ハロゲン元素(F, Cl, Br, I)は、最外殻に電子が7個あり、あと1個で希ガス型の電子配置になります。
この「電子を1個奪いたい」という性質が、ハロゲンのすべての化学反応の根底にあります。
この記事では、4つのハロゲン単体の性質を「原子半径の増大」という1つの原理から統一的に理解します。
ハロゲン元素(17族)は、最外殻電子が7個です。希ガス型の安定な電子配置(8個)まであと1個足りないため、他の原子から電子を1個奪い取って1価の陰イオン(F−, Cl−, Br−, I−)になりやすい性質をもっています。
この「電子を奪う力」こそが酸化力であり、ハロゲンが強い酸化剤として働く理由です。
F2、Cl2、Br2、I2 の4つのハロゲン単体を並べると、周期表を下に行くほど性質が規則的に変化します。
| 単体 | 色 | 状態(常温) | 融点 | 沸点 | 酸化力 | 電気陰性度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| F2 | 淡黄色 | 気体 | −220℃ | −188℃ | 最大 | 4.0 |
| Cl2 | 黄緑色 | 気体 | −101℃ | −34℃ | 大 | 3.2 |
| Br2 | 赤褐色 | 液体 | −7℃ | 59℃ | 中 | 3.0 |
| I2 | 黒紫色 | 固体 | 114℃ | 184℃ | 小 | 2.7 |
この表に見られる2つの傾向は、どちらも原子半径の増大から説明できます。
周期表を下に行くほど電子殻の数が増え、原子半径が大きくなります。原子核と最外殻電子の距離が遠くなるうえ、内殻電子による遮蔽効果が大きくなるため、最外殻に電子を引きつける力(=電気陰性度)が弱まります。電子を奪う力が弱まるので、酸化力は低下します。
ハロゲン単体はすべて無極性分子なので、分子間に働く力はファンデルワールス力(分散力)です。原子半径が大きくなると電子の総数が増え、電子雲が大きく偏りやすくなるため、分散力が強くなります。分子間力が強いほど固体・液体の状態を保ちやすいので、融点・沸点は上昇します。
ハロゲン単体の性質の周期的変化は、すべて「原子半径が大きくなる」という1つの事実から導けます。原子半径が増大すると、(1) 核の引力が遮蔽されて電気陰性度が下がり酸化力が低下する、(2) 電子数の増加でファンデルワールス力が強まり融点・沸点が上昇する。個々の数値を暗記するのではなく、この原理を理解すれば、表の傾向を自力で再現できます。
フッ素は全元素中で最大の電気陰性度(4.0)をもち、最も強い酸化力を示します。ほぼすべての元素と直接反応し、希ガスの一部(XeやKr)とさえ化合物をつくります。
フッ素は水とも激しく反応します。
2F2 + 2H2O → 4HF + O2
この反応では、水中の酸素が酸化されて O2 が発生しています。水から酸素を奪えるほどの酸化力をもつハロゲンはフッ素だけです。
F2 の結合エネルギー(155 kJ/mol)は Cl2(242 kJ/mol)より小さい値です。これは、F原子が小さすぎるために、結合電子対どうしの反発(非共有電子対間の反発)が大きいためです。F−F結合が弱いことも、F2 の反応性が極めて高い一因です。
塩素は黄緑色で刺激臭をもつ有毒な気体です。水に少し溶けて、次亜塩素酸を生成します。
Cl2 + H2O ⇄ HCl + HClO
生じた次亜塩素酸 HClO は強い酸化力をもち、これが塩素水の漂白作用や殺菌作用の本体です。塩素自体が直接漂白するのではなく、水と反応して生じた HClO が色素の分子構造を酸化的に破壊します。
漂白作用の本体は HClO です。乾燥した塩素ガスには水が存在しないため HClO が生成せず、漂白作用を示しません。湿った赤色リトマス紙は脱色されますが、乾いた赤色リトマス紙は脱色されません。この事実は、漂白の本体が Cl2 ではなく HClO であることの証拠です。
