化学反応式は単なる「反応の記録」ではありません。係数の比が物質量の比に直結するという事実が、化学計算のすべての基盤になっています。
この記事では、化学反応式の書き方から始め、係数が表す量的関係を理解し、質量・体積・過不足を含む計算まで一貫して学びます。
物質の成分元素の組み合わせが変わり、別の物質が生じる現象を化学変化(化学反応)といいます。化学反応式(反応式)は、化学式を用いてこの変化を表したものです。
例:水素と酸素が反応して水が生成する反応
2H2 + O2 → 2H2O
複数の原子を含む化合物が関係する反応式は、未定係数法(各係数を文字でおき、連立方程式で解く方法)が便利です。
手順は次のとおりです。
反応物:C2H6、O2 生成物:CO2、H2O
C2H6 の係数を仮に 1 とおく。
C の数:左辺 2 個 → CO2 の係数は 2
H の数:左辺 6 個 → H2O の係数は 3
O の数:右辺 2×2 + 3×1 = 7 個 → O2 の係数は 7/2
全体を 2 倍して整数比にする:
2C2H6 + 7O2 → 4CO2 + 6H2O
Cu と希硝酸(HNO3)の反応のように、多種の原子が絡む場合は係数をすべて文字でおいて連立方程式を立てる。Cu + HNO3 → Cu(NO3)2 + H2O + NO の各係数を a, b, c, d, e とすると、Cu・H・N・O の各方程式から a=3, b=8, c=3, d=4, e=2 と決まり、次の式が得られる。
3Cu + 8HNO3 → 3Cu(NO3)2 + 4H2O + 2NO
化学反応式の係数には、反応の量的な意味が込められています。
係数は各物質の粒子(分子・原子・イオン)の数の比を表しています。どの係数にも同じ数(例えばアボガドロ定数 NA)を掛ければ、物質量〔mol〕の比に変換できます。
係数比 = 粒子の数の比 = 物質量〔mol〕の比
化学反応式の係数は「何個ずつ反応・生成するか」を表しており、それがそのまま「何 mol ずつ反応・生成するか」になります。この事実が化学量論計算のすべての出発点です。質量や体積への変換は、この物質量の比を軸に行います。「質量の比 = 係数比」ではありません。各物質のモル質量が異なるため、質量の比は係数比とは一般に一致しないことに注意してください。
2CO + O2 → 2CO2 を例に、係数が表すすべての量的関係を整理します。CO、O2、CO2 のモル質量はそれぞれ 28 g/mol、32 g/mol、44 g/mol です。
| 量の種類 | 2CO | O2 | 2CO2 |
|---|---|---|---|
| 係数の比 | 2 | 1 | 2 |
| 分子の数〔個〕 | 2NA 個 | NA 個 | 2NA 個 |
| 物質量〔mol〕 | 2 mol | 1 mol | 2 mol |
| 質量〔g〕 | 28×2 = 56 g | 32×1 = 32 g | 44×2 = 88 g |
| 気体の体積〔L〕 (標準状態) |
22.4×2 = 44.8 L | 22.4×1 = 22.4 L | 22.4×2 = 44.8 L |
上の表のポイントをまとめると次のとおりです。
2H2 + O2 → 2H2O において、係数比は 2:1:2 ですが、質量の比は 4:32:36 = 1:8:9 です。係数比がそのまま質量比になるのは、すべての物質のモル質量が等しい場合だけで、一般的には成立しません。計算は必ず「物質量の比 = 係数の比」を経由してから質量に換算してください。
化学量論計算の手順は次の3ステップです。
化学反応式:Ca + 2H2O → Ca(OH)2 + H2
係数比:Ca : Ca(OH)2 = 1 : 1
Ca の物質量:2.0 g ÷ 40 g/mol = 0.050 mol
Ca(OH)2 の物質量:係数比 1:1 より、0.050 mol
Ca(OH)2 の質量:0.050 mol × 74 g/mol = 3.7 g
気体が関係する場合は、標準状態(0 ℃、1.013×105 Pa)における気体のモル体積(22.4 L/mol)を使って体積を物質量に変換します。
化学反応式:CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O
係数比:CH4 : H2O = 1 : 2
CH4 の物質量:5.6 L ÷ 22.4 L/mol = 0.25 mol
