食塩水の「濃さ」はどう数値化するのでしょうか。日常では「薄い・濃い」で済みますが、化学では再現性のある計算が必要です。
この記事では、質量パーセント濃度・モル濃度という2種類の濃度を定義から理解し、両者の変換法と計算の落とし穴まで体系的に習得します。
物質が液体に溶けて均一に混ざった状態を溶液(solution)といいます。溶液を構成する2種類の成分を区別して名前がついています。
| 用語 | 定義 | 例(食塩水の場合) |
|---|---|---|
| 溶媒(solvent) | 他の物質を溶かす液体 | 水 |
| 溶質(solute) | 溶媒に溶けている物質 | 塩化ナトリウム NaCl |
| 溶液(solution) | 溶媒+溶質の均一な混合物 | 食塩水 |
溶媒が水である溶液を特に水溶液(aqueous solution)といいます。また、溶液の質量は溶質の質量と溶媒の質量の合計です。
溶液の質量 = 溶質の質量 + 溶媒の質量
濃度の計算では、必ず「溶質の質量」または「溶質の物質量」がどこかに出てきます。溶液の質量から溶質の質量を引けば溶媒の質量が求まる、という関係は計算の基本です。
質量パーセント濃度(mass percent concentration)は、溶液全体の質量に対する溶質の質量の割合をパーセントで表した濃度です。記号は w/w% とも表記されます。
(求める量)溶質(NaCl)の質量と溶媒(水)の質量
(解法)
溶質の質量 = 溶液の質量 × 質量パーセント濃度 / 100
= 120 g × 20/100 = 24 g
溶媒の質量 = 溶液の質量 − 溶質の質量
= 120 g − 24 g = 96 g
答:NaCl を 24 g、水を 96 g 使う。
モル濃度(molar concentration)は、溶液 1 L 中に溶けている溶質の物質量〔mol〕で表した濃度です。単位は mol/L(または mol·L−1)を使います。
(解法)
NaOH のモル質量 = 23 + 16 + 1.0 = 40 g/mol
溶質の物質量 = 20 g ÷ 40 g/mol = 0.50 mol
溶液の体積 = 200 mL = 0.200 L
モル濃度 = 0.50 mol ÷ 0.200 L = 2.5 mol/L
(解法)
溶質の物質量 = 0.40 mol/L × 0.250 L = 0.10 mol
NH3 のモル質量 = 14 + 1.0 × 3 = 17 g/mol
溶質の質量 = 0.10 mol × 17 g/mol = 1.7 g
正確なモル濃度の溶液を調製するにはメスフラスコ(volumetric flask)を使います。メスフラスコは特定の体積だけを正確にはかるためのガラス器具であり、標線と呼ばれる細いくびれ部分に液面を合わせることで精度を出します。
メスフラスコは熱によってガラスが膨張すると体積の目盛りがずれてしまいます。洗浄後は布や紙で拭かず、自然乾燥または溶液を入れる直前に使います。加熱乾燥は絶対に行ってはいけません。同様にホールピペットやビュレットも加熱乾燥は禁止です。
ホールピペットやビュレットを水でぬれたまま使うと溶液が薄まり、取り出した溶液の溶質の量が不正確になります。これを防ぐため、使用する溶液で器具の内部を 2〜3 回すすいでから使う操作を共洗い(conditioning)といいます。メスフラスコは共洗いしてはいけません(純水で標線まで体積を合わせるのが目的のため)。
化学反応の量的関係は「物質量〔mol〕の比」で表されます。モル濃度は「溶液の体積さえわかれば溶質の物質量がすぐ求まる」という形式なので、滴定・反応量計算・pH 計算など、すべての定量計算の出発点になります。質量パーセント濃度よりも計算に適した表現形式です。
市販の試薬(濃硫酸・濃塩酸など)のラベルには質量パーセント濃度と密度が記載されています。これをモル濃度に換算する必要が頻繁にあります。変換公式は、溶液 1 L を基準に立てます。
(解法)溶液 1 L を考える。
H2SO4 のモル質量 = 2 + 32 + 64 = 98 g/mol
溶液 1 L の質量 = 1.8 g/cm3 × 1000 cm3 = 1800 g
溶質 H2SO4 の質量 = 1800 g × 98/100 = 1764 g
溶質の物質量 = 1764 g ÷ 98 g/mol = 18 mol
モル濃度 = 18 mol / 1 L = 18 mol/L
(解法)溶液 1 L を考える。
HNO3 のモル質量 = 1.0 + 14 + 48 = 63 g/mol
溶液 1 L の質量 = 1.4 g/cm3 × 1000 cm3 = 1400 g
溶質 HNO3 の質量 = 13 mol × 63 g/mol = 819 g
質量パーセント濃度 = 819 / 1400 × 100 ≒ 58.5%
モル濃度は 溶液 1 L 中の物質量です。「溶媒(水)1 L」ではありません。溶液に溶質を溶かすと体積が変わるため、溶媒 1 L に溶質を加えた溶液の体積は 1 L にはなりません。
例:NaCl を水に溶かして 1 L にした溶液のモル濃度を計算するとき、「水 1 L に NaCl を加えた」と勘違いすると分母(溶液の体積)が変わって計算ミスになります。
