伸ばしたりすることができる。
ア:イオン結晶 イ:分子結晶 ウ:共有結合の結晶 エ:金属結晶
(1)ア (2)ウ (3)イ (4)エ
(3)理由:分子間力は弱い力なので少ないエネルギーで粒子を引きはがすことができ、融点が低くやわらかくなる。電荷を帯びた粒子がないため電気を導かない。
(4)理由:金属結晶では価電子が自由電子として結晶中を動き回れるため電気・熱を伝えやすい。また、力を加えても自由電子が原子の再結合を助けるため割れずに変形できる(展性・延性)。
(1)「かたいがもろい」「固体では電導性なし・水溶液で電導性あり」はイオン結晶の特徴。(2)「非常に高い融点」「非常に硬い」「組成式」はすべて共有結合の結晶の特徴。(3)分子間力の弱さが融点の低さ・やわらかさ・昇華性の原因。(4)自由電子が電気伝導・熱伝導・展性・延性の原因。
次の5種類の固体 A〜E について、以下の問いに答えよ。
固体 A:外見は白色の粉末で電気を導かない。水に溶かすと電気を導く。ハンマーでたたくと砕ける。
固体 B:外見は灰色の金属光沢をもつ固体で電気をわずかに導く(半導体)。ハンマーでたたくと砕ける。
固体 C:外見は無色透明の固体で電気を導かない。ハンマーでたたくと砕ける。水に溶けない。融点は非常に高い。
固体 D:白色の固体で電気を導かない。水に溶けて水溶液にしても電気を導かない。融点が低い。
固体 E:銀白色の固体で電気をよく導く。ハンマーでたたくと薄く広がる。
(1)A〜E のそれぞれが、イオン結晶・分子結晶・共有結合の結晶・金属結晶のどれかを答えよ。
(2)固体 A と固体 E をハンマーでたたいたときの変化の違いとその理由を説明せよ。
(3)固体 C の具体的な物質として考えられるものを2つ挙げ、それぞれの化学式を書け。
(1)A:イオン結晶 B:共有結合の結晶(半導体) C:共有結合の結晶 D:分子結晶 E:金属結晶
(2)A(イオン結晶)は砕ける:外力で陽イオンと陰イオンの層がずれ、同符号のイオンが向き合って強い反発力が生じるため。E(金属結晶)は薄く広がる:外力を加えても自由電子が原子間の結合を維持するため、割れずに変形できる(展性・延性)。
(3)ダイヤモンド C、二酸化ケイ素 SiO2(ほかにケイ素 Si でも可)
B は電気をわずかに導く(半導体)という特徴からケイ素 Si と判断できる。ケイ素は共有結合の結晶だが、電気伝導性は金属(導体)と絶縁体の中間の半導体である。C は「電気を導かない・水に溶けない・融点が非常に高い」という共有結合の結晶の典型的な性質をもつ。D は「電気を導かない(水溶液でも)・融点が低い」から分子結晶。水溶液でも電導性がないのはイオンが生じないためで、非電解質(砂糖やナフタレンなど)の分子結晶が該当する。
(2)のポイントは「イオン結晶がもろい理由」と「金属結晶が展性・延性をもつ理由」を対比させて論じること。前者は同符号イオンの反発、後者は自由電子の働きが鍵。