物質は固体・液体・気体の3つの状態をとり、温度や圧力を変えると互いに移り変わります。
この変化の根底にあるのは「粒子の熱運動」です。
温度が高いほど粒子の運動が激しくなり、粒子間の引力に打ち勝てるようになる——このシンプルな原理が、融解・蒸発・昇華をすべて説明します。
物質を構成する原子・分子・イオンは、絶えず不規則に運動しています。この運動を熱運動といいます。熱運動は温度が高いほど激しくなり、エネルギーが大きくなります。
熱運動のエネルギーは粒子ごとにばらつきがあり、すべての粒子が同じエネルギーをもつわけではありません。ある温度では速く動く粒子も遅く動く粒子も混在しており、温度が高くなるほど速い粒子の割合が大きくなり、平均の速さが増します。
セルシウス温度 t(℃)のとき、−273 ℃ を原点(絶対零度)として表した温度を絶対温度といい、単位ケルビン(K)を用います。絶対温度 T(K)と摂氏温度 t(℃)の間には次の関係があります。
T(K)の数値 = t(℃)の数値 + 273
絶対零度(0 K = −273 ℃)では、すべての粒子の熱運動が停止します。気体分子の平均的な運動エネルギーは絶対温度 T に比例します。温度を2倍にすれば、粒子の平均運動エネルギーも2倍になるということです。
温度は粒子1個の平均的な運動エネルギーの指標、熱量は粒子の数も含めた全エネルギーです。同じ温度でも、粒子数が多い物体の方が多くの熱量をもちます。「高温の物体」と「大量の熱量をもつ物体」は必ずしも同じではありません。
物質には固体・液体・気体の3つの状態があり、これらを物質の三態といいます。三態は温度や圧力を変えると相互に変化します。この変化を状態変化といいます。
粒子間の引力が大きく、粒子は決まった位置に固定されています。粒子は位置を変えずに振動(熱運動)しているだけです。形と体積が一定で、外力を加えても変形しにくい性質をもちます。
熱運動がやや激しく、粒子は互いに引き合いながらも位置を変えて動き回ることができます。体積はほぼ一定ですが、流動性があるため形は容器に合わせて変わります。
熱運動が非常に激しく、粒子間の引力の影響が無視できるほど小さいため、粒子は空間を自由に飛び回ります。体積と形のいずれも一定ではなく、容器全体に広がります。固体・液体と比べて粒子間距離が著しく大きく、密度は非常に小さくなります。
物質のもつエネルギーは状態によって異なり、気体 > 液体 > 固体の順になっています。
| 性質 | 固体 | 液体 | 気体 |
|---|---|---|---|
| 粒子間距離 | 最も小さい | 小さい | 非常に大きい |
| 粒子の運動 | その場で振動 | 引き合いながら移動 | 自由に飛び回る |
| 運動の自由度 | 最も小さい | 中程度 | 最も大きい |
| 形 | 一定 | 容器に従う | 容器に従う |
| 体積 | 一定 | ほぼ一定 | 容器に従う |
| 密度 | 大きい | 大きい | 非常に小さい |
| エネルギー | 最も小さい | 中程度 | 最も大きい |
固体・液体・気体の違いは、粒子の熱運動エネルギーと粒子間の引力のどちらが勝っているかによって決まります。温度が上がるほど熱運動が強まり、粒子間の引力を振り切れるようになります。固体→液体→気体への変化は「熱運動エネルギーが段階的に粒子間力に打ち勝っていく」過程と捉えられます。
三態間の変化(状態変化)にはそれぞれ名前がついています。
蒸発は液体の表面から気体になる現象で、沸点以下の温度でも常に起こっています。沸騰は液体の内部からも気泡が生じて激しく蒸発する現象で、液体の蒸気圧が外圧(大気圧)と等しくなった温度(沸点)で起こります。「蒸発は表面から、沸騰は全体から」と覚えてください。
純粋な物質(例:水)を一定の速さで加熱したとき、温度と加えた熱量の関係を加熱曲線といいます。1.013×105 Pa のもとで氷を加熱すると次のようになります。
加熱曲線の重要なポイントは、融点(0 ℃)と沸点(100 ℃)の2カ所で温度が一定になることです。
固体を液体にするのに必要な熱量を融解熱、液体を気体にするのに必要な熱量を蒸発熱といいます。これらの熱は潜熱とも呼ばれ、1.013×105 Pa における物質 1 mol あたりの熱量 [kJ/mol] で表されます。
| 状態変化 | 名称 | 水の値 | 熱の出入り |
|---|---|---|---|
| 固体 → 液体 | 融解熱 | 6.0 kJ/mol(0 ℃) | 吸熱 |
| 液体 → 固体 | 凝固熱 | 6.0 kJ/mol(0 ℃) | 発熱 |