臭素は常温で赤褐色の液体であり、常温で液体である唯一の非金属単体です(金属では水銀 Hg が液体)。揮発性が高く、赤褐色の蒸気を発します。
臭素の水溶液(臭素水)は、有機化学でアルケンの二重結合の検出に用いられます。二重結合をもつ化合物を臭素水に加えると、臭素が付加反応を起こして消費され、溶液の赤褐色が脱色されます。
ヨウ素は黒紫色の固体で、昇華性をもちます。加熱すると液体にならず直接気体になり、紫色の蒸気を生じます。
ヨウ素の最も特徴的な反応はヨウ素デンプン反応です。ヨウ素溶液にデンプンを加えると青紫色を呈します。これはヨウ素分子(I2)がデンプンのらせん構造の内部に入り込んで包接錯体を形成するためです。この反応はデンプンの検出やヨウ素の検出に広く利用されます。
I2 は分子量が大きい(254)にもかかわらず昇華しやすいのは、分子結晶の結晶格子エネルギーと蒸気圧の関係によります。I2 結晶は分子間力のみで結合しているため、格子エネルギーが比較的小さく、固体から直接気体になるだけの蒸気圧を常温付近で示します。
ハロゲン単体の酸化力の大小は次のとおりです。
F2 > Cl2 > Br2 > I2
酸化力が強いハロゲンは、酸化力が弱いハロゲンの陰イオンから電子を奪い取って、単体に戻すことができます。この反応をハロゲンの置換反応と呼びます。
塩素水に臭化カリウム水溶液を加えると、塩素が臭化物イオンから電子を奪い、臭素が遊離します。
Cl2 + 2KBr → 2KCl + Br2(溶液が褐色に変化)
同様に、塩素水にヨウ化カリウム水溶液を加えると、ヨウ素が遊離します。
Cl2 + 2KI → 2KCl + I2(溶液が褐色に変化)
臭素水にヨウ化カリウム水溶液を加えた場合も、同様の置換反応が起きます。
Br2 + 2KI → 2KBr + I2
逆方向の反応は起きません。たとえば、I2 が Cl− から電子を奪って Cl2 を生成することはありません。酸化力が弱い方が強い方のイオンを酸化することはできないからです。
「上のハロゲンは、下のハロゲンのイオンから電子を奪える」と覚えてください。周期表で上にあるハロゲンほど酸化力が強いので、上→下の方向の置換反応は進行しますが、下→上の方向は進行しません。
実験室では、酸化マンガン(IV)に濃塩酸を加えて加熱することで塩素を発生させます。
MnO2 + 4HCl → MnCl2 + 2H2O + Cl2↑(加熱)
この反応では、MnO2 が酸化剤として HCl を酸化し、Cl2 を発生させています。高度さらし粉 Ca(ClO)2・CaCl2 に塩酸を加えても塩素が発生します。
発生した塩素ガスには HCl と水蒸気が不純物として含まれています。精製は次の2段階で行います。
精製した塩素は下方置換で捕集します。塩素は空気より重い(分子量71 > 空気の平均分子量29)ためです。
※ 順序を逆にすると、濃硫酸がHClも吸収してしまい、乾燥剤としての効率が落ちます。また、HClが残った状態で捕集すると不純物混入の原因になります。
工業的には、塩化ナトリウム水溶液の電気分解(食塩電解)によって塩素を製造します。陽極で塩化物イオンが酸化されて Cl2 が発生し、陰極で水が還元されて H2 と OH− が生成します。副産物として水酸化ナトリウム NaOH が得られるため、この電解は工業的に非常に重要です。
ハロゲン単体の性質は、電子配置・酸化還元・分子間力など化学の多くの分野と密接につながっています。以下に、ここでの知識が他の章とどうつながるかを整理します。
次の記事では、ハロゲン化水素(HF, HCl, HBr, HI)の性質と、次亜塩素酸塩などのハロゲンの化合物を扱います。ハロゲン単体の酸化力の違いが、化合物の性質にどう反映されるかを見ていきます。
Q1. ハロゲン単体の酸化力が F2 > Cl2 > Br2 > I2 の順に弱くなる理由を、原子の構造から説明してください。
