第5章 酸・塩基と中和

水の電離とpH

「酸性」「塩基性」を感覚ではなく数値で表す指標がpHです。
純水がわずかに電離するという事実から出発し、水素イオン濃度[H+]と水のイオン積Kwを学びます。
さらに、広い[H+]の範囲を扱いやすくする対数スケール=pHの仕組みと、 色で酸塩基を判定する指示薬の使い方を身につけましょう。

1水の電離と水のイオン積

純水のわずかな電離

純粋な水(H2O)は電解質ではありませんが、ごくわずかな量が次のように電離しています。

H2O  ⇄  H+ + OH

この電離は非常に小さく、25℃の純水では水分子が約5.6億個(5.6×108個)に1個の割合でしか電離していません。それでも、水素イオン H+水酸化物イオン OHが必ず存在しているという事実は重要です。

純水では電離によって生じるH+とOHの数が等しいため、25℃において次の値になります。

[H+] = [OH] = 1.0 × 10−7 mol/L (25℃)

水のイオン積 Kw

酸や塩基を水に溶かしても、温度が一定であれば[H+]と[OH]の積は常に一定の値を保ちます。この積を水のイオン積といい、記号Kwで表します。

Kw = [H+][OH] = 1.0 × 10−14 (mol/L)2 (25℃)

この関係は、純水だけでなくあらゆる水溶液で成り立ちます。したがって、[H+]がわかれば[OH]が求まり、逆も同様です。

例:[OH] からの [H+] の計算

[OH] = 1.0 × 10−3 mol/L の水溶液では、

K_w = [H⁺][OH⁻] より、[H⁺] = K_w / [OH⁻] = 1.0×10⁻¹⁴ / 1.0×10⁻³ = 1.0×10⁻¹¹ mol/L

酸性・中性・塩基性の判定

25℃における水溶液の性質は[H+]の大小で次のように判定できます。

  • 酸性:[H+] > 1.0 × 10−7 mol/L > [OH]
  • 中性:[H+] = 1.0 × 10−7 mol/L = [OH]
  • 塩基性:[H+] < 1.0 × 10−7 mol/L < [OH]
本質:Kw は「シーソー」の支点

[H+]と[OH]は積が一定(Kw)に保たれるため、一方が大きくなれば他方は小さくなる関係にあります。酸を加えると[H+]が増え、その分[OH]は減少します。塩基を加えると逆です。どちらの場合でも積は常に1.0×10−14(25℃)に保たれます。

2水素イオン濃度とpH

pHの定義

水溶液中の[H+]は、極めて酸性の強い溶液では約1 mol/Lから、極めて塩基性の強い溶液では約10−14 mol/Lまで、14桁以上の幅にわたって変化します。この広大な範囲を扱いやすくするために考案された指標がpH(水素イオン指数)です。

pH = −log10[H+]

すなわち、[H+] = 10n mol/L のとき、pH = n

25℃の純水では[H+] = 1.0 × 10−7 mol/L なので、pH = 7です。

pHに対数を使うのはなぜか
[H+]の変化範囲は 10−1〜10−14 mol/L と14桁以上の広さ
そのまま数値で表すと小数が続いて直感的に比較しにくい
常用対数(log10)を取ると、10倍の違いが「1」の違いになる
pH 0〜14 という扱いやすい整数スケールに圧縮できる

pH と酸性・塩基性の関係(25℃)

酸性(pH < 7)
7
塩基性(pH > 7)
0(強酸) 3(食酢・酢酸) 7(純水・中性) 10(石けん水) 14(強塩基)
  • 酸性が強いほど pH は小さい(0に近い)
  • pH = 7:中性(25℃の純水)
  • 塩基性が強いほど pH は大きい(14に近い)
注意:酸の水溶液をいくら薄めても pH は 7 を超えない

強酸の水溶液を水で100倍に薄めると[H+]は1/100になりpHは2上昇しますが、これを繰り返してもpH > 7にはなりません。極めて希薄になると水自身の電離から生じるH+が無視できなくなるため、中性(pH = 7)に近づくだけです。

pH の計算例

例1:強酸の pH(0.010 mol/L 塩酸、電離度 1.0)

