第5章 酸・塩基と中和

酸・塩基の強弱と電離度

同じ「酸」でも、塩酸と酢酸では水溶液の反応性がまったく異なります。
この違いの根本は、水中でどれだけ電離するかという「電離度」にあります。
この記事では、強酸・弱酸・強塩基・弱塩基の分類と、電離度の意味・計算を学びます。

1酸・塩基の強弱とは

酸や塩基を水に溶かしたとき、水溶液中でイオンに分かれる(電離する)割合は物質によって大きく異なります。この電離の割合の大小が、酸・塩基の「強弱」の正体です。

強酸・強塩基:水中でほぼ完全に電離

強酸とは、水溶液中でほぼすべての分子が電離している酸のことです。塩化水素(HCl)を水に溶かすと、ほぼすべての HCl 分子が H+ と Cl に分かれます。

HCl  →  H+ + Cl (ほぼ完全に電離)

同様に、強塩基は水溶液中でほぼ完全に電離する塩基です。水酸化ナトリウム(NaOH)は水に溶けるとほぼすべてが Na+ と OH に電離します。

NaOH  →  Na+ + OH (ほぼ完全に電離)

弱酸・弱塩基:一部しか電離しない

弱酸とは、水溶液中で一部の分子しか電離していない酸です。酢酸(CH3COOH)は水に溶かしても、電離するのはごくわずかで、ほとんどは分子のまま水溶液中に存在します。

CH3COOH  ⇄  CH3COO + H+ (一部だけが電離)

上の式で「⇄」(可逆矢印)を使っているのは、電離と逆反応(イオンが結合して分子に戻る)が同時に起きているためです。この状態を電離平衡といいます(詳しくは大学化学・化学で扱います)。

同様に、弱塩基は水溶液中で一部しか電離しない塩基です。アンモニア(NH3)は水と反応して NH4+ と OH を生じますが、電離する割合は非常に小さいです。

NH3 + H2O  ⇄  NH4+ + OH (一部だけが電離)

強弱の本質

酸・塩基の強弱は「水溶液中でどれだけ電離するか」という電離の割合(電離度)によって決まります。濃度の大小とは無関係です。

2電離度

酸・塩基の電離の割合を数値で表したものを電離度(記号 α)といいます。

電離度 α = (電離した酸・塩基の物質量)÷(溶かした酸・塩基の物質量)

モル濃度を使って表すと:α = (電離した酸・塩基のモル濃度)÷(溶かした酸・塩基のモル濃度)

電離度 α には単位がなく、0 < α ≤ 1 の範囲をとります。

強酸・弱酸の電離度の違い

  • 強酸(例:HCl)α ≒ 1(ほぼすべて電離)
  • 弱酸(例:CH3COOH)α ≪ 1(ごくわずかしか電離しない)

例えば、0.10 mol/L の塩酸(HCl 水溶液)の電離度は 1.0 に近く、同じ濃度の酢酸水溶液の電離度はおよそ 0.016(= 1.6 %)にすぎません。同じ濃度でも、水素イオン濃度(H+ のモル濃度)は塩酸の方がずっと大きくなります。

電離度は濃度・温度によって変化する

電離度は一定ではなく、次の条件で変化します。

  • 濃度が小さい(希薄)ほど、電離度は大きくなる
  • 温度が高いほど、電離度は大きくなる

ただし強酸・強塩基は、どの濃度でもほぼ完全に電離しているため、電離度はほぼ 1 のままです。弱酸・弱塩基では希釈すると電離度が上昇することに注意してください。

水素イオン濃度の計算

1 価の酸のモル濃度を c(mol/L)、電離度を α とすると、水素イオン濃度は次の式で求められます。

[H+] = c × α (mol/L)

同様に、1 価の塩基のモル濃度 c、電離度 α のとき:

[OH] = c × α (mol/L)

例:0.10 mol/L の酢酸水溶液(電離度 0.016)の [H+] は?
[H+] = 0.10 × 0.016 = 1.6 × 10−3 mol/L

主な酸・塩基の強弱分類

分類 物質名 化学式 価数
強酸 塩化水素(塩酸) HCl 1 価
強酸 硝酸 HNO3 1 価
強酸 硫酸 H2SO4 2 価
弱酸 酢酸 CH3COOH 1 価
弱酸 炭酸 H2CO3 2 価
弱酸 フッ化水素酸 HF 1 価
弱酸 硫化水素 H2S 2 価
強塩基 水酸化ナトリウム NaOH 1 価
強塩基 水酸化カリウム KOH 1 価
強塩基 水酸化カルシウム Ca(OH)2 2 価
強塩基 水酸化バリウム Ba(OH)2 2 価
弱塩基 アンモニア NH3 1 価
弱塩基 水酸化マグネシウム Mg(OH)2 2 価
弱塩基 水酸化鉄(III) Fe(OH)3 3 価

