固体・液体・気体のどの状態になるかは、温度だけでなく圧力にも依存します。
状態図(相図)を読めるようになると、「圧力を上げると氷が融ける」「CO₂に圧力をかければ液体になる」といった現象が一目で理解できます。
この記事では、水と二酸化炭素の状態図を比較しながら、三重点・臨界点・超臨界流体の本質を学びます。
物質の状態は温度だけでなく圧力とも関係しています。温度と圧力が定まると、その物質の状態が一意に決まります。状態図(相図)とは、温度(横軸)と圧力(縦軸)を座標軸として、物質がどの状態をとるかを領域で示した図です。
状態図は固体・液体・気体の3つの領域に分かれており、領域と領域の境界線は2つの状態が共存する条件を示しています。
状態図上のある点(温度・圧力の組み合わせ)がどの領域にあるかを見ることで、その物質の状態がわかります。境界線上では2つの状態が共存しており、三重点では3つの状態が同時に共存します。
例えば、水の状態図で「温度20℃・圧力1.013×10⁵ Pa」の点は液体領域にあるため、水は液体です。
三重点とは、状態図上で融解曲線・蒸気圧曲線・昇華圧曲線の3本が交わる唯一の点です。この温度と圧力の組み合わせでのみ、固体・液体・気体の3つの状態が同時に共存します。
| 物質 | 三重点の温度 | 三重点の圧力 |
|---|---|---|
| 水 H₂O | 0.01℃(273.16 K) | 0.006×10⁵ Pa(= 610 Pa) |
| 二酸化炭素 CO₂ | −56.6℃(216.6 K) | 5.2×10⁵ Pa |
三重点の重要な特徴は、温度も圧力も外から変えられない固定値である点です。三重点では、固体・液体・気体の3つが共存する条件が1点に決まっており、温度か圧力のどちらかを少し変えるだけで必ずどれか1つの状態が消えます。そのため三重点の温度は絶対温度の基準点として利用されています(水の三重点 = 273.16 K)。
水の融点は「1.013×10⁵ Pa(大気圧)のもとで0℃」ですが、三重点は「0.006×10⁵ Pa のもとで0.01℃」です。三重点は特定の圧力のもとでの固有の温度であり、大気圧下の融点とは厳密には異なります(ただし入試では両者を区別しないことも多い)。
蒸気圧曲線(液体と気体の境界線)をたどって温度と圧力を上げていくと、ある点で蒸気圧曲線が終わります。この終点を臨界点といいます。
臨界点に対応する温度を臨界温度、圧力を臨界圧力といいます。臨界温度を超えると、どれだけ圧力を上げても液体にはなれず、気体と液体を区別できない状態になります。
| 物質 | 臨界温度 | 臨界圧力 |
|---|---|---|
| 水 H₂O | 374℃ | 221×10⁵ Pa(約218 atm) |
| 二酸化炭素 CO₂ | 31.1℃ | 73.8×10⁵ Pa(約73 atm) |
臨界点を超えた状態、すなわち温度が臨界温度以上かつ圧力が臨界圧力以上の状態を超臨界状態といい、この状態にある物質を超臨界流体(supercritical fluid)といいます。
超臨界流体は液体と気体の中間的な性質をもちます。
CO₂ の臨界温度は 31.1℃(室温に近い)、臨界圧力は約 73 atm と比較的達成しやすい条件です。そのため、超臨界 CO₂ は工業的に広く利用されています。
臨界点以上では「液体の溶解力」と「気体の拡散性」を併せもつ新しい相が現れます。CO₂ は常温・常圧では気体ですが、31℃以上・73 atm 以上では超臨界流体となり、従来の液体溶媒に代わる「グリーン溶媒」として注目されています。圧力を下げるだけで気体に戻るため、溶媒回収・再利用も容易です。
ほとんどの物質では、融解曲線は右に傾く(圧力が上がると融点が上がる)のに対し、水の融解曲線は左に傾くという特異な性質があります。
これは「圧力を上げると氷の融点が下がる」ことを意味します。つまり、氷に圧力をかけると、より低い温度でも融解して水になります。
