原子1個の質量はあまりにも小さく、グラム単位でそのまま扱うのは不便です。
そこで「12C の質量を12とする」という基準を設け、相対的な比で原子の重さを表します。
この記事では、相対質量・原子量・分子量・式量という4つの概念を順に積み上げて理解します。
原子1個の質量はきわめて小さく、例えば最も軽い水素原子(1H)でも約 1.67 × 10−24 g、最も重いウラン原子(238U)でも約 4.0 × 10−22 g です。このままグラム単位で扱うと数値が非常に小さくなり、計算が煩雑になります。
そこで、基準となる原子を1つ決め、その質量に対する比(相対値)で原子の質量を表す方法がとられています。この値を相対質量といいます。
現在の国際的な取り決めでは、質量数12の炭素原子(12C)の質量を正確に「12」と定め、これを基準とします(1961年、IUPACが採択)。この基準のもとで、各原子の相対質量が定まります。
¹H の相対質量の計算例
1H 1個の質量 ÷ 12C 1個の質量 × 12
= (1.6735 × 10−24 g) ÷ (1.9926 × 10−23 g) × 12
≈ 1.008(≒ 1.0)
同様に、酸素原子(16O)の相対質量は約 15.999(≒ 16)、ナトリウム原子(23Na)の相対質量は約 22.990(≒ 23)となります。各原子の相対質量は、その原子の質量数に近い値になります。これは、陽子と中性子の質量がほぼ等しく、電子の質量は非常に小さいためです。
相対質量は「12C の質量を12としたときの比」であるため、グラム(g)などの単位はつきません。「1H の相対質量は 1.008」と言うとき、これは「1 個の 1H の質量は、1 個の 12C の質量の 1.008/12 倍である」ことを意味します。
自然界の多くの元素には同位体が存在し、それぞれの相対質量が少しずつ異なります。また、各同位体が天然に存在する割合(天然存在比)はほぼ一定です。
そこで、各同位体の相対質量を天然存在比で加重平均した値を、その元素の原子量と定義します。原子量も相対質量と同様に単位はありません。
塩素には 35Cl(相対質量 35.0、天然存在比 75.8%)と 37Cl(相対質量 37.0、天然存在比 24.2%)の2種類の同位体があります。塩素の原子量は次のように計算します。
塩素の原子量
= 35.0 × (75.8 ÷ 100) + 37.0 × (24.2 ÷ 100)
= 35.0 × 0.758 + 37.0 × 0.242
= 26.53 + 8.954
= 35.484 ≈ 35.5
ナトリウム Na のように天然に同位体が1種類しかない元素は、相対質量がそのまま原子量になります(Na の原子量 = 22.990 ≒ 23)。
入試・計算で頻出する元素の原子量(概数)を覚えておきましょう。
| 元素 | 記号 | 原子量(概数) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 水素 | H | 1.0 | 同位体あり(¹H 99.99%) |
| 炭素 | C | 12 | 12C が基準(98.93%) |
| 窒素 | N | 14 | |
| 酸素 | O | 16 | |
| ナトリウム | Na | 23 | 同位体1種 |
| マグネシウム | Mg | 24 | |
| アルミニウム | Al | 27 | 同位体1種 |
| 硫黄 | S | 32 | |
| 塩素 | Cl | 35.5 | 35Cl(75.8%)・37Cl(24.2%) |
| カリウム | K | 39 | |
| カルシウム | Ca | 40 | |
| 鉄 | Fe | 56 | |
| 銅 | Cu | 63.5 | 同位体2種(整数でない) |
| 銀 | Ag | 108 | |
| バリウム | Ba | 137 |
かつては水素 H = 1 や酸素 O = 16 が基準として使われていました。20世紀に入ると、酸素に3種の同位体(16O, 17O, 18O)が存在することがわかり、化学と物理で異なる原子量基準が使われる混乱が生じました。1961年に単一の同位体(12C)を基準とすることで統一されました。12C が選ばれた理由は、従来の原子量の数値との差が最小になるよう配慮されたためです。