※ 1 族(アルカリ金属)の水酸化物と、2 族のうち Ca, Sr, Ba の水酸化物は強塩基。それ以外の金属水酸化物の多くは弱塩基に分類される。

3強酸・弱酸の具体例

強酸の代表例

高校化学で覚えるべき強酸は主に3種類です。

  • 塩化水素 HCl(水溶液を塩酸という):無色・刺激臭の気体。水に非常に溶けやすく、ほぼ完全に電離して強い酸性を示す。
  • 硝酸 HNO3:揮発性の強酸。金・白金を除くほとんどの金属を溶かす。
  • 硫酸 H2SO4:2 価の強酸。濃硫酸は不揮発性・吸湿性・脱水作用をもつ。希硫酸は強酸として水素イオンを大量に放出する。

弱酸の代表例

  • 酢酸 CH3COOH:食酢の主成分。1 価の弱酸で、水溶液中での電離度はわずか数パーセント程度。
  • 炭酸 H2CO3:CO2 が水に溶けて生じる。2 価の弱酸。炭酸飲料の酸味の原因。
  • フッ化水素酸 HF:ハロゲン化水素の中で唯一の弱酸(HCl, HBr, HI は強酸)。ガラスを侵す性質をもつ。

強塩基の代表例

  • 水酸化ナトリウム NaOH:強塩基の代表。潮解性がある白色固体。
  • 水酸化カリウム KOH:NaOH と同様の強塩基。
  • 水酸化カルシウム Ca(OH)2:「消石灰」とも呼ばれる。水溶液(石灰水)は CO2 の検出に使われる。2 価の強塩基。
  • 水酸化バリウム Ba(OH)2:2 価の強塩基。

弱塩基の代表例

  • アンモニア NH3:弱塩基の代表。水と反応して NH4+ と OH を生じるが、ほとんどは NH3 分子のまま存在する。
  • 水酸化マグネシウム Mg(OH)2:水に溶けにくく、弱塩基に分類される。
酢酸はなぜ弱酸なのか(電離平衡の先取り)
酢酸は水中で CH3COOH ⇄ CH3COO + H+ の平衡状態にある
CH3COO(酢酸イオン)は H+ を強く引き付ける傾向をもつ
電離した H+ が逆反応で酢酸分子に戻りやすい
結果として、電離しているのは全体のごく一部 → 弱酸

これに対し HCl は、Cl が H+ を引き付ける力が非常に弱く、逆反応がほとんど起こらないため完全に電離します(強酸)。電離の程度は「H+ を引き付ける共役塩基の力」の大小で決まります。この仕組みは化学「電離平衡」で詳しく学びます。

4酸・塩基の強弱と価数は別概念

酸の「強弱」と「価数」はまったく別の概念です。次の対比を確認してください。

  • 強弱:電離度(水中でどれだけイオンになるか)で決まる
  • 価数:1 分子から放出できる H+(または OH)の数で決まる

例えば、硫酸 H2SO4 は「2 価の強酸」、炭酸 H2CO3 は「2 価の弱酸」、酢酸 CH3COOH は「1 価の弱酸」、塩化水素 HCl は「1 価の強酸」です。強弱と価数のすべての組み合わせが存在します。

落とし穴:「濃い酸=強酸」ではない

「濃硫酸」「希硫酸」のような「濃い・薄い」は濃度の話であり、酸の強弱とは別です。

例えば、「濃酢酸」(酢酸が高濃度)も弱酸です。濃塩酸も強酸ですが、「濃い=強酸」ではなく、HCl が元々強酸だから塩酸は強酸なのです。

また、「強酸・弱酸」と「酸性の強弱」も混同しないこと。同じモル濃度では強酸の方が H+ 濃度が高く酸性が強いですが、弱酸でも濃度を上げれば H+ 濃度を大きくできます。「強酸」「弱酸」は電離度による物質の分類であり、H+ 濃度の大小はモル濃度×電離度で決まります。

