C=C 二重結合を 1 つもつアルケンは、アルカンとは一変して付加反応を起こしやすい不飽和炭化水素です。
「二重結合の片方が弱い」という構造的事実が、すべての反応性・立体化学・重合性を説明します。
エチレンから始まり、プラスチックの原料まで、工業的にも最重要な系列です。
アルケン(エチレン系炭化水素)とは、炭素原子間に二重結合(C=C)を 1 個もつ鎖式不飽和炭化水素です。一般式は CnH2n(同じ炭素数のアルカンより H が 2 個少ない)。
アルケンの名称は、同じ炭素数のアルカンの語尾 -ane を -ene(エン)に変えます。二重結合の位置を示すため、二重結合を形成する炭素原子の番号が最小になるよう端から番号をつけます。
| 名称 | 英名 | 分子式 | 融点 (℃) | 沸点 (℃) |
|---|---|---|---|---|
| エテン(エチレン) | ethene | C2H4 | −169 | −104 |
| プロペン(プロピレン) | propene | C3H6 | −185 | −47 |
| 1-ブテン | 1-butene | C4H8 | −185 | −6 |
| 2-ブテン | 2-butene | C4H8 | −139 / −106 | 4 / 1 |
エテンはエチレン、プロペンはプロピレンと呼ぶことが多い(慣用名)。入試ではどちらも通用します。
エタノールに濃硫酸を加え、約 160〜170℃ に加熱すると脱水反応が起きエチレンが得られます。
C2H5OH (H2SO4、160〜170℃)→ CH2=CH2 + H2O
エチレンは水に溶けにくいため、水上置換で捕集します。
エチレン分子(C2H4)は、すべての原子(C 2個、H 4個)が同一平面上にある平面構造をとります。
この「二重結合は回転できない」という性質が、次節のシス-トランス異性体の存在理由になります。
炭素数が 4 以上のアルケンでは、二重結合が回転できないことによって立体異性体が生じることがあります。これをシス-トランス異性体(幾何異性体)といいます。
例として 2-ブテン(CH3CH=CHCH3)を見てみましょう。
| シス-2-ブテン | トランス-2-ブテン | |
|---|---|---|
| メチル基の位置 | 二重結合をはさんで同じ側 | 二重結合をはさんで反対側 |
| 融点 | −139℃ | −106℃ |
| 沸点 | 4℃ | 1℃ |
| 双極子モーメント | あり(非対称) | なし(対称) |
二重結合の各炭素原子に異なる 2 種類の原子(団)が結合していること。
例えば CH3−C(CH3)=CH2 では、右の炭素に H が 2 個ついているため、シス-トランス異性体は存在しません。問題で「以下のアルケンのうちシス-トランス異性体が存在するものを選べ」という形式は頻出です。
アルケンの C=C 二重結合は、2 つの結合のうちπ 結合の方が比較的弱いため、他の原子や原子団が結合してπ結合が切れる付加反応を起こしやすい性質があります。
CH2=CH2 + H2 (Pt または Ni 触媒)→ CH3−CH3
白金(Pt)またはニッケル(Ni)を触媒として用います。エチレンはエタンに変わります。
CH2=CH2 + Br2 → CH2Br−CH2Br
(赤褐色) (無色:1,2-ジブロモエタン)
臭素水(Br2 水溶液)の赤褐色が脱色されることで、不飽和結合の検出に利用されます。アルカンでは起こらない反応です。
CH2=CH2 + HCl → CH3−CH2Cl(クロロエタン)
CH2=CH2 + H2O (H3PO4 触媒、高温・高圧)→ C2H5OH(エタノール)
工業的にはリン酸触媒を用いた水和法でエタノールを製造します。
アルケンを酸性の過マンガン酸カリウム(KMnO4)水溶液に通じると、二重結合が酸化されて水溶液の赤紫色が消える。アルカンでは起こらないため、飽和・不飽和の区別に利用できます。
非対称なアルケン(例:CH3CH=CH2)に HCl などの H-X 型試薬を付加するとき、水素原子はより多くの H と結合している炭素の方に付加しやすい。これをマルコフニコフ則という。