Q2. 乾燥した塩素ガスに漂白作用がないのはなぜですか。
Q3. 臭素水にヨウ化カリウム水溶液を加えるとどのような変化が起きますか。反応式も書いてください。
Q4. 塩素の実験室的製法で、精製の際に水→濃硫酸の順で洗浄する理由を説明してください。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
ハロゲンに関する次の記述のうち、正しいものをすべて選べ。
①③④
① 正しい。フッ素の電気陰性度は4.0で全元素中最大です。② 誤り。塩素は「黄緑色」の気体であり、水に少し溶けて塩素水となります。③ 正しい。臭素は常温で唯一の液体非金属単体です。④ 正しい。ヨウ素は昇華性をもち、紫色の蒸気を生じます。⑤ 誤り。ハロゲンの酸化力は原子番号が大きいほど弱くなります(F2 > Cl2 > Br2 > I2)。
塩素を水に溶かした塩素水には漂白作用がある。以下の問いに答えよ。
(1) 塩素が水に溶けるときの化学反応式を書け。
(2) 漂白作用の本体は何か。物質名と化学式を答えよ。
(3) 乾燥した塩素ガスには漂白作用がないことを、(1)(2)の結果を用いて60字以内で説明せよ。
(1) Cl2 + H2O ⇄ HCl + HClO
(2) 次亜塩素酸 HClO
(3) 乾燥した塩素には水がないため、Cl2と H2Oの反応が起こらずHClOが生成しないので、漂白作用を示さない。(52字)
塩素は水に溶けると一部が水と反応して塩化水素 HCl と次亜塩素酸 HClO を生じます。この反応は可逆反応であり、完全には進行しません。漂白・殺菌の本体は HClO の強い酸化力であり、HClO が色素分子の結合を酸化的に切断することで脱色が起こります。乾燥した塩素ガスには水がないため HClO が生成せず、漂白作用を示しません。
ハロゲン単体 X2(X = F, Cl, Br, I)に関する以下の問いに答えよ。
(1) ハロゲン単体の融点・沸点が F2 < Cl2 < Br2 < I2 の順に高くなる理由を、分子間力の観点から50字以内で説明せよ。
(2) 塩素水に臭化カリウム水溶液を加えたときの変化を化学反応式で示し、この反応が進行する理由を酸化力の大小を用いて説明せよ。
(3) ヨウ素水にフッ化カリウム水溶液を加えても反応は進行しない。その理由を述べよ。
(1) 分子量が大きいほど電子数が多く、ファンデルワールス力が強くなるため融点・沸点が上昇する。(43字)
(2) Cl2 + 2KBr → 2KCl + Br2(溶液が褐色に変化)。塩素は臭素より酸化力が強いため、Br− から電子を奪って Br2 を遊離させることができる。
(3) I2 の酸化力は F− を酸化するには不十分である。酸化力の弱いハロゲンが酸化力の強いハロゲンのイオンから電子を奪うことはできないため、反応は進行しない。
(1) ハロゲン単体はいずれも無極性分子であり、分子間に働く力はファンデルワールス力(分散力)のみです。F2(分子量38)< Cl2(71)< Br2(160)< I2(254)と分子量が大きくなるほど電子の総数が増え、瞬間的な電荷の偏り(分極)が生じやすくなるため、分散力が増大します。分子間力が強いほど固体・液体の状態を保つのに必要なエネルギーが大きいので、融点・沸点が上昇します。
(2) ハロゲンの酸化力は F2 > Cl2 > Br2 > I2 です。Cl2 は Br2 より酸化力が強いので、Br− から電子を奪って Br2 を遊離させます。これは「酸化力の強いハロゲンが、弱いハロゲンのイオンを酸化する」という置換反応の典型例です。
(3) I2 はハロゲン単体の中で最も酸化力が弱く、F− はハロゲン化物イオンの中で最も酸化されにくい(F の電気陰性度が最大であるため)ものです。酸化力の弱い I2 が、酸化されにくい F− から電子を奪うことは不可能であり、反応は進行しません。