第4章 物質量と化学反応式

原子量・分子量・式量

原子1個の質量はあまりにも小さく、グラム単位でそのまま扱うのは不便です。
そこで「12C の質量を12とする」という基準を設け、相対的な比で原子の重さを表します。
この記事では、相対質量・原子量・分子量・式量という4つの概念を順に積み上げて理解します。

1原子の質量と相対質量

原子1個の質量はきわめて小さく、例えば最も軽い水素原子(1H)でも約 1.67 × 10−24 g、最も重いウラン原子(238U)でも約 4.0 × 10−22 g です。このままグラム単位で扱うと数値が非常に小さくなり、計算が煩雑になります。

そこで、基準となる原子を1つ決め、その質量に対する比(相対値)で原子の質量を表す方法がとられています。この値を相対質量といいます。

基準:¹²C = 12

現在の国際的な取り決めでは、質量数12の炭素原子(12C)の質量を正確に「12」と定め、これを基準とします(1961年、IUPACが採択)。この基準のもとで、各原子の相対質量が定まります。

¹H の相対質量の計算例

1H 1個の質量 ÷ 12C 1個の質量 × 12

= (1.6735 × 10−24 g) ÷ (1.9926 × 10−23 g) × 12

1.008(≒ 1.0)

同様に、酸素原子(16O)の相対質量は約 15.999(≒ 16)、ナトリウム原子(23Na)の相対質量は約 22.990(≒ 23)となります。各原子の相対質量は、その原子の質量数に近い値になります。これは、陽子と中性子の質量がほぼ等しく、電子の質量は非常に小さいためです。

相対質量は「比」なので単位がない

相対質量は「12C の質量を12としたときの比」であるため、グラム(g)などの単位はつきません。「1H の相対質量は 1.008」と言うとき、これは「1 個の 1H の質量は、1 個の 12C の質量の 1.008/12 倍である」ことを意味します。

2原子量

自然界の多くの元素には同位体が存在し、それぞれの相対質量が少しずつ異なります。また、各同位体が天然に存在する割合(天然存在比)はほぼ一定です。

そこで、各同位体の相対質量を天然存在比で加重平均した値を、その元素の原子量と定義します。原子量も相対質量と同様に単位はありません。

塩素の原子量の計算例

塩素には 35Cl(相対質量 35.0、天然存在比 75.8%)と 37Cl(相対質量 37.0、天然存在比 24.2%)の2種類の同位体があります。塩素の原子量は次のように計算します。

塩素の原子量

= 35.0 × (75.8 ÷ 100) + 37.0 × (24.2 ÷ 100)

= 35.0 × 0.758 + 37.0 × 0.242

= 26.53 + 8.954

= 35.484 ≈ 35.5

原子量が整数にならないのはなぜか
元素の多くには、質量の異なる複数の同位体が天然に混在している
原子量は「各同位体の相対質量 × 天然存在比」の加重平均
整数の相対質量を小数の比率で平均すると、整数にならない
例:塩素は 35Cl と 37Cl が混在 → 原子量 = 35.5(整数ではない)

ナトリウム Na のように天然に同位体が1種類しかない元素は、相対質量がそのまま原子量になります(Na の原子量 = 22.990 ≒ 23)。

主要元素の原子量一覧

入試・計算で頻出する元素の原子量(概数)を覚えておきましょう。

元素記号原子量(概数)備考
水素H1.0同位体あり(¹H 99.99%)
炭素C1212C が基準(98.93%)
窒素N14
酸素O16
ナトリウムNa23同位体1種
マグネシウムMg24
アルミニウムAl27同位体1種
硫黄S32
塩素Cl35.535Cl(75.8%)・37Cl(24.2%)
カリウムK39
カルシウムCa40
Fe56
Cu63.5同位体2種(整数でない)
Ag108
バリウムBa137
発展:原子量の基準はなぜ ¹²C なのか大学