例:CH3CH=CH2 + HCl → CH3CHCl−CH3(主生成物)
高校では知っておく程度でよいが、大学入試では出題されることがある。
アルケンを適当な条件に保つと、分子間で次々に付加反応が起こり、高分子化合物が生成します。この反応を付加重合(addition polymerization)といいます。反応する各分子を単量体(モノマー)、生じた高分子を重合体(ポリマー)といいます。
n CH2=CH2 → −(CH2−CH2)n−
(エチレン:単量体) (ポリエチレン:重合体)
式中の −( )−n は、[ ] 内の構造が n 個連なっていることを表します。
| 単量体(モノマー) | 重合体(ポリマー) | 用途 |
|---|---|---|
| エチレン CH2=CH2 | ポリエチレン(PE) | 袋・容器・フィルム |
| 塩化ビニル CH2=CHCl | ポリ塩化ビニル(PVC) | パイプ・床材・レインコート |
| プロピレン CH2=CHCH3 | ポリプロピレン(PP) | 食品容器・繊維 |
| スチレン CH2=CHC6H5 | ポリスチレン(PS) | 発泡スチロール・電化製品 |
付加重合では C=C のπ結合が次々と開き、隣の分子と新たな C−C 単結合を形成し続けます。反応の結果として二重結合が消え、長い炭素鎖(ポリマー)が生まれるのが特徴です。縮合重合とは異なり、副生成物(水など)を生じません。
アルカン(単結合のみ・安定)に対して、アルケンは二重結合の π 結合という「弱い結合」をもつことで反応性が大きく変わります。付加反応・酸化反応・重合反応はいずれもこの π 結合が起点です。臭素水の脱色と KMnO4 の脱色はアルカンとの識別法として必須です。さらに付加重合によってポリマーを生成できる点は、プラスチック産業全体の基礎技術です。
Q1. アルケンの一般式を答えよ。またアルカンとの H の数の違いは何個か。
Q2. エチレンの構造的な特徴を 2 つ挙げよ。
Q3. エチレンと臭素水の反応を化学反応式で書け。
Q4. エチレンの付加重合の反応式を書き、生成するポリマー名を答えよ。
プロペン(CH3CH=CH2)と臭化水素(HBr)が付加反応を起こすとき、主生成物の構造式と名称を答えよ。
CH3CHBr−CH3(2-ブロモプロパン)
マルコフニコフ則より、H は二重結合の炭素のうちより多くの H をもつ C(=CH2 側、H が 2 個)に付加し、Br は残りの炭素(CH 側)に付加する。
CH3CH=CH2 + HBr → CH3CHBr−CH3(主生成物)
副生成物 CH3CH2CH2Br(1-ブロモプロパン)も少量生成する。
次の(ア)〜(オ)のアルケンのうち、シス-トランス異性体が存在するものをすべて選べ。
(ウ)と(オ)
シス-トランス異性体の存在条件:二重結合の各炭素原子に、互いに異なる 2 種類の原子(団)が結合していること。
(ア)CH2=CH2:両方の C に H が 2 個 → 不成立
(イ)CH3CH=CH2:右の C に H が 2 個 → 不成立
(ウ)CH3CH=CHCH3:各 C に CH3 と H → 成立(シス-2-ブテン・トランス-2-ブテン)
(エ)C(CH3)2=CH2:右の C に H が 2 個 → 不成立
(オ)CH3CH=CHCH2CH3:左の C に CH3 と H、右の C に CH2CH3 と H → 成立
塩化ビニル(CH2=CHCl)の付加重合の反応式を書け。また、この重合体(ポリマー)の名称を答えよ。塩化ビニルとエチレンの構造上の共通点も述べよ。
n CH2=CHCl → −(CH2−CHCl)n−
ポリマー名:ポリ塩化ビニル(PVC)
共通点:C=C 二重結合(ビニル基 CH2=CH−)をもつ。
塩化ビニルの構造は CH2=CH−Cl で、エチレン CH2=CH2 の H 1 個を Cl に置き換えたもの。C=C の部分(ビニル基)が重合の活性点になる点はエチレンと共通です。ポリ塩化ビニルは塩化ビニルの工業的大量生産により生産される汎用プラスチックです。