複数の金属イオンが混合した水溶液から、特定の試薬を順番に加えて1種ずつ沈殿させ、分離・確認する操作を系統分離といいます。
「どの試薬を加えると、どのイオンが、どんな色で沈殿するか」という対応表と、操作の順序の論理を理解することが、この分野の核心です。
未知の水溶液にどのような金属イオンが含まれているかを調べる操作を金属イオンの定性分析といいます。複数のイオンが混在する場合は、分属試薬を決まった順序で加え、沈殿を生じたイオンを順次ろ過して分離します。この一連の操作を系統分離(系統的定性分析)といいます。
異なる金属イオンは、塩化物・硫化物・水酸化物・炭酸塩などの溶解度が大きく異なります。pH や試薬の種類を変えることで、溶けるイオンと沈殿するイオンを選別的に分けることができます。操作は必ず溶けやすいもの(沈殿しにくいもの)を後回しにする順序で設計されています。
高校化学では Ag+、Pb2+、Cu2+、Fe3+、Al3+、Zn2+、Ni2+、Mn2+、Ca2+、Ba2+、Na+、K+ の12種の金属イオンを5つのグループ(族)に分けて系統的に分離します。
| 族 | 分属試薬 | 沈殿するイオン | 沈殿の名称・色 |
|---|---|---|---|
| 第1族 | 希塩酸 HCl aq | Ag+、Pb2+ | AgCl(白)、PbCl2(白) |
| 第2族 | H2S(酸性条件) | Cu2+、Hg2+、Cd2+ | CuS(黒)、HgS(黒)、CdS(黄) |
| 第3族 | NH3 水(過剰) | Fe3+、Al3+ | 水酸化鉄(III) Fe(OH)3(赤褐)、Al(OH)3(白) |
| 第3族(続) | H2S(塩基性条件) | Zn2+、Ni2+、Mn2+ | ZnS(白)、NiS(黒)、MnS(淡赤) |
| 第4族 | (NH4)2CO3 aq | Ca2+、Ba2+ | CaCO3(白)、BaCO3(白) |
| 第5族 | (残留) | Na+、K+ | 沈殿しない → 炎色反応で確認 |
希塩酸を加えると、Ag+ と Pb2+ が塩化物として沈殿します。残りのイオンはろ液に移行します。
Ag+ + Cl− → AgCl↓(白色)
Pb2+ + 2Cl− → PbCl2↓(白色)
AgCl は熱水でも溶けませんが、PbCl2 は熱水に溶けることで識別できます。また PbCl2 を含む溶液にクロム酸カリウム K2CrO4 を加えると、PbCrO4(黄色沈殿)が生成します。
酸性条件では硫化物イオン S2− の濃度が低いため、溶解度積が非常に小さい Cu2+、Hg2+、Cd2+ のみが硫化物として沈殿します。
Cu2+ + H2S → CuS↓(黒色)+ 2H+
過剰のアンモニア水を加えると、Fe3+ と Al3+ が水酸化物として沈殿します。一方、Cu2+ や Zn2+ は過剰 NH3 に錯イオンを形成して溶けますが、第2族操作で既に除かれています。
Fe3+ + 3OH− → Fe(OH)3↓(赤褐色)
Al3+ + 3OH− → Al(OH)3↓(白色)
さらに塩基性条件で H2S を通じると、Zn2+、Ni2+、Mn2+ が硫化物として沈殿します。
Zn2+ + H2S → ZnS↓(白色)+ 2H+
Ni2+ + H2S → NiS↓(黒色)+ 2H+
Mn2+ + H2S → MnS↓(淡赤色)+ 2H+
炭酸アンモニウム (NH4)2CO3 水溶液を加えると、Ca2+ と Ba2+ が炭酸塩として沈殿します。
Ca2+ + CO32− → CaCO3↓(白色)
Ba2+ + CO32− → BaCO3↓(白色)
Ca2+ と Ba2+ の識別:ろ液を加熱後、希硫酸を加えると BaSO4(白色沈殿)が生成し Ba2+ を確認できます(CaSO4 も沈殿するが溶解度が大きいため少量のみ)。
すべての操作後に残ったろ液には Na+ と K+ が含まれます。これらは沈殿を形成しないため、炎色反応で確認します。
Ag+、Cu2+、Fe3+、Zn2+、Ca2+、Na+ の6種を含む混合水溶液の系統分離を例として示します。
酸性 H2S でCuS 等を沈殿・ろ過した後、ろ液中に H2S が残っていると、次の操作[3](NH3 水)で溶液が塩基性になったときに Zn2+ も硫化物として沈殿してしまい、Fe3+ と一緒に沈殿して分離できなくなります。ろ液を加熱して H2S を完全に追い出すことが必須です。
AgCl と PbCl2 はどちらも白色沈殿です。識別方法:
| 沈殿 | 色 | 識別のポイント |
