第7章 物質の三態と状態変化

粒子の熱運動と三態

物質は固体・液体・気体の3つの状態をとり、温度や圧力を変えると互いに移り変わります。
この変化の根底にあるのは「粒子の熱運動」です。
温度が高いほど粒子の運動が激しくなり、粒子間の引力に打ち勝てるようになる——このシンプルな原理が、融解・蒸発・昇華をすべて説明します。

1粒子の熱運動

物質を構成する原子・分子・イオンは、絶えず不規則に運動しています。この運動を熱運動といいます。熱運動は温度が高いほど激しくなり、エネルギーが大きくなります。

熱運動のエネルギーは粒子ごとにばらつきがあり、すべての粒子が同じエネルギーをもつわけではありません。ある温度では速く動く粒子も遅く動く粒子も混在しており、温度が高くなるほど速い粒子の割合が大きくなり、平均の速さが増します。

絶対温度と熱運動エネルギー

セルシウス温度 t(℃)のとき、−273 ℃ を原点(絶対零度)として表した温度を絶対温度といい、単位ケルビン(K)を用います。絶対温度 T(K)と摂氏温度 t(℃)の間には次の関係があります。

T(K)の数値 = t(℃)の数値 + 273

絶対零度(0 K = −273 ℃)では、すべての粒子の熱運動が停止します。気体分子の平均的な運動エネルギーは絶対温度 T に比例します。温度を2倍にすれば、粒子の平均運動エネルギーも2倍になるということです。

落とし穴:「温度」と「熱量」は違う

温度は粒子1個の平均的な運動エネルギーの指標、熱量は粒子の数も含めた全エネルギーです。同じ温度でも、粒子数が多い物体の方が多くの熱量をもちます。「高温の物体」と「大量の熱量をもつ物体」は必ずしも同じではありません。

2物質の三態

物質には固体液体気体の3つの状態があり、これらを物質の三態といいます。三態は温度や圧力を変えると相互に変化します。この変化を状態変化といいます。

各状態の粒子運動の特徴

固体(solid)

粒子間の引力が大きく、粒子は決まった位置に固定されています。粒子は位置を変えずに振動(熱運動)しているだけです。形と体積が一定で、外力を加えても変形しにくい性質をもちます。

液体(liquid)

熱運動がやや激しく、粒子は互いに引き合いながらも位置を変えて動き回ることができます。体積はほぼ一定ですが、流動性があるため形は容器に合わせて変わります。

気体(gas)

熱運動が非常に激しく、粒子間の引力の影響が無視できるほど小さいため、粒子は空間を自由に飛び回ります。体積と形のいずれも一定ではなく、容器全体に広がります。固体・液体と比べて粒子間距離が著しく大きく、密度は非常に小さくなります。

物質のもつエネルギーは状態によって異なり、気体 > 液体 > 固体の順になっています。

三態の比較

性質 固体 液体 気体
粒子間距離 最も小さい 小さい 非常に大きい
粒子の運動 その場で振動 引き合いながら移動 自由に飛び回る
運動の自由度 最も小さい 中程度 最も大きい
一定 容器に従う 容器に従う
体積 一定 ほぼ一定 容器に従う
密度 大きい 大きい 非常に小さい
エネルギー 最も小さい 中程度 最も大きい
本質:三態の違いは「熱運動 vs. 粒子間力」のバランス

固体・液体・気体の違いは、粒子の熱運動エネルギーと粒子間の引力のどちらが勝っているかによって決まります。温度が上がるほど熱運動が強まり、粒子間の引力を振り切れるようになります。固体→液体→気体への変化は「熱運動エネルギーが段階的に粒子間力に打ち勝っていく」過程と捉えられます。

3状態変化とエネルギー

状態変化の種類と名称

三態間の変化(状態変化)にはそれぞれ名前がついています。

固体
融解(加熱)
液体
蒸発・沸騰(加熱)
気体
気体
凝縮(冷却)
液体
凝固(冷却)
固体
固体
昇華
気体
  • 融解:固体が液体になる変化(融解が起こる温度を融点という)
  • 凝固:液体が固体になる変化(凝固が起こる温度を凝固点という)
  • 蒸発:液体が気体になる変化(液体表面から常に起こる)
  • 沸騰:液体内部からも蒸発が起こる現象(蒸気圧が外圧に等しくなったとき)
  • 凝縮:気体が液体になる変化
  • 昇華:固体が直接気体になる変化、またはその逆(気体→固体)
蒸発と沸騰の違い

蒸発は液体の表面から気体になる現象で、沸点以下の温度でも常に起こっています。沸騰は液体の内部からも気泡が生じて激しく蒸発する現象で、液体の蒸気圧が外圧(大気圧)と等しくなった温度(沸点)で起こります。「蒸発は表面から、沸騰は全体から」と覚えてください。

加熱曲線と冷却曲線

純粋な物質(例:水)を一定の速さで加熱したとき、温度と加えた熱量の関係を加熱曲線といいます。1.013×105 Pa のもとで氷を加熱すると次のようになります。

加熱曲線の重要なポイントは、融点(0 ℃)と沸点(100 ℃)の2カ所で温度が一定になることです。

融解熱・蒸発熱(潜熱)

