酸素や水素が関わらない反応でも「酸化」「還元」は起きています。
それを判定するのが酸化数という数値です。電子のやりとりを原子レベルで数値化し、
酸化剤・還元剤の半反応式を組み合わせて、酸化還元反応式を正確に組み立てる方法を学びます。
水 H2O や二酸化炭素 CO2 のような共有結合分子が関わる反応では、電子のやりとりが一見わかりにくくなります。そこで、物質中の各原子が「どのくらい電子を失った(または受け取った)状態か」を数値で表すのが酸化数です。
酸化数は、共有電子対の電子を電気陰性度の大きい原子に完全に移動したと仮定して割り当てた後、その原子が持つ電子数と単体のときの電子数の差として決まります。
K は +1、O は −2 なので:
(+1) + (Mn の酸化数) + (−2)×4 = 0
Mn の酸化数 = +7
同様に、MnO4− の場合:
(Mn の酸化数) + (−2)×4 = −1
Mn の酸化数 = +7
H の酸化数は「化合物中では +1」が基本ですが、NaH(水素化ナトリウム)や CaH2(水素化カルシウム)などの金属水素化物では H は水素化物イオン H− となっており、酸化数は −1 です。
O の酸化数は「化合物中では −2」が基本ですが、H2O2(過酸化水素)や Na2O2(過酸化ナトリウム)などの過酸化物では −1 です。このルールを混同しないよう注意してください。
酸化数の変化と酸化・還元の関係は次のようにまとめられます。
酸化数が増加 した原子(またはそれを含む物質)→ 酸化された
酸化数が減少 した原子(またはそれを含む物質)→ 還元された
また、酸化還元反応では 酸化数の増加量の総和 = 酸化数の減少量の総和 が必ず成り立ちます(電子の授受の数が一致するため)。
この反応(酸化マンガン(IV)と濃塩酸から塩素を発生させる実験室的製法)で、各原子の酸化数を確認します。
| 原子 | 反応前の酸化数 | 反応後の酸化数 | 変化 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| Mn(MnO2 中) | +4 | +2(MnCl2 中) | −2 減少 | 還元された |
| Cl(HCl 中) | −1 | 0(Cl2 中) | +1 増加 | 酸化された |
| H(HCl, H2O 中) | +1 | +1 | 変化なし | 変化なし |
| O(MnO2, H2O 中) | −2 | −2 | 変化なし | 変化なし |
この反応では MnO2 が酸化剤として HCl を酸化し、HCl(の Cl)が還元剤として MnO2 を還元しています。Mn の酸化数が +4 → +2 に減少(2減少)、Cl の酸化数が −1 → 0 に増加(1増加 × 2個分 = 2増加)となり、増加量と減少量の総和が一致していることが確認できます。
酸化剤とは、相手の物質を酸化する(電子を奪う)物質のことです。酸化剤自身は電子を受け取り、還元されます(酸化数が減少します)。
還元剤とは、相手の物質を還元する(電子を与える)物質のことです。還元剤自身は電子を失い、酸化されます(酸化数が増加します)。
「酸化剤」は相手を酸化するが、自分自身は還元される。「還元剤」は相手を還元するが、自分自身は酸化される。名前と自分自身の変化の方向が逆なので注意が必要です。
半反応式とは、酸化剤または還元剤単独の変化を電子 e− を用いて表した反応式です。酸化剤の半反応式では左辺に e−、還元剤の半反応式では右辺に e− があります。
| 物質 | 半反応式 | 酸化数の変化 |
|---|---|---|
| ■ 主な酸化剤 | ||
| 過マンガン酸カリウム KMnO4 (酸性溶液中) |
MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O | Mn: +7 → +2 |
| 過マンガン酸カリウム KMnO4 (中性・塩基性溶液中) |
MnO4− + 2H2O + 3e− → MnO2 + 4OH− | Mn: +7 → +4 |
| 二クロム酸カリウム K2Cr2O7 (酸性溶液中) |
Cr2O72− + 14H+ + 6e− → 2Cr3+ + 7H2O | Cr: +6 → +3 |
| 酸化マンガン(IV) MnO2 | MnO2 + 4H+ + 2e− → Mn2+ + 2H2O | Mn: +4 → +2 |
| 濃硝酸 HNO3 | HNO3 + H+ + e− → NO2 + H2O | N: +5 → +4 |