5この章を俯瞰する

第5章「酸と塩基」のうち、5-2 が担う役割は「酸・塩基の定性的な分類」の確立です。前後の記事との関係を整理しておきます。

  • ← 5-1「酸・塩基の定義と分類」:アレニウスの定義(H+/OH の放出・吸収)とブレンステッド・ローリーの定義(H+ の授受)を学んだ。今回の強弱は「どれだけ H+ を放出するか」の量的な話であり、定義と連動している。
  • → 5-3「水の電離と pH」:[H+] = の式と強弱の概念を使い、水素イオン濃度から pH を計算する。今回の電離度の知識が直接必要になる。
  • → 5-4「中和反応」:中和の量的関係は強酸・弱酸の区別なく成立する(弱酸も中和しきれば 1 mol あたり 1 mol の H+ を放出する)。強弱の概念と中和の量的関係を混同しないようにする。
  • → 化学「電離平衡」:弱酸・弱塩基の電離度が濃度依存する理由を、平衡定数(電離定数 Ka)で厳密に扱う。

6まとめ

  • 強酸は水溶液中でほぼ完全に電離(HCl, HNO3, H2SO4 の3つを暗記)
  • 弱酸は水溶液中で一部しか電離しない(CH3COOH, H2CO3, HF など)
  • 強塩基はほぼ完全に電離(NaOH, KOH, Ca(OH)2, Ba(OH)2
  • 弱塩基は一部しか電離しない(NH3, Mg(OH)2 など)
  • 電離度 α:電離した分子数 ÷ 溶解した分子数。強酸・強塩基は α ≒ 1、弱酸・弱塩基は α ≪ 1
  • 電離度は濃度が小さいほど・温度が高いほど大きくなる
  • 1 価の酸の [H+] = c × α(mol/L)
  • 「強酸・弱酸」と「価数」「濃度」は独立した概念であり、混同しないこと

7確認テスト

Q1. 次の酸・塩基を「強酸・弱酸・強塩基・弱塩基」に分類してください。 HCl, CH3COOH, NaOH, NH3, H2SO4, Ca(OH)2

▶ クリックして解答を表示強酸:HCl, H₂SO₄ 弱酸:CH₃COOH 強塩基:NaOH, Ca(OH)₂ 弱塩基:NH₃。 HCl と H₂SO₄ は水溶液中でほぼ完全に電離し、CH₃COOH は一部しか電離しません。NaOH, Ca(OH)₂ もほぼ完全に電離し、NH₃ は一部しか電離しません。

Q2. 電離度とは何ですか。定義を式で示してください。また、強酸と弱酸では電離度の値にどのような違いがありますか。

▶ クリックして解答を表示電離度 α = 電離した酸(塩基)の物質量 ÷ 溶かした酸(塩基)の物質量(0 < α ≤ 1、単位なし)。強酸は α ≒ 1(ほぼすべて電離)、弱酸は α ≪ 1(ごくわずかしか電離しない)。

Q3. 0.10 mol/L の酢酸水溶液(電離度 0.016)の水素イオン濃度 [H+] を求めてください。

▶ クリックして解答を表示[H⁺] = c × α = 0.10 mol/L × 0.016 = 1.6 × 10⁻³ mol/L。酢酸は1価の弱酸なので、電離した酢酸の分だけ H⁺ が生じます。

Q4. 「濃酢酸は強酸である」という記述は正しいですか。理由とともに答えてください。

▶ クリックして解答を表示誤り。酸の強弱は電離度によって決まり、濃度とは無関係です。酢酸は濃度が高くても電離度は小さく(弱酸の性質は変わらず)、弱酸のままです。「濃い」は濃度の話であり、「強い」は電離度の話です。

8入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

5-2-1 A 基礎 選択

酸・塩基に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。

  • ① 塩酸(HCl 水溶液)は強酸であり、水溶液中でほぼすべての HCl 分子が電離している。
  • ② 酢酸は弱酸なので、中和に必要な NaOH の量は塩酸よりも少なくて済む。
  • ③ 酸の電離度は濃度が大きいほど小さくなる。
  • ④ 水酸化カルシウムは弱塩基である。
  • ⑤ フッ化水素(HF)はハロゲン化水素であるが、弱酸に分類される。
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解答

①③⑤

解説

① 正しい。HCl は強酸で電離度 ≒ 1。

② 誤り。中和の量的関係は酸・塩基の強弱(電離度)に無関係です。同じモル数の酢酸と塩酸を中和するのに必要な NaOH の物質量は同じです。

③ 正しい。弱酸・弱塩基の電離度は濃度が大きいほど小さくなります(希釈するほど電離しやすくなる)。

④ 誤り。水酸化カルシウム Ca(OH)2 は 2 価の強塩基です。

⑤ 正しい。HCl, HBr, HI は強酸ですが、HF のみ弱酸です。

B 標準レベル

5-2-2 B 標準 計算・論述

0.10 mol/L の塩酸 10 mL と、0.10 mol/L の酢酸水溶液 10 mL について、以下の問いに答えよ。ただし、塩酸の電離度を 1.0、酢酸の電離度を 0.016 とする。