HCl は 1 価の強酸で完全に電離するので、

[H⁺] = 0.010 × 1.0 = 1.0 × 10⁻² mol/L

よって、pH = 2

例2:弱酸の pH(0.10 mol/L 酢酸、電離度 0.013)

CH3COOH は 1 価の弱酸なので、

[H⁺] = 0.10 × 0.013 = 1.3 × 10⁻³ mol/L

log101.3 ≒ 0.11 とすると、pH = −log10(1.3×10−3) = 3 − 0.11 ≒ 2.9

例3:強塩基の pH(0.010 mol/L 水酸化ナトリウム水溶液、電離度 1.0)

NaOH は 1 価の強塩基なので、

[OH⁻] = 0.010 × 1.0 = 1.0 × 10⁻² mol/L

Kw = [H+][OH] = 1.0 × 10−14 より、

[H⁺] = 1.0×10⁻¹⁴ / 1.0×10⁻² = 1.0×10⁻¹² mol/L

よって、pH = 12

発展:対数を使った精密な pH 計算発展

[H+] が 1.0×10n のきれいな形でない場合、常用対数を使って計算します。

例:[H+] = 2.0 × 10−3 mol/L のとき(log102 = 0.30)

pH = −log10(2.0 × 10−3) = −(log102.0 + log1010−3) = −(0.30 − 3) = 2.70

よく使う対数値:log102 = 0.30、log103 = 0.48、log105 = 0.70

3指示薬とpH

水溶液のpHに応じて色が変わる物質を指示薬(pH指示薬)といいます。指示薬の色が変わるpHの範囲を変色域といい、指示薬の種類によって異なります。

主な指示薬の変色域

指示薬 変色域(pH) 酸性側の色 変色域中間 塩基性側の色
リトマス紙 〜7付近〜
メチルオレンジ(MO) pH 3.1〜4.4 赤(橙)
BTB(ブロモチモールブルー) pH 6.0〜7.6
フェノールフタレイン(PP) pH 8.0〜9.8 無色 淡赤 赤(紅)

各指示薬の特徴と使い分け

リトマス紙

最も広く知られた指示薬です。青色リトマス紙は酸性で赤変し、赤色リトマス紙は塩基性で青変します。変色域が広く、精密なpH測定には向きませんが、酸性か塩基性かの簡易判定に使われます。

メチルオレンジ(MO)

変色域がpH 3.1〜4.4と酸性側にあるため、強酸と弱塩基の中和滴定の終点検出に用います(中和点が酸性側になるため)。酸性で赤橙色、塩基性で黄色を示します。

BTB(ブロモチモールブルー)

変色域がpH 6.0〜7.6で中性付近に位置します。中性で緑色を示すため、水溶液が酸性・中性・塩基性のいずれかを視覚的に判断しやすく、理科実験でよく使われます。

フェノールフタレイン(PP)

変色域がpH 8.0〜9.8と塩基性側にあるため、強酸と強塩基の中和滴定弱酸と強塩基の中和滴定の終点検出に適します。酸性・中性では無色、塩基性で赤(紅)色を示します。

注意:指示薬は「万能」ではない

指示薬の色変化は変色域内で起こります。例えばBTBをpH 3の溶液に加えると黄色になりますが、「pH = 3」とはわかりません。正確なpH値を求めるにはpH計(pHメーター)を使用します。

発展:指示薬が色を変える理由発展

フェノールフタレインのような指示薬は、それ自体が弱酸または弱塩基として電離します。電離した形(イオン形)と電離していない形(分子形)では分子の共役二重結合の広がり方が異なるため、吸収する光の波長が変わり、異なる色として見えます。変色域では両方の形が共存した状態にあります。

