第8章 気体

混合気体と分圧

空気は窒素・酸素・アルゴンなどが混ざった混合気体です。
混合気体の圧力を考えるときの鍵が「分圧」の概念です。
各成分が他の気体の存在を無視して独立に圧力を示すというドルトンの法則を理解すれば、水上置換の計算まで一本の論理でつながります。

1ドルトンの分圧の法則

複数の気体が共存する混合気体では、全体の圧力(全圧)と各成分気体の圧力(分圧)を区別して考えます。

分圧とは、混合気体の中で、ある成分気体が単独で同じ体積・同じ温度のもとに存在した場合に示す圧力のことです。

温度 T [K]、体積 V [L] の容器に、気体 A(nA [mol])と気体 B(nB [mol])を封入した混合気体を考えます。気体の状態方程式より、

PV = (nA + nB)RT

pAV = nART , pBV = nBRT

辺々加えると、

(pA + pB)V = (nA + nB)RT = PV

したがって、

P = pA + pB + ···
全圧 = 各成分気体の分圧の和

これをドルトンの分圧の法則といい、1801年にイギリスのドルトン(Dalton, 1766–1844)が発見しました。

法則のまとめ:ドルトンの分圧の法則

一定の体積と温度のもとで、混合気体の全圧 P は、各成分気体の分圧の和に等しい。

P(全圧)= pA + pB + pC + ···(分圧の和)

各気体はなぜ他の気体の存在に関係なく独立に圧力を及ぼすのか
理想気体の仮定:気体分子どうしの分子間力はゼロとみなす
気体Aの分子は、気体Bの分子の存在を「感じない」ため、BがいてもAの運動状態は変わらない
気体Aが容器壁に与える衝突力(=分圧)は、Bが存在してもしなくても同じ
全圧 = 各気体の分圧をそれぞれ独立に計算して合計すればよい

実在気体では分子間力が無視できず、厳密にはドルトンの法則はやや近似になります(→ 8-4 実在気体)。

2モル分率と分圧の関係

分圧の式(pAV = nART)と全圧の式(PV = (nA+nB)RT)を組み合わせると、

pA / P = nA / (nA + nB)

右辺の比 nA / (nA + nB) を、気体Aのモル分率 xA といいます。

pA = xA × P
分圧 = モル分率 × 全圧

モル分率は 0 以上 1 以下の値をとり、すべての成分のモル分率の和は必ず 1 になります。また、分圧の比は物質量の比に等しいことも覚えておきましょう。

pA : pB = nA : nB

計算例 1:分圧とモル分率

問題:密閉容器に窒素 0.50 mol、水素 0.30 mol を入れたところ、この混合気体の全圧が 1.6 × 105 Pa になった。各気体の分圧を求めよ。

解答:

全物質量 = 0.50 + 0.30 = 0.80 mol

窒素のモル分率:xN₂ = 0.50 / 0.80 = 5/8

水素のモル分率:xH₂ = 0.30 / 0.80 = 3/8

窒素の分圧:pN₂ = 5/8 × 1.6 × 105 = 1.0 × 105 Pa

水素の分圧:pH₂ = 3/8 × 1.6 × 105 = 6.0 × 104 Pa

計算例 2:ボイルの法則との組み合わせ

問題:一定温度で、1.0 × 105 Pa の水素 3.0 L と 2.0 × 105 Pa のアルゴン 2.0 L を混合して体積を 5.0 L にした。水素とアルゴンの分圧、および全圧を求めよ。

