硫酸 H2SO4 は工業的に最も多く生産される化合物の一つで、「化学工業の王」とも呼ばれます。
濃硫酸の4つの特性(不揮発性・吸湿性・脱水作用・酸化作用)と、工業的製法である接触法を、
なぜそうなるかの「理由」とともに理解しましょう。
希硫酸は強酸(2価の強酸)で、電離度が高く、水溶液中でほぼ完全に H+ を放出します。鉄や亜鉛などのイオン化傾向の大きい金属と反応して水素 H2 を発生します。
Zn + H2SO4 → ZnSO4 + H2↑
硫酸イオン SO42− は Ba2+ と反応して白色の硫酸バリウム BaSO4 の沈殿を生じます。これが硫酸(硫酸イオン)の検出反応です。
市販の濃硫酸は濃度約98%、密度約1.83 g/cm3、モル濃度約18 mol/L の粘性のある無色の液体です。4つの重要な特性があります。
| 特性 | 内容 | 入試頻出事項 |
|---|---|---|
| ① 不揮発性 | 沸点が非常に高く(約337℃)、常温では蒸発しない | 揮発性の酸の塩(NaCl、NaNO3等)に加えて加熱すると、揮発性の酸を追い出す |
| ② 吸湿性 | 水蒸気を強く吸収する | 気体の乾燥剤として使用(ただし塩基性・還元性気体には使えない) |
| ③ 脱水作用 | 有機化合物から H と O を H2O の組成比で奪う | スクロース(砂糖)C12H22O11 に加えると炭素 C が残る |
| ④ 酸化作用(熱濃硫酸のみ) | 加熱した濃硫酸は強い酸化剤になる | Cu、Ag など(水素より下の金属も)と反応して SO2 を発生 |
希硫酸は強酸としてはたらき、イオン化傾向の大きい金属(Zn、Fe など)と H2 を発生します。一方、熱濃硫酸は酸化剤としてはたらき、Cu や Ag のような水素より下の金属とも反応し、H2 ではなく SO2 を発生させます。同じ「硫酸」でも濃度・温度で全く異なる反応をすることを押さえましょう。
濃硫酸は揮発性の酸の塩に加えて加熱すると、揮発性の酸を遊離させます。
接触法(contact process)は、硫黄または硫化鉱石を出発原料とし、3段階で硫酸を製造する工業的製法です。
ステップ1:SO2 の製造 硫黄を燃焼させる(または硫化鉄鉱を焙焼する)。
S + O2 → SO2
4FeS2 + 11O2 → 2Fe2O3 + 8SO2 (黄鉄鉱の焙焼)
ステップ2:SO3 への酸化 酸化バナジウム(V) V2O5 を触媒として、SO2 を酸化する。
2SO2 + O2 (V2O5 触媒、約400〜600℃) ⇄ 2SO3
ステップ3:H2SO4 の生成 SO3 を濃硫酸に吸収させて発煙硫酸にし、これを希硫酸で薄める。
SO3 + H2O → H2SO4
発煙硫酸は H2SO4・SO3 の混合物で、水を加えると高濃度の硫酸が得られます。
ステップ2の SO2 → SO3 は発熱反応(⇄)です。ルシャトリエの原理から、低温の方が SO3 の生成率は上がりますが、低温では反応速度が遅くなります。V2O5 触媒を使うことで、400〜600℃という比較的低い温度でも十分な反応速度を確保しています。触媒は「平衡の位置を変えずに、平衡に達するまでの速度を上げる」のが役割です。
加熱した濃硫酸は強い酸化剤としてはたらき、希硫酸では溶けない銅 Cu や銀 Ag などの金属とも反応します。生成する気体は H2 ではなく SO2 です。
Cu + 2H2SO4(濃、熱) → CuSO4 + 2H2O + SO2↑
2Ag + 2H2SO4(濃、熱) → Ag2SO4 + 2H2O + SO2↑
この反応では硫酸が酸化剤として Cu を Cu2+ に酸化する一方、SO42−(S の酸化数+6)が SO2(S の酸化数+4)に還元されています。
スクロース C12H22O11 に濃硫酸を加えると、H と O が H2O の割合(H:O = 2:1)で奪われ、黒色の炭素 C が残ります。これは酸化反応ではなく、脱水反応です。
C12H22O11 (H2SO4(濃)) → 12C + 11H2O
濃硫酸は沸点が高い(不揮発性)ため、揮発性の酸の塩に加えると「強酸(濃硫酸)が弱酸の塩や揮発性の酸の塩から、揮発性の酸を追い出す」反応が起こります。
硫酸は無機化学の中心的な存在です。硫黄の化合物全体の流れを「酸化数の変化」で整理しましょう。
Q1. 接触法の3つのステップを、化学反応式を用いて順に示せ。
