第4章 物質量と化学反応式

溶液の濃度

食塩水の「濃さ」はどう数値化するのでしょうか。日常では「薄い・濃い」で済みますが、化学では再現性のある計算が必要です。
この記事では、質量パーセント濃度・モル濃度という2種類の濃度を定義から理解し、両者の変換法と計算の落とし穴まで体系的に習得します。

1溶液・溶質・溶媒

物質が液体に溶けて均一に混ざった状態を溶液(solution)といいます。溶液を構成する2種類の成分を区別して名前がついています。

用語定義例(食塩水の場合)
溶媒(solvent)他の物質を溶かす液体
溶質(solute)溶媒に溶けている物質塩化ナトリウム NaCl
溶液(solution)溶媒+溶質の均一な混合物食塩水

溶媒が水である溶液を特に水溶液(aqueous solution)といいます。また、溶液の質量は溶質の質量と溶媒の質量の合計です。

溶液の質量 = 溶質の質量 + 溶媒の質量

ポイント:「溶質の質量」を求める計算の起点

濃度の計算では、必ず「溶質の質量」または「溶質の物質量」がどこかに出てきます。溶液の質量から溶質の質量を引けば溶媒の質量が求まる、という関係は計算の基本です。

2質量パーセント濃度(w/w%)

定義

質量パーセント濃度(mass percent concentration)は、溶液全体の質量に対する溶質の質量の割合をパーセントで表した濃度です。記号は w/w% とも表記されます。

質量パーセント濃度の定義式
質量パーセント濃度(%)= 溶質の質量〔g〕 溶液の質量〔g〕 × 100
溶液の質量 = 溶質の質量 + 溶媒の質量

計算例

例題:質量パーセント濃度が 20% の NaCl 水溶液を 120 g つくるには?

(求める量)溶質(NaCl)の質量と溶媒(水)の質量

(解法)

溶質の質量 = 溶液の質量 × 質量パーセント濃度 / 100
      = 120 g × 20/100 = 24 g

溶媒の質量 = 溶液の質量 − 溶質の質量
      = 120 g − 24 g = 96 g

答:NaCl を 24 g、水を 96 g 使う。

質量パーセント濃度の特徴
  • 温度が変わっても値が変わらない(質量は温度に依存しないため)
  • 市販の試薬ラベルに記載されることが多い
  • 「何 g 使えばよいか」の計算に直結する
  • 物質量との計算には向かない(モル濃度に変換する必要がある)

3モル濃度(mol/L)

定義

モル濃度(molar concentration)は、溶液 1 L 中に溶けている溶質の物質量〔mol〕で表した濃度です。単位は mol/L(または mol·L−1)を使います。

モル濃度の定義式
モル濃度〔mol/L〕= 溶質の物質量〔mol〕 溶液の体積〔L〕
溶液の体積〔mL〕を使う場合は、1000 で割って〔L〕に変換してから代入する

計算例

例題1:NaOH 20 g を水に溶かして 200 mL にした溶液のモル濃度は?(Na=23, O=16, H=1.0)

(解法)

NaOH のモル質量 = 23 + 16 + 1.0 = 40 g/mol

溶質の物質量 = 20 g ÷ 40 g/mol = 0.50 mol

溶液の体積 = 200 mL = 0.200 L

モル濃度 = 0.50 mol ÷ 0.200 L = 2.5 mol/L

例題2:0.40 mol/L のアンモニア水が 250 mL ある。溶質の物質量と質量は?(N=14, H=1.0)

(解法)

溶質の物質量 = 0.40 mol/L × 0.250 L = 0.10 mol

NH3 のモル質量 = 14 + 1.0 × 3 = 17 g/mol

溶質の質量 = 0.10 mol × 17 g/mol = 1.7 g

溶液の調製方法 ─ メスフラスコの使い方

正確なモル濃度の溶液を調製するにはメスフラスコ(volumetric flask)を使います。メスフラスコは特定の体積だけを正確にはかるためのガラス器具であり、標線と呼ばれる細いくびれ部分に液面を合わせることで精度を出します。