| 希硝酸 HNO3 | HNO3 + 3H+ + 3e− → NO + 2H2O | N: +5 → +2 |
| 熱濃硫酸 H2SO4 | H2SO4 + 2H+ + 2e− → SO2 + 2H2O | S: +6 → +4 |
| ハロゲン単体(例 Cl2) | Cl2 + 2e− → 2Cl− | Cl: 0 → −1 |
| 過酸化水素 H2O2(酸化剤として) | H2O2 + 2H+ + 2e− → 2H2O | O: −1 → −2 |
| ■ 主な還元剤 | ||
| 硫化水素 H2S | H2S → S + 2H+ + 2e− | S: −2 → 0 |
| シュウ酸 (COOH)2 | (COOH)2 → 2CO2 + 2H+ + 2e− | C: +3 → +4 |
| ヨウ化カリウム KI(I−) | 2I− → I2 + 2e− | I: −1 → 0 |
| 塩化スズ(II) SnCl2(Sn2+) | Sn2+ → Sn4+ + 2e− | Sn: +2 → +4 |
| 硫酸鉄(II) FeSO4(Fe2+) | Fe2+ → Fe3+ + e− | Fe: +2 → +3 |
| 過酸化水素 H2O2(還元剤として) | H2O2 → O2 + 2H+ + 2e− | O: −1 → 0 |
| 二酸化硫黄 SO2(還元剤として) | SO2 + 2H2O → SO42− + 4H+ + 2e− | S: +4 → +6 |
過酸化水素 H2O2 中の O の酸化数は −1 です。O の酸化数は −2 〜 0 の範囲をとれるため、H2O2 は相手によって酸化剤・還元剤の両方としてはたらきます。
酸化剤としてはたらく場合(ふつうの場合):O の酸化数が −1 → −2 に減少して水 H2O を生成
H2O2 + 2H+ + 2e− → 2H2O
還元剤としてはたらく場合(強い酸化剤が相手、例:KMnO4):O の酸化数が −1 → 0 に増加して酸素 O2 を生成
H2O2 → O2 + 2H+ + 2e−
同様に、二酸化硫黄 SO2 もふつうは還元剤ですが、硫化水素 H2S のような強い還元剤が相手のときは酸化剤としてはたらきます。
酸化剤と還元剤の半反応式を組み合わせることで、酸化還元反応の全体の化学反応式を作ることができます。
基本的な考え方は「酸化剤が受け取る電子の数 = 還元剤が失う電子の数」という関係を利用して、電子 e− を消去することです。
硫酸酸性の水溶液中で、過マンガン酸カリウム KMnO4 とシュウ酸 (COOH)2 を反応させたときの化学反応式を作ります。
【手順1】半反応式を書く
酸化剤:MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O … ①
還元剤:(COOH)2 → 2CO2 + 2H+ + 2e− … ②
【手順2】電子の数を揃える
① では 5e− を受け取り、② では 2e− を失います。最小公倍数 10 に揃えるため、① を 2 倍、② を 5 倍にします。
① × 2:2MnO4− + 16H+ + 10e− → 2Mn2+ + 8H2O
② × 5:5(COOH)2 → 10CO2 + 10H+ + 10e−
【手順3】足し合わせて e− を消去(イオン反応式)
2MnO4− + 16H+ + 5(COOH)2 → 2Mn2+ + 8H2O + 10CO2 + 10H+
両辺の H+ を整理(16H+ − 10H+ = 6H+):
2MnO4− + 6H+ + 5(COOH)2 → 2Mn2+ + 8H2O + 10CO2
【手順4】化学反応式にする
反応に関与していないイオン(K+ と SO42−)を補うと:
2KMnO4 + 3H2SO4 + 5(COOH)2 → 2MnSO4 + K2SO4 + 8H2O + 10CO2
半反応式は「変化前後の物質を知っていればつくれる」ものです。以下の手順で組み立てます。
酸化数と酸化還元反応式の知識は、化学の多くの分野と連動しています。以下のつながりを意識して学習すると理解が深まります。
Q1. 次の各原子の酸化数を求めよ。(1) H2SO4 中の S (2) KMnO4 中の Mn (3) H2O2 中の O
Q2. 次の反応で酸化された物質と還元された物質をそれぞれ化学式で答えよ。
2F2 + 2H2O → 4HF + O2
Q3. 過酸化水素はなぜ酸化剤にも還元剤にもなれるのか、酸化数を用いて説明せよ。
