第4章 物質量と化学反応式

気体のモル体積

気体は種類を問わず、標準状態(0℃・1.013×105 Pa)で 1 mol あたり約 22.4 L を占めます。
この「魔法の数」が成り立つ理由はアボガドロの法則にあります。
この記事では、モル体積を使った気体の密度計算・分子量決定・混合気体の平均分子量まで一気に学びます。

1アボガドロの法則

気体の体積と分子数の関係については、1811年にアボガドロ(イタリア)が次の法則を提唱しました。

アボガドロの法則

同温・同圧のもとで、同じ体積の気体には、気体の種類に関係なく、同じ数の分子が含まれる。

言い換えると、同温・同圧で 1 mol の分子を含む気体はどんな種類でも同じ体積を占めるということです。水素でも酸素でも二酸化炭素でも、粒子数(mol)が等しければ体積が等しくなります。

この法則は、空気のような混合気体にも成り立ちます。実験的に確かめると、窒素・ブタン・アルゴンなど種類の異なる気体を同じ温度・圧力のもとで同体積を集めると、含まれる物質量がほぼ等しくなります。

アボガドロの法則はなぜ成り立つのか
気体の体積は、分子自体の大きさではなく、分子同士の平均的な間隔(分子間距離)で決まる
気体分子の体積は分子が占める空間全体に比べてきわめて小さく(約 0.1% 以下)、無視できる
同温・同圧なら分子の平均運動エネルギーは種類によらず等しく、分子間距離も種類によらずほぼ同じになる
したがって同温・同圧で同数の分子を集めると、気体の種類に関係なく同体積になる

2標準状態と気体のモル体積

気体の体積は温度・圧力によって変わるため、比較の基準となる状態を決める必要があります。化学では次の状態を標準状態とよびます。

標準状態:0℃(273 K)、1.013×105 Pa(1 atm)

標準状態で気体 1 mol の体積を実測すると、気体の種類に関係なく約 22.4 L になります。この値を気体のモル体積といいます。

気体のモル体積(標準状態)
モル体積 = 22.4 L/mol
気体分子式モル質量(g/mol)標準状態での 1 mol の体積
水素H22.022.4 L
メタンCH41622.4 L
ネオンNe2022.4 L
窒素N22822.4 L
酸素O23222.4 L
二酸化炭素CO24422.4 L

分子量がまったく異なる気体であっても、標準状態での 1 mol の体積はすべて 22.4 L になります。これがアボガドロの法則の実験的な証拠です。

物質量と気体の体積の関係(標準状態)
物質量(mol)= 気体の体積(L) 22.4(L/mol)
計算例:体積と物質量の換算

例1 標準状態の水素 11.2 L の物質量は?

物質量 = 11.2 L ÷ 22.4 L/mol = 0.500 mol

例2 メタン 0.25 mol の体積は標準状態で何 L か?

体積 = 22.4 L/mol × 0.25 mol = 5.6 L

すべての気体が 22.4 L/mol になるのはなぜか
気体分子 1 個の体積は、分子が占める空間(≈ 22.4 L ÷ 6.02×1023 ≈ 3.7×10−23 L)に比べてきわめて小さい(H2 の分子径 ≈ 2.9×10−10 m、体積 ≈ 1.3×10−29 L)
分子自体が占める体積の割合は全体の 0.1% 以下で、実質的に無視できる
気体が占める体積のほぼすべては「分子のない空間」であり、これは分子の種類によらず温度・圧力だけで決まる
H2 でも CO2 でも、同温・同圧・同mol なら体積は同じ(22.4 L)になる

※ 高圧・低温では分子間力が無視できなくなり、22.4 L からずれます(実在気体の補正は大学で学びます)。

落とし穴:「標準状態」は 0℃・1.013×105 Pa

「常温・常圧(25℃・1 atm)」や「室温」では 1 mol の気体の体積は 22.4 L になりません。標準状態(0℃・1.013×105 Pa)のときに限り 22.4 L/mol が使えます。温度が指定されていない場合でも「標準状態」と書いてあれば 22.4 L/mol を使ってください。