固体を液体にするのに必要な熱量を融解熱、液体を気体にするのに必要な熱量を蒸発熱といいます。これらの熱は潜熱とも呼ばれ、1.013×105 Pa における物質 1 mol あたりの熱量 [kJ/mol] で表されます。

状態変化名称水の値熱の出入り
固体 → 液体融解熱6.0 kJ/mol(0 ℃)吸熱
液体 → 固体凝固熱6.0 kJ/mol(0 ℃)発熱
液体 → 気体蒸発熱41 kJ/mol(100 ℃)吸熱
気体 → 液体凝縮熱41 kJ/mol(100 ℃)発熱

凝固熱は融解熱と同じ大きさ(符号が逆)、凝縮熱は蒸発熱と同じ大きさ(符号が逆)です。一般に、蒸発熱は融解熱よりも大きくなります。これは、液体→気体の変化では粒子間の引力を完全に断ち切る必要があり、固体→液体の変化(粒子の配列が乱れるだけ)よりもはるかに大きなエネルギーが必要だからです。

状態変化中に温度が変わらないのはなぜか
固体を加熱しても、融点に達すると温度が上がらなくなる
加えられた熱エネルギーは粒子の規則正しい配列を崩すことだけに使われる
粒子の運動エネルギー(温度)の上昇には使われない
固体が完全に液体になるまで、温度は一定(融点)に保たれる

同様に、沸点においては加えた熱が「分子間の引力を断ち切る」ために使われ続けるため、液体がすべて気体になるまで温度は 100 ℃ に保たれます。

状態変化と化学変化の違い

状態変化は物理変化であり、物質の化学的な性質は変化しません。水が氷になっても水蒸気になっても、いずれも H2O のままです。化学変化(化学反応)とは区別してください。

4この章を俯瞰する

粒子の熱運動と三態の知識は、化学の多くの分野の出発点となっています。

  • 気体の法則(7-2 以降):気体の体積・圧力・温度の関係(ボイル・シャルルの法則、気体の状態方程式)は、気体分子の熱運動モデルから自然に導かれます。絶対温度Tと分子の運動エネルギーの比例関係がその根底にあります。
  • 化学平衡(第10章):気液平衡(蒸気圧)は、蒸発速度と凝縮速度が等しくなる状態です。化学反応の平衡と全く同じ考え方で理解できます。
  • 溶液の性質(第8章):凝固点降下・沸点上昇は、溶質が存在することで固液・液気の平衡温度がずれる現象です。溶液中での粒子の熱運動が鍵になります。
  • 熱化学(第9章):融解熱・蒸発熱は融解エンタルピー・蒸発エンタルピーとして扱われます。ヘスの法則を用いると、固体→気体(昇華)のエンタルピーは融解熱+蒸発熱で計算できます。
  • 分子間力(7-1 この記事):融点・沸点の高低は分子間力(ファンデルワールス力、水素結合)の強弱に直結します。ハロゲン単体の沸点が分子量に比例して上昇するのはこの典型例です。

5まとめ

  • 熱運動:物質の粒子は絶えず不規則に運動しており、温度が高いほど激しい
  • 絶対温度 T(K)= セルシウス温度 t(℃)+ 273。粒子の平均運動エネルギーは T に比例する
  • 三態の違いは「熱運動エネルギー vs. 粒子間の引力」のバランスで決まる
  • 固体は振動のみ・一定の形と体積。液体は移動可能・一定の体積。気体は自由運動・形も体積も容器に従う
  • 状態変化の名称:融解(固→液)・凝固(液→固)・蒸発/沸騰(液→気)・凝縮(気→液)・昇華(固⇄気)
  • 融点・沸点では、加えた熱が潜熱(状態変化)に使われるため温度が一定になる
  • 融解熱(水:6.0 kJ/mol)・蒸発熱(水:41 kJ/mol)は吸熱。逆変化では同じ大きさの熱を放出する
  • 蒸発熱 > 融解熱:気体化では粒子間引力を完全に断ち切るためより多くのエネルギーが必要

6確認テスト

理解度チェック

Q1. 絶対温度 300 K は何 ℃ か。また、27 ℃ は何 K か。

▶ クリックして解答を表示 300 K → 300 − 273 = 27 ℃。 27 ℃ → 27 + 273 = 300 K。

Q2. 物質の三態を「粒子の運動」の観点から説明せよ。

▶ クリックして解答を表示 固体:粒子は位置を変えずにその場で振動している。液体:粒子は互いに引き合いながら位置を変えて移動できる。気体:粒子間の引力の影響がほぼなく、粒子は空間を自由に飛び回っている。

Q3. 純粋な物質の加熱曲線で、温度が一定になる区間が2カ所存在する。それぞれどの変化に対応するか、またなぜ温度が一定になるかを説明せよ。

▶ クリックして解答を表示 融点(固体→液体の融解)と沸点(液体→気体の沸騰)の2カ所。加えた熱が状態変化(粒子の配列を崩す・粒子間の引力を断ち切る)のために使われ、粒子の運動エネルギー(温度)の上昇には使われないため、温度は一定に保たれる。