H2O の物質量:係数比 1:2 より、0.25 × 2 = 0.50 mol
H2O の質量:0.50 mol × 18 g/mol = 9.0 g
化学反応式:Mg + 2HCl → MgCl2 + H2
係数比:Mg : H2 = 1 : 1
Mg の物質量:1.2 g ÷ 24 g/mol = 0.050 mol
H2 の物質量:係数比 1:1 より、0.050 mol
H2 の体積:0.050 mol × 22.4 L/mol = 1.12 L ≒ 1.1 L
実際の反応では、反応物の一方が過剰で、他方が不足する(すべて消費される)ことがよくあります。このような場合を過不足のある反応といいます。
反応が先に使い切られる側の物質を限定試薬(不足試薬)といいます。限定試薬がすべて消費された時点で反応は止まります。生成物の量は限定試薬の量から決まります。
化学反応式:2Al + Fe2O3 → Al2O3 + 2Fe (係数比 2:1:1:2)
各物質の物質量:
Al: 5.4 g ÷ 27 g/mol = 0.20 mol
Fe2O3: 8.0 g ÷ 160 g/mol = 0.050 mol
過不足の確認:係数比より、0.20 mol の Al と過不足なく反応する Fe2O3 は 0.10 mol 必要。しかし実際の Fe2O3 は 0.050 mol しかない。よって Fe2O3 が限定試薬(先に消費される)。
反応した Al の物質量:係数比 2:1 より、0.050 mol × 2 = 0.10 mol
| 2Al | Fe2O3 | Al2O3 | 2Fe | |
|---|---|---|---|---|
| 反応前〔mol〕 | 0.20 | 0.050 | 0 | 0 |
| 変化量〔mol〕 | −0.10 | −0.050 | +0.050 | +0.10 |
| 反応後〔mol〕 | 0.10 | 0 | 0.050 | 0.10 |
Fe の質量:0.10 mol × 56 g/mol = 5.6 g
残る Al の質量:0.10 mol × 27 g/mol = 2.7 g(Al が余る)
反応前・変化量・反応後の3行からなる「ICE テーブル」(Initial / Change / End)を書く習慣をつけると、過不足のある反応でも混乱せずに解けます。変化量の行は係数比に比例し、限定試薬の変化量を基準に他の物質の変化量を決めます。このフォーマットは酸塩基・酸化還元・電気分解など、あらゆる量的計算に使えます。
水溶液中でイオンが関係する反応では、実際に反応に関与するイオンだけを取り出した式が使われます。これをイオン反応式といいます。
塩化カルシウム CaCl2 水溶液と炭酸ナトリウム Na2CO3 水溶液を混合すると、炭酸カルシウム CaCO3 の白色沈殿が生じます。
化学反応式:CaCl2 + Na2CO3 → CaCO3↓ + 2NaCl
両辺をイオンに分けると:Ca2+ + 2Cl− + 2Na+ + CO32− → CaCO3↓ + 2Na+ + 2Cl−
反応に関与しないイオン(Na+、Cl−)を省略すると:
Ca2+ + CO32− → CaCO3↓
Ca2+ と CO32− のように、反応に直接関与せず式の両辺に同じように現れるイオンを傍観イオン(スペクテーターイオン)といいます。
化学反応式:2AgNO3 + Cu → 2Ag + Cu(NO3)2
両辺をイオンに分けると:2Ag+ + 2NO3− + Cu → 2Ag + Cu2+ + 2NO3−
NO3−(傍観イオン)を省略する:
2Ag+ + Cu → 2Ag + Cu2+
確認:左辺の電荷の総和 = +2+0 = +2、右辺 = 0+2 = +2。電荷が一致しているので正しい。
化学反応式と量的関係は、化学のすべての計算問題の基盤となる最重要単元です。以下に、ここでの知識が他の章とどうつながるかを整理します。
次の記事では、酸・塩基の定義と性質を学びます。中和反応の量的計算(第5章)でこの記事の手順が再登場します。
Q1. 化学反応式 2H2 + O2 → 2H2O において、H2 と O2 と H2O の物質量の比を答えよ。
Q2. プロパン C3H8 の完全燃焼を化学反応式で表せ。(生成物は CO2 と H2O)
Q3. ナトリウム Na 4.6 g を水と完全に反応させたとき、発生する水素 H2 の体積(標準状態)を求めよ。(Na の反応:2Na + 2H2O → 2NaOH + H2、Naのモル質量: 23 g/mol)