  • 1 溶質を精密天秤ではかり取り、ビーカーに入れて少量の水(純水)に溶かす。
  • 2 溶液をメスフラスコに移す。ガラス棒とビーカーを少量の純水で数回すすぎ、洗液もすべてフラスコに入れる(溶質を残さないため)。
  • 3 標線より少し手前まで純水を加えた後、標線に液面の底が合うように純水を少しずつ加える。
  • 4 栓をして何度も上下にひっくり返し、よく混ぜる。
注意:メスフラスコは加熱乾燥禁止

メスフラスコは熱によってガラスが膨張すると体積の目盛りがずれてしまいます。洗浄後は布や紙で拭かず、自然乾燥または溶液を入れる直前に使います。加熱乾燥は絶対に行ってはいけません。同様にホールピペットやビュレットも加熱乾燥は禁止です。

発展:共洗いが必要な場合実験

ホールピペットやビュレットを水でぬれたまま使うと溶液が薄まり、取り出した溶液の溶質の量が不正確になります。これを防ぐため、使用する溶液で器具の内部を 2〜3 回すすいでから使う操作を共洗い(conditioning)といいます。メスフラスコは共洗いしてはいけません(純水で標線まで体積を合わせるのが目的のため)。

モル濃度が化学計算で活躍する理由

化学反応の量的関係は「物質量〔mol〕の比」で表されます。モル濃度は「溶液の体積さえわかれば溶質の物質量がすぐ求まる」という形式なので、滴定・反応量計算・pH 計算など、すべての定量計算の出発点になります。質量パーセント濃度よりも計算に適した表現形式です。

4質量パーセント濃度とモル濃度の変換

変換公式の導出

市販の試薬(濃硫酸・濃塩酸など)のラベルには質量パーセント濃度と密度が記載されています。これをモル濃度に換算する必要が頻繁にあります。変換公式は、溶液 1 L を基準に立てます。

質量パーセント濃度 → モル濃度の変換公式
モル濃度〔mol/L〕= 密度〔g/cm3〕× 1000 × 質量パーセント濃度〔%〕/ 100 モル質量〔g/mol〕
導出:溶液 1 L の質量 = 密度 × 1000 〔g〕 → 溶質の質量 = 密度 × 1000 × (w/100)〔g〕 → 物質量 ÷ M

計算例

例題:質量パーセント濃度 98% の濃硫酸(密度 1.8 g/cm3)のモル濃度は?(H=1.0, O=16, S=32)

(解法)溶液 1 L を考える。

H2SO4 のモル質量 = 2 + 32 + 64 = 98 g/mol

溶液 1 L の質量 = 1.8 g/cm3 × 1000 cm3 = 1800 g

溶質 H2SO4 の質量 = 1800 g × 98/100 = 1764 g

溶質の物質量 = 1764 g ÷ 98 g/mol = 18 mol

モル濃度 = 18 mol / 1 L = 18 mol/L

例題2:モル濃度 13 mol/L の濃硝酸(密度 1.4 g/cm3)の質量パーセント濃度は?(H=1.0, N=14, O=16)

(解法)溶液 1 L を考える。

HNO3 のモル質量 = 1.0 + 14 + 48 = 63 g/mol

溶液 1 L の質量 = 1.4 g/cm3 × 1000 cm3 = 1400 g

溶質 HNO3 の質量 = 13 mol × 63 g/mol = 819 g

質量パーセント濃度 = 819 / 1400 × 100 ≒ 58.5%

落とし穴:「溶液の体積」と「溶媒の体積」の混同

モル濃度は 溶液 1 L 中の物質量です。「溶媒(水)1 L」ではありません。溶液に溶質を溶かすと体積が変わるため、溶媒 1 L に溶質を加えた溶液の体積は 1 L にはなりません。

例:NaCl を水に溶かして 1 L にした溶液のモル濃度を計算するとき、「水 1 L に NaCl を加えた」と勘違いすると分母(溶液の体積)が変わって計算ミスになります。

