第4章 物質量と化学反応式

物質量(モル)
─ 原子を「数える」ための単位

原子1個の質量は 10−23 g のオーダーで、とても直接測れません。
しかし化学反応は原子の「個数の比」で進みます。
この矛盾を解決するために生まれたのが物質量(モル)という量です。

1物質量とアボガドロ定数

原子を直接数えられないという問題

化学反応は、原子や分子が一定の個数比で結合・分離することで起きます。たとえば水素と酸素から水ができる反応では、水素分子2個に対して酸素分子1個が反応します。つまり、反応を正しく理解するには粒子の個数を把握する必要があります。

しかし原子は極めて小さく、1個の質量は炭素原子 12C で約 2.0 × 10−23 g です。日常のスケールで扱う物質には、粒子が天文学的な個数含まれています。これを1個1個数えることは不可能です。

解決策:「まとめて数える」

この問題を解決するために、化学では粒子を一定の個数ごとにまとめて「1セット」として扱う方法を採用しました。鉛筆を12本で「1ダース」と呼ぶのと同じ発想です。

化学における「1セット」は6.02 × 1023です。この数をアボガドロ定数 NA と呼びます。そして、粒子を 6.02 × 1023 個集めた量を1 mol(モル)と定義します。

1 mol = 6.02 × 1023 個(アボガドロ定数 NA

粒子を何 mol もっているかを表す量が物質量です。物質量の単位が mol です。

6.02 × 10²³ という数はどこから来たのか
12C 原子1個の質量は約 2.0 × 10−23 g
原子量の基準を「12C の原子量 = 12」と定めた
12C をちょうど12 g集めたい → 何個必要か?
12 g ÷ (2.0 × 10−23 g) ≈ 6.0 × 1023
この個数をまとめて「1 mol」と定義した
本質:molは「原子量にgをつけた質量の中に含まれる粒子数」から決まった

アボガドロ定数は恣意的な数ではありません。原子量の数値にグラムをつけた質量が、ちょうど1 molになるように定められた数です。だから「12C の原子量は12、12 gで1 mol」「Hの原子量は1.0、1.0 gで1 mol」という対応が常に成り立ちます。

落とし穴:「mol」は粒子の種類を指定しなければ意味がない

「水 1 mol」と言えば H2O 分子が 6.02 × 1023 個ですが、「水素 1 mol」だけでは H 原子が 1 mol なのか H2 分子が 1 mol なのか不明です。物質量を使うときは、何の粒子について述べているかを必ず明示する必要があります。

2モル質量 ─ 質量と物質量の橋

モル質量とは何か

物質 1 mol あたりの質量をモル質量と呼びます。単位は g/mol です。

先ほどの本質から、モル質量の数値は原子量・分子量・式量と一致します。

物質原子量・分子量モル質量 (g/mol)1 mol の質量
C121212 g
H2O181818 g
NaCl58.558.558.5 g
H2SO4989898 g

この対応は偶然ではなく、アボガドロ定数をまさにそうなるように決めたからです。

物質量 [mol] = 質量 [g] ÷ モル質量 [g/mol]

計算例

例題:水 36 g は何 mol か
Step 1 モル質量を求める

H2O の分子量 = 1.0 × 2 + 16 = 18 → モル質量 18 g/mol

Step 2 公式に代入

物質量 = 36 g ÷ 18 g/mol = 2.0 mol

例題:H₂SO₄ 0.50 mol の質量は何 g か
Step 1 モル質量を求める

H2SO4 の分子量 = 1.0 × 2 + 32 + 16 × 4 = 98 → モル質量 98 g/mol

Step 2 公式から質量を求める

質量 = 0.50 mol × 98 g/mol = 49 g

3粒子数・質量・物質量の相互変換

物質量(mol)は、粒子数と質量の両方をつなぐ中心的な量です。変換関係を整理します。

3つの量の変換関係
  • 粒子数 → 物質量:粒子数 ÷ NA = 物質量 [mol]
  • 物質量 → 粒子数:物質量 [mol] × NA = 粒子数
  • 質量 → 物質量:質量 [g] ÷ モル質量 [g/mol] = 物質量 [mol]
  • 物質量 → 質量:物質量 [mol] × モル質量 [g/mol] = 質量 [g]

つまり物質量(mol)を経由すれば、粒子数と質量を自由に行き来できます。これが mol の最大の意義です。質量は天秤で測れますから、「測定可能な質量」から「反応に必要な粒子数の比」を知ることができるのです。

化学ではなぜ個数ではなくmolを使うのか
化学反応は粒子の個数の比で進む
しかし原子1個の質量は10−23 gオーダーで、直接数えることも測ることもできない
そこで6.02 × 1023個を1セット(1 mol)とし、原子量に g をつけた質量 = 1 mol となるようにした
天秤で測れる「質量」から、反応に必要な「粒子数の比」を計算で求められるようになった