Q4. 酸化還元反応式をつくるとき、半反応式をそのまま足すのではなく整数倍して組み合わせる理由を説明せよ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
①③⑤
① 正しい。単体中の原子の酸化数はすべて 0 と定義されています。
② 誤り。H2O2 は過酸化物なので、O の酸化数は −1 です(−2 ではない)。これは頻出の引っかけです。
③ 正しい。酸化剤は相手から電子を受け取ることで相手を酸化します。電子を受け取った酸化剤自身は還元されます(酸化数が減少)。
④ 誤り。酸化数が減少した原子を含む物質は還元された。「酸化された」は酸化数が増加した場合です。
⑤ 正しい。電子は消えないため、酸化剤が受け取る電子数と還元剤が失う電子数は等しく、酸化数の増加量の総和と減少量の総和も等しくなります。
硫酸酸性の水溶液中で、過マンガン酸カリウム KMnO4 とヨウ化カリウム KI を反応させる。以下の問いに答えよ。
(1) 酸化剤(KMnO4)と還元剤(KI)の半反応式をそれぞれ書け。
(2) (1)の半反応式を組み合わせて、イオン反応式を作れ。
(3) この反応において、KMnO4 と KI のどちらが酸化剤か。また、その理由を酸化数の変化を用いて述べよ。
(1) 酸化剤:MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O
還元剤:2I− → I2 + 2e−
(2) 酸化剤の半反応式を 2 倍、還元剤の半反応式を 5 倍して足し合わせると:
2MnO4− + 16H+ + 10I− → 2Mn2+ + 8H2O + 5I2
(3) KMnO4 が酸化剤。MnO4− 中の Mn の酸化数が +7 → +2 に減少しており、Mn を含む物質が還元されている(=相手を酸化した酸化剤)。
半反応式は以下の手順で作ります。まず、変化前後の物質(MnO4− → Mn2+)を書き、Mn の酸化数が 5 減少するので左辺に 5e− を加えます。次に両辺の電荷を合わせるために H+ を、H の数を合わせるために H2O を加えます。
KI(I−)では、I の酸化数が −1 → 0 に増加(酸化された)ため、KI が還元剤です。
電子の数を揃える際、5e− と 2e− の最小公倍数は 10 なので、酸化剤を 2 倍、還元剤を 5 倍します。
次の文を読み、問いに答えよ。
過酸化水素水に硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液を少量ずつ加えると、過マンガン酸イオン(赤紫色)が消費されて無色に変わる。このとき、過酸化水素は(ア)剤としてはたらき、気体(イ)が発生する。一方、過酸化水素にヨウ化カリウム水溶液を加えると、過酸化水素は(ウ)剤としてはたらき、(エ)色の(オ)が生成する。
(1) (ア)〜(オ)に入る語句または物質名を答えよ。
(2) 下線部「過マンガン酸イオンが消費されて無色に変わる」反応について、化学反応式を作れ。
(3) 過酸化水素が(ア)剤と(ウ)剤の両方になれる理由を、酸化数の観点から60字以内で述べよ。
(1) ア:還元 イ:酸素(O2) ウ:酸化 エ:褐色 オ:ヨウ素(I2)
(2) まず半反応式を書く。
酸化剤:MnO4− + 8H+ + 5e− → Mn2+ + 4H2O
還元剤(H2O2):H2O2 → O2 + 2H+ + 2e−
酸化剤を 2 倍、還元剤を 5 倍して足し合わせてイオン反応式を得た後、K+、SO42− を補うと:
2KMnO4 + 3H2SO4 + 5H2O2 → 2MnSO4 + K2SO4 + 8H2O + 5O2
(3) H2O2 中の O の酸化数は −1 であり、酸化数を −2 まで下げる(酸化剤になる)ことも、0 まで上げる(還元剤になる)こともできるため。(54字)
(1) KMnO4 は強い酸化剤なので、H2O2 との反応では H2O2 が還元剤としてはたらきます。O の酸化数が −1 → 0 に増加し、O2 が発生します。一方、KI との反応では KMnO4 よりも弱い酸化剤しかないため、H2O2 が酸化剤としてはたらき、O の酸化数が −1 → −2 に減少して H2O を生成し、I− を I2(褐色)に酸化します。
(2) 電子を揃える際:酸化剤が受け取る e− は 5 個(× 2 倍で 10個)、還元剤が失う e− は 2 個(× 5 倍で 10個)。足し合わせてから K+ と SO42− を補完します。
(3) H2O2 中の O の酸化数 −1 は、O のとりうる最低酸化数(−2)と最高酸化数(0)の中間にあるため、増減いずれの変化も可能です。