式にすると:溶液の体積(分母)≠ 溶媒の体積。メスフラスコで「溶液の体積を 1 L に合わせる」というのはこのためです。

5この章を俯瞰する

溶液の濃度は化学のあらゆる計算の出発点です。以下に、ここで学んだ概念が他の章・分野とどうつながるかを整理します。

  • モル濃度と物質量 → 4-2「物質量」:モル濃度の計算は物質量の計算の直接の応用。溶質の物質量 = モル濃度 × 体積〔L〕は、量的関係のすべての計算で使う。
  • 中和滴定 → 6-4「中和滴定」:「酸の物質量 = 塩基の物質量 × 価数」の関係で未知濃度を求める。モル濃度の正確な理解なしには滴定計算ができない。
  • 水素イオン濃度・pH → 6-2「水素イオン濃度と pH」:強酸・強塩基の [H+] や [OH] はモル濃度と電離度から直接求まる。
  • 化学反応の量的関係 → 4-5「化学反応式と量的関係」:溶液中の反応では「体積 × モル濃度」で物質量を出し、反応式の係数比に当てはめる。
  • 質量モル濃度 → 大学・熱力学:沸点上昇・凝固点降下は溶媒 1 kg 当たりの溶質の物質量(質量モル濃度〔mol/kg〕)で決まる。高校では質量パーセント濃度・モル濃度が主役だが、大学では質量モル濃度も重要になる。

次の記事では、化学反応式と物質量の関係を扱います。反応式の係数比がそのまま物質量の比になるという原理に、ここで学んだ溶液の量的計算を組み合わせることで、溶液反応の問題が解けるようになります。

6まとめ

  • 溶液 = 溶媒+溶質の均一な混合物。溶液の質量 = 溶質の質量+溶媒の質量
  • 質量パーセント濃度(%)=(溶質の質量 / 溶液の質量)× 100  温度によって変化しない
  • モル濃度〔mol/L〕= 溶質の物質量〔mol〕/ 溶液の体積〔L〕  化学計算に直結
  • モル濃度の溶液を正確につくるにはメスフラスコを使い、標線まで純水を加える
  • 変換公式:モル濃度 =(密度 × 1000 × w/100)/ M  (w:質量%、M:モル質量)
  • 分母は溶液の体積(溶媒の体積ではない)ことに注意

7確認テスト

基本事項の確認

Q1. 質量パーセント濃度 10% の NaCl 水溶液 200 g 中に含まれる NaCl の質量と、水の質量をそれぞれ求めよ。

▶ クリックして解答を表示 NaCl の質量 = 200 g × 10/100 = 20 g。水の質量 = 200 g − 20 g = 180 g。

Q2. NaCl 5.85 g を水に溶かして 100 mL とした溶液のモル濃度を求めよ。(Na=23, Cl=35.5)

▶ クリックして解答を表示 NaCl のモル質量 = 58.5 g/mol。物質量 = 5.85 ÷ 58.5 = 0.100 mol。モル濃度 = 0.100 mol ÷ 0.100 L = 1.00 mol/L。

Q3. 質量パーセント濃度 28% のアンモニア水(密度 0.90 g/cm3)のモル濃度を求めよ。(N=14, H=1.0)

▶ クリックして解答を表示 NH3 のモル質量 = 17 g/mol。溶液 1 L の質量 = 0.90 × 1000 = 900 g。溶質の質量 = 900 × 28/100 = 252 g。物質量 = 252 ÷ 17 = 14.8 ≒ 15 mol。モル濃度 ≒ 15 mol/L。

Q4. モル濃度の溶液をメスフラスコで調製する際、「ビーカーを純水で数回すすいでフラスコに入れる」のはなぜか。

▶ クリックして解答を表示 ビーカーに溶質が残ると、フラスコに移った溶質の量が正確でなくなるため。すすいで残らず移すことで、はかり取った溶質の物質量が正確に溶液に含まれるようにする。

8入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

4-4-1 A 基礎 計算

水酸化ナトリウム NaOH 40 g を水に溶かして 500 mL の溶液をつくった。この溶液のモル濃度〔mol/L〕を求めよ。(Na=23, O=16, H=1.0)

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

2.0 mol/L

解説

NaOH のモル質量 = 23 + 16 + 1.0 = 40 g/mol。

溶質の物質量 = 40 g ÷ 40 g/mol = 1.0 mol。

溶液の体積 = 500 mL = 0.500 L。

モル濃度 = 1.0 mol ÷ 0.500 L = 2.0 mol/L

採点ポイント
  • モル質量の計算が正しい(1点)
  • 物質量の計算が正しい(1点)
  • 体積を L に換算して正しくモル濃度を求めた(2点)