根本原因:水素結合によって形成される氷の結晶構造は「かご型」の隙間の多い構造であるため、液体水より密度が小さい。この「固体より液体の方が密度が大きい」という性質が水の特異性の根源です。
「スケートの刃の圧力で氷が融けて滑る」という説明が教科書に登場することがあります。しかし実際には、スケートで生じる圧力(約10⁶ Pa 程度)で下がる融点は 0.007℃ 程度にすぎず、氷上の摩擦熱の効果の方がはるかに大きいと考えられています。水の融解曲線の傾きは概念の理解には重要ですが、スケート滑走の主因は圧力融解ではない点に注意が必要です。
水と CO₂ の状態図を比較することで、三重点・臨界点・融解曲線の意味がより鮮明になります。
| 比較項目 | 水 H₂O | 二酸化炭素 CO₂ |
|---|---|---|
| 三重点の圧力 | 0.006×10⁵ Pa(大気圧以下) | 5.2×10⁵ Pa(大気圧以上) |
| 大気圧下で加熱 | 固体→液体→気体(融解・蒸発) | 固体→気体(昇華) |
| 融解曲線の傾き | 左に傾く(負の傾き) | 右に傾く(正の傾き) |
| 圧力増加と融点 | 融点が下がる | 融点が上がる |
| 臨界温度 | 374℃ | 31.1℃(常温に近い) |
| 超臨界利用 | プラスチック分解など | カフェイン除去・抽出など |
CO₂ の三重点の圧力(5.2×10⁵ Pa)は大気圧(1.013×10⁵ Pa)より高いため、大気圧下ではドライアイスは液体を経ずに直接昇華します。CO₂ を液体にするには、三重点以上の圧力(5.2×10⁵ Pa 以上)が必要です。
状態図の知識は、物理化学・熱力学・材料科学など多くの分野の出発点となります。以下に、本節の内容と他の章・分野のつながりを整理します。
次の記事では、気体の体積・温度・圧力の定量的な関係を記述するボイルの法則・シャルルの法則に進みます。状態図で「気体」領域に注目したとき、その定量的な振る舞いを学ぶのが次章のテーマです。
Q1. 状態図において三重点が特別な意味をもつのはなぜですか。
Q2. 水の融解曲線が「左に傾く」とはどういう意味ですか。また、その原因を答えてください。
Q3. ドライアイスを大気圧下で加熱しても液体の CO₂ が生じないのはなぜですか。
Q4. 超臨界流体が溶媒として優れている理由を2つ挙げてください。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
物質の状態図に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
①③⑤
① 正しい。三重点は融解曲線・蒸気圧曲線・昇華圧曲線の交点であり、3状態が共存する唯一の点です。
② 誤り。水の融解曲線は左に傾く(負の傾き)。圧力を上げると融点が下がる。これが水の特異性です。
③ 正しい。臨界温度以上では蒸気圧曲線が存在しないため、液相と気相の区別がなくなり、圧力をかけても液体にはなりません。
④ 誤り。CO₂ の三重点の圧力(5.2×10⁵ Pa)は大気圧(1.013×10⁵ Pa)より大きい。そのため大気圧下では液体領域を通らず、昇華して気体になります。
⑤ 正しい。蒸気圧曲線は液体の蒸気圧を温度の関数として示したもので、液体と気体が共存する境界線です。
水の状態図に関する以下の問いに答えよ。
(1) 水の融解曲線が左に傾く(圧力が高いほど融点が低くなる)理由を、氷と水の密度の違いに触れながら60字以内で説明せよ。
(2) 水の三重点の温度・圧力を答えよ。
(3) 大気圧(1.013×10⁵ Pa)のもとで−10℃の氷に圧力を加えていくとどのような変化が起きるか、状態図を踏まえて答えよ。
(1) 氷の密度は液体の水より小さく、融解すると体積が減少する。圧力を上げると体積が減る方向(液体になる方向)に平衡が移動するため、融点が下がる。(67字)