式にすると:溶液の体積(分母)≠ 溶媒の体積。メスフラスコで「溶液の体積を 1 L に合わせる」というのはこのためです。
溶液の濃度は化学のあらゆる計算の出発点です。以下に、ここで学んだ概念が他の章・分野とどうつながるかを整理します。
次の記事では、化学反応式と物質量の関係を扱います。反応式の係数比がそのまま物質量の比になるという原理に、ここで学んだ溶液の量的計算を組み合わせることで、溶液反応の問題が解けるようになります。
Q1. 質量パーセント濃度 10% の NaCl 水溶液 200 g 中に含まれる NaCl の質量と、水の質量をそれぞれ求めよ。
Q2. NaCl 5.85 g を水に溶かして 100 mL とした溶液のモル濃度を求めよ。(Na=23, Cl=35.5)
Q3. 質量パーセント濃度 28% のアンモニア水(密度 0.90 g/cm3)のモル濃度を求めよ。(N=14, H=1.0)
Q4. モル濃度の溶液をメスフラスコで調製する際、「ビーカーを純水で数回すすいでフラスコに入れる」のはなぜか。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
水酸化ナトリウム NaOH 40 g を水に溶かして 500 mL の溶液をつくった。この溶液のモル濃度〔mol/L〕を求めよ。(Na=23, O=16, H=1.0)
2.0 mol/L
NaOH のモル質量 = 23 + 16 + 1.0 = 40 g/mol。
溶質の物質量 = 40 g ÷ 40 g/mol = 1.0 mol。
溶液の体積 = 500 mL = 0.500 L。
モル濃度 = 1.0 mol ÷ 0.500 L = 2.0 mol/L。
質量パーセント濃度 98%、密度 1.84 g/cm3 の濃硫酸がある。次の問いに答えよ。(H=1.0, O=16, S=32)
(1) この濃硫酸のモル濃度〔mol/L〕を求めよ。
(2) 1.00 mol/L の希硫酸を 500 mL 調製するには、この濃硫酸は何 mL 必要か。
(1) 18.4 mol/L(≒ 18 mol/L)
(2) 27.2 mL(≒ 27 mL)
(1) H2SO4 のモル質量 = 2 + 32 + 64 = 98 g/mol。
溶液 1 L の質量 = 1.84 g/cm3 × 1000 cm3 = 1840 g。
溶質の質量 = 1840 × 98/100 = 1803.2 g。
物質量 = 1803.2 ÷ 98 = 18.4 mol。よってモル濃度 = 18.4 mol/L。
(2) 希釈しても溶質の物質量は変わらない。
必要な H2SO4 の物質量 = 1.00 mol/L × 0.500 L = 0.500 mol。
必要な濃硫酸の体積 = 0.500 mol ÷ 18.4 mol/L = 0.0272 L = 27.2 mL。
実際の操作:濃硫酸を氷水で冷やしながら水に少しずつ加える(逆は危険)。
質量パーセント濃度 w〔%〕、密度 d〔g/cm3〕、溶質のモル質量 M〔g/mol〕の溶液がある。以下の問いに答えよ。
(1) この溶液のモル濃度〔mol/L〕を w、d、M を用いた式で表せ。導出過程も示すこと。
(2) 上記の溶液 V1〔mL〕を純水で薄めて体積 V2〔mL〕にしたとき、希釈後のモル濃度〔mol/L〕を求めよ。
(3) 同じ溶質について、「質量パーセント濃度が等しい」水溶液と「モル濃度が等しい」水溶液は、溶液の密度が 1.0 g/cm3 でない限り同じ溶液ではない。その理由を説明せよ。
(1) モル濃度 = 10dw / M 〔mol/L〕
(2) 希釈後のモル濃度 = V1 × (10dw/M) / V2 〔mol/L〕 (V1, V2 の単位は mL)
(3) 質量パーセント濃度は溶液の質量基準、モル濃度は溶液の体積基準であり、密度が 1.0 g/cm3 でなければ同じ質量パーセント濃度でも体積が異なり、同じモル濃度でも質量が異なるため。
(1) 溶液 1 L(= 1000 cm3)を基準とする。
溶液の質量 = d × 1000 〔g〕
溶質の質量 = d × 1000 × w/100 〔g〕
溶質の物質量 = (d × 1000 × w/100) / M = 10dw/M 〔mol〕
1 L 当たりの物質量なので、モル濃度 = 10dw/M〔mol/L〕。
(2) 希釈前後で溶質の物質量は変わらない(物質量保存の原理)。
希釈前の物質量 = (10dw/M) × (V1/1000) 〔mol〕
希釈後の体積 = V2/1000 〔L〕
希釈後のモル濃度 = (10dw/M) × V1 / V2 〔mol/L〕
(3) 質量パーセント濃度 w% は「溶液 100 g 中の溶質の質量が w g」という定義であり、体積には無関係です。一方、モル濃度は「溶液 1 L 中の溶質の物質量」という定義です。溶液の密度 d が 1.0 g/cm3 であれば 1 L = 1000 g となり、両者の基準が一致しますが、d ≠ 1.0 のときは 1 L の質量が 1000 g ではなくなるため、同じ質量パーセント濃度の溶液でもモル濃度は密度によって変わります。