NaCl・CsCl・ZnS という3つの代表的なイオン結晶は、それぞれ異なる単位格子をもっています。
この記事では、単位格子の形・イオンの数え方・配位数の3点を整理し、
さらに「なぜイオンの大きさの比で結晶構造が決まるのか」を限界半径比の概念から理解します。
塩化ナトリウム NaCl の結晶では、Na+ と Cl− が交互に規則正しく配列しています。 1個の Na+ に対して6個の Cl− が最も近く隣接し、同様に1個の Cl− に対して6個の Na+ が隣接しています。 この「1個のイオンに隣接する逆符号のイオンの数」を配位数といいます。
Na+:6(Cl−に囲まれる)
Cl−:6(Na+に囲まれる)
Na+:辺の中点 × 12 × (1/4) + 体心 × 1 = 4個
Cl−:頂点 × 8 × (1/8) + 面心 × 6 × (1/2) = 4個
単位格子(立方体)の各位置にあるイオンは、隣接する格子と共有されているため、単位格子1個あたりの寄与が異なります。
NaCl 型では、Na+ は辺の中点(12箇所)と体心(1箇所)に位置します。
12 × (1/4) + 1 × 1 = 3 + 1 = 4個
Cl− は頂点(8箇所)と面心(6箇所)に位置します。
8 × (1/8) + 6 × (1/2) = 1 + 3 = 4個
単位格子中の陽イオンと陰イオンの数の比は、組成式の比と一致します。NaCl では Na+ : Cl− = 4 : 4 = 1 : 1 であり、組成式 NaCl と一致します。
NaCl型(塩化ナトリウム型)の構造をとる結晶には、KI、MgO、AgCl などがあります。
NaCl 型単位格子の一辺の長さを a とすると、隣接する Na+—Cl− の中心間距離は a/2 です。Na+ の半径を r+、Cl− の半径を r− とすると、Na+ と Cl− が接しているとき r+ + r− = a/2 が成り立ちます。この関係から一方のイオン半径がわかれば他方を求めることができます。
塩化セシウム CsCl の結晶では、立方体の頂点に Cl− が8個、体心に Cs+ が1個配置されています(または逆の見方も可)。 Cs+ は8個の Cl− に囲まれており、配位数は 8 と大きくなっています。
Cs+ は Na+ よりもずっとイオン半径が大きいため、より多くの陰イオンを周囲に配置できます。 これが NaCl 型(配位数6)より CsCl 型(配位数8)の方が配位数が大きい理由です。
Cs+:8(Cl−に囲まれる)
Cl−:8(Cs+に囲まれる)
Cs+:体心 × 1 = 1個
Cl−:頂点 × 8 × (1/8) = 1個
単位格子に含まれる Cs+ と Cl− はそれぞれ1個ずつなので、数の比は 1 : 1 となり、組成式 CsCl と一致します。
体心立方格子は同種の粒子が配置される金属結晶の格子です。CsCl 型は異種のイオンが配置されており、立方体の体心に Cs+、頂点に Cl− が配置されています。見た目は似ていますが、金属の体心立方格子とは異なります。同じ構造をとる結晶には CsBr、NH4Cl などがあります。
硫化亜鉛 ZnS の結晶(閃亜鉛鉱型)では、配位数が4 と3種類の中で最も小さくなっています。 S2− が面心立方格子を組み、その四面体空隙に Zn2+ が入り込む構造で、 各 Zn2+ は4個の S2− に囲まれ、各 S2− も4個の Zn2+ に囲まれています。
Zn2+:4(S2−に囲まれる)
S2−:4(Zn2+に囲まれる)
Zn2+:体内 × 4 = 4個
S2−:頂点 × 8 × (1/8) + 面心 × 6 × (1/2) = 4個
単位格子中に Zn2+ と S2− がそれぞれ4個ずつ含まれるので、数の比は 1 : 1 となり、組成式 ZnS と一致します。 同じ構造をとる結晶には CdS、AgI などがあります。
| 結晶型 | 代表例 | 配位数 | 単位格子中の陽イオン数 | 単位格子中の陰イオン数 | 同型の結晶例 |
|---|---|---|---|---|---|
| NaCl型(塩化ナトリウム型) | NaCl | 6 : 6 | Na+ 4個 | Cl− 4個 | KI, MgO, AgCl |
| CsCl型(塩化セシウム型) | CsCl | 8 : 8 | Cs+ 1個 | Cl− 1個 | CsBr, NH4Cl |
| ZnS型(閃亜鉛鉱型) | ZnS | 4 : 4 | Zn2+ 4個 | S2− 4個 | CdS, AgI |
なぜ NaCl は配位数6、CsCl は配位数8の構造をとるのでしょうか。 その答えは陽イオンと陰イオンの半径比(r+/r−)にあります。