| 液体 → 気体 | 蒸発熱 | 41 kJ/mol(100 ℃) | 吸熱 |
| 気体 → 液体 | 凝縮熱 | 41 kJ/mol(100 ℃) | 発熱 |
凝固熱は融解熱と同じ大きさ(符号が逆)、凝縮熱は蒸発熱と同じ大きさ(符号が逆)です。一般に、蒸発熱は融解熱よりも大きくなります。これは、液体→気体の変化では粒子間の引力を完全に断ち切る必要があり、固体→液体の変化(粒子の配列が乱れるだけ)よりもはるかに大きなエネルギーが必要だからです。
同様に、沸点においては加えた熱が「分子間の引力を断ち切る」ために使われ続けるため、液体がすべて気体になるまで温度は 100 ℃ に保たれます。
状態変化は物理変化であり、物質の化学的な性質は変化しません。水が氷になっても水蒸気になっても、いずれも H2O のままです。化学変化(化学反応)とは区別してください。
粒子の熱運動と三態の知識は、化学の多くの分野の出発点となっています。
Q1. 絶対温度 300 K は何 ℃ か。また、27 ℃ は何 K か。
Q2. 物質の三態を「粒子の運動」の観点から説明せよ。
Q3. 純粋な物質の加熱曲線で、温度が一定になる区間が2カ所存在する。それぞれどの変化に対応するか、またなぜ温度が一定になるかを説明せよ。
Q4. 0 ℃ の氷 18 g を 100 ℃ の水蒸気にするのに必要な熱量は何 kJ か。ただし、氷の融解熱を 6.0 kJ/mol、水の蒸発熱を 41 kJ/mol、水の比熱を 4.2 J/(g·℃) とする。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
物質の状態変化に関する次の記述のうち、誤りを含むものをすべて選べ。
②
① 正しい。純粋な物質の融点は圧力が一定なら一定値を示します。② 誤り。液体の蒸発は沸点より低い温度でも液体表面から常に起こっています。沸点で起こるのは液体内部からも蒸発が起こる「沸騰」です。③ 正しい。凝固熱は融解熱と等しい大きさ(向きが逆)です。④ 正しい。蒸発では粒子間の引力を完全に断ち切る必要があり、固体→液体の融解より大きなエネルギーが必要です。⑤ 正しい。ドライアイスは 1.013×105 Pa のもとで昇華(固体→気体)します。
0 ℃ の氷 180 g を加熱し、50 ℃ の水にするのに必要な熱量は何 kJ か。また、加熱曲線上で温度が一定になる区間ではどのような変化が起きているかを説明せよ。
氷の融解熱:6.0 kJ/mol、水の比熱:4.2 J/(g·℃)、水のモル質量:18 g/mol
必要な熱量:97.8 kJ ≈ 98 kJ
氷 180 g は 180/18 = 10 mol。
① 氷の融解(0 ℃):6.0 kJ/mol × 10 mol = 60 kJ
② 水の加熱(0→50 ℃):180 g × 4.2 J/(g·℃) × 50 ℃ = 37800 J = 37.8 kJ
合計:60 + 37.8 = 97.8 kJ
加熱曲線で温度が一定になる区間(融点 0 ℃)では、加えた熱エネルギーが氷を構成する水分子の規則正しい配列を崩すこと(融解)のみに使われ、粒子の運動エネルギー増加(温度上昇)には使われないため、温度は 0 ℃ に一定に保たれる。
次の問いに答えよ。
(1) 水の蒸発熱(41 kJ/mol)が融解熱(6.0 kJ/mol)よりも大きい理由を、粒子の状態変化の観点から説明せよ。
(2) 同じ分子量の物質を比べると、一般に無極性分子よりも極性分子の方が沸点が高い。その理由を分子間力の観点から 60 字以内で説明せよ。
(1) 融解では粒子の規則正しい配列が乱れるだけで粒子間の引力はまだ残っているが、蒸発では粒子間の引力を完全に断ち切る必要があるため、蒸発熱の方が大きくなる。
(2) 極性分子間にはファンデルワールス力に加えて、分子の極性による静電気的な引力もはたらくため、分子どうしがより強く引き合い、気体になるのにより多くのエネルギーを必要とするから。(60字)
(1) 固体→液体(融解)では粒子が規則正しい格子配列から解放されるだけで、粒子間の引力はまだ存在しています。液体→気体(蒸発)では粒子間の引力を完全に断ち切って粒子が独立して飛び回れる状態にしなければならないため、はるかに大きなエネルギーが必要です。
(2) 無極性分子間にはたらく力はファンデルワールス力(分散力)のみです。極性分子間にはこれに加えて、分子の極性(δ+とδ−)による静電気的引力がはたらきます。分子間力が強いほど気体になりにくいため、沸点が高くなります。