金属原子は、どれも同じ大きさの球として最も効率よく空間に詰め込まれています。
その詰め方のパターンは3種類しかなく、それぞれ「体心立方格子」「面心立方格子」「六方最密充填構造」と呼ばれます。
この記事では、3つの構造の原子数・配位数・充填率を導き方から理解し、密度計算まで応用できるようにします。
金属結晶では、金属原子が規則正しく並んだ結晶格子を形成しています。金属単体の結晶格子は、主に次の3種類のいずれかです。
3つの構造を学ぶにあたって、まず単位格子の概念をおさえておきましょう。単位格子とは、結晶格子全体の繰り返し最小単位です。単位格子が立方体のものを立方格子といいます。
結晶中の1つの原子(粒子)に着目したとき、最近接している原子の個数を配位数といいます。配位数が大きいほど、各原子が多くの隣の原子に囲まれていることを意味します。
体心立方格子は、立方体の8つの頂点と中心に原子が位置する構造です(bcc = body-centered cubic)。
原子の数え方には注意が必要です。頂点の原子は8個の単位格子で共有されるため、1個の単位格子に属するのは 1/8 個ずつです。中心の原子はその単位格子のみに属します。
頂点の原子:1/8 × 8 = 1個 + 体心の原子:1 × 1 = 1個 = 合計 2個
体心(立方体の中心)の原子に最も近いのは、8つの頂点の原子です。逆に、頂点の原子からみると中心の原子だけが隣接します。体心から等距離にある最近接原子は8個なので、配位数は8です。
原子が球で、互いに接触していると仮定します。体心立方格子では、体対角線方向に原子が接触しています。単位格子の一辺の長さを a、原子半径を r とすると:
この体対角線の上に、頂点の原子(半径 r)→ 中心の原子(直径 2r)→ 反対の頂点の原子(半径 r)が並ぶので:
√3 a = 4r ∴ r = (√3/4)a または a = 4r/√3
充填率とは、単位格子の体積に占める原子の体積の割合です。
単位格子の体積:a³
r = (√3/4)a より 単位格子中の原子2個の体積:2 × (4/3)πr³ = 2 × (4/3)π × (√3/4)³a³
充填率 = (2 × (4/3)π × (√3)³/4³) = (√3 π)/8 ≈ 0.68 = 68%
原子数2個、配位数8、充填率68%、a = 4r/√3。代表例:Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Fe(鉄、常温・常圧)、W(タングステン)
面心立方格子は、立方体の8つの頂点と6つの面の中心に原子が位置する構造です(fcc = face-centered cubic)。
頂点の原子は8個の単位格子で共有(1/8ずつ)、面心の原子は2個の単位格子で共有(1/2ずつ)です。
頂点:1/8 × 8 = 1個 + 面心:1/2 × 6 = 3個 = 合計 4個
面心立方格子では、1つの原子に対して同じ層の4個、上層の4個、下層の4個、合計配位数12の原子が隣接しています。これは最密充填の一形態です。
面心立方格子では、面対角線方向(1つの面の対角線)に沿って原子が接触しています。単位格子の一辺の長さを a、原子半径を r とすると:
この面対角線上に、頂点の原子(半径 r)→ 面心の原子(直径 2r)→ 反対の頂点の原子(半径 r)が並ぶので:
√2 a = 4r ∴ r = (√2/4)a = a/(2√2) または a = 2√2 r
r = a/(2√2) より 単位格子中の原子4個の体積:4 × (4/3)πr³
充填率 = 4 × (4/3)π × (1/(2√2))³ = π/(3√2) ≈ 0.74 = 74%
原子数4個、配位数12、充填率74%、a = 2√2 r。代表例:Cu(銅)、Ag(銀)、Au(金)、Al(アルミニウム)
六方最密充填構造は、正六角柱(六角柱)を単位格子とする構造です(hcp = hexagonal close-packed)。六角柱の各頂点・上下面の中心、さらに内部に原子が位置します。
六角柱全体には次の原子が含まれます:上下面の頂点12個(それぞれ1/6ずつ属する)、上下面の中心2個(それぞれ1/2ずつ属する)、内部に3個。
1/6 × 12 + 1/2 × 2 + 3 = 2 + 1 + 3 = 6個(六角柱全体)
単位格子(六角柱の1/3)あたり:2個
教科書では、六角柱を3等分した「斜方柱」を最小単位とすることが多く、その場合の原子数は2個とされます。