イオン結晶が安定であるためには、次の2つの条件が同時に満たされなければなりません。
陽イオンが非常に小さいと、陰イオンどうしが接触して互いに反発し合い、結晶が不安定になります。 このとき、より小さい配位数の構造へと移行することで安定性を保ちます。 「ちょうど陰イオンどうしが接する」半径比の限界値を限界半径比といいます。
| 結晶型 | 配位数 | 限界半径比 r+/r− | 安定な半径比の範囲 |
|---|---|---|---|
| CsCl型 | 8 | 0.732 | 0.732 以上 |
| NaCl型 | 6 | 0.414 | 0.414 以上 0.732 未満 |
| ZnS型 | 4 | 0.225 | 0.225 以上 0.414 未満 |
※ 実際の結晶構造は半径比だけでなく共有結合性などの要因も影響するため、この関係にあてはまらない例外もあります。
CsCl 型の単位格子(立方体)の体心に Cs+、頂点に Cl− が位置します。 「ちょうど陰イオンどうしが接する」限界の状態を考えます。
立方体の一辺を a、陰イオンの半径を r−、陽イオンの半径を r+ とすると、 体対角線の長さ = 2(r+ + r−)、面対角線の長さ = 2√2 r− となります(三平方の定理から体対角線 = √3 × 一辺)。
2(r+ + r−) = √3 × 2r−
r+/r− = √3 − 1 ≈ 0.732
NaCl 型(6配位)の限界半径比 √2 − 1 ≈ 0.414、 ZnS 型(4配位)の限界半径比 √(3/2) − 1 ≈ 0.225 も同様の幾何学的計算から導けます。
Na+ の半径(約0.116 nm)と Cl− の半径(約0.167 nm)の比は約0.69であり、NaCl型が安定な範囲(0.414〜0.732)に収まります。一方、Cs+ の半径(約0.181 nm)と Cl−(約0.167 nm)の比は約1.08で0.732を大きく超えるため、配位数8のCsCl型が安定です。イオン半径の実測値と限界半径比の対応が確認できます。
金属結晶の密度計算と同じ発想で、イオン結晶の密度も単位格子から求めることができます。 基本式は次のとおりです。
密度 [g/cm3] = (単位格子中のイオンの質量の合計)÷ (単位格子の体積)
塩化ナトリウム NaCl の単位格子の一辺の長さは 0.564 nm である。 NaCl の結晶の密度 [g/cm3] を求めよ。 ただし、Na の原子量を 23、Cl の原子量を 35.5、アボガドロ定数を 6.0 × 1023/mol とする。
密度 = 2.2 g/cm3
単位格子中のイオン数を確認する。
NaCl型より、Na+ = 4個、Cl− = 4個。
単位格子中のイオンの質量を求める。
(23 × 4 + 35.5 × 4) ÷ (6.0 × 1023) = (92 + 142) ÷ (6.0 × 1023)
= 234 ÷ (6.0 × 1023) = 3.90 × 10−22 g
単位格子の体積を求める(一辺 0.564 nm = 5.64 × 10−8 cm)。
体積 = (5.64 × 10−8)3 = 1.79 × 10−22 cm3
(5.642 ≈ 31.8, 31.8 × 5.64 ≈ 179 より 1.79 × 10−22)
密度を計算する。
ρ = 3.90 × 10−22 ÷ 1.79 × 10−22 ≈ 2.18 ≈ 2.2 g/cm3
1 nm = 10−9 m = 10−7 cm です。辺の長さを cm に変換してから3乗して体積を求めてください。nm のまま3乗しても単位が合いません。
イオン結晶の構造は「固体の構造」という章全体の中に位置づけられます。 金属結晶(体心立方・面心立方・六方最密)と並んで、イオン結晶(NaCl型・CsCl型・ZnS型)と共有結合の結晶(ダイヤモンド型)の3種類が固体の構造の核心をなします。
次の記事(9-4)では、共有結合の結晶(ダイヤモンド・黒鉛・ケイ素)の構造を扱います。
Q1. NaCl型の単位格子において、Na+ と Cl− の配位数をそれぞれ答えよ。また、単位格子中に含まれるNa+ と Cl− の数を求めよ。
Q2. CsCl型の単位格子において、配位数はいくつか。また、なぜ NaCl型(配位数6)より大きいのか、イオンの大きさの観点から説明せよ。
Q3. 限界半径比とは何か。また、陽イオンが非常に小さいとき、イオン結晶はなぜ不安定になるのか説明せよ。