3気体の密度とモル質量

単位体積あたりの質量を密度といいます。気体の密度の単位は g/L が使われます。

密度とモル質量の関係

標準状態での気体の密度は、モル質量とモル体積から次のように求めることができます。

気体の密度(標準状態)
密度(g/L)= モル質量(g/mol) 22.4(L/mol)

この式は逆向きに使うこともできます。標準状態での気体の密度を測定すれば、その気体の分子量(≒ モル質量の数値)を求められます。

密度から分子量を求める
分子量 = 密度(g/L)× 22.4(L/mol)

計算例

計算例:密度と分子量の相互換算

例1 窒素 N2(分子量 28.0)の標準状態での密度を求めよ。

密度 = 28.0 g/mol ÷ 22.4 L/mol = 1.25 g/L

例2 標準状態での密度が 1.8 g/L である気体の分子量を求めよ。

分子量 = 1.8 g/L × 22.4 L/mol = 40.3 ≈ 40(アルゴン Ar に相当)

例3 標準状態で体積 5.6 L、質量 7.0 g の気体の分子量を求めよ。

物質量 = 5.6 L ÷ 22.4 L/mol = 0.25 mol

モル質量 = 7.0 g ÷ 0.25 mol = 28.0 g/mol → 分子量 = 28.0(窒素 N2 または一酸化炭素 CO に相当)

密度から分子量を決定できる、という発想

未知の気体の分子量を調べたいとき、気体をはかりにかける(質量を測定する)だけで分子量が求まります。これは化学の歴史上、非常に重要な実験手法でした。気体試料 1 L の質量を標準状態で測ればそれだけで分子量を計算できます。分子量 = 密度(g/L) × 22.4、これを覚えておくと便利です。

4混合気体の平均分子量

2 種類以上の気体が混ざった混合気体にも、アボガドロの法則は成り立ちます。したがって、混合気体の密度から「見かけの分子量」(平均分子量)を求めることができます。

平均分子量の計算

各成分気体の分子量 × その物質量の割合(モル分率)の和が平均分子量になります。

混合気体の平均分子量
平均分子量 = Σ(各成分の分子量 × モル分率)

空気の平均分子量

空気は主に窒素 N2(体積比約 80%)と酸素 O2(体積比約 20%)からなります。アボガドロの法則より、同温・同圧では体積比=物質量比(モル比)なので、N2 と O2 のモル比はおよそ 4 : 1 です。

空気の平均分子量の計算

N2(分子量 28.0)の割合:4/5 = 0.80
O2(分子量 32.0)の割合:1/5 = 0.20

平均分子量 = 28.0 × 0.80 + 32.0 × 0.20 = 22.4 + 6.4 = 28.8

空気の平均分子量は約 28.8(約 29 と近似することも多い)です。これは「空気を分子量 28.8 の 1 種類の気体として扱っている」ことを意味します。

気体分子量空気との比較(平均分子量 28.8)空気より
水素 H22.02.0 < 28.8軽い
ヘリウム He4.04.0 < 28.8軽い
アンモニア NH31717 < 28.8軽い
窒素 N22828 ≒ 28.8ほぼ同じ
酸素 O23232 > 28.8重い
二酸化炭素 CO24444 > 28.8重い
塩素 Cl27171 > 28.8重い

気体が空気より重いか軽いかを判定するには、その気体の分子量と 28.8 を比べるだけです。この比較は気体の捕集方法(上方置換・下方置換・水上置換)を選ぶ際にも重要です。

落とし穴:平均分子量は整数になるとは限らない

空気の平均分子量は 28.8 であり、N2(28)でも O2(32)でもありません。「空気の分子量は?」という問いに「28」や「32」と答えるのは誤りです。また、「平均分子量」は実際には 1 種類の分子があるわけではないので、見かけの分子量ともよばれます。

5この章を俯瞰する

気体のモル体積は、物質量・質量・粒子数とならぶ「第4の変換路」です。以下に、ここでの知識が他の章とどうつながるかを整理します。

  • 4-2「物質量(モル)」との接続:物質量という共通の「橋」を経由して、気体の体積↔質量↔粒子数をすべて相互変換できるようになります。
  • 4-4「溶液の濃度」との接続:気体を溶かした溶液(CO2 水溶液など)の濃度計算では、気体のモル体積と溶液の体積(mol/L)を組み合わせます。
  • 5章「化学反応式と量的関係」との接続:反応式の係数比は mol 比と同時に気体の体積比でもあります。「H2 : O2 : H2O = 2 : 1 : 2 の体積比」という表現が理解できます。
  • 気体の捕集法(実験操作)との接続:平均分子量 28.8 との大小比較で、上方置換(軽い気体 → NH3 など)・下方置換(重い気体 → Cl2 など)・水上置換(水に不溶の気体)を判断できます。