分子からなる物質の質量を表すには、分子量を用います。分子量は、分子式をもとに、その分子を構成する全原子の原子量を合計した値です。相対質量の一種であり、単位はありません。
水 H₂O の分子量
= H の原子量 × 2 + O の原子量 × 1
= 1.0 × 2 + 16 × 1
= 18
二酸化炭素 CO₂ の分子量
= C の原子量 × 1 + O の原子量 × 2
= 12 × 1 + 16 × 2
= 12 + 32 = 44
アンモニア NH₃ の分子量
= N の原子量 × 1 + H の原子量 × 3
= 14 × 1 + 1.0 × 3
= 14 + 3 = 17
このように、分子式を見て「各元素の原子量 × その原子の個数」をすべて足すだけで分子量が求まります。計算ミスを防ぐには、各元素を1つずつ丁寧に数える習慣をつけましょう。
イオン結晶(NaClなど)や金属(Cuなど)、共有結合の結晶(ダイヤモンドなど)は、特定の分子式では表せず、組成式や化学式で表します。これらの物質の質量を表すとき、分子量の代わりに式量を使います。
式量は、組成式(または化学式)を構成する全原子の原子量の総和です。定義上の計算方法は分子量とまったく同じです。
塩化ナトリウム NaCl の式量
= Na の原子量 × 1 + Cl の原子量 × 1
= 23 + 35.5
= 58.5
炭酸カルシウム CaCO₃ の式量
= Ca の原子量 × 1 + C の原子量 × 1 + O の原子量 × 3
= 40 + 12 + 16 × 3
= 40 + 12 + 48 = 100
水酸化ナトリウム NaOH の式量
= 23 + 16 + 1.0 = 40
硫酸銅(II)五水和物 CuSO₄・5H₂O の式量
= CuSO₄ の式量 + H₂O の分子量 × 5
= (63.5 + 32 + 16 × 4) + 18 × 5
= 159.5 + 90 = 249.5
分子量と式量は、名前が違うだけで計算方法はまったく同じです。「分子式で表せる物質 → 分子量」「組成式・化学式で表す物質 → 式量」と使い分けるだけで、どちらも「構成原子の原子量をすべて足す」操作です。
ただし、NaCl に「分子量」という言葉を使うのは誤りです。NaCl はイオン結晶であり、独立した分子が存在しないため、「式量 = 58.5」と表現するのが正確です。
イオンの式量を求めるとき、「電子の質量はどうなる?」と疑問に思う人がいます。電子の質量は陽子・中性子に比べてきわめて小さいため、式量の計算では電子の出入りを無視します。例えば、Na+ の式量は Na の原子量(23)と等しく 23、SO₄2− の式量は 32 + 16 × 4 = 96 です。
原子量・分子量・式量は、化学計算のあらゆる場面で登場する「共通言語」です。以下に、この記事の知識が他の章とどうつながるかを整理します。
次の記事(4-2 物質量)では、原子量・分子量・式量に「アボガドロ定数」を組み合わせて、マクロな質量と個数をつなぐ「mol(モル)」という概念を学びます。
Q1. 原子量の基準となる原子と、その定義を答えてください。
Q2. 塩素の原子量が 35.5 と整数でない理由を、「同位体」「天然存在比」「加重平均」という語を用いて説明してください。
Q3. 硫酸 H₂SO₄ の分子量を求めてください。(原子量:H = 1.0、S = 32、O = 16)
Q4. 炭酸ナトリウム Na₂CO₃ の式量を求めてください。また、なぜ「分子量」でなく「式量」という語を使うのか説明してください。(原子量:Na = 23、C = 12、O = 16)
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
次の(1)〜(4)の分子量または式量を求めよ。ただし、原子量は H = 1.0、C = 12、N = 14、O = 16、Na = 23、S = 32、Cl = 35.5、Ca = 40 とする。