Q4. 0 ℃ の氷 18 g を 100 ℃ の水蒸気にするのに必要な熱量は何 kJ か。ただし、氷の融解熱を 6.0 kJ/mol、水の蒸発熱を 41 kJ/mol、水の比熱を 4.2 J/(g·℃) とする。

▶ クリックして解答を表示 水のモル質量は 18 g/mol なので、氷 18 g = 1.0 mol。
① 氷の融解(0 ℃):6.0 kJ/mol × 1.0 mol = 6.0 kJ
② 水の加熱(0→100 ℃):18 g × 4.2 J/(g·℃) × 100 ℃ = 7560 J = 7.56 kJ
③ 水の蒸発(100 ℃):41 kJ/mol × 1.0 mol = 41 kJ
合計:6.0 + 7.56 + 41 = 54.56 ≈ 55 kJ

7入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

7-1-1 A 基礎 選択

物質の状態変化に関する次の記述のうち、誤りを含むものをすべて選べ。

  • ① 融点とは固体が液体に変化する温度であり、純粋な物質では圧力が一定なら一定値を示す。
  • ② 液体の蒸発は沸点以上の温度でのみ起こる。
  • ③ 水の融解熱は 6.0 kJ/mol であり、水の凝固熱も同じ大きさである。
  • ④ 蒸発熱は融解熱よりも大きいのが一般的である。
  • ⑤ ドライアイス(固体 CO2)は常圧下では液体を経ずに直接気体になる。
▶ クリックして解答・解説を表示
解答

解説

① 正しい。純粋な物質の融点は圧力が一定なら一定値を示します。② 誤り。液体の蒸発は沸点より低い温度でも液体表面から常に起こっています。沸点で起こるのは液体内部からも蒸発が起こる「沸騰」です。③ 正しい。凝固熱は融解熱と等しい大きさ(向きが逆)です。④ 正しい。蒸発では粒子間の引力を完全に断ち切る必要があり、固体→液体の融解より大きなエネルギーが必要です。⑤ 正しい。ドライアイスは 1.013×105 Pa のもとで昇華(固体→気体)します。

B 標準レベル

7-1-2 B 標準 計算・論述

0 ℃ の氷 180 g を加熱し、50 ℃ の水にするのに必要な熱量は何 kJ か。また、加熱曲線上で温度が一定になる区間ではどのような変化が起きているかを説明せよ。

氷の融解熱:6.0 kJ/mol、水の比熱:4.2 J/(g·℃)、水のモル質量:18 g/mol

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

必要な熱量:97.8 kJ ≈ 98 kJ

解説

氷 180 g は 180/18 = 10 mol。

① 氷の融解(0 ℃):6.0 kJ/mol × 10 mol = 60 kJ

② 水の加熱(0→50 ℃):180 g × 4.2 J/(g·℃) × 50 ℃ = 37800 J = 37.8 kJ

合計:60 + 37.8 = 97.8 kJ

加熱曲線で温度が一定になる区間(融点 0 ℃)では、加えた熱エネルギーが氷を構成する水分子の規則正しい配列を崩すこと(融解)のみに使われ、粒子の運動エネルギー増加(温度上昇)には使われないため、温度は 0 ℃ に一定に保たれる。

採点ポイント
  • 氷の融解熱と水の加熱を分けて計算している
  • 温度一定の理由として「熱が状態変化に使われる」旨を説明している

C 発展レベル

7-1-3 C 発展 論述

次の問いに答えよ。

(1) 水の蒸発熱(41 kJ/mol)が融解熱(6.0 kJ/mol)よりも大きい理由を、粒子の状態変化の観点から説明せよ。

(2) 同じ分子量の物質を比べると、一般に無極性分子よりも極性分子の方が沸点が高い。その理由を分子間力の観点から 60 字以内で説明せよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 融解では粒子の規則正しい配列が乱れるだけで粒子間の引力はまだ残っているが、蒸発では粒子間の引力を完全に断ち切る必要があるため、蒸発熱の方が大きくなる。

(2) 極性分子間にはファンデルワールス力に加えて、分子の極性による静電気的な引力もはたらくため、分子どうしがより強く引き合い、気体になるのにより多くのエネルギーを必要とするから。(60字)

解説

(1) 固体→液体(融解)では粒子が規則正しい格子配列から解放されるだけで、粒子間の引力はまだ存在しています。液体→気体(蒸発)では粒子間の引力を完全に断ち切って粒子が独立して飛び回れる状態にしなければならないため、はるかに大きなエネルギーが必要です。

(2) 無極性分子間にはたらく力はファンデルワールス力(分散力)のみです。極性分子間にはこれに加えて、分子の極性(δ+とδ−)による静電気的引力がはたらきます。分子間力が強いほど気体になりにくいため、沸点が高くなります。

採点ポイント
  • (1)「固体では引力が残っている」「気体では引力を完全に断ち切る」という対比が書けているか
  • (2)「ファンデルワールス力に加えて静電気的引力」という表現が含まれているか