(1) それぞれの水溶液の水素イオン濃度 [H+](mol/L)を求めよ。

(2) 両者の [H+] が異なる理由を「電離度」という語を用いて 40 字以内で説明せよ。

(3) それぞれの水溶液を 0.10 mol/L の NaOH 水溶液で過不足なく中和するとき、必要な NaOH 水溶液の体積はどちらが多いか。理由とともに答えよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 塩酸:[H+] = 0.10 × 1.0 = 0.10 mol/L
酢酸水溶液:[H+] = 0.10 × 0.016 = 1.6 × 10−3 mol/L

(2) 塩酸(強酸)はほぼすべてが電離するのに対し、酢酸(弱酸)はごく一部しか電離しないため、電離度が異なり [H+] が大きく異なる。(57字→以下要点のみ) 要点:「塩酸は電離度が大きく、酢酸は電離度が小さいため」

(3) 必要な NaOH の体積は同じ(10 mL)。中和の量的関係は電離度に無関係であり、酸の物質量 × 価数 = 塩基の物質量 × 価数 が成立するため。

解説

(1) [H+] = の式を適用します。酢酸の電離度は 0.016 と非常に小さいため、同じ濃度でも水素イオン濃度は塩酸の約 62 分の 1 です。

(2) 電離度の違いが直接 [H+] の差につながります。「同じ濃度なのに強酸・弱酸で [H+] が異なるのはなぜか」という問いへの答えは「電離度が異なるから」です。

(3) 弱酸である酢酸の中和では、溶液中の H+ はわずかですが、OH が加わるにつれて電離平衡が右にシフトし、酢酸分子がさらに電離して H+ が補充されます。最終的には 1 mol の酢酸すべてが 1 mol の H+ を放出します。したがって、中和に必要な NaOH の量は塩酸と同じです。

採点ポイント(配点例:計8点)
  • (1) 各 1 点(計 2 点)
  • (2) 電離度の違いに言及(2 点)
  • (3) 同じ体積と答えている(1 点)、電離度に無関係と説明(2 点)、量的関係の式または言葉での言及(1 点)

C 発展レベル

5-2-3 C 発展 総合

酢酸(CH3COOH)水溶液に関する次の問いに答えよ。

(1) 0.10 mol の酢酸を水 1.0 L に溶かしたとき、1.3 × 10−3 mol の水素イオンが生じた。このときの酢酸の電離度を求めよ。

(2) (1) の水溶液をさらに水で 10 倍に薄めたとき、電離度はどのように変化するか。「大きくなる・小さくなる・変わらない」から選び、理由も述べよ。

(3) 塩酸と酢酸水溶液がある。両者の水素イオン濃度 [H+] が等しいとき、中和に必要な 0.10 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液の体積はどちらが多いか。モル濃度と電離度の観点から説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 電離度 α = 1.3 × 10−3 mol ÷ 0.10 mol = 0.013

(2) 大きくなる。希釈すると弱酸の電離度は増加する。

(3) 酢酸水溶液の方が多い。[H+] が等しいとき、弱酸(電離度小)の酢酸はモル濃度が塩酸より大きい( が等しいので α が小さい分だけ c が大きい)。中和に必要な NaOH の量は酸のモル濃度×体積×価数で決まるため、モル濃度の大きい酢酸の方が多くの NaOH を必要とする。

解説

(1) 酢酸は 1 価なので、電離した酢酸の物質量=生じた H+ の物質量 = 1.3 × 10−3 mol。
α = 1.3 × 10−3 ÷ 0.10 = 0.013

(2) 弱酸・弱塩基の電離平衡(CH3COOH ⇄ CH3COO + H+)において、希釈すると各イオンの濃度が下がるため、平衡は右(電離する方向)に移動します。これにより電離度(割合)は増加します。ただし [H+] 自体は減少(pH は上昇)します。

(3) [H+] = が等しいとき、α(酢酸)≪ α(HCl)≒ 1 なので、c(酢酸)≫ c(HCl)です。中和に必要な OH の物質量は、溶液中の H+ の現在量ではなく、酸の「全放出可能な H+(= モル濃度 × 体積 × 価数)」で決まります。したがって、モル濃度の大きい酢酸水溶液の方が多くの NaOH を必要とします。

採点ポイント(配点例:計10点)
  • (1) 正しい計算と答え(3 点)
  • (2) 「大きくなる」を選択(1 点)、平衡の移動・希釈による電離度増加の理由(2 点)
  • (3) 酢酸の方が多いと結論(1 点)、 が等しければ c(酢酸)が大きいと説明(2 点)、中和量は全モル数で決まることを言及(1 点)