紙おむつが大量の尿を吸収するのも、純水製造に使う脱イオン装置も、スマートフォンの導電部品も、すべて「機能性高分子」の応用です。
従来の高分子にはない特別な機能(イオン交換・超高吸水・電気伝導・生分解)を化学構造から理解しましょう。
白川英樹のノーベル賞受賞(2000年)も高分子化学の金字塔として押さえておきましょう。
イオン交換樹脂は、水溶液中のイオンを別のイオンと交換する機能をもつ高分子化合物です。スチレンとp-ジビニルベンゼンを共重合させた多孔質の立体網目状樹脂に、官能基を導入して得られます。
スルホ基 -SO3H を導入した樹脂。水溶液を通すと、-SO3H の H+ が水溶液中の陽イオン(Na+、Ca2+ など)と交換します。
樹脂-SO3H + Na+ → 樹脂-SO3Na + H+
第四級アンモニウム基 -CH2-N+R3OH− を導入した樹脂。水溶液を通すと、-OH− が水溶液中の陰イオン(Cl−、SO42− など)と交換します。
樹脂-N+R3OH− + Cl− → 樹脂-N+R3Cl− + OH−
陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂をそれぞれカラムに詰め、イオンを含む水溶液(例:NaCl 水溶液)を順に通じると、Na+ は H+ に、Cl− は OH− に交換されます。生じた H+ と OH− は結合して H2O になるため、イオン交換水(脱イオン水)が得られます。
イオン交換樹脂を加工して膜状にしたものがイオン交換膜です。陽イオンだけ(または陰イオンだけ)を選択的に透過させます。食塩水の電気分解による NaOH 製造(イオン交換膜法)に使われます(12-3「電気分解」参照)。
高吸水性樹脂は、多量の水を吸収してその水を高分子内に保持する機能をもつ合成樹脂です。
アクリル酸ナトリウム CH2=CHCOONa を付加重合させてポリアクリル酸ナトリウムとし、さらに架橋すると立体網目状構造の水に溶けにくい樹脂が得られます。
水を吸収すると、分子中の -COONa が電離して -COO− と Na+ を生じます。
自重の数百〜数千倍の水を吸収できます。
紙おむつ・生理用品・土壌保水剤・防災用吸水袋など。
吸水の原動力は「イオン解離による静電反発(架橋網目を広げる)」と「浸透圧(外部から水を引き込む)」の2つです。単なるスポンジ状の吸水とは異なり、一度吸収した水が圧力をかけても出にくい(保水性が高い)点が特徴です。
合成樹脂は一般に電気を導きにくいですが、導電性高分子は金属に近い電気伝導性を示します。
触媒を適切に用いてアセチレンを付加重合させると、膜状のポリアセチレンが得られます。
n CH≡CH → -(CH=CH)-n
ポリアセチレンは炭素原子間で単結合と二重結合が交互に連なった共役二重結合をもちます。ここにヨウ素(I2)などを添加(ドーピング)すると、共有されていた電子の一部が引き抜かれ、生じた空孔に隣の電子が入り込んで次々と移動するため、銅に近い電気伝導性を示します。
白川英樹(日本)は1970年代にポリアセチレンによる導電性樹脂を開発し、アラン・ヒーガー、アラン・マクダーミドとともに2000年ノーベル化学賞を受賞しました。「電気を流すプラスチック」という常識破りの発見です。
ポリアセチレンのほか、ポリピロール・ポリチオフェン・ポリアニリンなどさまざまな導電性高分子が開発されています。スマートフォン・リチウムイオン電池の部品・有機 EL ディスプレイなどに利用されます。
合成直後のポリアセチレンは電気を通しません。ヨウ素などのドーパントを添加して初めて高い導電性を示します。また、空気中では C=C 結合が酸化されて導電性が失われるため、実用的には安定性の高い他の導電性高分子が使われます。
通常の合成樹脂は自然界では分解されにくく、廃棄物問題の原因となっています。生分解性プラスチックは、自然界の微生物などによって比較的容易に分解される合成樹脂です。
でんぷんから発酵によって得られる乳酸 CH3CH(OH)COOH を縮合重合(またはラクチドを経由した開環重合)させるとポリ乳酸が得られます。
n CH3CH(OH)COOH → -(CH(CH3)-CO-O)-n + n H2O
