電気器具の外装・食器・塗料──熱硬化性樹脂は一度固まると再び軟化しない、不可逆な変化をする樹脂です。
その秘密は分子が三次元的に共有結合で網目状につながった架橋構造にあります。
フェノール樹脂・尿素樹脂・メラミン樹脂・アルキド樹脂の構造と用途を理解しましょう。
熱硬化性樹脂は、原料を混ぜ合わせて加熱すると反応が進み、しだいに硬化する合成樹脂です。一度硬化すると、再び加熱しても軟化しません(不可逆)。
熱硬化性樹脂の分子は、共有結合によって三次元的に架橋された立体網目状(架橋)構造をとります。この架橋構造のために、加熱しても分子鎖がずれ動かず、軟化しません。
熱可塑性樹脂(鎖状構造・分子間力)は加熱で軟化し繰り返し成形可能。熱硬化性樹脂(架橋構造・共有結合)は一度固まると再軟化しない。この対比は入試の最頻出テーマです。
フェノール樹脂(ベークライト)は、1907年にベークランドが発明した世界初の合成プラスチックです。
フェノール C6H5OH とホルムアルデヒド HCHO を、酸または塩基を触媒として反応させます。まずフェノールのベンゼン環がホルムアルデヒドに付加し(付加反応)、次いで脱水縮合が繰り返されます。このような付加と縮合を繰り返す重合を付加縮合といいます。
フェノール + ホルムアルデヒド →(付加縮合)→ フェノール樹脂 + H2O
酸触媒を用いた場合:縮合が優先し、ノボラックとよばれる熱可塑性の中間体が生成。さらに硬化剤(ヘキサメチレンテトラミン等)を加えて加熱すると三次元架橋が完成し、フェノール樹脂が得られます。
塩基触媒を用いた場合:ホルムアルデヒドの付加が優先し、レゾールとよばれる粘性の大きい液体中間体が生成。レゾールを型に入れて加熱するだけで架橋が進み、フェノール樹脂が得られます。
フェノールの代わりに尿素 CO(NH2)2(ユリア)をホルムアルデヒドと付加縮合させると、尿素樹脂(ユリア樹脂)が得られます。
尿素 CO(NH2)2 + ホルムアルデヒド HCHO →(付加縮合)→ 尿素樹脂 + H2O
尿素樹脂はアミノ基 -NH2 をもつ単量体(尿素)とホルムアルデヒドの付加縮合によって生じた熱硬化性樹脂であり、アミノ樹脂の一種に分類されます。
メラミン樹脂は、メラミン C3N3(NH2)3(三量体アミン)とホルムアルデヒドの付加縮合で得られます。尿素樹脂と同じアミノ樹脂の一種です。
両者とも付加縮合で得られる熱硬化性樹脂(アミノ樹脂)で、外観は似ていますが、メラミン樹脂の方が耐熱性・耐水性に優れます。メラミン食器が電子レンジ不可なのは熱硬化性(再軟化不可)のためではなく、急激な温度変化による破損のリスクのためです。
アルキド樹脂は、多価アルコールと多塩基酸(酸無水物)の縮合重合で得られるポリエステル系の熱硬化性樹脂です。代表的なものはグリプタル樹脂で、グリセリン(3価アルコール)と無水フタル酸から合成されます。
アルキド樹脂はエステル結合による縮合重合で得られますが、3価以上のアルコール(グリセリン等)を使うため三次元架橋が生じ、熱硬化性になります。「縮合重合 = 熱可塑性」と誤解しないよう注意。架橋を生む官能基の数(多価)がポイントです。
| 樹脂名 | 単量体 | 反応形式 | 主な特徴 | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| フェノール樹脂 | フェノール+ホルムアルデヒド | 付加縮合 | 褐色・電気絶縁性・耐熱性 | 電気器具・基板 |
| 尿素樹脂 | 尿素+ホルムアルデヒド | 付加縮合 | 無色透明・着色容易 | 接着剤・食器 |
| メラミン樹脂 | メラミン+ホルムアルデヒド | 付加縮合 | 硬い・耐水性・耐熱性 | 食器・化粧板 |
| アルキド樹脂 | 多価アルコール+多塩基酸 | 縮合重合(架橋) | 耐久性・耐候性 | 塗料・印刷インク |
熱硬化性樹脂の核心は「共有結合による三次元架橋」です。この構造が高い耐熱性・耐溶剤性をもたらす一方で、リサイクルを困難にします。
Q1. 熱硬化性樹脂が一度硬化すると再軟化しない理由を、分子構造の観点から説明せよ。
Q2. フェノール樹脂の単量体と反応形式を答えよ。また「付加縮合」という反応形式の特徴を説明せよ。
Q3. 尿素樹脂とメラミン樹脂の単量体をそれぞれ答え、性質を比較せよ。
Q4. アルキド樹脂が熱硬化性をもつ理由を、使用する単量体の官能基数から説明せよ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
熱硬化性樹脂に関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。
①③⑤
②:誤り。加熱しても軟化しないのが熱硬化性樹脂の特徴。加熱で軟化するのは熱可塑性樹脂。
④:誤り。熱硬化性樹脂は立体網目状(架橋)構造をとる。鎖状構造は熱可塑性樹脂。
①③⑤はすべて正しい。
フェノール樹脂の合成について、次の問いに答えよ。
(1) フェノール樹脂を合成する際の単量体2つと、反応の形式名を答えよ。
(2) フェノール樹脂が三次元網目状構造をとる理由を、フェノールの構造と関連付けて説明せよ。
(1) 単量体:フェノール C6H5OH とホルムアルデヒド HCHO。反応形式:付加縮合。
(2) フェノールはベンゼン環の o 位(2か所)と p 位(1か所)の計3か所でホルムアルデヒドと反応(付加縮合)できる。このため1つのフェノール分子から最大3方向に結合が伸び、三次元的な架橋(網目状)構造が形成される。
フェノールの -OH は o・p 配向性をもつ置換基。ベンゼン環の o 位(2か所)と p 位(1か所)が反応活性なため、最大3方向で架橋できます。これが立体網目状構造の起源です。
次の文章を読み、問いに答えよ。
合成樹脂 A はフェノールとホルムアルデヒドから合成される。合成樹脂 B は尿素とホルムアルデヒドから合成される。合成樹脂 C はエチレンの重合によって得られる。
(1) A・B・C のうち、熱可塑性樹脂をすべて選び、その理由を述べよ。
(2) A と B の合成形式(反応の種類)の共通点と、C の合成形式との違いを述べよ。
(3) A が電気器具の外装に使われる理由を2点あげよ。
(1) C(ポリエチレン)。A(フェノール樹脂)と B(尿素樹脂)は架橋構造をもつ熱硬化性樹脂。C は鎖状構造をもつため加熱で軟化し、熱可塑性を示す。
(2) A と B の共通点:ともに付加反応と縮合反応を繰り返す付加縮合。C との違い:C は付加重合(不飽和結合をもつ単量体が次々付加し、小分子の脱離なし)。A・B は小分子(水)を脱離しながら反応する点でも異なる。
(3) ①電気絶縁性が高く感電の危険がない。②耐熱性・硬度が高く、器具として形を保つのに適している。
A はフェノール樹脂(熱硬化性)、B は尿素樹脂(熱硬化性)、C はポリエチレン(熱可塑性)です。フェノール樹脂が電気絶縁材料に使われる理由として、電気を通さない性質と変形しにくい硬さが重要です。