4この章を俯瞰する

「水の電離とpH」は、酸塩基の章全体を数値で統一する軸です。以下のつながりを意識してください。

  • 前記事「5-2 酸・塩基の強弱と電離度」との接続 電離度 α と濃度 c がわかれば [H+] = cα が求まり、そこから pH が計算できます。強酸は α = 1 として直接計算できます。
  • 次記事「5-4 中和反応と塩の生成」への接続 中和反応では酸と塩基が等物質量反応しますが、生成する塩の水溶液のpHは必ずしも7にはなりません。KwとpHの概念がここで再度使われます。
  • 中和滴定(5-5)への接続 中和点の前後でpHが急変します。どの指示薬を使うかは、中和点でのpHと各指示薬の変色域が一致するかどうかで決まります。
  • 実生活との接続 土壌pH(農作物の最適pH = 6付近)、酸性雨(pH < 5.6)、血液pH(約7.4)、胃液pH(約1〜2)など、pHは身近なあらゆる場面で使われる指標です。

5まとめ

  • 純水はわずかに電離し、H+ と OH が生じる:H2O ⇄ H+ + OH
  • 水のイオン積:Kw = [H+][OH] = 1.0 × 10−14 (mol/L)2 (25℃)
  • [H+] がわかれば Kw から [OH] が求まり、逆も同様
  • pH = −log10[H+]。[H+] = 10n mol/L のとき pH = n
  • 25℃で:酸性 pH < 7、中性 pH = 7、塩基性 pH > 7
  • 強酸・強塩基の pH:[H+] または [OH] を求め、Kw を利用して計算する
  • 指示薬の変色域:MO(3.1〜4.4)、BTB(6.0〜7.6)、PP(8.0〜9.8)
  • 正確なpH測定にはpH計(pHメーター)を使用する

6確認テスト

Q1. 25℃における水のイオン積 Kw を式で表し、その値を答えてください。

▶ クリックして解答を表示Kw = [H+][OH] = 1.0 × 10−14 (mol/L)2。この値は、純水だけでなく酸性・塩基性のあらゆる水溶液で(25℃であれば)一定に保たれます。

Q2. 0.010 mol/L の塩酸(電離度 1.0)のpHを求めてください。

▶ クリックして解答を表示HCl は完全に電離するので [H+] = 0.010 × 1.0 = 1.0 × 10−2 mol/L。よって pH = 2。

Q3. フェノールフタレインを加えると無色になる水溶液はどのような性質ですか。また BTB を加えると青色になる場合は?

▶ クリックして解答を表示フェノールフタレインが無色:pH < 8.0 の範囲、すなわち酸性または弱酸性〜中性の水溶液。BTBが青色:pH > 7.6 の範囲、すなわち塩基性の水溶液。

Q4. [OH] = 1.0 × 10−3 mol/L の水溶液のpH を求めてください(25℃)。

▶ クリックして解答を表示Kw = [H+][OH] より、[H+] = 1.0 × 10−14 / 1.0 × 10−3 = 1.0 × 10−11 mol/L。よって pH = 11。

7入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

5-3-1 A 基礎 選択

pH に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ(25℃)。

  • ① pH = 3 の溶液は pH = 5 の溶液より [H+] が 100 倍大きい。
  • ② 酸性の水溶液では OH は存在しない。
  • ③ 強酸の水溶液をどれだけ薄めても pH は 7 を超えない。
  • ④ BTB 溶液を加えて緑色になった水溶液は中性である。
  • ⑤ 0.10 mol/L の塩酸(電離度 1.0)の pH は 1 である。
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解答

①③⑤

解説

① 正しい。pH が 2 異なると [H+] は 102 = 100 倍異なります。

② 誤り。Kw = [H+][OH] が常に成立するため、酸性溶液でも OH は必ず存在します(ただし濃度は非常に小さい)。

③ 正しい。酸の水溶液をどれだけ希釈しても、中性(pH = 7)に近づくだけで pH > 7 にはなりません。水の電離による H+ の寄与が生じるためです。

④ 誤り。BTB の変色域は pH 6.0〜7.6 であり、変色域内で緑色を示します。「緑色」は変色域の中間を示すに過ぎず、厳密に pH = 7(中性)とは限りません。