(2) 温度:0.01℃、圧力:0.006×10⁵ Pa(610 Pa)
(3) 圧力を加えていくと、融解曲線を横切って固体(氷)から液体(水)へ融解する(圧力融解)。融点より低い−10℃であっても、十分な圧力をかければ氷は融けて水になる。
(1) 水の融解曲線は左(負の傾き)なので、温度一定のまま圧力を上げると、固体領域から融解曲線を越えて液体領域に入ります。これは「圧力上昇が融点を下げる」ことを意味します。ル・シャトリエの原理で考えると、融解(固体→液体)は体積が減る変化なので、圧力が高いほど融解しやすい方向に平衡が移動します。
(2) 水の三重点は教科書頻出の数値です。温度 0.01℃、圧力 610 Pa(≈ 0.006 atm ≈ 0.006×10⁵ Pa)を覚えましょう。
(3) 状態図上で、温度−10℃・圧力1.013×10⁵ Pa の点は固体領域にあります。温度一定のまま圧力を上げていくと(図上で垂直に上移動)、融解曲線を越えた時点で液体になります。これを圧力融解といいます。
超臨界流体に関する以下の問いに答えよ。
(1) CO₂ の臨界温度(31.1℃)と臨界圧力(73.8×10⁵ Pa)を答え、超臨界 CO₂ が工業溶媒として注目される理由を2点以上挙げて説明せよ。
(2) 超臨界 CO₂ を用いたカフェイン除去の工程を、CO₂ の状態変化を含めて具体的に説明せよ。
(3) 多くの物質では融解曲線が右に傾くのに対し、水の融解曲線が左に傾く。この違いが生じる根本原因を、固体と液体の密度の大小と結晶構造の観点から説明せよ。
(1) 臨界温度 31.1℃、臨界圧力 73.8×10⁵ Pa。工業溶媒として注目される理由:① 液体に近い高い溶解力をもちつつ、気体に近い低粘性・高拡散性を示すため、微細構造にも浸透して効率よく抽出できる。② 圧力を下げるだけで気体に戻り溶媒を容易に除去・回収でき、溶媒残留が生じない。③ CO₂ は不燃性・無毒で環境負荷が低く、グリーン溶媒として有利。
(2) コーヒー豆を圧力容器に入れ、31.1℃以上・73.8×10⁵ Pa 以上の条件で CO₂ を超臨界状態にする。超臨界 CO₂ はコーヒー豆に浸透してカフェインを選択的に溶かし出す。カフェインを溶かした超臨界 CO₂ を容器から取り出し圧力を下げると、CO₂ は気体に戻る。カフェインは固体として析出・分離でき、CO₂ は回収して再利用する。
(3) 通常の物質では固体の密度が液体より大きい(固体の方が密に詰まっている)ため、融解すると体積が増加する。圧力を上げると体積増加を抑える方向(固体に戻る方向)に平衡が移動するため、融点は上がり、融解曲線は右に傾く。一方、水の固体(氷)は水素結合によって形成されるかご型の結晶構造をとるため、液体水より密度が小さい。融解すると体積が減少するため、圧力を上げると融解する方向に平衡が移動し、融点が下がって融解曲線は左に傾く。
(1) CO₂ の臨界温度 31.1℃は常温に近く、エネルギー的に到達しやすい条件です。有機溶媒(ヘキサン、アセトンなど)は可燃性・有毒・溶媒回収の手間があるのに対し、超臨界 CO₂ はこれらの欠点がなく、「グリーンケミストリー」の観点からも重要です。
(2) 超臨界流体は圧力のスイッチで液体⇄気体の切り替えができる点が実用上非常に優れています。溶解→分離のサイクルを CO₂ を回収しながら繰り返せる点も工業的に重要です。
(3) 水の結晶(氷)では、各水分子が4本の水素結合で正四面体形に隣接分子と結合し、六方晶系のかご型構造をとります。この構造は空隙が多く、融解すると水素結合の一部が切れて分子が隙間に入り込み、密度が上昇します(0℃では氷 0.917 g/cm³ → 水 0.9998 g/cm³)。これが水の最大密度(4℃)現象や融解曲線の負傾斜の根本原因です。