第18章 有機化合物の基礎

有機化合物の特徴と分類

有機化合物は炭素を骨格とした化合物で、現在1億種以上が知られています。
構成元素の種類は少ないのに、なぜこれほど多様な化合物が存在するのか。
炭素原子の結合の仕方と官能基という2つの軸で分類すれば、全体像が一気に見えてきます。

1有機化合物の定義と特徴

有機化合物とは、炭素原子を骨格として含む化合物のことです。かつては「生物だけがつくれる」と考えられていましたが、1828年にウェーラーが無機物から尿素 CO(NH2)2 を合成し、この考えは否定されました。

有機化合物の5つの特徴

特徴内容・理由無機物質との比較
構成元素が少ない C, H, O, N, S, P, ハロゲンがほとんど 無機物質は周期表の全元素を含み得る
種類が膨大 炭素の4価結合が連鎖・分岐・環状構造を生む 無機物質は数十万種程度
融点が低い 分子結晶が多く、分子間力が弱い 無機物質はイオン・共有結合結晶が多く融点高め
水に溶けにくいものが多い 無極性または極性が低い分子が多い 無機塩は水に溶けやすいものが多い
燃えやすい C や H を含むため、酸化されやすい(CO2・H2O を生成) 無機物質は一般に不燃性
有機化合物はなぜこれほど種類が多いのか
炭素原子は4本の共有結合をつくれる(4価)
C 同士が長鎖・分岐・環状に結合できる
単結合・二重結合・三重結合も可能
さらに官能基(-OH, -COOH など)の組み合わせ
わずか数種の元素から 1 億種以上の化合物が誕生

2官能基による分類

官能基とは、有機化合物の性質を決める特定の原子団のことです。同じ官能基をもつ化合物は、炭素骨格が違っても似た化学的性質を示します。

官能基名構造化合物の種類代表的な化合物
ヒドロキシ基 −OH アルコール、フェノール類 エタノール C2H5OH
アルデヒド基(ホルミル基) −CHO アルデヒド アセトアルデヒド CH3CHO
カルボニル基 −CO− ケトン アセトン CH3COCH3
カルボキシ基 −COOH カルボン酸 酢酸 CH3COOH
エステル結合 −COO− エステル 酢酸エチル CH3COOC2H5
エーテル結合 −O− エーテル ジエチルエーテル C2H5OC2H5
アミノ基 −NH2 アミン、アミノ酸 アニリン C6H5NH2
ニトロ基 −NO2 ニトロ化合物 ニトロベンゼン C6H5NO2
スルホ基 −SO3H スルホン酸 ベンゼンスルホン酸 C6H5SO3H
官能基と R− の読み方

有機化合物の一般式では、炭化水素基を R− と略記します。例えばアルコールは R−OH と表します。R は任意の炭化水素基(メチル基 CH3−, エチル基 C2H5− など)を表します。

3炭化水素の分類

炭化水素とは、炭素 C と水素 H だけからなる有機化合物です。有機化合物の骨格となる最も基本的な化合物群です。

炭化水素
鎖式炭化水素(脂肪族炭化水素)— 炭素が鎖状につながる
飽和(C−C 単結合のみ)→ アルカン(メタン CH4、エタン C2H6…)
不飽和(C=C 二重結合含む)→ アルケン(エチレン C2H4…)
不飽和(C≡C 三重結合含む)→ アルキン(アセチレン C2H2…)
環式炭化水素— 炭素が環状につながる
ベンゼン環をもたない → 脂環式炭化水素(シクロヘキサン C6H12…)
ベンゼン環をもつ → 芳香族炭化水素(ベンゼン C6H6、トルエン…)
分類特徴一般式
アルカン 単結合のみ(飽和)、安定、置換反応しやすい CnH2n+2 CH4, C2H6, C3H8
アルケン C=C 二重結合あり(不飽和)、付加反応しやすい CnH2n C2H4, C3H6
アルキン C≡C 三重結合あり(不飽和)、付加反応しやすい CnH2n−2 C2H2, C3H4
芳香族 ベンゼン環あり、安定、置換反応しやすい C6H6, C7H8

4有機化合物の表し方

有機化合物の化学式には、情報量の異なる4種類の表し方があります。

表し方記す内容エタノールの例
分子式 構成原子の種類と数 C2H6O
示性式 官能基を明示した化学式 C2H5OH(または CH3CH2OH)
構造式 すべての共有結合を線で示す H−C(H2)−C(H2)−OH(結合線で全表示)
簡略構造式 CH3− や C2H5− などをまとめて表示 CH3CH2OH
分子式の同じ化合物が複数存在する

分子式 C2H6O だけでは、エタノール(CH3CH2OH)なのかジメチルエーテル(CH3OCH3)なのかわかりません。これらは互いに異性体です(詳細は 18-2)。

示性式や構造式を使うと、どの化合物かを一意に特定できます。

「分子式 = 示性式」ではない!

