ゴムの弾性は、丸まったポリイソプレン鎖が引き伸ばされても元に戻ろうとする「エントロピー弾性」から生まれます。
天然ゴムの化学的理解(シス形・加硫・エボナイト)と、合成ゴムの種類・用途を学びましょう。
構造の違い(シス vs. トランス)が弾性の有無を決定する点が核心です。
ゴムノキに傷をつけると白色の樹液(ラテックス)がにじみ出ます。ラテックスに酢酸などを加えて酸性にすると、ゴム成分が凝固し生ゴムが得られます。
生ゴムはイソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)CH2=C(CH3)-CH=CH2 が付加重合したポリイソプレンです。
n CH2=C(CH3)-CH=CH2 → -(CH2-C(CH3)=CH-CH2)-n
重要なのは、繰り返し単位中に残る C=C 二重結合の幾何異性の形です。天然ゴムではシス形(cis 形)の二重結合が並びます。シス形では分子鎖が折れ曲がった形をとりやすく、鎖が丸まることができます。この「丸まり」と引き伸ばしたときに戻ろうとする性質が弾性の源です。
生ゴムは弾性をもちますが、分子鎖どうしが強く結びついていないため流動性があり、長時間放置すると変形します。また、ポリイソプレン中の C=C 結合が光や空気中の酸素で徐々に酸化され、劣化(老化)が起こります。
生ゴムの欠点(変形しやすい・劣化しやすい)を改善するために加硫が行われます。
生ゴムをよく練り、硫黄を数%加えて成形・加熱すると、硫黄原子 S がポリイソプレン鎖どうしを架橋します。
ポリイソプレン鎖 -S-S- ポリイソプレン鎖(硫黄原子による架橋)
架橋によって分子鎖どうしが固定され、引き伸ばしたときに元に戻ろうとする力(弾性)が格段に向上します。
硫黄の量が少ない(数%)→ 適度な架橋 → 高弾性のゴム。硫黄が多い(30〜40%)→ 密な架橋 → 硬い樹脂状のエボナイト。「架橋密度の制御」という考え方は高分子材料の設計全般に通じる重要な概念です。
天然ゴムの構造(イソプレン単位のポリイソプレン)を参考に、さまざまな合成ゴムが開発されました。合成ゴムは一般に、イソプレンのメチル基を他の原子・原子団に置き換えた化合物 CH2=CX-CH=CH2 を付加重合させるか、共重合によって得られます。
| 名称(略号) | 単量体 | 主な特徴 | 用途 |
|---|---|---|---|
| スチレンブタジエンゴム(SBR) | 1,3-ブタジエン+スチレン(共重合) | 最も生産量が多い・耐久性・耐熱性・耐摩耗性に優れる | 自動車タイヤ・靴底 |
| ブタジエンゴム(BR) | 1,3-ブタジエン | 弾性が高い・耐摩耗性に優れる | タイヤ(SBR と併用) |
| クロロプレンゴム(CR) | クロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン) | 耐油性・耐候性・難燃性に優れる(1931年カロザース合成) | ウェットスーツ・ホース・ベルト |
| アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR) | アクリロニトリル+1,3-ブタジエン(共重合) | 耐油性が特に優れる | 燃料ホース・ガスケット・手袋 |
| イソプレンゴム(IR) | イソプレン | 天然ゴムに最も近い性質(合成天然ゴム) | タイヤ・天然ゴム代替品 |
| シリコーンゴム | シロキサン結合 Si-O を主鎖にもつ | 不飽和結合なし・最高の耐熱性・耐候性・電気絶縁性 | 医療機器・電気絶縁・調理器具 |
スチレンブタジエンゴム(SBR)は、耐久性・耐熱性・耐摩耗性のバランスが良く、原料も比較的安価に大量供給できるため、自動車タイヤを中心に最も広く使われています。世界の合成ゴム生産量の中でも最大シェアを占めています。