Q4. 硝酸銀 AgNO3 水溶液に塩化ナトリウム NaCl 水溶液を加えると塩化銀 AgCl の白色沈殿が生じた。このイオン反応式を書け。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
化学反応式に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
②③⑤
① 誤り。係数比は物質量の比であり、各物質のモル質量が異なるため、一般に質量の比とは一致しません。② 正しい。係数は粒子の数の比であり、アボガドロ定数を掛けても比は変わらないので物質量の比と等しくなります。③ 正しい。アボガドロの法則より、同温・同圧では同じ物質量の気体は同じ体積を占めるので、係数比=体積比になります。④ 誤り。触媒は反応の前後で変化しないため、化学反応式の反応物にも生成物にも書かず、矢印の上や下に条件として示します。⑤ 正しい。イオン反応式は原子の数だけでなく電荷の総和も両辺で等しくなっていることが必要です。
炭酸カルシウム CaCO3(モル質量100 g/mol)の粉末 5.0 g に、十分な量の希塩酸を加えたところ、次の反応が起こった。
(1) 反応した HCl の物質量〔mol〕を求めよ。(HCl のモル質量: 36.5 g/mol)
(2) 発生した CO2 の体積〔L〕を標準状態で求めよ。
(3) 発生した CO2 の質量〔g〕を求めよ。(CO2 のモル質量: 44 g/mol)
(1) CaCO3 の物質量:5.0 ÷ 100 = 0.050 mol。係数比 CaCO3:HCl = 1:2 より、HCl = 0.050 × 2 = 0.10 mol
(2) 係数比 CaCO3:CO2 = 1:1 より、CO2 = 0.050 mol。体積:0.050 × 22.4 = 1.12 L ≒ 1.1 L
(3) CO2 の質量:0.050 × 44 = 2.2 g
まず CaCO3 の物質量を求め、それを基準に係数比から他の物質の物質量を求めます。(1) の HCl は係数が 2 なので CaCO3 の 2 倍、(2)(3) の CO2 は係数が 1 なので CaCO3 と等 mol です。最終的に体積へは「× 22.4」、質量へは「× モル質量」で換算します。このフローは化学量論計算のすべてで共通です。
プロパン C3H8(モル質量44 g/mol)と酸素 O2 の混合気体がある。プロパンの完全燃焼は次式で表される。
混合気体中のプロパンは標準状態で 4.48 L、酸素は標準状態で 16.0 L であった。
(1) プロパンをすべて燃焼させるのに必要な酸素の体積〔L〕(標準状態)を求めよ。
(2) 反応後に残る気体とその体積〔L〕(標準状態)を求めよ。ただし水は液体になるものとする。
(3) 反応後の気体の全体積〔L〕(標準状態)を求めよ。
各物質の物質量:C3H8: 4.48 ÷ 22.4 = 0.200 mol、O2: 16.0 ÷ 22.4 = 0.714 mol
(1) 0.200 mol の C3H8 を完全燃焼させるのに必要な O2:0.200 × 5 = 1.00 mol → 22.4 L
(2) 実際の O2 は 0.714 mol。必要量 1.00 mol に対して不足するので、O2 が限定試薬。反応した C3H8:0.714 ÷ 5 = 0.1428 mol。残る C3H8:0.200 − 0.143 = 0.0572 mol ≒ 0.057 mol → 体積:0.057 × 22.4 ≒ 1.28 L ≒ 1.3 L
(3) 生じた CO2:0.1428 × 3 = 0.4284 mol → 体積:0.4284 × 22.4 ≒ 9.60 L。全気体(CO2 + 残り C3H8):9.60 + 1.28 ≒ 10.9 L ≒ 11 L
(1) は過不足の確認のための計算です。C3H8:O2 = 1:5 より、0.200 mol の C3H8 に対して 1.00 mol(22.4 L)の O2 が必要です。実際の O2 は 16.0 L = 0.714 mol しかなく、(1) で求めた 22.4 L より少ないため、O2 が先に使い切られます(O2 が限定試薬)。(2) では 0.714 mol の O2 を基準に反応量を計算します。H2O は液体になるため気体として残りません。(3) では残った C3H8 と生成した CO2 の体積の和を求めます。