解答:温度一定なのでボイルの法則を各成分に適用する。

水素の分圧:1.0 × 105 Pa × 3.0 L = pH₂ × 5.0 L → pH₂ = 6.0 × 104 Pa

アルゴンの分圧:2.0 × 105 Pa × 2.0 L = pAr × 5.0 L → pAr = 8.0 × 104 Pa

全圧:P = 6.0 × 104 + 8.0 × 104 = 1.40 × 105 Pa

混合気体の平均分子量

混合気体全体のモル質量(平均分子量)M は、各成分のモル質量とモル分率を使って次のように求められます。

M = xAMA + xBMB + ···

例えば、空気(窒素:酸素 ≈ 4:1、モル分率比)の平均分子量は、

M = 28.0 × (4/5) + 32.0 × (1/5) = 22.4 + 6.4 = 28.8 g/mol

平均分子量を使うと、混合気体全体に対しても気体の状態方程式 PV = (w/M)RT を適用できます。

3水上置換で捕集した気体の計算

水に溶けにくい気体(水素、酸素など)は水上置換で捕集できます。ただし、捕集された気体には水蒸気が含まれるため、捕集気体は水蒸気との混合気体になっています。

メスシリンダー内外の水面を一致させると、捕集気体の全圧=大気圧になります。このとき、ドルトンの分圧の法則から、

P(大気圧)= p気体 + p水蒸気
∴ p気体 = P(大気圧)− p水蒸気(水の蒸気圧)

水の蒸気圧(飽和水蒸気圧)は温度によって決まる定数です。問題文中に与えられた値を必ず使います。

落とし穴:水蒸気圧を引き忘れる

水上置換で捕集した気体の圧力を「大気圧のまま」として計算するのは誤りです。捕集気体には必ず水蒸気が混在しており、目的気体の分圧は大気圧から水の蒸気圧を引いた値になります。

特に「27℃での水の蒸気圧は 3.6 × 103 Pa」のような数値が問題文中にあれば、それは必ず使うべきシグナルです。引き忘れると質量・分子量の計算が大幅にずれます。

計算例 3:水上置換した気体の質量

問題:27℃、大気圧 1.013 × 105 Pa のもとで、酸素を水上置換でメスシリンダーに捕集した。メスシリンダー内外の水面を一致させると、気体の体積は 249 mL であった。27℃での水の蒸気圧を 4.0 × 103 Pa、気体定数を 8.3 × 103 Pa·L/(K·mol) として、捕集された酸素の質量を求めよ。(酸素の分子量:32)

解答:

酸素の分圧:pO₂ = 1.013 × 105 − 4.0 × 103 = 9.7 × 104 Pa

酸素の物質量を気体の状態方程式で求める:

n = pO₂V / (RT) = (9.7 × 104 × 0.249) / (8.3 × 103 × 300)

= 24.153 / 2490 ≈ 9.70 × 10−3 mol

酸素の質量:w = 9.70 × 10−3 × 32 ≈ 0.31 g

発展:水面の高さが異なる場合大学

メスシリンダー内の水面が水槽の水面より高い場合、捕集気体の圧力は大気圧より小さくなります(水柱の圧力分だけ差が生じる)。逆に低い場合は大気圧より大きくなります。問題で「水面を一致させた」と明記されていない場合は水柱の高さを考慮する必要があります。

4この章を俯瞰する

混合気体と分圧の概念は、気体分野の中で最も応用範囲が広いテーマです。以下に他の分野とのつながりを整理します。

  • 気体の状態方程式(8-2):分圧の法則の導出は、各成分への状態方程式の適用が出発点です。状態方程式を自由に使いこなせることが前提です。
  • ボイルの法則(8-1):容器を混合したときの分圧計算は、温度一定のもとでのPV = 一定を各成分に適用するだけです。
  • 実在気体(8-4):ドルトンの法則は理想気体の仮定に基づきます。分子間力が無視できない実在気体では厳密には成り立たない場合があります。
  • ヘンリーの法則(溶液分野):混合気体が溶液に溶ける量は、その気体の分圧に比例します。混合気体中の成分の溶解を扱うときも分圧の概念が必要です。
  • 圧平衡定数(化学平衡):気体が関与する平衡では、濃度の代わりに分圧を用いた圧平衡定数 Kp が登場します。分圧の概念が理解されていれば自然に理解できます。

次の記事(8-4)では、理想気体と実在気体のずれを、ファンデルワールス方程式を用いて定量的に扱います。分子間力や分子自身の体積が与える影響を考えていきます。

5まとめ

  • 分圧:ある成分気体が単独で同じ体積・温度に存在した場合の圧力
  • ドルトンの分圧の法則:全圧 = 各成分の分圧の和(P = pA + pB + ···)
  • モル分率 xA = nA / (nA + nB + ···)、分圧 = モル分率 × 全圧
  • 分圧の比 = 物質量の比
  • 平均分子量 = 各成分の(モル質量 × モル分率)の総和
  • 水上置換で捕集した気体の分圧 = 大気圧 − 水の蒸気圧
  • 水の蒸気圧は温度で決まる定数。問題文の値を必ず引くこと