計算例:粒子数を含む変換

例題:CO₂ 分子 3.01 × 10²³ 個の質量は何 g か
Step 1 粒子数から物質量へ

3.01 × 1023 ÷ 6.02 × 1023 = 0.50 mol

Step 2 物質量から質量へ

CO2 のモル質量 = 12 + 16 × 2 = 44 g/mol

0.50 mol × 44 g/mol = 22 g

落とし穴:原子の数と分子の数を混同しない

「H2O 1 mol に含まれる水素原子の数は?」と聞かれたら、答えは 6.02 × 1023 × 2 = 1.20 × 1024 個です。H2O 分子1個の中に H 原子が2個あるからです。「分子が何 mol」と「原子が何 mol」を区別して考える必要があります。

発展:2019年のmolの再定義大学

2019年の国際単位系(SI)改定で、アボガドロ定数は NA = 6.02214076 × 1023 mol−1正確な値に固定されました。従来は「12C 12 g に含まれる原子の数」という実験的な定義でしたが、現在は定数を先に固定し、そこから mol を定義しています。高校化学では有効数字3桁で 6.02 × 1023 /mol を使います。

4この章を俯瞰する

物質量(mol)は化学計算のすべての出発点です。ここでの知識は以下のように広がります。

他の章へのつながりマップ

  • 気体のモル体積 → 4-3:気体では「1 mol = 22.4 L(標準状態)」というもう1つの変換経路が加わる。
  • 溶液の濃度 → 4-4:モル濃度(mol/L)は、物質量を溶液の体積で割ったもの。mol の理解が前提。
  • 化学反応式の量的関係 → 4-5:反応式の係数がそのまま mol の比になる。反応量の計算は mol を経由して行う。
  • 中和滴定 → 5-5:酸・塩基の mol を使って中和点を計算する。
  • ファラデーの法則 → 12-4:電子の mol(ファラデー定数)と物質の mol を結びつける。

5まとめ

  • 物質量は粒子の個数を「6.02 × 1023 個 = 1 mol」として表す量
  • 6.02 × 1023 /mol をアボガドロ定数 NA と呼ぶ
  • 物質1 molあたりの質量がモル質量で、数値は原子量・分子量・式量と一致する
  • 物質量 = 質量 ÷ モル質量、粒子数 = 物質量 × NA
  • mol を使う理由は「天秤で測れる質量」と「反応に必要な粒子数の比」を結ぶため
  • mol を使うときは何の粒子かを明示する(分子か原子か)

6確認テスト

Q1. NaOH(式量40)5.0 g は何 mol か。

▶ クリックして解答を表示5.0 g ÷ 40 g/mol = 0.125 mol

Q2. H₂O 2.0 mol に含まれる水素原子は何個か。

▶ クリックして解答を表示H₂O 1分子中にH原子が2個あるので、H原子は 2.0 mol × 2 = 4.0 mol → 4.0 × 6.02 × 10²³ = 2.41 × 10²⁴ 個

Q3. アボガドロ定数がなぜ 6.02 × 10²³ という値なのか、簡潔に説明してください。

▶ クリックして解答を表示¹²C原子の原子量を12と定め、¹²Cをちょうど12 g集めたときに含まれる原子数が 6.02 × 10²³ だから。つまり「原子量の数値にgをつけた質量が1 molになる」ように決められた。

Q4. CaCO₃(式量100)25 g に含まれる酸素原子は何 mol か。

▶ クリックして解答を表示CaCO₃ 25 g = 25 ÷ 100 = 0.25 mol。CaCO₃ 1分子中にO原子が3個あるので、O原子 = 0.25 × 3 = 0.75 mol

7入試問題演習

基礎(A)から標準(B)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

4-2-1 A 基礎 計算

次の各問いに答えよ。ただし、原子量は H = 1.0、C = 12、N = 14、O = 16、S = 32 とする。

(1) グルコース C6H12O6 の分子量を求めよ。

(2) グルコース 0.20 mol の質量は何 g か。

(3) グルコース 36 g に含まれる分子の数は何個か。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 180 (2) 36 g (3) 1.2 × 1023

解説

(1) 12 × 6 + 1.0 × 12 + 16 × 6 = 72 + 12 + 96 = 180

(2) 0.20 mol × 180 g/mol = 36 g

(3) 36 g ÷ 180 g/mol = 0.20 mol → 0.20 × 6.02 × 10231.2 × 1023

B 標準レベル

4-2-2 B 標準 計算

次の各問いに答えよ。原子量は H = 1.0、C = 12、O = 16、Na = 23、S = 32 とする。

(1) 硫酸ナトリウム Na2SO4 14.2 g の物質量を求めよ。

(2) (1) の Na2SO4 に含まれるナトリウムイオン Na+ は何 mol か。

(3) エタノール C2H5OH 9.2 g に含まれる水素原子の総数を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 0.10 mol (2) 0.20 mol (3) 7.2 × 1023

解説

(1) Na2SO4 の式量 = 23 × 2 + 32 + 16 × 4 = 142。14.2 g ÷ 142 g/mol = 0.10 mol

(2) Na2SO4 → 2Na+ + SO42− なので、Na+ は Na2SO4 の 2 倍。0.10 × 2 = 0.20 mol

(3) C2H5OH(分子量46)の 9.2 g ÷ 46 = 0.20 mol。1分子中の H 原子は 6 個(H5 + OH の H)。0.20 × 6 × 6.02 × 1023 = 7.2 × 1023