次の記事では、溶液の濃度(モル濃度)を扱います。溶質の mol と溶液の体積(L)を結びつける概念で、気体のモル体積と対をなす重要な量です。

6まとめ

  • アボガドロの法則:同温・同圧で、同体積の気体は種類に関係なく同数の分子を含む
  • 標準状態(0℃・1.013×105 Pa)での気体のモル体積は 22.4 L/mol(気体の種類によらず一定)
  • 物質量(mol)= 気体の体積(L)÷ 22.4(L/mol)
  • 気体の密度(g/L)= モル質量(g/mol)÷ 22.4(L/mol)
  • 分子量 = 標準状態での密度(g/L)× 22.4
  • 混合気体の平均分子量 = 各成分の分子量 × モル分率の和
  • 空気の平均分子量 ≈ 28.8(N2 : O2 = 4 : 1 の混合)
  • 分子量が 28.8 より小さい気体は空気より軽く、大きい気体は空気より重い

7確認テスト

Q1. アボガドロの法則を一文で述べてください。

▶ クリックして解答を表示 同温・同圧のもとで、同じ体積の気体には、気体の種類に関係なく、同じ数の分子が含まれる。

Q2. 標準状態の酸素 O2 が 6.72 L あります。この酸素の物質量(mol)と質量(g)を求めてください。(O = 16.0)

▶ クリックして解答を表示 物質量 = 6.72 L ÷ 22.4 L/mol = 0.300 mol。O₂ のモル質量 = 32.0 g/mol なので、質量 = 32.0 g/mol × 0.300 mol = 9.60 g。

Q3. 標準状態での密度が 1.96 g/L の気体の分子量を求めてください。また、この気体として考えられるものを答えてください。

▶ クリックして解答を表示 分子量 = 1.96 g/L × 22.4 L/mol = 43.9 ≈ 44。分子量 44 の気体として二酸化炭素 CO₂(C=12, O=16, 分子量=44)が考えられる。

Q4. 窒素 N2(体積比 78%)と酸素 O2(体積比 21%)とアルゴン Ar(体積比 1%)からなる空気の平均分子量を小数第1位まで求めてください。(N = 14.0, O = 16.0, Ar = 40.0)

▶ クリックして解答を表示 体積比 = モル比なので、モル分率は N₂:0.78、O₂:0.21、Ar:0.01。平均分子量 = 28.0×0.78 + 32.0×0.21 + 40.0×0.01 = 21.84 + 6.72 + 0.40 = 28.96 ≈ 29.0。

8入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

4-3-1 A 基礎 選択

気体のモル体積に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。(H = 1.0, C = 12, N = 14, O = 16)

  • ① 標準状態で気体 1 mol の体積は、気体の種類によらず 22.4 L である。
  • ② 25℃・1.013×105 Pa でも、気体 1 mol の体積はすべて 22.4 L になる。
  • ③ 標準状態でアンモニア NH3 34 g の体積は 44.8 L である。
  • ④ 空気の平均分子量はおよそ 29 であり、CO2(分子量 44)は空気より重い。
  • ⑤ 混合気体にはアボガドロの法則は成り立たない。
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解答

①③④

解説

① 正しい。アボガドロの法則より、標準状態(0℃・1.013×105 Pa)では気体の種類によらず 1 mol = 22.4 L。

② 誤り。22.4 L/mol が成り立つのは標準状態(0℃・1.013×105 Pa)のみ。25℃では体積はおよそ 24.5 L/mol になる。

③ 正しい。NH3 のモル質量 = 14 + 1.0×3 = 17 g/mol。物質量 = 34 g ÷ 17 g/mol = 2.0 mol。体積 = 22.4 L/mol × 2.0 mol = 44.8 L。

