無機化学の第2節では、非金属元素を族ごとに系統的に学びます。
まず「非金属とは何か」を電子配置から整理し、最も軽い元素・水素と、最も反応しない元素群・希ガスを押さえましょう。
「暗記の羅列」ではなく「電子配置と周期律」を軸に読み進めてください。
元素は単体の性質によって金属元素と非金属元素に分類されます。周期表で見ると、非金属元素は右上のエリア(14〜17族と18族の希ガス)に集中しています(水素 H は例外的に1族の位置にありますが非金属です)。
金属元素の原子は電子を失って陽イオンになりやすい(陽性)。これに対して非金属元素の原子は電子を受け取って陰イオンになりやすい(陰性)性質をもちます。陰性の傾向は、希ガスを除いて周期表の右上に位置する元素ほど大きくなります。
非金属元素どうしは、互いに電子を共有して共有結合をつくります。金属元素が電子を放出してイオン結合を形成するのと対照的です。たとえば水 H2O、アンモニア NH3、塩化水素 HCl はすべて非金属元素どうしの共有結合からなる化合物です。
分子内の原子が共有電子対を引き寄せる強さを電気陰性度といいます。希ガスを除くと、周期表の右上に位置する元素ほど電気陰性度が大きくなります。最大は F(フッ素)の 4.0 で、次いで O(3.4)、N(3.0)、Cl(3.0)と続きます。
電気陰性度の差が大きい原子間では共有結合が強く分極し、分子の極性を生み出します。これが水素結合や分子間の静電気的相互作用の源になります。
右上に位置するほど原子半径が小さく、核が最外殻電子を強く引きつけます。その結果、電子親和力・電気陰性度が大きくなり、共有結合での電子対の引き寄せも強くなります。「非金属」の性質はすべてここから導けます。
水素 H2 は無色・無臭で水に溶けにくく、すべての気体のなかで最も軽い(モル質量 2.0 g/mol)気体です。沸点は −253 ℃で、液体水素は極低温冷却剤として利用されます。常温では比較的安定ですが、点火すると酸素と爆発的に反応して水を生じます。
2H2 + O2 → 2H2O (点火で爆発的に反応)
実験室では、イオン化傾向の比較的大きい金属(Zn、Fe など)に希硫酸や塩酸などを加えると発生します。
Zn + H2SO4 → ZnSO4 + H2↑
工業的には、天然ガス(主成分メタン CH4)を高温の水蒸気と反応させる水蒸気改質法で製造されます。また、水の電気分解(陰極側)でも得られます。
CH4 + H2O → CO + 3H2 (水蒸気改質)
水素は多くの非金属元素と反応して水素化合物をつくります。いずれも分子からなり、常温・常圧では気体のものが多いです。
| 族 | 14族 | 15族 | 16族 | 17族 |
|---|---|---|---|---|
| 第2周期 | CH4(メタン) | NH3(アンモニア) | H2O(水) | HF(フッ化水素) |
| 第3周期 | SiH4(シラン) | PH3(ホスフィン) | H2S(硫化水素) | HCl(塩化水素) |
| 分子の形 | 正四面体形 | 三角錐形 | 折れ線形 | 直線形 |
NH3、H2O、HF は、同族の水素化合物に比べて沸点が異常に高い。これは N、O、F の電気陰性度が高く、分子間に水素結合が形成されるためです(→ 3-5「分子間力」参照)。
また、水素は陽性の強い金属(Na、Ca など)とも反応して、水素化ナトリウム NaH のような金属の水素化物をつくります。このとき水素は水素化物イオン H− として存在します。
水素は燃焼しても水 H2O しか生成しないため、CO2 を排出しないクリーンな燃料として注目されています。燃料電池では、水素の化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換します(→ 12-2「実用電池」参照)。取り扱いと貯蔵技術の整備が普及の課題です。
周期表の18族に属する元素を希ガス(貴ガスともいう)といいます。He、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn がこれに属します。希ガスの原子は、He では最外殻に 2 個、それ以外では 8 個の電子をもつ閉殻構造をとっています。
この電子配置は非常に安定なため、希ガスは他の原子と結合したりイオンになることはほとんどありません。そのため単原子分子として空気中に少量含まれ、いずれも沸点が低い無色・無臭の気体です。
| 元素 | 記号 | 原子番号 | 沸点 [℃] | 乾燥空気中の存在量 [体積%] |
|---|---|---|---|---|
| ヘリウム | He | 2 | −269 | 0.000524 |
| ネオン | Ne | 10 | −246 | 0.00182 |
| アルゴン | Ar | 18 | −186 | 0.934 |
| クリプトン | Kr | 36 | −152 | 0.000114 |
| キセノン | Xe | 54 | −107 | 0.0000087 |
アルゴン Ar は空気中に窒素・酸素についで多く含まれます(約 0.93%)。一方、ヘリウム He は天然ガスの地層からメタンとともに産出します。