B 標準レベル

4-4-2 B 標準 計算・変換

質量パーセント濃度 98%、密度 1.84 g/cm3 の濃硫酸がある。次の問いに答えよ。(H=1.0, O=16, S=32)

(1) この濃硫酸のモル濃度〔mol/L〕を求めよ。

(2) 1.00 mol/L の希硫酸を 500 mL 調製するには、この濃硫酸は何 mL 必要か。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 18.4 mol/L(≒ 18 mol/L)

(2) 27.2 mL(≒ 27 mL)

解説

(1) H2SO4 のモル質量 = 2 + 32 + 64 = 98 g/mol。

溶液 1 L の質量 = 1.84 g/cm3 × 1000 cm3 = 1840 g。

溶質の質量 = 1840 × 98/100 = 1803.2 g。

物質量 = 1803.2 ÷ 98 = 18.4 mol。よってモル濃度 = 18.4 mol/L

(2) 希釈しても溶質の物質量は変わらない。

必要な H2SO4 の物質量 = 1.00 mol/L × 0.500 L = 0.500 mol。

必要な濃硫酸の体積 = 0.500 mol ÷ 18.4 mol/L = 0.0272 L = 27.2 mL

実際の操作:濃硫酸を氷水で冷やしながら水に少しずつ加える(逆は危険)。

採点ポイント
  • (1) 変換公式を正しく適用(3点)
  • (2) 希釈の原理(物質量保存)を使った(2点)、計算が正しい(1点)

C 発展レベル

4-4-3 C 発展 総合・論述

質量パーセント濃度 w〔%〕、密度 d〔g/cm3〕、溶質のモル質量 M〔g/mol〕の溶液がある。以下の問いに答えよ。

(1) この溶液のモル濃度〔mol/L〕を wdM を用いた式で表せ。導出過程も示すこと。

(2) 上記の溶液 V1〔mL〕を純水で薄めて体積 V2〔mL〕にしたとき、希釈後のモル濃度〔mol/L〕を求めよ。

(3) 同じ溶質について、「質量パーセント濃度が等しい」水溶液と「モル濃度が等しい」水溶液は、溶液の密度が 1.0 g/cm3 でない限り同じ溶液ではない。その理由を説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) モル濃度 = 10dw / M 〔mol/L〕

(2) 希釈後のモル濃度 = V1 × (10dw/M) / V2 〔mol/L〕 (V1, V2 の単位は mL)

(3) 質量パーセント濃度は溶液の質量基準、モル濃度は溶液の体積基準であり、密度が 1.0 g/cm3 でなければ同じ質量パーセント濃度でも体積が異なり、同じモル濃度でも質量が異なるため。

解説

(1) 溶液 1 L(= 1000 cm3)を基準とする。
溶液の質量 = d × 1000 〔g〕
溶質の質量 = d × 1000 × w/100 〔g〕
溶質の物質量 = (d × 1000 × w/100) / M = 10dw/M 〔mol〕
1 L 当たりの物質量なので、モル濃度 = 10dw/M〔mol/L〕。

(2) 希釈前後で溶質の物質量は変わらない(物質量保存の原理)。
希釈前の物質量 = (10dw/M) × (V1/1000) 〔mol〕
希釈後の体積 = V2/1000 〔L〕
希釈後のモル濃度 = (10dw/M) × V1 / V2 〔mol/L〕

(3) 質量パーセント濃度 w% は「溶液 100 g 中の溶質の質量が w g」という定義であり、体積には無関係です。一方、モル濃度は「溶液 1 L 中の溶質の物質量」という定義です。溶液の密度 d が 1.0 g/cm3 であれば 1 L = 1000 g となり、両者の基準が一致しますが、d ≠ 1.0 のときは 1 L の質量が 1000 g ではなくなるため、同じ質量パーセント濃度の溶液でもモル濃度は密度によって変わります。

採点ポイント(計12点)
  • (1) 導出の論理が正しく、公式 10dw/M が導けた(4点)
  • (2) 物質量保存の原理を使い正しく式を立てた(4点)
  • (3) 質量基準と体積基準の違いを正確に説明した(4点)