合成ゴムも天然ゴムと同様、加硫(硫黄による架橋)を施して弾性を高めます。また、カーボンブラック(炭素の微粉末)を練り込んで強度をさらに高めることが多いです。シリコーンゴムは C=C 結合をもたないため、光や酸素による劣化が少なく、耐久性が優れます。
ゴムの学習のポイントは「シス形 → 弾性あり」「加硫(架橋)→ 弾性向上」「硫黄大量 → エボナイト(硬い)」という3段階の理解です。
Q1. 天然ゴムの化学名と、その単量体を答えよ。また、シス形の構造が弾性をもたらす理由を説明せよ。
Q2. 加硫とは何か、また硫黄量を大量(30〜40%)にするとどうなるか述べよ。
Q3. SBR の単量体と、最も多く生産される理由を答えよ。
Q4. シリコーンゴムが他のゴムより耐熱性・耐候性に優れる理由を述べよ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
天然ゴム・合成ゴムに関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。
②③④
①:誤り。天然ゴムはシス形付加重合体。トランス形はグタペルカで弾性に乏しい。
⑤:誤り。合成ゴムも天然ゴムと同様に加硫を行って弾性を高める。
②③④はすべて正しい。
1,3-ブタジエンとスチレンを物質量の比 4:1 で共重合させて得た合成ゴムについて答えよ。
(1) この合成ゴムの名称を答えよ。
(2) この合成ゴムの平均分子量が 6.4 × 104 のとき、1分子中に含まれるベンゼン環の数を求めよ。(1,3-ブタジエン C4H6:分子量 54、スチレン C8H8:分子量 104)
(1) スチレンブタジエンゴム(SBR)
(2) 物質量の比 4:1 なので、ブタジエン 4m mol・スチレン m mol からなる繰り返しの単位を考える。繰り返し単位の分子量 = 54×4 + 104×1 = 216 + 104 = 320(ただし重合で H は脱離しないため分子量はそのまま加算)。
平均分子量 6.4×104、繰り返し単位分子量(4ブタジエン+1スチレン)= 54×4 + 104 = 320。
繰り返し単位数 = 64000 / 320 = 200。
各繰り返し単位にスチレン(ベンゼン環1個)が1分子含まれるので、ベンゼン環の数 = 200 個
共重合では単量体の比に応じて繰り返し単位を設定します。ブタジエン4分子+スチレン1分子を「5単位のセット」として繰り返し単位の分子量を計算します。スチレン1分子につきベンゼン環1個が含まれるので、繰り返し単位200個にそれぞれベンゼン環が1個ずつ含まれ、合計 200 個のベンゼン環となります。
天然ゴムとグタペルカは、ともにポリイソプレンであるが、性質が大きく異なる。次の問いに答えよ。
(1) 両者の構造上の違いを述べよ。
(2) 天然ゴムが弾性をもち、グタペルカが弾性に乏しい理由を、分子鎖の形状と関連付けて説明せよ。
(3) 天然ゴムを加硫すると弾性が向上する理由を、架橋の観点から述べよ。
(1) 天然ゴムはイソプレン単位の C=C 二重結合がシス形、グタペルカはトランス形。
(2) シス形では置換基が二重結合の同側にあるため分子鎖が屈曲し、丸まった形をとる。引き伸ばすと熱運動により元の丸まった形(エントロピーの高い状態)に戻ろうとする → 弾性が生じる。トランス形では分子鎖が直線状に伸びやすく、整列して分子間力が強くなるため硬く、弾性に乏しい。
(3) 加硫では硫黄原子がポリイソプレン鎖どうしを架橋する。架橋によって分子鎖どうしが固定され、引き伸ばされたときに元に戻ろうとする復元力(弾性)が高まる。また、架橋によって流動性がなくなり、永久変形しにくくなる。
ゴムの弾性はエントロピー弾性(高校では「熱運動によって丸まった形に戻る」と説明)です。シス形 → 屈曲 → 丸まり → 弾性という連鎖、トランス形 → 直線 → 整列 → 硬い・弾性なしという対比を明確に答えましょう。