六方最密充填構造でも、各原子は同層4個・上層4個・下層4個に接しており、配位数は12です。面心立方格子と同じ配位数をもちます。
面心立方格子(fcc)と六方最密充填構造(hcp)は、どちらも原子が最密に詰まった最密充填構造です。充填率・配位数ともに同じですが、層の積み重なり方が異なります。
面心立方格子(fcc):1層目(A層)→ 2層目(B層)→ 3層目は1・2層目とは異なる位置(C層)→ 4層目は1層目と同じ位置(A層)……という ABCABC… 型の繰り返し。
六方最密充填構造(hcp):1層目(A層)→ 2層目(B層)→ 3層目は1層目と同じ位置(A層)→ ……という ABAB… 型の繰り返し。
単位格子(六角柱の1/3)中の原子数2個、配位数12、充填率74%。代表例:Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)、Be(ベリリウム)
面心立方格子と六方最密充填構造は「最密充填」の2通りのパターンです。充填率はどちらも約74%であり、どちらが「より密」というわけではありません。違いは層の積み重なり方(ABCABC か ABAB か)だけです。
充填率は、単位格子の体積に対する原子(球)の体積の割合です。
充填率 = (単位格子中の原子の体積の合計)÷(単位格子の体積)× 100%
Step 1:一辺 a と原子半径 r の関係を求める。
体対角線 = √3 a = 4r ∴ r = (√3/4)a
Step 2:単位格子中の原子の総体積を求める。
原子2個 × (4/3)πr³ = (8/3)π × ((√3/4)a)³ = (8/3)π × (3√3/64)a³ = (√3π/8)a³
Step 3:充填率 = 原子の総体積 ÷ 単位格子体積
充填率 = (√3π/8)a³ ÷ a³ = √3π/8 ≈ 0.6802 ≈ 68%
| 格子の種類 | 原子数 | 配位数 | 充填率 | 代表金属 |
|---|---|---|---|---|
| 体心立方格子(bcc) | 2個 | 8 | 約68% | Na, K, Fe, W |
| 面心立方格子(fcc) | 4個 | 12 | 約74% | Cu, Ag, Au, Al |
| 六方最密充填(hcp) | 2個 | 12 | 約74% | Mg, Zn, Be |
充填率は結晶構造の幾何学的な詰まり方(どれだけ空間を埋めているか)を示す割合であり、金属の密度(g/cm³)とは異なります。同じ構造でも、原子の質量や原子半径が違えば密度は異なります。
入試では「単位格子の一辺の長さ a」が与えられ、そこから「原子半径 r」を求める問題や、その逆が頻出です。接触方向を正しく把握することが重要です。
| 格子の種類 | 原子が接触する方向 | 関係式 |
|---|---|---|
| 体心立方格子(bcc) | 体対角線(√3 a) | √3 a = 4r → r = (√3/4)a |
| 面心立方格子(fcc) | 面対角線(√2 a) | √2 a = 4r → r = (√2/4)a = a/(2√2) |
a = 3.6 × 10⁻⁸ cm、面心立方格子なので √2 a = 4r
r = (√2/4) × a = (1.41/4) × 3.6 × 10⁻⁸ ≈ 1.3 × 10⁻⁸ cm
金属結晶の密度は、単位格子の質量と体積から求めます。
密度 = 単位格子の質量 ÷ 単位格子の体積
単位格子の質量 = (原子量 M [g/mol])÷(アボガドロ定数 NA [/mol])× (単位格子中の原子数 Z)
密度 ρ [g/cm³] = (Z × M) / (NA × a³)
Z:単位格子中の原子数、M:原子量 [g/mol]、NA:アボガドロ定数
Z = 2個(体心立方格子)、M = 56 g/mol、a = 2.9 × 10⁻⁸ cm
単位格子の体積:(2.9 × 10⁻⁸)³ = 2.44 × 10⁻²³ cm³
単位格子の質量:(56 / 6.0 × 10²³) × 2 = 1.87 × 10⁻²² g
密度 = 1.87 × 10⁻²² ÷ 2.44 × 10⁻²³ ≈ 7.7 g/cm³
Z = 4個(面心立方格子)、M = 63.5 g/mol、a = 3.6 × 10⁻⁸ cm
単位格子の体積:(3.6 × 10⁻⁸)³ = 4.67 × 10⁻²³ cm³
単位格子の質量:(63.5 / 6.0 × 10²³) × 4 = 4.23 × 10⁻²² g
密度 = 4.23 × 10⁻²² ÷ 4.67 × 10⁻²³ ≈ 9.1 g/cm³