エタノールの分子式 C2H6O と示性式 C2H5OH は同じ化合物を表しますが、書き方が異なります。入試では「示性式を書け」という問いに分子式を書くと減点されます。示性式には必ず官能基(−OH, −COOH など)が明示されている必要があります。

5この章を俯瞰する

有機化学全体は「炭化水素の骨格」+「官能基」の2軸で整理できます。

  • 18-2「異性体」: 同じ分子式でも構造が異なる化合物が存在する。この記事で学んだ炭素骨格・官能基の違いが、異性体の種類に直結する。
  • 18-3「元素分析」: 有機化合物の分子式を実験で決定する。構成元素 C・H・O の質量比から組成式を導く。
  • 19章「脂肪族炭化水素」: アルカン・アルケン・アルキンの具体的な性質・反応を学ぶ。この記事の分類が土台。
  • 22章「芳香族化合物」: ベンゼン環をもつ化合物群。置換反応が中心になる。

確認テスト

Q1. 有機化合物が無機物質に比べて種類が多い理由を、炭素原子の性質に注目して説明せよ。

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炭素原子は4価(4本の共有結合をつくれる)であるため、C 同士が長鎖・分岐・環状などさまざまな形で結合できる。さらに単結合・二重結合・三重結合の組み合わせや、多様な官能基の置換が可能なため、わずか数種の元素から1億種以上の化合物が存在する。

Q2. 分子式 C2H6O で表される化合物を2つ示し、示性式で書け。

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エタノール:C2H5OH(ヒドロキシ基をもつアルコール)
ジメチルエーテル:CH3OCH3(エーテル結合をもつエーテル)
この2つは互いに構造異性体の関係にある。

Q3. 次の官能基をもつ化合物の種類(分類名)を答えよ:① −OH(炭化水素の鎖につく場合) ② −COOH ③ −CHO

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① アルコール ② カルボン酸 ③ アルデヒド

6入試問題演習

問題1 A 官能基の分類

次の化合物(ア)〜(オ)をもつ官能基の名称と、その化合物の種類(アルコール・アルデヒド・ケトン・カルボン酸・エステルのいずれか)を答えよ。

  • (ア)CH3OH
  • (イ)CH3CHO
  • (ウ)CH3COCH3
  • (エ)CH3COOH
  • (オ)CH3COOC2H5
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解答

(ア)ヒドロキシ基 −OH → アルコール

(イ)アルデヒド基 −CHO → アルデヒド

(ウ)カルボニル基 −CO− → ケトン

(エ)カルボキシ基 −COOH → カルボン酸

(オ)エステル結合 −COO− → エステル

問題2 B 炭化水素の分類

次の炭化水素(ア)〜(エ)について、分子式を書き、アルカン・アルケン・アルキン・芳香族炭化水素のいずれかに分類せよ。

  • (ア)プロパン(炭素3個の飽和鎖式炭化水素)
  • (イ)エチレン(炭素2個、C=C二重結合1個)
  • (ウ)アセチレン(炭素2個、C≡C三重結合1個)
  • (エ)ベンゼン(ベンゼン環をもつ)
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解答

(ア)C3H8、アルカン(CnH2n+2、n=3)

(イ)C2H4、アルケン(CnH2n、n=2)

(ウ)C2H2、アルキン(CnH2n−2、n=2)

(エ)C6H6、芳香族炭化水素

解説

一般式から分子式を求める。アルカン CnH2n+2、アルケン CnH2n、アルキン CnH2n−2 はそれぞれ H の数が2ずつ異なる。

問題3 C 有機化合物の特徴・総合

有機化合物の一般的な特徴について、次の記述(ア)〜(エ)のうち誤りを含むものをすべて選び、正しく訂正せよ。

  • (ア)有機化合物は C, H, O, N のみで構成される。
  • (イ)有機化合物は一般に水より有機溶媒(ベンゼン・エタノールなど)に溶けやすいものが多い。
  • (ウ)有機化合物はすべて水に溶けない。
  • (エ)二酸化炭素 CO2 は炭素を含むが、無機物として扱われる。
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解答

誤りは(ア)と(ウ)

(ア)正しくは:C, H, O, N のほかに S, P, ハロゲン(Cl, Br など)も構成元素となりうる。

(ウ)正しくは:エタノール・酢酸・グルコースなど水に溶けやすい有機化合物も存在する。「水に溶けにくいものが多い」が正確な表現。