かつては水素 H = 1 や酸素 O = 16 が基準として使われていました。20世紀に入ると、酸素に3種の同位体(16O, 17O, 18O)が存在することがわかり、化学と物理で異なる原子量基準が使われる混乱が生じました。1961年に単一の同位体(12C)を基準とすることで統一されました。12C が選ばれた理由は、従来の原子量の数値との差が最小になるよう配慮されたためです。

3分子量

分子からなる物質の質量を表すには、分子量を用います。分子量は、分子式をもとに、その分子を構成する全原子の原子量を合計した値です。相対質量の一種であり、単位はありません。

計算例

水 H₂O の分子量

= H の原子量 × 2 + O の原子量 × 1

= 1.0 × 2 + 16 × 1

= 18

二酸化炭素 CO₂ の分子量

= C の原子量 × 1 + O の原子量 × 2

= 12 × 1 + 16 × 2

= 12 + 32 = 44

アンモニア NH₃ の分子量

= N の原子量 × 1 + H の原子量 × 3

= 14 × 1 + 1.0 × 3

= 14 + 3 = 17

このように、分子式を見て「各元素の原子量 × その原子の個数」をすべて足すだけで分子量が求まります。計算ミスを防ぐには、各元素を1つずつ丁寧に数える習慣をつけましょう。

4式量

イオン結晶(NaClなど)や金属(Cuなど)、共有結合の結晶(ダイヤモンドなど)は、特定の分子式では表せず、組成式化学式で表します。これらの物質の質量を表すとき、分子量の代わりに式量を使います。

式量は、組成式(または化学式)を構成する全原子の原子量の総和です。定義上の計算方法は分子量とまったく同じです。

計算例

塩化ナトリウム NaCl の式量

= Na の原子量 × 1 + Cl の原子量 × 1

= 23 + 35.5

= 58.5

炭酸カルシウム CaCO₃ の式量

= Ca の原子量 × 1 + C の原子量 × 1 + O の原子量 × 3

= 40 + 12 + 16 × 3

= 40 + 12 + 48 = 100

水酸化ナトリウム NaOH の式量

= 23 + 16 + 1.0 = 40

硫酸銅(II)五水和物 CuSO₄・5H₂O の式量

= CuSO₄ の式量 + H₂O の分子量 × 5

= (63.5 + 32 + 16 × 4) + 18 × 5

= 159.5 + 90 = 249.5

本質:分子量も式量も「原子量の和」

分子量と式量は、名前が違うだけで計算方法はまったく同じです。「分子式で表せる物質 → 分子量」「組成式・化学式で表す物質 → 式量」と使い分けるだけで、どちらも「構成原子の原子量をすべて足す」操作です。

ただし、NaCl に「分子量」という言葉を使うのは誤りです。NaCl はイオン結晶であり、独立した分子が存在しないため、「式量 = 58.5」と表現するのが正確です。

落とし穴:イオンの式量

イオンの式量を求めるとき、「電子の質量はどうなる?」と疑問に思う人がいます。電子の質量は陽子・中性子に比べてきわめて小さいため、式量の計算では電子の出入りを無視します。例えば、Na+ の式量は Na の原子量(23)と等しく 23、SO₄2− の式量は 32 + 16 × 4 = 96 です。

5この章を俯瞰する

原子量・分子量・式量は、化学計算のあらゆる場面で登場する「共通言語」です。以下に、この記事の知識が他の章とどうつながるかを整理します。

他の章へのつながりマップ

  • 物質量(モル) → 4-2「物質量(モル)」:原子量・分子量・式量の数値に g/mol をつけたものがモル質量です。「H₂O の分子量は 18 → H₂O のモル質量は 18 g/mol」という変換が次章の核心になります。
  • 化学反応式の量的関係 → 4-4「化学反応式と物質量」:化学反応式の各物質の係数は mol の比を表します。分子量・式量を通じて質量・体積に変換する計算が頻出します。
  • 濃度計算 → 4-3「溶液の濃度」:モル濃度の計算には分子量・式量が必要です。例えば「1 mol/L の NaOH 水溶液 500 mL をつくるには NaOH が何 g 必要か」は式量 40 を用いて計算します。
  • 同位体・放射性同位体 → 2-2「同位体」:原子量が整数でない理由は同位体の存在です。放射性同位体の崩壊・年代測定とも連携します。
  • イオン結晶の組成式 → 3-1「イオン結晶」:NaCl や CaCO₃ の式量は、イオン結晶の組成式の理解と密接につながります。