Q4. ZnS型の単位格子中に含まれる Zn2+ と S2− の数をそれぞれ求め、組成式と一致することを確かめよ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
イオン結晶の構造に関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
①③
① 正しい。Na+(辺の中点12×1/4+体心1)= 4個、Cl−(頂点8×1/8+面心6×1/2)= 4個。② 誤り。CsCl型の配位数はともに8(立方体の8頂点に囲まれる)。③ 正しい。ZnS型(閃亜鉛鉱型)では Zn2+・S2− ともに配位数4。④ 誤り。単位格子中の陽イオン数と陰イオン数の比は組成式の比と一致する。⑤ 誤り。r+/r− が大きいほど、より多くの陰イオンを安定に配置できる(配位数が大きくなる)。
一辺の長さが 0.564 nm の塩化ナトリウム NaCl の単位格子について、以下の問いに答えよ。 ただし、アボガドロ定数を 6.0 × 1023/mol、Na の原子量を 23、Cl の原子量を 35.5 とする。
(1) Na+ のイオン半径を 0.116 nm とするとき、Cl− のイオン半径 [nm] を求めよ。
(2) NaCl の結晶の密度 [g/cm3] を求めよ。(5.642 = 31.8、31.8 × 5.64 = 179 を用いてよい)
(1) Cl− の半径 = 0.166 nm
(2) 密度 = 2.2 g/cm3
(1) NaCl型では Na+ と Cl− が接しており、隣接イオンの中心間距離 = 一辺の長さ/2 です。
Na+ の半径 + Cl− の半径 = 0.564/2 = 0.282 nm
Cl− の半径 = 0.282 − 0.116 = 0.166 nm
(2) 単位格子中:NaCl が4式量分含まれる(Na+ 4個・Cl− 4個)。
質量 = (23 + 35.5) × 4 ÷ (6.0 × 1023) = 58.5 × 4 ÷ (6.0 × 1023) = 3.90 × 10−22 g
体積 = (5.64 × 10−8)3 = 179 × 10−24 = 1.79 × 10−22 cm3
密度 = 3.90 × 10−22 ÷ 1.79 × 10−22 ≈ 2.18 ≈ 2.2 g/cm3
NaCl 型と CsCl 型のイオン結晶の安定性について、以下の問いに答えよ。
(1) イオン結晶が安定であるための条件を2つ述べよ。
(2) NaCl型の限界半径比が √2 − 1(≈ 0.414)になることを、単位格子の面の断面図(正方形)を用いて導け。ただし、陽イオンの半径を r+、陰イオンの半径を r− とし、限界状態では Na+−Cl− が接し、Cl−−Cl− も接しているものとする。
(3) CsCl 型(配位数8)の方が NaCl 型(配位数6)より安定となる半径比 r+/r− の条件を述べよ。
(1) ①陽イオンと陰イオンはできるだけ多く接する(引力を最大化)。②同符号のイオンどうしは接しない(反発力を最小化)。
(2) NaCl型の正方形断面(Na+ が中心、Cl− が上下左右)で、Na+−Cl− が接するとき一辺 = 2(r+ + r−)。Cl−−Cl− が接する限界では対角線 = 4r−。正方形の対角線 = √2 × 一辺より、4r− = √2 × 2(r+ + r−)。整理すると、r+/r− = √2 − 1 ≈ 0.414。
(3) r+/r− ≥ 0.732(CsCl型の限界半径比以上のとき)
(1) イオン結晶の安定性は、陽イオン−陰イオン間の引力(クーロン引力)と、同符号イオン間の反発力のバランスで決まります。引力を大きくするには配位数を大きくして多くのイオンを接触させることが有効ですが、同符号イオンが接触すると反発力が急増します。
(2) NaCl型単位格子の(001)断面を考えると、中央に Na+(半径 r+)、辺の中点に4個の Cl−(半径 r−)が位置する正方形です。正方形の一辺 = 2(r+ + r−)(Na+−Cl− 接触条件)。限界状態では対角線上の Cl−−Cl− が接するので対角線 = 4r−。対角線 = √2 × 一辺 より 4r− = 2√2(r+ + r−)。∴ r+/r− = √2 − 1 ≈ 0.414。
(3) r+/r− が 0.414 ~ 0.732 の範囲では NaCl 型(6配位)が安定です。r+/r− ≥ 0.732 になると CsCl 型(8配位)がより安定になります。実際に Cs+/Cl− の半径比は約1.08で0.732を大幅に超えており、CsCl が8配位の構造をとることと整合します。