|---|---|---|
| CuS | 黒色 | 希硝酸に溶けて青色 Cu2+ 水溶液、過剰 NH3 で深青色 |
| HgS | 黒色 | 王水に溶ける(希硝酸では溶けない) |
| CdS | 黄色 | 色で識別できる |
| 沈殿 | 色 | 識別のポイント |
|---|---|---|
| Fe(OH)3 | 赤褐色 | 色で識別。KSCN 水溶液で血赤色に呈色(Fe3+ の検出反応) |
| Al(OH)3 | 白色 | 過剰 NaOH に溶ける(両性水酸化物)→ [Al(OH)4]− |
CaCO3 と BaCO3 はどちらも白色沈殿です。識別方法:
系統分離の各ステップは、対象イオンの塩の溶解度(溶解度積)の差を巧みに利用しています。第1族(Cl−)→ 第2族(S2−、酸性)→ 第3族(OH−、S2−塩基性)→ 第4族(CO32−)の順は、沈殿生成に必要なアニオン濃度の「大きさ順」に対応しています。より少ないアニオン濃度でも沈殿するグループを先に分離するのがポイントです。
Q1. 系統分離で最初に加える分属試薬は何か。また、その試薬で沈殿するイオンを2つ答えよ。
Q2. 酸性条件での H2S と、塩基性条件での H2S で沈殿するイオンが異なるのはなぜか。
Q3. 系統分離で Na+ と K+ を検出するために用いる操作は何か。
Q4. Fe(OH)3 と Al(OH)3 を区別するための操作を1つ答えよ。
次の(ア)〜(オ)の組み合わせのうち、分属試薬と生成する沈殿の組み合わせとして正しいものをすべて選べ。
(ア)・(ウ)・(エ)
(ア)正しい。Ag+ + Cl− → AgCl↓(白色)は第1族の基本反応。
(イ)誤り。ZnS(白色)は H2S 塩基性条件で生成。酸性 H2S では ZnS の溶解度積の条件を満たさず沈殿しない。
(ウ)正しい。過剰 NH3 水で Fe(OH)3(赤褐色)が沈殿する(第3族)。
(エ)正しい。(NH4)2CO3 aq で CaCO3(白色)が沈殿する(第4族)。
(オ)誤り。CuCl2 は水溶性であり、第1族 HCl aq では Cu2+ は沈殿しない。Cu2+ は第2族(H2S 酸性)で CuS(黒色)として沈殿する。
Ag+、Cu2+、Al3+、Ca2+ の4種の金属イオンを含む混合水溶液がある。この混合溶液に対し、以下の操作を行った。各操作で生じる沈殿の化学式と色を答えよ。
操作A:希塩酸を加え、沈殿をろ過する。
操作B:ろ液に酸性条件で H2S を通じ、沈殿をろ過する。加熱して H2S を追い出す。
操作C:ろ液に過剰のアンモニア水を加え、沈殿をろ過する。
操作D:ろ液に炭酸アンモニウム水溶液を加える。
操作A:AgCl(白色)
操作B:CuS(黒色)
操作C:Al(OH)3(白色)
操作D:CaCO3(白色)
操作A:Ag+ + Cl− → AgCl↓(白)。Cu2+・Al3+・Ca2+ の塩化物は水溶性のためろ液へ。
操作B:Cu2+ + H2S → CuS↓(黒)。酸性では Al3+・Ca2+ は硫化物沈殿を生じない。
操作C:Al3+ + 3OH− → Al(OH)3↓(白)。Ca2+ は水酸化物が水溶性のためろ液へ。
操作D:Ca2+ + CO32− → CaCO3↓(白)。
Ag+、Zn2+、Fe3+ の3種のイオンを含む混合水溶液から、各イオンを分離・確認する操作を述べよ。用いる試薬の順序と、各ステップで確認できるイオン(沈殿の色と名称)を含めること。
操作1:希塩酸を加える → AgCl(白色)が沈殿 → ろ過して Ag+ を分離。
操作2:ろ液に過剰のアンモニア水を加える → Fe(OH)3(赤褐色)が沈殿 → ろ過して Fe3+ を分離。Zn2+ は [Zn(NH3)4]2+ として溶解してろ液に残る。
操作3:ろ液に塩基性条件で H2S を通じる → ZnS(白色)が沈殿 → Zn2+ を確認。
ポイントは操作の順序の理由を説明できることです。
HCl を先に加えるのは:Ag+ は NH3 水で錯イオン [Ag(NH3)2]+ となって溶けてしまうため、先に HCl で AgCl として沈殿させる必要がある。
NH3 水(第3族)で Fe3+ を沈殿:Fe(OH)3 は赤褐色で視覚的に識別しやすい。Zn2+ は過剰 NH3 で [Zn(NH3)4]2+ を形成してろ液に残る。
塩基性 H2S でZn2+ を ZnS(白色)として回収。酸性条件では ZnS の溶解度積の条件を満たさないため、塩基性にする必要がある。