次の記事(4-2 物質量)では、原子量・分子量・式量に「アボガドロ定数」を組み合わせて、マクロな質量と個数をつなぐ「mol(モル)」という概念を学びます。

6まとめ

  • 相対質量12C の質量を「12」として、他の原子の質量を相対的な比で表した値(単位なし)
  • 原子量:天然に存在する同位体の相対質量を、天然存在比で加重平均した値
  • 原子量が整数でない(例:Cl = 35.5)のは、複数の同位体が天然に混在しているため
  • 分子量:分子式をもとに、構成する全原子の原子量の総和(分子からなる物質に使う)
  • 式量:組成式(または化学式)をもとに、構成する全原子の原子量の総和(イオン結晶・金属・共有結合の結晶などに使う)
  • 分子量・式量の計算方法は同じ。「分子式か組成式か」で使い分ける
  • イオンの式量を求めるとき、電子の質量は無視する

7確認テスト

Q1. 原子量の基準となる原子と、その定義を答えてください。

▶ クリックして解答を表示質量数12の炭素原子(¹²C)を基準として、その質量を正確に「12」と定める。他の原子の相対質量は、この ¹²C の質量を12としたときの比(加重平均)として表される。

Q2. 塩素の原子量が 35.5 と整数でない理由を、「同位体」「天然存在比」「加重平均」という語を用いて説明してください。

▶ クリックして解答を表示塩素には ³⁵Cl(相対質量 35.0)と ³⁷Cl(相対質量 37.0)という2種の同位体が天然に存在し、それぞれの天然存在比は約 75.8%・24.2% である。原子量はこれらの相対質量の加重平均として求められるため、整数にならず 35.5 となる。

Q3. 硫酸 H₂SO₄ の分子量を求めてください。(原子量:H = 1.0、S = 32、O = 16)

▶ クリックして解答を表示H₂SO₄ の分子量 = 1.0 × 2 + 32 × 1 + 16 × 4 = 2 + 32 + 64 = 98

Q4. 炭酸ナトリウム Na₂CO₃ の式量を求めてください。また、なぜ「分子量」でなく「式量」という語を使うのか説明してください。(原子量:Na = 23、C = 12、O = 16)

▶ クリックして解答を表示Na₂CO₃ の式量 = 23 × 2 + 12 × 1 + 16 × 3 = 46 + 12 + 48 = 106。「式量」を使う理由:Na₂CO₃ はイオン結晶であり、独立した分子が存在しない。分子式ではなく組成式で表される物質には、分子量ではなく「式量」という語を用いる。

8入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

4-1-1 A 基礎 選択・計算

次の(1)〜(4)の分子量または式量を求めよ。ただし、原子量は H = 1.0、C = 12、N = 14、O = 16、Na = 23、S = 32、Cl = 35.5、Ca = 40 とする。

(1) 塩化水素 HCl

(2) グルコース C₆H₁₂O₆

(3) 塩化カルシウム CaCl₂

(4) 硝酸ナトリウム NaNO₃

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) HCl:1.0 + 35.5 = 36.5

(2) C₆H₁₂O₆:12 × 6 + 1.0 × 12 + 16 × 6 = 72 + 12 + 96 = 180

(3) CaCl₂:40 + 35.5 × 2 = 40 + 71 = 111

(4) NaNO₃:23 + 14 + 16 × 3 = 23 + 14 + 48 = 85

解説

分子量・式量の計算は「各元素の原子量 × その元素の原子数」をすべて足すだけです。HCl・NaNO₃ は分子(または単純なイオン結晶)、CaCl₂ はイオン結晶なので式量と呼ぶのが正確ですが、計算方法は同じです。(2) グルコース C₆H₁₂O₆ は炭素6個・水素12個・酸素6個を含む有機分子です。原子数を数え間違えないよう、分子式を1原子ずつ丁寧に確認しましょう。