ポリ乳酸はエステル結合をもつポリエステルの一種で、加水分解や微生物の働きで乳酸に分解されます。
| 機能性高分子 | 代表例・単量体 | 機能 | 用途 |
|---|---|---|---|
| イオン交換樹脂 | スチレン+DVB(架橋)+官能基導入 | イオンを選択的に交換 | 純水製造・廃水処理 |
| 高吸水性樹脂 | アクリル酸ナトリウム(架橋重合体) | 自重の数百〜千倍の水を吸収 | 紙おむつ・土壌保水剤 |
| 導電性高分子 | ポリアセチレン(アセチレンの付加重合) | 金属並みの電気伝導性 | 電池部品・有機EL |
| 生分解性プラスチック | ポリ乳酸(乳酸の縮合重合) | 微生物で分解可能 | 食品容器・農業用フィルム |
機能性高分子は「構造が機能を決める」原理の最先端の体現です。各機能の化学的な根拠を理解することで、丸暗記を超えた深い理解が得られます。
Q1. 陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を組み合わせて NaCl 水溶液を処理すると純水が得られる。その理由を化学反応式を使って説明せよ。
Q2. 高吸水性樹脂が多量の水を吸収できる理由を、樹脂の構造と化学的原理から説明せよ。
Q3. ポリアセチレンが電気を通すようになる仕組みを述べよ。また、この研究でノーベル化学賞を受賞した日本人研究者の名前を答えよ。
Q4. ポリ乳酸が生分解性プラスチックとして注目される理由を2点述べよ。
基礎(A)から発展(C)まで段階的に取り組んでみてください。
機能性高分子に関する記述として正しいものを、次の①〜⑤からすべて選べ。
①④⑤
②:誤り。高吸水性樹脂はポリアクリル酸ナトリウムの架橋重合体(立体網目状)。線状重合体は水に溶けてしまう。
③:誤り。ポリアセチレン単独では導電性が低く、ヨウ素などをドーピングして初めて高い導電性を示す。
①④⑤はすべて正しい。
0.01 mol/L の塩化ナトリウム水溶液 10 mL を、陽イオン交換樹脂を詰めたカラムに通じ、純水で十分に洗い流したところ、すべての Na+ が H+ と交換された。
(1) このとき流出した溶液は酸性・中性・塩基性のいずれか。理由とともに答えよ。
(2) 流出した溶液中の H+ の物質量(mol)を求めよ。
(1) 酸性。Na+ がすべて H+ に交換されることで HCl 水溶液相当の溶液が流出するため。
(2) NaCl の物質量 = 0.01 mol/L × 0.010 L = 1.0 × 10−4 mol。Na+ がすべて H+ に交換されるので、H+ の物質量 = 1.0 × 10−4 mol
陽イオン交換樹脂が Na+ を H+ と等量交換するため、NaCl 水溶液が実質的に HCl 水溶液に変わります。Cl− はそのまま流出し、Na+ の等量の H+ が加わるので酸性になります。
高吸水性樹脂について、次の問いに答えよ。
(1) 高吸水性樹脂の原料となる単量体の名称と、重合形式(付加重合か縮合重合か、また架橋の有無)を述べよ。
(2) 高吸水性樹脂が水を吸収するメカニズムを、「イオン解離」「静電反発」「浸透圧」の語句を使って説明せよ。
(3) 高吸水性樹脂が線状(非架橋)の場合と比べて、架橋体が「保水性が高い」理由を述べよ。
(1) 単量体:アクリル酸ナトリウム CH2=CHCOONa。付加重合後に架橋を施した立体網目状重合体。
(2) 水を吸収すると -COONa がイオン解離して -COO− と Na+ が生じる。-COO− どうしの静電反発で網目状構造のすき間が広がり、水を取り込む。さらに内側のイオン濃度が高まることで浸透圧が生じ、外部から多量の水が引き込まれ保持される。
(3) 線状重合体は水に溶解してしまうが、架橋体は共有結合で三次元的につながれているため水に溶けない。水を吸収してゲル状に膨潤しても架橋点が形を保持するため、圧力をかけても水が出にくい高い保水性を示す。
「架橋があると溶けない」という点が核心。線状では水に溶けてしまうため保水できません。架橋によってゲル状に膨潤するが溶解しないという状態が保水の鍵です。