結晶は、無数の粒子が三次元空間に規則正しく並んだ構造をしています。
この繰り返しパターンを記述するのが「結晶格子」であり、その最小単位が「単位格子」です。
単位格子1個から原子数・配位数・充填率・密度をすべて計算できます。この計算力が入試の核心です。
食塩や鉄のような結晶は、多数の原子・イオン・分子が三次元空間に規則正しく配列した構造をもっています。この配列パターンを模式的に示したものを結晶格子(crystal lattice)といいます。
結晶格子では、各粒子の中心の位置を格子点と呼びます。格子点を結んだ線は「粒子の位置関係」を示しているだけであり、実際の化学結合そのものとは限りません。
結晶全体は、同じ形の小さな単位が前後・左右・上下に無数に繰り返されてできています。この最小の繰り返し単位を単位格子(unit cell)といいます。単位格子を無数に積み重ねると、結晶格子全体が再現されます。
結晶全体の組成・密度・原子配置はすべて単位格子1個の情報に凝縮されています。単位格子の中の原子数・配位数・辺の長さがわかれば、結晶の密度も求められます。「単位格子 = 結晶の最小情報単位」という視点で以降を学んでください。
単位格子は、隣の単位格子と格子点(粒子)を共有しています。したがって、単位格子の頂点・辺・面にある粒子は、複数の単位格子に分割されます。格子点の位置ごとに、1個の単位格子に帰属する割合は次のとおりです。
| 位置 | 共有する単位格子の数 | 1個の単位格子への寄与 |
|---|---|---|
| 頂点(角) | 8個 | 1/8 個 |
| 辺の中点 | 4個 | 1/4 個 |
| 面の中心 | 2個 | 1/2 個 |
| 体内(内部) | 1個 | 1 個 |
同様に、辺は4本の立方体が共有するので 1/4、面は2枚が共有するので 1/2、内部は1個の立方体だけにあるので 1 となります。
金属結晶では原子の配列パターンによって主に3種類の単位格子があります。
| 格子の種類 | 原子数の計算 | 単位格子中の原子数 | 配位数 | 充填率 |
|---|---|---|---|---|
| 体心立方格子 | 頂点 × 8 個 × 1/8 + 体内 × 1 個 × 1 | 2 個 | 8 | 約 68% |
| 面心立方格子 | 頂点 × 8 個 × 1/8 + 面 × 6 個 × 1/2 | 4 個 | 12 | 約 74% |
| 六方最密構造 | (六角柱の形状で計算) | 2 個(六角柱単位) | 12 | 約 74% |
面心立方格子と六方最密構造はどちらも充填率 74% で、原子が最も密に詰まった最密充填構造です。配位数(1つの原子に最も近接する原子の数)も共に 12 です。
面心立方格子では「頂点の原子 8 個 × 1/8 = 1 個」「面の原子 6 個 × 1/2 = 3 個」で合計 4 個です。うっかり「頂点 8 個 + 面 6 個 = 14 個」とする誤りが非常に多いです。「どこにあるか」→「寄与の割合は何分の1か」という手順を必ず踏んでください。
配位数とは、ある粒子に最も近接して接触している粒子の数です。結晶格子の種類によって決まっており、体心立方格子では 8、面心立方格子・六方最密構造では 12 です。配位数が大きいほど充填率が高くなります。
充填率とは、単位格子の体積に占める原子の体積の割合です。
充填率 = (単位格子中の原子数 × 原子1個の体積) ÷ 単位格子の体積 × 100 [%]
原子1個の体積 = (4/3)πr³ (r:原子半径)
充填率は格子の種類によって決まる定数です(体心立方格子 ≒ 68%、面心立方格子 ≒ 74%)。入試では充填率の値そのものより、「なぜこの値になるか」の計算過程が問われます。
単位格子の辺の長さ a [cm]、原子(またはイオン対)のモル質量 M [g/mol]、アボガドロ定数 NA [/mol]、単位格子中の粒子数 n がわかれば、結晶の密度 d [g/cm³] を次式で求められます。
密度 d = (単位格子の質量) ÷ (単位格子の体積)
単位格子の質量 = M / NA × n [g]
単位格子の体積 = a³ [cm³]
したがって d = nM / (NA × a³) [g/cm³]
この式を覚えるのではなく、「単位格子1個の質量を体積で割る」という意味を理解してください。そうすれば式を忘れても自分で導けます。
どんな結晶でも手順は同じです。(1) 単位格子中の粒子数 n を数える、(2) n × (M/NA) で質量を求める、(3) a³ で体積を求める、(4) 質量 ÷ 体積 で密度を計算する。このフローを問題が変わっても機械的に適用できれば、密度の計算問題は解けます。