⑤ 正しい。HCl 0.10 mol/L(電離度 1.0)では [H+] = 1.0 × 10−1 mol/L なので pH = 1 です。

B 標準レベル

5-3-2 B 標準 計算

25℃において、以下の各水溶液の pH を求めよ。水のイオン積は Kw = 1.0 × 10−14 (mol/L)2 とする。

(1) 0.0050 mol/L の水酸化カルシウム水溶液(完全電離)

(2) 0.020 mol/L の塩酸(電離度 1.0)。ただし log102 = 0.30 とし、pH を小数第1位まで求めよ。

(3) ある水溶液に BTB を加えると黄色になり、フェノールフタレインを加えると無色になった。この水溶液の pH の範囲を答えよ。

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解答

(1) pH = 12

(2) pH = 1.7

(3) pH < 6.0

解説

(1) Ca(OH)2 は 2 価の強塩基で完全電離するため、
[OH] = 0.0050 × 2 = 1.0 × 10−2 mol/L
Kw より [H+] = 1.0 × 10−14 / 1.0 × 10−2 = 1.0 × 10−12 mol/L
よって pH = 12。

(2) HCl は完全電離するので [H+] = 0.020 × 1.0 = 2.0 × 10−2 mol/L
pH = −log10(2.0 × 10−2) = −(log102 + log1010−2) = −(0.30 − 2) = 1.7

(3) BTB が黄色 → pH < 6.0。フェノールフタレインが無色 → pH < 8.0。両方同時に満たすのは pH < 6.0(酸性、BTBの変色域より酸性側)。

採点ポイント
  • (1) [OH]に×2を正しく適用(1点)、Kwからの[H+]計算(1点)、pH = 12(1点)
  • (2) log10の展開が正しい(1点)、pH = 1.7(1点)
  • (3) BTBの変色域を正しく使い pH < 6.0 と導く(2点)

C 発展レベル

5-3-3 C 発展 論述・計算

25℃における水のイオン積を Kw = 1.0 × 10−14 (mol/L)2、log102 = 0.30 とする。

(1) pH = 2 の塩酸を水で 10 倍に希釈したときの pH を求めよ。

(2) 0.050 mol/L の水酸化バリウム水溶液(完全電離、Ba(OH)2 は 2 価)の pH を求めよ。

(3) 強酸の水溶液をいくら水で薄めても pH が 7 を超えない理由を、水のイオン積を用いて50字以内で説明せよ。

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解答

(1) pH = 3

(2) pH = 13

(3) 水を加えても[H+]はKwから生じる水の電離分(10−7 mol/L)以下にはならず、[H+]が[OH]を下回ることがないため。

解説

(1) pH = 2 の塩酸の [H+] = 1.0 × 10−2 mol/L。10 倍希釈すると [H+] = 1.0 × 10−3 mol/L となり、pH = 3。

(2) Ba(OH)2 → Ba2+ + 2OH と完全電離するので、
[OH] = 0.050 × 2 = 0.10 mol/L = 1.0 × 10−1 mol/L
[H+] = 1.0 × 10−14 / 1.0 × 10−1 = 1.0 × 10−13 mol/L
よって pH = 13。

(3) 酸の水溶液を水で薄めると [H+] は小さくなりますが、Kw = [H+][OH] が常に成立する制約の下では、[H+] が 1.0 × 10−7 mol/L(純水の値)より小さくなると [OH] > [H+] となり塩基性になってしまいます。しかし酸を加えた系では常に [H+] ≥ 1.0 × 10−7 mol/L が保たれるため、pH は 7 に漸近するだけで 7 を超えることはありません。

採点ポイント(計12点)
  • (1) 10倍希釈で[H+]が1/10になりpH+1と正しく計算(3点)
  • (2) [OH]に×2を適用(2点)、KwからpH = 13(3点)
  • (3) Kwの制約への言及(2点)、pH > 7 にならない理由の論理的説明(2点)