④ 正しい。空気の平均分子量 ≈ 28.8(≈ 29)。CO2 の分子量 44 > 28.8 なので CO2 は空気より重い。

⑤ 誤り。アボガドロの法則は混合気体にも成り立つ。

B 標準レベル

4-3-2 B 標準 計算

標準状態で密度が 2.59 g/L の気体がある。以下の問いに答えよ。(H = 1.0, C = 12, N = 14, O = 16, S = 32)

(1) この気体の分子量を求めよ。

(2) この気体として考えられる分子を答えよ。

(3) この気体 5.0 L(標準状態)の質量は何 g か。

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解答

(1) 分子量 = 2.59 g/L × 22.4 L/mol = 58.0

(2) 分子量 58 の気体:ブタン C4H10(12×4 + 1.0×10 = 58)

(3) 物質量 = 5.0 L ÷ 22.4 L/mol = 0.223 mol
質量 = 58.0 g/mol × 0.223 mol ≈ 13 g

解説

(1) 分子量 = 密度(g/L)× 22.4(L/mol)= 2.59 × 22.4 = 58.0。

(2) 分子量 58 に相当する分子を探します。C4H10(ブタン)= 12×4 + 1.0×10 = 48 + 10 = 58。答:ブタン C4H10

(3) 物質量 = 5.0 ÷ 22.4 ≈ 0.223 mol。質量 = 58.0 × 0.223 ≈ 12.9 g ≈ 13 g(有効数字 2 桁)。

採点ポイント(配点例:各4点)
  • (1) 密度 × 22.4 の式を立てて正しく計算(4点)
  • (2) 分子量から正しい分子式を特定(4点)
  • (3) 物質量を経由して質量を求める手順(4点)

C 発展レベル

4-3-3 C 発展 総合

炭素 C と水素 H のみからなる気体があり、標準状態での密度は 1.34 g/L であった。この気体に関する以下の問いに答えよ。(H = 1.0, C = 12)

(1) この気体の分子量を求めよ。

(2) この気体 0.50 mol を完全燃焼させたところ、CO2 が 22.4 L(標準状態)と H2O が 27 g 生じた。この気体の分子式を求めよ。(O = 16)

(3) この気体の空気に対する比重(空気の平均分子量を 29 として)を小数第 2 位まで求め、空気より重いか軽いかを判断せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 分子量 = 1.34 g/L × 22.4 L/mol = 30.0

(2) CO2 22.4 L → 物質量 = 22.4 ÷ 22.4 = 1.0 mol → C の物質量 = 1.0 mol
H2O 27 g → 物質量 = 27 ÷ 18 = 1.5 mol → H の物質量 = 1.5×2 = 3.0 mol
0.50 mol の気体から C が 1.0 mol、H が 3.0 mol 生じたので、1 mol あたり C = 2、H = 6。
よって分子式は C2H6(エタン、分子量 = 12×2 + 1.0×6 = 30)。

(3) 空気に対する比重 = 分子量 ÷ 空気の平均分子量 = 30.0 ÷ 29 ≈ 1.03。1.03 > 1 なので、この気体は空気より重い

解説

(1) 密度と 22.4 L/mol の積から分子量を求めます。1.34 × 22.4 = 30.0。

(2) 燃焼生成物から各元素の物質量を求め、分子式を決定します。CO2 1.0 mol から C = 1.0 mol、H2O 1.5 mol から H = 3.0 mol。気体 0.50 mol あたりなので、1 mol あたり C = 2、H = 6 より C2H6(分子量 30)。検算:エタンの完全燃焼 2C2H6 + 7O2 → 4CO2 + 6H2O より、0.50 mol の C2H6 から CO2 = 1.0 mol = 22.4 L、H2O = 1.5 mol = 27 g となり、問題のデータと一致します。

(3) 気体の空気に対する比重 = 分子量 ÷ 29。比重 > 1 なら空気より重く、下方置換で捕集します。エタン(比重 1.03)はわずかに空気より重く、下方置換が適切です。

採点ポイント(配点例:計15点)
  • (1) 密度 × 22.4 で分子量を正しく求める(3点)
  • (2) CO2 から C の物質量、H2O から H の物質量を求め、分子式を特定(8点)
  • (3) 比重の定義と計算、空気との大小比較(4点)