B 標準レベル

4-1-2 B 標準 計算・論述

ホウ素には 10B(相対質量 10.0)と 11B(相対質量 11.0)の2種類の同位体が存在する。10B の天然存在比は 20.0%、11B の天然存在比は 80.0% である。

(1) ホウ素の原子量を小数第1位まで求めよ。

(2) 三フッ化ホウ素 BF₃ の分子量を求めよ。ただし、F の原子量は 19 とする。

(3) ホウ素の原子量が整数でない理由を、50字以内で説明せよ。

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解答

(1) 10.0 × (20.0 ÷ 100) + 11.0 × (80.0 ÷ 100) = 2.00 + 8.80 = 10.8

(2) BF₃ の分子量 = 10.8 + 19 × 3 = 10.8 + 57 = 67.8

(3) ¹⁰B と ¹¹B という相対質量の異なる2種の同位体が天然に混在し、その加重平均が原子量となるため。(47字)

解説

(1) 原子量は各同位体の(相対質量 × 天然存在比の割合)の総和です。計算式は「10.0 × 0.200 + 11.0 × 0.800 = 2.00 + 8.80 = 10.8」となります。(2) (1)で求めた原子量をそのまま使って計算します。(3) 同位体が複数存在する場合、整数の相対質量を小数の比率で加重平均するため、原子量は整数になりません。

採点ポイント((3)配点例:4点)
  • 同位体が複数あることに言及(2点)
  • 加重平均(または存在比を考慮した平均)であることに言及(2点)

C 発展レベル

4-1-3 C 発展 計算・推論

ある元素 X には、質量数 a の同位体と質量数 (a + 2) の同位体の2種類のみが天然に存在する。元素 X の原子量が a + 0.6 であるとき、以下の問いに答えよ。ただし、各同位体の相対質量は質量数に等しいものとする。

(1) 質量数 (a + 2) の同位体の天然存在比を求めよ。

(2) 元素 X がある場合、その化合物として XCl₂(分子量または式量を求めよ)が考えられる。この X は何か、元素名と元素記号を答えよ。ただし、a = 24 として考えよ。(原子量:Cl = 35.5)

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解答

(1) 質量数 (a + 2) の同位体の天然存在比を x(%)とすると、質量数 a の同位体の天然存在比は (100 − x)%。

a × (100 − x)/100 + (a + 2) × x/100 = a + 0.6

整理すると:a + 2x/100 = a + 0.6

2x/100 = 0.6  x = 30(%)

(2) a = 24 のとき X の原子量 = 24 + 0.6 = 24.6(≒ 24)。これはマグネシウム(Mg)。XCl₂ = MgCl₂ の式量 = 24.6 + 35.5 × 2 = 95.6

解説

(1) 原子量の定義式(加重平均)を文字式で立式する問題です。天然存在比の合計が 100% であることを利用します。立式後に整理すると「2x = 60」となり、x = 30%(質量数 a + 2 の同位体が 30%、質量数 a の同位体が 70%)と求まります。

(2) a = 24 のとき X の原子量は約 24.6。これはマグネシウム(Mg、原子量 24.3)に対応します。実際の Mg には ²⁴Mg(78.9%)・²⁵Mg(10.0%)・²⁶Mg(11.1%)の3種の同位体がありますが、この問題では2種のみの簡略設定です。MgCl₂ はイオン結晶なので「式量」を用います。

採点ポイント(配点例:計10点)
  • (1) 加重平均の式を正しく立てられている(3点)、x = 30 を正しく求めている(2点)
  • (2) 元素名・元素記号が正しい(2点)、式量の計算が正しい(2点)、「式量」と正しく表現している(1点)