金属結晶の構造は、固体化学の根幹をなす知識であり、化学の多くの分野と深くつながっています。
次の記事(9-3)では、2種類のイオンが組み合わさったイオン結晶の単位格子を扱います。考え方は金属結晶と同じですが、「2種類の粒子を別々に数える」点が追加されます。
Q1. 体心立方格子・面心立方格子・六方最密充填構造の単位格子中の原子数を、それぞれ答えてください。
Q2. 面心立方格子の配位数が12になる理由を説明してください。
Q3. 体心立方格子の充填率が約68%になることを、式の流れで説明してください。
Q4. 面心立方格子と六方最密充填構造は、どちらも充填率74%・配位数12です。2つの構造の違いは何ですか。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
金属結晶の単位格子に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
①⑤
① 正しい。体心立方格子の原子数:頂点8 × 1/8 + 体心1 = 2個。② 誤り。面心立方格子の配位数は12(体心立方格子が8)。③ 誤り。六方最密充填構造も面心立方格子と同じ74%。④ 誤り。a = 2√2 r は面心立方格子の式。体心立方格子は √3 a = 4r より a = 4r/√3。⑤ 正しい。銅 Cu は面心立方格子(fcc)をとる。
ナトリウム Na の結晶は体心立方格子で、単位格子の一辺の長さは 4.3 × 10⁻⁸ cm である。次の各問いに答えよ。(Na = 23、NA = 6.0 × 10²³ /mol、√3 = 1.73)
(1) ナトリウム原子の半径を求めよ。
(2) ナトリウム結晶の密度を求めよ。
(1) 体心立方格子:√3 a = 4r より r = (√3/4) × 4.3 × 10⁻⁸ = (1.73/4) × 4.3 × 10⁻⁸ ≈ 1.9 × 10⁻⁸ cm
(2) 密度 = (Z × M) / (NA × a³) = (2 × 23) / (6.0 × 10²³ × (4.3 × 10⁻⁸)³)
a³ = (4.3)³ × 10⁻²⁴ = 79.5 × 10⁻²⁴ cm³ = 7.95 × 10⁻²³ cm³
密度 = 46 / (6.0 × 10²³ × 7.95 × 10⁻²³) = 46 / 47.7 ≈ 0.97 g/cm³
(1) 体心立方格子では体対角線方向に原子が接触しています。体対角線の長さは √3 a であり、その中に「頂点の原子(半径 r)+ 中心の原子(直径 2r)+ 頂点の原子(半径 r)」が並ぶので √3 a = 4r が成り立ちます。
(2) 体心立方格子の原子数は2個です。単位格子の体積 a³ と原子2個分の質量から密度を求めます。実測値(0.97 g/cm³)とよく一致することも確認しておくとよいでしょう。
ある金属 M の結晶は面心立方格子であり、単位格子の一辺の長さは a [cm] である。アボガドロ定数を NA [/mol]、この金属結晶の密度を ρ [g/cm³] として、以下の問いに答えよ。
(1) 単位格子中の原子数を求め、その根拠を説明せよ。
(2) 金属 M のモル質量を NA、ρ、a を用いて表せ。
(3) 面心立方格子の充填率が体心立方格子より大きい理由を、配位数の観点から40字以内で説明せよ。
(1) 4個。頂点の8個は8つの単位格子で共有されるため 1/8 × 8 = 1個、面心の6個は2つの単位格子で共有されるため 1/2 × 6 = 3個、合計4個。
(2) 単位格子の質量 = ρ × a³ = (M / NA) × 4 より
モル質量 M = ρ NA a³ / 4
(3) 配位数が12(面心)は8(体心)より大きく、各原子が多くの隣接原子と密着しているため充填率が高い。(40字)
(1) 単位格子中の原子数の計算は、位置ごとに「何個の単位格子で共有されているか」に注意します。頂点:8つの格子で共有 → 1/8、面心:2つの格子で共有 → 1/2、体心:1つの格子に属する → 1。
(2) 「質量 = 密度 × 体積」と「質量 = (モル質量/NA) × 原子数」を等置します。単位格子の体積は a³、原子数は4個なので、M = ρ × a³ × NA / 4。
(3) 配位数は「1個の原子に隣接する原子の数」です。配位数が多いほど、各原子の周囲に原子が密に存在し、すき間が少なくなります。fcc(配位数12)は bcc(配位数8)より各原子が多くの原子と接触するため、充填率が高くなります。