Q2. 濃硫酸が気体の乾燥剤として使えない気体を2つ挙げ、それぞれ理由を説明せよ。
Q3. 銅に希硫酸を加えても反応しないが、熱濃硫酸を加えると溶ける。この理由を、反応の種類に着目して説明せよ。
Q4. スクロース C12H22O11 に濃硫酸を加えると黒色固体が残る。この反応の名称と化学反応式を示せ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
濃硫酸の性質に関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。
③④⑤
①が誤り。NH3 は塩基性で濃硫酸(酸性)と反応するため、乾燥剤として使用できません。
②が誤り。銅は水素よりイオン化傾向が小さいため、希硫酸とは反応しません(H2 は発生しない)。
③正しい。不揮発性の濃硫酸が揮発性の酸(HCl)を追い出します:NaCl + H2SO4(濃)→ NaHSO4 + HCl↑
④正しい。接触法のステップ2の反応です。
⑤正しい。Cu + 2H2SO4(濃・熱)→ CuSO4 + 2H2O + SO2↑
硫酸の製法(接触法)について、以下の問いに答えよ。
(1) 接触法のステップ2の反応を化学反応式で示し、使用する触媒名を書け。
(2) ステップ2の反応の平衡において、生成率を上げるために温度と圧力をどのように設定するのが理論的に有利か。また、工業的に高温が使われる理由を説明せよ。
(3) SO3 を水に直接吸収させず、濃硫酸に吸収させる理由を述べよ。
(1) 2SO2 + O2 ⇄ 2SO3 触媒:酸化バナジウム(V) V2O5
(2) 理論的には低温・高圧の方が SO3 の生成率は上がる(発熱反応なので低温が有利、気体の物質量が減少する方向なので高圧が有利)。工業的に高温が使われる理由は、低温では反応速度が遅すぎて実用的な生産速度にならないため。触媒(V2O5)を使って反応速度を確保しながら、400〜600℃で操業する。
(3) SO3 を水に直接吸収させると反応が激しく、硫酸の微小なミストが発生して回収できず大気中に散逸するため。
(2) ルシャトリエの原理の応用問題です。2SO2 + O2 ⇄ 2SO3 + 熱 において、①発熱方向(右向き)を促進するには温度を下げる(低温有利)、②気体分子数が左辺3モル→右辺2モルと減少するので、加圧すると右向きに移動する(高圧有利)。しかし実際の工業では反応速度も重要で、触媒使用+適度な高温(400〜600℃)でバランスをとる。
原子量を H=1.0、O=16、S=32、Cu=64 として答えよ。
(1) 銅 Cu 3.20 g を熱濃硫酸と反応させ、発生した SO2 を標準状態(0℃、1.013×105 Pa)で捕集した。発生した SO2 の体積を求めよ。
(2) 接触法のステップ2の反応(2SO2 + O2 ⇄ 2SO3)において、SO2 の変化率(転化率)が 95% であるとき、SO2 と O2 の物質量比が 2:1 の混合気体を出発原料とした場合、平衡時の SO3 の体積百分率(モル分率×100)を求めよ。ただし SO2 の初期物質量を 2 mol、O2 を 1 mol とする。
(1) Cu の物質量 = 3.20 ÷ 64 = 0.0500 mol。Cu + 2H2SO4(濃)→ CuSO4 + 2H2O + SO2 より、SO2 = 0.0500 mol。標準状態での体積 = 0.0500 × 22.4 = 1.12 L
(2) SO2 初期 2 mol、反応量 2×0.95 = 1.90 mol。
変化量:SO2 −1.90 mol、O2 −0.95 mol、SO3 +1.90 mol。
平衡時:SO2 = 0.10 mol、O2 = 0.05 mol、SO3 = 1.90 mol、合計 = 2.05 mol。
SO3 の体積百分率 = 1.90 / 2.05 × 100 ≈ 92.7%
(1) 化学量論比から Cu:SO2 = 1:1 の関係を反応式から読み取ることが鍵。「標準状態1 mol = 22.4 L」を確実に適用する。
(2) ICE(Initial-Change-Equilibrium)表を使って物質量の変化を追います。転化率95%とは SO2 の95%が反応したことを意味します。合計 mol 数の減少(3 mol → 2.05 mol)に注意。体積百分率は mol 分率と等しい(気体の場合)。