第9章では、固体(結晶)の内部構造を原子・イオン・分子レベルで理解します。
9-1(本記事)では、すべての結晶に共通する「結晶格子・単位格子・格子点の数え方・密度計算」の基礎ツールを学びます。ここで身につける計算スキルは、9-2以降の各結晶型(イオン結晶・共有結合の結晶・分子結晶・金属結晶)すべてに共通して使います。
9-2以降では、結合の種類(イオン結合・共有結合・分子間力・金属結合)によって結晶の性質(硬さ・融点・電気伝導性)がどう変わるかを学びます。
「単位格子を数える技術(9-1)」×「結合の種類による性質の違い(9-2〜)」が第9章の2本柱です。
Q1. 単位格子の「頂点」「辺の中点」「面の中心」「体内」にある粒子が、1個の単位格子に寄与する割合をそれぞれ答えよ。
Q2. 面心立方格子の単位格子中に含まれる原子の数を計算で求めよ。
Q3. 体心立方格子・面心立方格子それぞれの配位数と充填率を答えよ。
Q4. 結晶の密度を単位格子から求める計算式を導け。単位格子中の原子数を n、モル質量を M [g/mol]、アボガドロ定数を NA [/mol]、単位格子の一辺の長さを a [cm] とする。
体心立方格子の単位格子について、次の問いに答えよ。
(1) 単位格子中に含まれる原子の数を求めよ。
(2) 体心立方格子の配位数を答えよ。
(1) 頂点に原子が8個(各 1/8 寄与)、体内に原子が1個(1 寄与)あるので、8 × 1/8 + 1 × 1 = 2 個
(2) 8
(1) 体心立方格子では、立方体の8つの頂点と体の中心に1つ原子があります。頂点の原子は8個の単位格子が共有するため 1/8 個分、体内の原子は単独で 1 個分です。
(2) 体心立方格子では、体の中心にある原子は8つの頂点の原子すべてに接触しているため、配位数は 8 です。
鉄 Fe の結晶は体心立方格子をとり、単位格子の一辺の長さは 2.87 × 10−8 cm である。次の問いに答えよ。ただし、鉄の原子量を 56、アボガドロ定数を 6.0 × 1023 /mol とする。
(1) 単位格子中に含まれる鉄原子の数を求めよ。
(2) 鉄の結晶の密度 [g/cm³] を有効数字2桁で求めよ。
(1) 2 個
(2) 約 7.9 g/cm³
(1) 体心立方格子の原子数は 8 × 1/8 + 1 = 2 個。
(2) 単位格子の質量 = (56 g/mol ÷ 6.0 × 1023 /mol) × 2 = 56 × 2 / (6.0 × 1023) g
単位格子の体積 = (2.87 × 10−8)³ = 2.87³ × 10−24 cm³
2.87³ ≒ 23.6 なので体積 ≒ 2.36 × 10−23 cm³
密度 = (56 × 2) / (6.0 × 1023 × 2.36 × 10−23) = 112 / (6.0 × 2.36) ≒ 112 / 14.16 ≒ 7.9 g/cm³
ある金属 X の結晶は面心立方格子をとり、単位格子の一辺の長さは a [cm] である。金属 X のモル質量を M [g/mol]、アボガドロ定数を NA [/mol] として、次の問いに答えよ。
(1) 単位格子中に含まれる原子の数を求めよ。
(2) 面心立方格子では、面の対角線に沿って原子が接触している。単位格子の一辺の長さ a と原子半径 r の関係式を導け。
(3) 金属 X の結晶の密度 d [g/cm³] を M, NA, a を用いて表せ。
(1) 8 × 1/8 + 6 × 1/2 = 1 + 3 = 4 個
(2) 面の対角線の長さは √2 × a。この対角線上に原子が 4r の長さで並ぶ(端から 2r + 2r)ので、4r = √2 a すなわち r = (√2/4) a
(3) d = 4M / (NA × a³) [g/cm³]
(1) 面心立方格子では、頂点に 8 個(× 1/8)と各面の中心に 6 個(× 1/2)の原子があります。
(2) 面の対角線上では、両端の頂点原子(半径 r ずつ)と中央の面心原子(直径 2r)が密に接触しています。対角線の長さ = 2r + 2r + 2r×0... ではなく、頂点原子の半径 r、面心原子の直径 2r、反対側の頂点原子の半径 r で合計 4r。三平方の定理から対角線 = √(a² + a²) = √2 a なので 4r = √2 a となります。
(3) 原子数 n = 4 を密度の公式に代入すると d = 4M / (NA × a³)。