※ただしキセノン Xe はフッ素 F2 と反応して XeF2、XeF4 などの化合物をつくります。F の酸化力が極めて強いためです。これは「希ガスは絶対に反応しない」というのが厳密には正しくないことを示しています。
英語では "noble gas"(高貴な気体 = 反応しない)という表現が一般的です。日本語の「希ガス」は、空気中の存在量が希少であると考えられたことに由来します。ただしアルゴン Ar は空気中に約 0.93% 含まれ、必ずしも希少ではありません。現在は「貴ガス」と呼ぶことも多く、教科書によって表記が異なります。
非金属元素の学習は無機化学の根幹です。各元素の知識は理論化学・有機化学とも深くつながっています。
Q1. 非金属元素が周期表の「右上」に集中する理由を、原子半径と電気陰性度の観点から述べよ。
Q2. 実験室で水素を発生させるための操作を、化学反応式を含めて説明せよ。
Q3. 希ガスが単原子分子として存在し、他の原子と結合しにくい理由を電子配置から説明せよ。
Q4. ヘリウムが飛行船に使われる理由を、水素との比較も含めて述べよ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
非金属元素および水素・希ガスに関する記述として誤っているものを、次の①〜⑤から1つ選べ。
⑤
⑤が誤り。キセノン Xe はフッ素 F2 と反応して XeF2、XeF4 などの化合物をつくります。フッ素の酸化力が極めて強いため、希ガスでも反応が起こり得ます。「希ガスは絶対に反応しない」は正確ではありません。
①〜④はすべて正しい。②について、H2 のモル質量は 2.0 g/mol で気体の中で最小です。
水素の製法と性質に関する以下の問いに答えよ。
(1) 実験室での水素の製法を化学反応式で示せ(亜鉛と希硫酸を用いる場合)。
(2) 水素が酸化銅(II) CuO を還元するときの化学反応式を書け。
(3) 水素は水上置換で捕集できる。その理由を述べよ。
(1) Zn + H2SO4 → ZnSO4 + H2↑
(2) CuO + H2 → Cu + H2O
(3) 水素は水にほとんど溶けないため、水上置換による捕集が可能。また、水素は空気より軽いため上方置換も使えるが、水素の純度を高くしたい場合は水上置換が適している。
(2) この反応では H2 が酸化数を 0 から +1 に変え(酸化)、Cu が +2 から 0 に変わる(還元)。CuO の黒色が Cu の赤銅色に変化するため、目視で確認できます。
(3) 水上置換は「水に溶けにくい気体」に使える捕集法。水素は水に溶けにくく(ヘンリーの法則でも溶解量は非常に少ない)、水上置換に適しています。
非金属元素の水素化合物について、以下の問いに答えよ。原子量は H=1.0、N=14、O=16、F=19、S=32、Cl=35.5 とする。
(1) 16族の水素化合物 H2O と H2S を比較する。H2O の沸点(100℃)は H2S の沸点(−61℃)よりはるかに高い。この理由を分子間力の観点から説明せよ。
(2) NH3、H2O、HF はいずれも分子間に水素結合を形成する。これら3種の中で沸点が最も高いのはどれか。また、それはなぜか。
(3) 希ガスの沸点は He(−269℃)から Rn(−62℃)へと原子番号の増加とともに上昇する。この傾向を分子間力の観点から説明せよ。
(1) H2O 分子間には O の高い電気陰性度による強い水素結合(O−H···O)が形成されるが、H2S 分子間には水素結合が形成されず(S の電気陰性度が小さいため)、弱いファンデルワールス力のみである。そのため H2O の沸点が著しく高い。
(2) H2O(沸点 100℃)。1 分子の H2O は 4 本の水素結合を形成でき(2本のO−Hで供与、孤立電子対2組で受容)、他の2者よりも分子間の引力が強いため。
(3) 希ガスは単原子分子で分子間に作用するのはファンデルワールス力のみ。原子番号が増すと電子数が増え、電子雲が大きくなるほど瞬間双極子による分散力(ファンデルワールス力の一種)が強まり、沸点が上昇する。
(1) S の電気陰性度(2.5)は O(3.4)よりずっと小さく、H−S 結合はほとんど分極しないため、H2S 分子間に水素結合は生じません。分子量(H2O=18、H2S=34)から考えるとファンデルワールス力は H2S の方が強いはずですが、それを上回る水素結合が H2O にあるため沸点が逆転しています。
(2) 1 個の H2O 分子は 2 個の H−O 結合(水素結合の供与)と 2 組の孤立電子対(受容)をもつため、最大 4 本の水素結合を形成できます。NH3(3本供与・1組受容で最大4本だが幾何的に3本が限界)や HF(1本供与・3組受容だが通常2本程度)と比べ、3次元網目状に広がる水素結合ネットワークが H2O の沸点を最も高くします。
(3) ファンデルワールス力(ロンドン分散力)は電子数・分極率が大きいほど強くなります。原子番号が大きくなるほど電子数が増えて原子半径も大きくなるため、瞬間的な電荷の偏りが大きくなり分散力が増大します。