6確認テスト

Q1. ドルトンの分圧の法則を式で表し、「各気体が独立に圧力を及ぼす」理由を一文で説明してください。

▶ クリックして解答を表示全圧 P = p_A + p_B + ···(各分圧の和)。理想気体では分子間力がゼロとみなすため、各気体分子は他の成分の存在に影響されず独立に容器壁に衝突し、それぞれ独立した分圧を生じます。

Q2. 窒素 0.60 mol と酸素 0.40 mol を混合した気体の全圧が 1.0 × 105 Pa のとき、窒素と酸素の分圧をそれぞれ求めてください。

▶ クリックして解答を表示窒素のモル分率 = 0.60/1.00 = 0.60、酸素のモル分率 = 0.40/1.00 = 0.40。窒素の分圧 = 0.60 × 1.0 × 10⁵ = 6.0 × 10⁴ Pa、酸素の分圧 = 0.40 × 1.0 × 10⁵ = 4.0 × 10⁴ Pa。

Q3. 水上置換で捕集した気体について、捕集気体の分圧を大気圧と水の蒸気圧を使って式で表してください。

▶ クリックして解答を表示捕集気体の分圧 = 大気圧 P − 水の蒸気圧 p_w。水面を一致させると全圧 = 大気圧 P であり、P = p_気体 + p_w なので、p_気体 = P − p_w。

Q4. 窒素と水素からなる混合気体の平均分子量を求める式を、モル分率 xN₂xH₂ を用いて表してください。また、窒素:水素 = 3:1(物質量比)のときの値を計算してください。(N₂ = 28, H₂ = 2)

▶ クリックして解答を表示M = x_N₂ × 28 + x_H₂ × 2。窒素:水素 = 3:1 のとき x_N₂ = 3/4、x_H₂ = 1/4 なので、M = (3/4) × 28 + (1/4) × 2 = 21 + 0.5 = 21.5 g/mol。平均分子量は 21.5。

7入試問題演習

基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。

A 基礎レベル

8-3-1 A 基礎 計算

酸素 O2 と窒素 N2 を体積比 1 : 4 で混合し、0℃、全圧 1.0 × 105 Pa に保った。次の各問に答えよ。

(1) 酸素と窒素のモル分率をそれぞれ求めよ。

(2) 酸素と窒素の分圧をそれぞれ求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 体積比 = 物質量比(同温・同圧)なので、酸素:窒素 = 1:4。

酸素のモル分率 = 1/(1+4) = 1/5(0.20)

窒素のモル分率 = 4/(1+4) = 4/5(0.80)

(2) 酸素の分圧 = 0.20 × 1.0 × 105 = 2.0 × 104 Pa

窒素の分圧 = 0.80 × 1.0 × 105 = 8.0 × 104 Pa

解説

同温・同圧のもとでは体積比 = 物質量比が成り立ちます(アボガドロの法則)。したがって体積比 1:4 はそのままモル分率の比になります。分圧 = モル分率 × 全圧の公式に代入するだけです。空気の組成を扱う問題の基本パターンです。

B 標準レベル

8-3-2 B 標準 計算

27℃で、ある気体を水上置換でメスシリンダーに捕集した。メスシリンダー内外の水面を一致させたところ、体積は 830 mL であった。大気圧を 1.00 × 105 Pa、27℃での水の蒸気圧を 3.6 × 103 Pa、気体定数を 8.3 × 103 Pa·L/(K·mol) として、次の各問に答えよ。

(1) 捕集された気体の分圧を求めよ。

(2) 捕集された気体の物質量を求めよ。

(3) この気体 1.37 g を同条件で捕集したとすると、分子量はいくらか。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) p気体 = 1.00 × 105 − 3.6 × 103 = 9.64 × 104 Pa

(2) n = pV/(RT) = (9.64 × 104 × 0.830) / (8.3 × 103 × 300)