(1) 塩化水素 HCl
(2) グルコース C₆H₁₂O₆
(3) 塩化カルシウム CaCl₂
(4) 硝酸ナトリウム NaNO₃
(1) HCl:1.0 + 35.5 = 36.5
(2) C₆H₁₂O₆:12 × 6 + 1.0 × 12 + 16 × 6 = 72 + 12 + 96 = 180
(3) CaCl₂:40 + 35.5 × 2 = 40 + 71 = 111
(4) NaNO₃:23 + 14 + 16 × 3 = 23 + 14 + 48 = 85
分子量・式量の計算は「各元素の原子量 × その元素の原子数」をすべて足すだけです。HCl・NaNO₃ は分子(または単純なイオン結晶)、CaCl₂ はイオン結晶なので式量と呼ぶのが正確ですが、計算方法は同じです。(2) グルコース C₆H₁₂O₆ は炭素6個・水素12個・酸素6個を含む有機分子です。原子数を数え間違えないよう、分子式を1原子ずつ丁寧に確認しましょう。
ホウ素には 10B(相対質量 10.0)と 11B(相対質量 11.0)の2種類の同位体が存在する。10B の天然存在比は 20.0%、11B の天然存在比は 80.0% である。
(1) ホウ素の原子量を小数第1位まで求めよ。
(2) 三フッ化ホウ素 BF₃ の分子量を求めよ。ただし、F の原子量は 19 とする。
(3) ホウ素の原子量が整数でない理由を、50字以内で説明せよ。
(1) 10.0 × (20.0 ÷ 100) + 11.0 × (80.0 ÷ 100) = 2.00 + 8.80 = 10.8
(2) BF₃ の分子量 = 10.8 + 19 × 3 = 10.8 + 57 = 67.8
(3) ¹⁰B と ¹¹B という相対質量の異なる2種の同位体が天然に混在し、その加重平均が原子量となるため。(47字)
(1) 原子量は各同位体の(相対質量 × 天然存在比の割合)の総和です。計算式は「10.0 × 0.200 + 11.0 × 0.800 = 2.00 + 8.80 = 10.8」となります。(2) (1)で求めた原子量をそのまま使って計算します。(3) 同位体が複数存在する場合、整数の相対質量を小数の比率で加重平均するため、原子量は整数になりません。
ある元素 X には、質量数 a の同位体と質量数 (a + 2) の同位体の2種類のみが天然に存在する。元素 X の原子量が a + 0.6 であるとき、以下の問いに答えよ。ただし、各同位体の相対質量は質量数に等しいものとする。
(1) 質量数 (a + 2) の同位体の天然存在比を求めよ。
(2) 元素 X がある場合、その化合物として XCl₂(分子量または式量を求めよ)が考えられる。この X は何か、元素名と元素記号を答えよ。ただし、a = 24 として考えよ。(原子量:Cl = 35.5)
(1) 質量数 (a + 2) の同位体の天然存在比を x(%)とすると、質量数 a の同位体の天然存在比は (100 − x)%。
a × (100 − x)/100 + (a + 2) × x/100 = a + 0.6
整理すると:a + 2x/100 = a + 0.6
2x/100 = 0.6 x = 30(%)
(2) a = 24 のとき X の原子量 = 24 + 0.6 = 24.6(≒ 24)。これはマグネシウム(Mg)。XCl₂ = MgCl₂ の式量 = 24.6 + 35.5 × 2 = 95.6
(1) 原子量の定義式(加重平均)を文字式で立式する問題です。天然存在比の合計が 100% であることを利用します。立式後に整理すると「2x = 60」となり、x = 30%(質量数 a + 2 の同位体が 30%、質量数 a の同位体が 70%)と求まります。
(2) a = 24 のとき X の原子量は約 24.6。これはマグネシウム(Mg、原子量 24.3)に対応します。実際の Mg には ²⁴Mg(78.9%)・²⁵Mg(10.0%)・²⁶Mg(11.1%)の3種の同位体がありますが、この問題では2種のみの簡略設定です。MgCl₂ はイオン結晶なので「式量」を用います。