= 7.99 × 104 / (2.49 × 106) ≈ 3.2 × 10−2 mol

(3) 分子量 M = w/n = 1.37 / (3.2 × 10−2) ≈ 43

解説

(1) 水上置換の基本公式:p気体 = 大気圧 − 水の蒸気圧。大気圧から水の蒸気圧を必ず引くことが最重要ポイントです。

(2) 捕集気体の分圧と体積を使って状態方程式を適用します。温度は 27℃ = 300 K に換算します。

(3) 質量 ÷ 物質量でモル質量(= 分子量)が得られます。分子量が 43 程度の気体としてはプロパン(44)や CO2(44)に近い値です。

採点ポイント(配点例:各4点)
  • (1) 大気圧から水の蒸気圧を引くことに気づいているか
  • (2) 気体の状態方程式を正しく適用できているか
  • (3) 物質量から分子量を求める手順が正しいか

C 発展レベル

8-3-3 C 発展 総合

なめらかに動くピストン付きの容器に、一定温度(27℃)で、1.0 × 105 Pa の一酸化炭素 2.0 L と、隔壁をはさんで 1.0 × 105 Pa の酸素 3.0 L を入れた。次に隔壁を外して気体を混合し、一定圧力 1.0 × 105 Pa で完全燃焼させた後、27℃に戻した。気体定数を 8.3 × 103 Pa·L/(K·mol) として、次の各問に答えよ。ただし、生成した液体水の体積は無視する。

(1) 混合直後の CO と O2 の物質量をそれぞれ求めよ。

(2) 完全燃焼後に生じた気体の分圧を求めよ。

(3) 完全燃焼後の混合気体の体積を求めよ。

▶ クリックして解答・解説を表示
解答

(1) 状態方程式 pV = nRT より、

CO:nCO = (1.0 × 105 × 2.0) / (8.3 × 103 × 300) ≈ 8.03 × 10−2 mol ≈ 8.0 × 10−2 mol

O2nO₂ = (1.0 × 105 × 3.0) / (8.3 × 103 × 300) ≈ 1.20 × 10−1 mol ≈ 1.2 × 10−1 mol

(2) 燃焼反応:2CO + O2 → 2CO2

CO:O2 = 8.0 × 10−2 : 1.2 × 10−1 = 2:3 → O2 が過剰(CO が全て消費される)

消費 O2 = 4.0 × 10−2 mol、残余 O2 = 8.0 × 10−2 mol、生成 CO2 = 8.0 × 10−2 mol

反応後の全物質量 = 8.0 × 10−2 + 8.0 × 10−2 = 1.60 × 10−1 mol

全圧 = 1.0 × 105 Pa(ピストンで一定)

O2 の分圧 = (8.0 × 10−2 / 1.60 × 10−1) × 1.0 × 105 = 5.0 × 104 Pa

CO2 の分圧 = (8.0 × 10−2 / 1.60 × 10−1) × 1.0 × 105 = 5.0 × 104 Pa

(3) 反応後の体積:V = nRT/p = (1.60 × 10−1 × 8.3 × 103 × 300) / (1.0 × 105) = 3.984 ≈ 4.0 L

解説

(1) 混合前の各気体は同温・同圧(1.0 × 105 Pa、27℃)なので、体積比 = 物質量比 = 2:3 です。状態方程式で厳密に計算しても同じ比が得られます。

(2) CO と O2 の物質量比は 2:3 で、燃焼の化学量論比(2CO:1O2 = 2:1)より O2 が大過剰です。CO が全て消費されることを確認してから、残余気体(O2、CO2)の物質量を計算します。ピストンで一定圧力が保たれているので全圧 = 1.0 × 105 Pa のまま。各気体の分圧 = モル分率 × 全圧です。

(3) 全物質量と温度・圧力が決まれば、状態方程式から体積が得られます。燃焼前(5.0 L)から燃焼後(4.0 L)へ体積が減少するのは、気体分子の総数が減少したためです(2CO + O2 → 2CO2 で 3 mol が 2 mol になる)。

採点ポイント(配点例:計15点)
  • (1) 各成分の物質量を正しく求めているか(各2点)
  • (2) 限量試薬の判定が正しいか(2点)、残余気体の物質量(2点)、分圧の計算(各2点)
  • (3) 体積の計算が正しいか(3点)